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ルルシィ・ズ・ウェブログ  作者: イサギの人
番外編 二葉のラブストーリー編
59/60

64日目(番外編) その1

 

 深呼吸。


 すー、はー……

 すー、はー……


 PCの前にいたわたしは、ゆっくりと目を開く。

 新着メール通知は一件。

 

 わたしの運命はこの一件の電子メールに封入されている。

 人生を左右する一通の手紙だ。

 怖い気持ちはあるけれど。

 わたしは先に進みたい。


 よし。

 開くか。

 大丈夫大丈夫。

 いけるいける。


 自分を信じよう。

 仲間を信じよう。

 あの日々を信じよう。

 わたしたちはかけがえのない日々を過ごしたんだ。

 

 泣いて笑って駆け回って。

 そうして、戦ったんだ。

 だからきっと、大丈夫だ。

 ああもう、神様、お願いします。

 お願いですから。

 わたしに力を――

 

 マウスでクリック。

 

 ぽち。

 

 


 


   

 ~~~

 

 平素のケロッグ出版のご利用まことに有難うございます。


 さて、出版申請いただいた

「ルルシィ・ズ・ウェブログ」につきまして

 うちらの編集部にて出版化を検討してまいりましたが、

 そういったアレコレはちょっと苦しいかなーって結論にいたりました。

 

 ただ、私たちは「無理でしょ(笑)」と思ってますが、

 当然、出版社によって見解は異なりますので、

 是非これからもルルシィールさまは夢を追い求めるようお祈りいたします。

 自分を信じて∩(*・∀・*)∩ファイト♪



 以上ご連絡でした。チェキ☆


                ケロッグ文庫編集部


 ~~~







「せんぱーいー? 暇だったらこれからお出かけしませんかー?」


 ガチャリ、と扉を開いて。

 入ってくる瑞穂。

 そんな彼女が見たのは、PCの前に突っ伏すわたしの姿だった。


「せ、せんぱい? どうかしたんですか? だ、大丈夫ですか?」


 慌てて駆け寄ってくる彼女に。

 力なく首を振る。


「……だいじょばない……」

 












◆◆ルルシィ・ズ・ウェブログ番外編◆◆


  二葉のラブストーリー編

 

 








 ライトノベル新人賞の応募要項というものは、大体似通っている。


 まず書式は42文字☓34行。あるいは40文字☓32行。

 42☓30行というものもあるね。

 これは縦の文字が42文字。そして行数が34行というものだ。

 ライトノベル文庫はほとんどがこの書式で統一されている。


 次にページ数。

 これは出版社によって差があるが、大体は80Pから130Pの間に収まるだろう。

 中には200P越えオッケー!とかいうスゴイところもあるけれど。

 でも、大抵は文庫一冊で出すことを想定しているため、多くても130Pぐらいが主流です。

 この130Pっていうのは見開き原稿の形なので、文庫で換算すると260Pっていう扱いになるからね。

 

 で、数えてみよう。

 42☓34☓130P。

  

=185,640文字

 

 これが平均ライトノベル新人賞における最大上限文字です。

 もちろん、すべてのページにびっっっしりと文字を書き込んだ理論上の数値なので、現実にはありえないのだけど。

 

 で、改めてわたしのルルシィ・ズ・ウェブログを見てみると?


 現在『315,738文字』。

 

 ……うん。

 そう、そうなの。

 文字数が多いの。

 というわけで、このお話は、新人賞に出せないものなの。

 ライトノベルっていうのは、漫画みたいに『持ち込み』っていうシステムはないし。

 だから、特別な出版社にお願いしてみたんだけど……


「だめだったよううううう」

 

