◆◆ 6日目 ◆◆
祝、ギルド誕生。
その名も<ルルシィ・ズ・ウェブログ>。
ダイアリーはさすがに恥ずかしすぎるからね!
日本語訳は一言<日誌>とだけつけておきました。
エンブレムは四つ葉のクローバーで、
それぞれの葉が銀、黒、金、ピンクと、各々の髪の色を表しています。
明らかに人数を増やすことを想定していない! どうなのコレ!
くー、押し切られた感がすごいよなー。
わたしは頭をかきながら殺風景な自室を出る。
するとそこは居住区の外ではなく、さらなる空間に繋がっていた。
ギルドには、人数に応じた大きさのギルドハウスが与えられるのです。
10名までだと平屋の小規模施設(広間+二部屋+10名分の自室)なんだけど、わたしたち四人には十分すぎる大きさ。
顔を洗おうと洗面所に向かうと、そこにはぴんきゅの髪が爆発した後輩ちゃんの姿。
「珍しいね。瑞穂がひとりで起きているなんて」
「あ~、せんぱ~い~……おはよ~ございますぅ~……」
横に並んで蛇口をひねる。水道設備完備です。
うーん、この辺りすっごい便利でいいんだけど、なんともファンタジー感は薄いな……
「なんかこうしていると、寮に戻ったみたいだよねー」
「ていうか先輩こそ、“瑞穂”って完全に確信犯じゃないですかぁ」
瑞穂は髪を梳かしながら、鏡越しにわたしにはにかむ。
「でも、先輩がいてくれて、良かったです。あたしだけだったら、今頃……」
おっ、デレ期来たかな?
後ろから瑞穂に抱きつき、囁く。
「大丈夫、わたしにまっかせなさい。すぐに元の世界に戻れるようになるよ。
それまで、この世界を楽しんでいればいーんだって」
「先輩、無責任なことばっかりぃ……」
そう言いながらも、瑞穂はくすくす笑っていた。
と、そこでわたしは視線を感じた。振り返る。
「ウン?」
パンツ一丁のシスくんがいた。
なかなか良い体をしている。
ていうか、こっちを向いて呆然としているように見える。
「あ、あ、あ……」
みるみるうちに、顔が赤く……
ルビアちゃんと顔を見合わせて、気づいた。
そういえばわたしたちも寝るときは、インナー以外の装備を全て外している。
つまり、うん、半裸の女子が絡み合っているわけで。
「ご、ごめんなさ――い!!」
シスくんは走り去っていった。
悲鳴のひとつも上げず、ルビアはぽつりとつぶやいた。
「悪いことしちゃいましたねぇ……」
うーむ。
「この体、わたしたちのものじゃないのになあ……」
「先輩、そんなにおっぱい大きくないですもんねぇ」
後頭部を叩く。余計なお世話だよ。
「ギルドハウスを利用する上での、共同ルールを決めよう」
議長はイオリオだ。わたしとルビアは広間のテーブルの前に座る。
いくつかの家具は、昨夜急に揃えたものだった。
シスが手を上げる。
「ちゃんと服を着てほしいです!」
そんなキミ、わたしたちを露出狂みたいな言い方して……
「~~♪」
三分間クッキングのテーマを口ずさみながら、
わたしはテーブルに次々とウサギの皮を積み重ねてゆく。
「……一体いくつあるんだ?」
96枚です。
「極悪な斧使いのせいで、平原のウサギさんが絶滅してしまいますぅ……」
なにヒヨコさんが可哀想だからオムライス食べられませ~ん、みたいな女子力高いこと言ってんの。
「きょうは生産系スキル、『クラフトワークス』を勉強しようじゃないか!」
わたしの宣言に一同はどよめく。
昨日ちゃんと『革細工工房』から習ってきたからね!
「まずは人数分の【ヘッドナイフ】。これがないと革細工ができないんだよねー」
ン? 昔の日記で皮に針(裁縫用)を通していたって?
まさかそんなことをするはずが!
「さ、それでは皆様、メニューの【スキル】から【合成・革細工】を選んでください」
そう、ここがポイント。
自分の手でやるわけじゃないんです。あくまでもメニューからやるんです!
