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ルルシィ・ズ・ウェブログ  作者: イサギの人
第一章 始まりのヴァンフォーレスト編
7/60

◆◆ 6日目 ◆◆

 

 祝、ギルド誕生。

 その名も<ルルシィ・ズ・ウェブログ>。

 ダイアリーはさすがに恥ずかしすぎるからね!

 日本語訳は一言<日誌>とだけつけておきました。

 エンブレムは四つ葉のクローバーで、

 それぞれの葉が銀、黒、金、ピンクと、各々の髪の色を表しています。

 明らかに人数を増やすことを想定していない! どうなのコレ!



 くー、押し切られた感がすごいよなー。

 わたしは頭をかきながら殺風景な自室を出る。

 するとそこは居住区の外ではなく、さらなる空間に繋がっていた。

 ギルドには、人数に応じた大きさのギルドハウスが与えられるのです。

 10名までだと平屋の小規模施設(広間+二部屋+10名分の自室)なんだけど、わたしたち四人には十分すぎる大きさ。

 顔を洗おうと洗面所に向かうと、そこにはぴんきゅの髪が爆発した後輩ちゃんの姿。


「珍しいね。瑞穂がひとりで起きているなんて」

「あ~、せんぱ~い~……おはよ~ございますぅ~……」


 横に並んで蛇口をひねる。水道設備完備です。

 うーん、この辺りすっごい便利でいいんだけど、なんともファンタジー感は薄いな……


「なんかこうしていると、寮に戻ったみたいだよねー」

「ていうか先輩こそ、“瑞穂”って完全に確信犯じゃないですかぁ」


 瑞穂は髪を梳かしながら、鏡越しにわたしにはにかむ。


「でも、先輩がいてくれて、良かったです。あたしだけだったら、今頃……」


 おっ、デレ期来たかな?

 後ろから瑞穂に抱きつき、囁く。


「大丈夫、わたしにまっかせなさい。すぐに元の世界に戻れるようになるよ。

 それまで、この世界を楽しんでいればいーんだって」

「先輩、無責任なことばっかりぃ……」


 そう言いながらも、瑞穂はくすくす笑っていた。

 と、そこでわたしは視線を感じた。振り返る。


「ウン?」


 パンツ一丁のシスくんがいた。

 なかなか良い体をしている。

 ていうか、こっちを向いて呆然としているように見える。


「あ、あ、あ……」


 みるみるうちに、顔が赤く……

 ルビアちゃんと顔を見合わせて、気づいた。

 そういえばわたしたちも寝るときは、インナー以外の装備を全て外している。

 つまり、うん、半裸の女子が絡み合っているわけで。


「ご、ごめんなさ――い!!」


 シスくんは走り去っていった。

 悲鳴のひとつも上げず、ルビアはぽつりとつぶやいた。


「悪いことしちゃいましたねぇ……」


 うーむ。


「この体、わたしたちのものじゃないのになあ……」

「先輩、そんなにおっぱい大きくないですもんねぇ」


 後頭部を叩く。余計なお世話だよ。

 




「ギルドハウスを利用する上での、共同ルールを決めよう」


 議長はイオリオだ。わたしとルビアは広間のテーブルの前に座る。

 いくつかの家具は、昨夜急に揃えたものだった。

 シスが手を上げる。


「ちゃんと服を着てほしいです!」


 そんなキミ、わたしたちを露出狂みたいな言い方して……



「~~♪」


 三分間クッキングのテーマを口ずさみながら、

 わたしはテーブルに次々とウサギの皮を積み重ねてゆく。


「……一体いくつあるんだ?」


 96枚です。


「極悪な斧使いのせいで、平原のウサギさんが絶滅してしまいますぅ……」

 なにヒヨコさんが可哀想だからオムライス食べられませ~ん、みたいな女子力高いこと言ってんの。


「きょうは生産系スキル、『クラフトワークス』を勉強しようじゃないか!」


 わたしの宣言に一同はどよめく。

 昨日ちゃんと『革細工工房』から習ってきたからね!


「まずは人数分の【ヘッドナイフ】。これがないと革細工ができないんだよねー」


 ン? 昔の日記で皮に針(裁縫用)を通していたって?

 まさかそんなことをするはずが!