 ベッドに転がって身悶えているわたし。

 PCの前に座ってなにやらカチカチとマウスを動かしている瑞穂ちゃん。

 これが休日の昼間の女子大生の姿である。

 救えない。


「そしたらこのメールってなんなんですかぁ?」

「……えあー」


 モモちゃんの真似。

 瑞穂はさらりとNPCスルーした。

 ぶー。

 仕方ないから説明してやるか……


「それはね、サイトに登録するとアクセス数に応じたポイントがもらえるところなんだけど……一定以上のポイントを稼ぐと出版申請っていうのができるところなの。お申込みは誰でもできるんだけど……」

「なるほどぉ。だめだったんですねぇ」


 ぐさ。


「じゃあしょうがないですねぇ」


 ぐさぐさ。


 こ、こいつ……

 わたしがどんな思いで挑戦しているか知らずに……!

 これが挫折知らずのゆとりっ娘か……

 どんどんと心の中に黒い淀みが溜まってゆく。

 完全に八つ当たりなのだが。


 結局わたしは、ルルシィ・ズ・ウェブログをブログに載せることはしなかった。

 ウェブログと名付けているのにも関わらず、だ。

 名が体を表していない。

 

 だって考えてみてよ。

 いつも通っているブログで「わたしが先日MMOに閉じ込められたときのお話を~」とか言い出していたらどう?

 心配にならない?

 コイツやべえ……って思わない?

 少なくともわたしは思う。


 だからわたしはルルシィ・ズ・ウェブログを創作の場に発表した。

『小説家になってやる』というサイトだ。

 名前が気に入ったからね。

 なってやる!って感じで。 

 いいじゃない。気概に溢れている。

 

 というわけで。

『666』から帰ってきて一ヶ月。

 わたしは連載をしていて。

 その物語は、先日ハッピーエンドを迎えたばかりだ。

 ……ハッピー、かな。

 オレはようやく登りはじめたばかりだからな。このはてしなく遠いネトゲ坂をよ……

 みたいな感じだったけど。

 まあ、いいや。

 

 ちなみにそのルルシィ・ズ・ウェブログは約束通り、一緒に冒険していた仲間たちにも教えてあります。

 当然瑞穂ちゃんにも。

 まあそれで、色々と問題はあったのだけど。

 基本、瑞穂ちゃんオチ要員だからね。

 最初は扱いに不満もあったみたいで。

 だけど、最終的には面白く読んでもらったようでよかったよかった。

 っていうか、わたしのデスクトップを勝手にいじって、ルルログのページ開いているし。


 彼女はにこやかに画面を指差して。


「でもすごいですよねえ、先輩。ほら見てくださいよ、お気に入り登録してくださっている方が2420人もいるみたいですよぉ」

「うん、そうね……」


 本当にありがたい話です。

 その2420人の方々には足を向けて眠れないね。

 全ての人たちが北か南に固まってくれたら話が早いんだけど。

 でも日本全国にその2420人がいたらどうしようね。

 もうこうなったら立ったまま寝るしかなくなるね。

 地底人が読者じゃないことを願うばかり。

 でも。


「それじゃだめなんだよ、瑞穂ちゃん……」

「え、なんでですかぁ?」

「いいかい、ルビアちゃん……」


 わたしはページを移動する。

 開いたのは、ランキングのページ。

 そこには、上位から順番にシビアな順列がつけられていた。

 これが『小説家になってやる』のすごいところだ。

 誰のどの作品が何位にあるのか、ひと目でわかるようになっている。

 順位の変動は激しく、100位内となるとまさに群雄割拠のようだ。

 