そこに気づくとは、わたしは天才か……(だいぶ遅かったけど)
「占有権フリーにしたから、ウサギの皮をターゲッティングしながらやってみてね」
「おー、色んなアイテムが出てきたぜ。これ全部作れるのか?」
「理論上はね」
持って回った言い方をするわたしに、イオリオが補足した。
「レザーアーマーなどはスキルが足りていないから成功率が低いってことだな」
イエスイエス!
「きょうはですね、そのメニューの上から二番目。レザーバッグを作ってみましょう!」
「バッグぅ? せっかく防具とか作れるんだぜー?」
「ウサギの皮に過度な期待をしないの」
わたしたちの今の防具のほうが遥かに強いって。
というわけで、レッツゴー!
でっきるっかな、でっきるっかなー、さてさてほほー。
「わっ」
ルビアの感嘆の声。
手元で虹色の光が生まれたと思うと、その輝きは収束せずに霧散した。
「あ、これ失敗ってことですね?」
その通り。
「でもスキルはあがったでしょ?」
メニューを操作してログを確認するルビア。
「あ、はい、上がってますぅ」
いいねー、いいねー、どんどんやっちゃおうねー。
しばらくクラフトワークスに没頭する<ウェブログ>の面々。
うん、絵的にすっげー地味!
96枚の皮がなくなる頃には、6つのバッグが完成していました。
「で、これどうするんだ?」
フフーン、見てなさいイオリオくんよ。
「【アイテムバッグ】に追加バッグを入れるスロットが空いているでしょ?
そこにセッティングすると……なんと、持ち運べるアイテムの数が増えるのです!」
デデーン! 便利ィー!
「お、いいなこれ!」
装備した鞄は小さくなって腰に括りつけられています。
ファッション的にもおっしゃれー。
ちなみにバッグスロットはひとり4箇所ずつ空いているので、人数分を埋めようとすると残り6つ(初期装備バッグでひとつ埋まっているので)なんだけど、
まあ暇を見つけて作っていればすぐに……
と、立ち上がる後輩。
「 皮 剥 い で き ま し ょ う ! 」
ハマってる!
見ての通り、クラフトワークスには中毒性があるのです。
一瞬でアイテムが完成し、それをすぐに冒険で使うことができるというのは、かなりの快感ですよ奥様。
『666』に閉じ込められる状況があったら、みんなも是非やってみてね!(謎)
というわけで四人で草原のウサギを狩り尽くそうぜツアーでございます。
入り口付近はチュートリアルを行なっている人のために残して、ちょい奥のほうでね。
にしても、そーとー人増えたよねー。
前はオークと戦っている人なんてホントまばらだったのに。
これもうちょっとで草原、獲物の取り合いになっちゃうんじゃないかなー。
そんな未来の自然環境を危惧しながら、わたしたちはウサギを根絶やしにするのである。
我らギルド、生態系破壊ブラザーズ!
ヒャッハー! 皮をよこせー!!
「うおおおおおお!」
「いぇええええい!」
ウサギを前に吠える前衛ふたり。
違います。頭がおかしくなったわけじゃないんです。
イオリオもルビアも遠巻きに見ているけど、お待ちいただきたい!
これは《ウォークライ》のスキル上げなのです。
ボイス発動なんて設定にしているアーキテクト社が悪い!
「ヘイウサギかもーん!」
「寂しくて死んじゃうとか嘘つくんじゃねえぞー!」
「お昼寝してたら亀に抜かされてやんのー! まーぬけー!」
「え、えっと、バーカバーカ!」
今度はウサギに罵詈雑言を発するふたり。
いやホントお待ちいただきたい……
これは《タウント》のスキル上げなのです……
そんな可哀想な人を見るような目で見ないで。
「ウサギさん可哀想ですぅ」
毛皮を剥ぎながら良い子チャンぶらないでもらえるかな!