「さ、それでは皆様、メニューの【スキル】から【合成・革細工】を選んでください」


 そう、ここがポイント。

 自分の手でやるわけじゃないんです。あくまでもメニューからやるんです!

 そこに気づくとは、わたしは天才か……(だいぶ遅かったけど)


「占有権フリーにしたから、ウサギの皮をターゲッティングしながらやってみてね」

「おー、色んなアイテムが出てきたぜ。これ全部作れるのか?」

「理論上はね」


 持って回った言い方をするわたしに、イオリオが補足した。


「レザーアーマーなどはスキルが足りていないから成功率が低いってことだな」


 イエスイエス!


「きょうはですね、そのメニューの上から二番目。レザーバッグを作ってみましょう!」

「バッグぅ? せっかく防具とか作れるんだぜー?」

「ウサギの皮に過度な期待をしないの」


 わたしたちの今の防具のほうが遥かに強いって。

 というわけで、レッツゴー!

 でっきるっかな、でっきるっかなー、さてさてほほー。


「わっ」


 ルビアの感嘆の声。

 手元で虹色の光が生まれたと思うと、その輝きは収束せずに霧散した。


「あ、これ失敗ってことですね?」


 その通り。


「でもスキルはあがったでしょ?」


 メニューを操作してログを確認するルビア。


「あ、はい、上がってますぅ」

 いいねー、いいねー、どんどんやっちゃおうねー。


 しばらくクラフトワークスに没頭する<ウェブログ>の面々。

 うん、絵的にすっげー地味!





 96枚の皮がなくなる頃には、6つのバッグが完成していました。


「で、これどうするんだ?」


 フフーン、見てなさいイオリオくんよ。


「【アイテムバッグ】に追加バッグを入れるスロットが空いているでしょ?

 そこにセッティングすると……なんと、持ち運べるアイテムの数が増えるのです!」


 デデーン! 便利ィー!


「お、いいなこれ!」


 装備した鞄は小さくなって腰に括りつけられています。

 ファッション的にもおっしゃれー。

 ちなみにバッグスロットはひとり4箇所ずつ空いているので、人数分を埋めようとすると残り6つ(初期装備バッグでひとつ埋まっているので)なんだけど、

 まあ暇を見つけて作っていればすぐに……

 と、立ち上がる後輩。


「 皮 剥 い で き ま し ょ う ! 」


 ハマってる!





 見ての通り、クラフトワークスには中毒性があるのです。

 一瞬でアイテムが完成し、それをすぐに冒険で使うことができるというのは、かなりの快感ですよ奥様。

『666』に閉じ込められる状況があったら、みんなも是非やってみてね!(謎)


 というわけで四人で草原のウサギを狩り尽くそうぜツアーでございます。

 入り口付近はチュートリアルを行なっている人のために残して、ちょい奥のほうでね。

 にしても、そーとー人増えたよねー。

 前はオークと戦っている人なんてホントまばらだったのに。

 これもうちょっとで草原、獲物の取り合いになっちゃうんじゃないかなー。

 そんな未来の自然環境を危惧しながら、わたしたちはウサギを根絶やしにするのである。


 我らギルド、生態系破壊ブラザーズ!

 ヒャッハー! 皮をよこせー!!

 


「うおおおおおお!」

「いぇええええい!」


 ウサギを前に吠える前衛ふたり。

 違います。頭がおかしくなったわけじゃないんです。

 イオリオもルビアも遠巻きに見ているけど、お待ちいただきたい!

 これは《ウォークライ》のスキル上げなのです。

 ボイス発動なんて設定にしているアーキテクト社が悪い!


「ヘイウサギかもーん!」

「寂しくて死んじゃうとか嘘つくんじゃねえぞー!」

「お昼寝してたら亀に抜かされてやんのー! まーぬけー!」

「え、えっと、バーカバーカ!」


 今度はウサギに罵詈雑言を発するふたり。

 いやホントお待ちいただきたい…… 

 これは《タウント》のスキル上げなのです……

 そんな可哀想な人を見るような目で見ないで。


「ウサギさん可哀想ですぅ」


 毛皮を剥ぎながら良い子チャンぶらないでもらえるかな!