「わかるかね……?」

「えっとぉ……先輩の名前がないですねぇ」


 うう。

 遥か下にあるよ……


 瑞穂はトップのランキングとわたしの作品を見比べて。

 なるほど、と手を打つ。


「先輩のポイントの十倍のポイントがありますね!」


 はっきり言い過ぎ。

 ナゾ解明! みたいな顔しちゃって。

 デリカシーどこに置いてきたのキミ。


「きっとこの作品は、先輩の作品の10倍面白いんですね!」


 ソウネ……


「上位陣には、書籍出版化の依頼も来るそうだけどね……ふふふ……」

「え、でも先輩をお気に入り登録してくれている人は2420人いるんですよね」

「ええ……」

「その人たち全員が10ポイントの評価ポイントを入れてくれたら、プラス24200ポイントですよぉ? 100位以内に入れそうですよぉ?」


 きゃいきゃいとはしゃぐ瑞穂。


「ソウネ」


 わたしは感情のこもっていない声でうなずく。

 それ、とら☆たぬ、っていうんだよ。

 取らぬ狸の皮算用の略だよ。



「んーじゃぁー」


 瑞穂は唇を指でツンツンしながら。


「大学の前でビラ配りするとかどうですかぁ? わたしに清き10ポイントを! って」

「そんなみっともない真似できるかー!」


 ぺちりと瑞穂の後頭部を叩く。


「わ、わたしはあくまでも、この作品を見て気に入ってくれた人がポイントをくれれば、それで……」

「悠長なこと言ってますねぇ」


 なぜか不服そうな瑞穂。


「まったく。あたしはちゃんと評価入れてあげましたのにぃ。文章3、ストーリー4で合計7点も」

「うおい! キミ、5点と5点じゃないのかよ! つーかキミだって日記書いてんだよ!? 5・5入れろよぉ!」

「先輩、きーきーうるさいですぅ」

「誰のせいだー!」


 うがー、とわたしは髪をかきむしる。


「いいじゃないですかぁ、いつものように女の子を口説いてきて、それで『ここにポイントを入れてくれたらもっといいことをしてあげるよ……』とか、宝塚スマイルでメモを渡せば」

「一度もやったことないよ!」


 なんだよそのキャラ。

 わたしはノーマルだっつってんだろ。

 いい加減犯すぞ。

 ……喜ばれそうだな、と一瞬でも思ったわたしはもう汚れている。


「まあ、でもそんなことよりぃ」

「そんなこと!? わたしの夢をそんなこと呼ばわりした!?」

「あたしこれからネイルサロンに行くんですけどぉ、先輩もご一緒にどうですかぁ?」

「えー」

「きょうはとっても良い天気ですよぉ」


 そういう場所に誘われるのは初めてだけど。

 遠慮する。

 気分じゃないよぉ。


「いいってば。瑞穂ひとりでいってらっしゃい」

「はぁ。そう言うと思ってましたぁ」


 瑞穂が小さくため息をつく。

 元から期待してなかったんでしょうよ。

 椅子から降りると、扉に向かって。

 その途中でくるりと振り返ってくる。


「あ、そうだ先輩。良かったらあたしが書いてあげましょうか? ルビア・ズ・ウェブログっていって、基本的にはあたしがゲーム内のかっこいい人たちに『おひめさまーおひめさまー♡』ってちやほやされる物語なんですけど」


 なんという逆ハーもの。

 

 うん。

 わたしは両手を付き出して答えた。


「No,Thank You」

 

 


 

 女子寮にひとり。

 嘆いてもひとり。


「くっそうー」


 アーケードスティックをガチャガチャと動かしながら、わたしは毒づく。


「世の中には10万文字もいかないで何万ポイントも稼いでいる作品だってあるのに、なんでだよぉ、なにが違うんだよぉ」


 こっちはノンフィクションだぞぉ。

 全部、わたしが冒険してきたことなのに……!