ウサギを狩り続けて数時間後、衝撃の事実が発覚する。
発声系スキルがまるでスキルアップしていない。
つまり、わたしとシス。
ひたすら無意味に叫び続けてノドを枯らしたというわけで……
ハハハ、滑稽だろう……
笑ってくれよ……
わたしたちを笑ってくれ……
「一体どういう仕組みなんだろうね……」
「わからん……ある程度の強さを持った敵じゃないと、成長判定がないのかも……」
「いかにもありそうな話……」
脱力してしまう。あとはそれぞれ無言でウサギを倒す。
時々飽きてオークにケンカを挑んだり。
新たな発声系スキルがないかと色々試したり。
四人で武器を交換して戦ったり。
イオリオをメインタンクにしてみたり。
わたしたちはまるで小学生のように、暗くなるまで遊び続けた。
ずっとこんな日が続けばいいのに――と感じる程度には、楽しかった。
わたしダケではないと思いたい。
そして丸一日かけて集めに集めたウサギの皮。なんと208枚。
「遊牧民のおうちが作れそう……」とルビアの弁。
ぱねえ。
ギルドハウスに帰ってシャワーを浴び、首にタオルをかけて涼みにオープンルームに出る。
イオリオがひとりで、なにやら書物を読んでいた。
「お、イオリオ、お勉強中?」
「まあそんなところ」
イオリオはわたしを見て眉をひそめる。
「そういう格好で外に出てくるのは、どうかと思うぞ」
シスくんみたいなことを言うねー。
「えー、ちゃんと着ているじゃーん」
裁縫ギルドに売っていた薄手のコットンシャツとコットンパンツ。
パジャマにちょうどいいかなーって思って、買っておいたのだ。
「下着が透けてるだろうが……」
ため息だ。いや、確かにね。これぐらいならいいかな、って……
メニューを操作してチュニックを上に着る。
「お見苦しいものをお見せしまして」
「無防備すぎる……」
うっ。
「もう少し自分の行動が周りの男にどういう影響を与えるのか、わきまえろ……」
叱られている……年下の男の子に……
わからないけど、わかりました……
「えーっと、どれどれ……あ、これ魔術の呪文書?」
「ああ。僕はみんなみたいに戦闘スキルを鍛えても仕方ないからな。
代わりにこっちを鍛えているんだよ」
こめかみを指でトントンと叩く。うーん知的。
わたしはアイテムバッグからフォーレスティーをふたつ取り出し、片方のカップをイオリオに差し出す。
「冷めないうちにどうぞ」
イオリオは素直に受け取ってくれた。
向かいに座り、頬杖をついてイオリオをぼーっと眺めていると、
彼は落ち着かない様子で。
「……いや、何ですか?」
えっと、特に意味はないのだけど……
「えーと……ああ、そうそう。どうして魔術師をやろうと思ったの?」
「そうだな。いくつか理由はあるけど」
顎をさすり、つぶやく。
「好きなんだ、魔術とか魔法って。
色んなことができるだろう。
パーティーのピンチを救うのが前衛の勇気なら、パーティーがピンチにならないように立ち回れるのが魔術師だ。
やりがいがある」
「なるほどねえ。前も言ってたけど、ホントに裏方が好きなんだね」
「いつからか自然にそう思うようになったよ。あんな親友を持ったからかもしれないが」
笑ってしまう。
きっとシスとイオリオは長い付き合いなのだろう。
リアルでの彼らの付き合いが垣間見えて、わたしはなんだかほっこりしてしまった。
魔術か。それもいいなあ。
「ねえイオリオ。今度、わたしたちにも魔術教えてよ」
申し出に彼は首肯してくれた。
「一杯のお茶のお礼程度になら」
なんともキザで、でもよく似合っているんだな、もう。
寝る前に、プライベートルームへの行き来をフリーに設定しているルビアの元へと顔を出す。
あの量の皮をひとりで加工したいと言っていたが、どんな調子かなー……って。
ルビアは暗い部屋で大量のウサギの皮を前に、黙々とナイフを動かしていた。
「えへ……クラフトワークス、楽しいぃ……えへへ……」
わたしはそっと部屋を出る。
RPGのレベル上げとかも大好きだもんな、ルビア……