 ウサギを狩り続けて数時間後、衝撃の事実が発覚する。

 発声系スキルがまるでスキルアップしていない。

 つまり、わたしとシス。

 ひたすら無意味に叫び続けてノドを枯らしたというわけで……

 ハハハ、滑稽だろう……

 笑ってくれよ……

 わたしたちを笑ってくれ……


「一体どういう仕組みなんだろうね……」

「わからん……ある程度の強さを持った敵じゃないと、成長判定がないのかも……」

「いかにもありそうな話……」


 脱力してしまう。あとはそれぞれ無言でウサギを倒す。

 時々飽きてオークにケンカを挑んだり。

 新たな発声系スキルがないかと色々試したり。

 四人で武器を交換して戦ったり。

 イオリオをメインタンクにしてみたり。


 わたしたちはまるで小学生のように、暗くなるまで遊び続けた。

 ずっとこんな日が続けばいいのに――と感じる程度には、楽しかった。

 わたしダケではないと思いたい。

 そして丸一日かけて集めに集めたウサギの皮。なんと208枚。


「遊牧民のおうちが作れそう……」とルビアの弁。


 ぱねえ。





 ギルドハウスに帰ってシャワーを浴び、首にタオルをかけて涼みにオープンルームに出る。

 イオリオがひとりで、なにやら書物を読んでいた。


「お、イオリオ、お勉強中?」

「まあそんなところ」


 イオリオはわたしを見て眉をひそめる。


「そういう格好で外に出てくるのは、どうかと思うぞ」


 シスくんみたいなことを言うねー。


「えー、ちゃんと着ているじゃーん」


 裁縫ギルドに売っていた薄手のコットンシャツとコットンパンツ。

 パジャマにちょうどいいかなーって思って、買っておいたのだ。


「下着が透けてるだろうが……」


 ため息だ。いや、確かにね。これぐらいならいいかな、って……

 メニューを操作してチュニックを上に着る。


「お見苦しいものをお見せしまして」

「無防備すぎる……」


 うっ。


「もう少し自分の行動が周りの男にどういう影響を与えるのか、わきまえろ……」


 叱られている……年下の男の子に……

 わからないけど、わかりました……


「えーっと、どれどれ……あ、これ魔術の呪文書?」

「ああ。僕はみんなみたいに戦闘スキルを鍛えても仕方ないからな。

 代わりにこっちを鍛えているんだよ」


 こめかみを指でトントンと叩く。うーん知的。

 わたしはアイテムバッグからフォーレスティーをふたつ取り出し、片方のカップをイオリオに差し出す。


「冷めないうちにどうぞ」


 イオリオは素直に受け取ってくれた。

 向かいに座り、頬杖をついてイオリオをぼーっと眺めていると、

 彼は落ち着かない様子で。


「……いや、何ですか?」


 えっと、特に意味はないのだけど……


「えーと……ああ、そうそう。どうして魔術師をやろうと思ったの?」 

「そうだな。いくつか理由はあるけど」


 顎をさすり、つぶやく。


「好きなんだ、魔術とか魔法って。

 色んなことができるだろう。

 パーティーのピンチを救うのが前衛の勇気なら、パーティーがピンチにならないように立ち回れるのが魔術師だ。

 やりがいがある」

「なるほどねえ。前も言ってたけど、ホントに裏方が好きなんだね」

「いつからか自然にそう思うようになったよ。あんな親友を持ったからかもしれないが」


 笑ってしまう。

 きっとシスとイオリオは長い付き合いなのだろう。

 リアルでの彼らの付き合いが垣間見えて、わたしはなんだかほっこりしてしまった。

 魔術か。それもいいなあ。


「ねえイオリオ。今度、わたしたちにも魔術教えてよ」


 申し出に彼は首肯してくれた。


「一杯のお茶のお礼程度になら」


 なんともキザで、でもよく似合っているんだな、もう。

 




 寝る前に、プライベートルームへの行き来をフリーに設定しているルビアの元へと顔を出す。

 あの量の皮をひとりで加工したいと言っていたが、どんな調子かなー……って。

 ルビアは暗い部屋で大量のウサギの皮を前に、黙々とナイフを動かしていた。


「えへ……クラフトワークス、楽しいぃ……えへへ……」


 わたしはそっと部屋を出る。

 RPGのレベル上げとかも大好きだもんな、ルビア……

 

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