「『666』があんなふうに収束しないで社会問題になっていたら、わたしの作品はちゃんとした扱いをされていたのかなぁ。べらんめぃ。こんちきしょぉ」

『ルルシさん、こわい、こわいから』


 ヘッドセットからたしなめるような声。

 お相手はシスくんです。

 イオリオはお出かけしているみたい。

 というわけで、ボイスチャットをしながら通信プレイの真っ最中だ。


「うーうー、うーうー」


 思いの丈をゲームの中のキャラクターにぶつけてみるけれど。

 そんな調子で勝てるはずもない。カウンターヒットの確認もおろそかなのだ。

 あっという間にわたしのキャラクターはHPがゼロにされてしまう。

 敗北。これで2勝9敗だ。


「エタりもせず、きっちりと完結までこぎつけたのにぃ……」

『いや、よくわかんねーけど……』


 きょうのゲームは、対戦格闘である。

 イオリオはたしなむ程度らしいが、シスくんはマジで強い。

 普段でも5回に1回勝てるかどうかといったところだが。

 きょうはその上、彼はサブキャラを練習中でこの強さである。

 わたしは一方的にボコボコにされている。

 楽しいからいいんだもん……


『そういえば俺も読んだよ。ルルシィ・ズ・ウェブログ』

「えっ、まじで」

『ああ、面白かったよ』

「そっかぁ……あ、ありがとう……」


 面と向かって(ではないけれど)読んだと言われると、さすがにちょっと照れてしまう。

 おまけにシスくんみたいな普段本を読んでいないであろう子からだと、なおさらだ。


『気の利いたことはイオリオが言うだろうから、俺は控えておくけどさ』

「え、いいよそんなの。言ってよ言ってよ」


 感想は誰からもらっても嬉しい。

 その言葉ひとつが、値千金なのだ。


『う~~~ん……そうだなぁ……』

 

 長考の気配が伝わってくる。

 お互い操作キャラを選び、試合開始。

 無言のプレイの中、一本が終わった頃。

 シスくんがぽつりと告げてきた。


『……文章を書けるなんて、すげーって思う』


 き、キミ……

 ようやく絞り出してきたのが、それか……

 物語を書く、でもなく。

 文章、と来たか……

 内容にもまったく触れてないし……!


 でもシスくんだから。

 悪気はゼロなんだ。


「……うん、ありがとう、シスくん」

『……なんか、ゴメン』

「……ううん……」


 わたしたちはその後、しばらく無言で対戦をしていたけれど。

 シスくんが実家の道場の手伝いがあるらしいので、お開きとなりました。

 用事がないのはわたしだけ……


 

 

 

 先ほどのメールのショックが抜けきれず。

 ベッドに寝転がって、未だにうーうー唸っている辺りで。

 メールが着信。

 もしかしてケロッグ出版が「やっぱり出す? 出しちゃう?(^^)v」とか送ってきたのかな、と思ったけれど。

 さすがにそれはない。

 相手はイオリオだった。



>差出人:イオリオ


>件名:完結お疲れ様。

>本文:ルルシィ・ズ・ウェブログを読んだよ。

    あれだけ『666』について言及をしているのに、

    どこからもリアクションがないというのは、少し拍子抜けだな。

 


 そういえば、彼は最後までルルシィ・ズ・ウェブログをネットに載せることを危惧していたっけ。

 なんといっても見方を変えれば、これは電子犯罪事件の重要証拠だ。

 わたしたちが30日間閉じ込められていた間のレポートだ。

 それを誰にでも見れるネットに公表するのは、リスクが高すぎる、と。

 もしアーキテクト社の人間に見られたらどうする、と。


 結局は載せちゃったわけだけど。

 匿名みたいなものだからね。それで彼も渋々許可してくれたんだった。

 

 いやはや、それにしてもイオリオも読み終わったんだ。

 なにか、感想とか、ない? と。

 メール返信。



>差出人:イオリオ

 

>件名:面白かったよ。

>本文:色々と気になるところはあったけれど。

    興味深かった。

    僕とキミのやり取りなんかは、少し恥ずかしかったけれどね。



 少し程度なんだ。

 でも、なんだろう。気になるところって。

 イオリオは読書家みたいだし、改善案とかあったら是非聞きたいなあ。

 そう思ってメールを出すけれど。



>差出人:イオリオ


>件名:いや。

>本文:もしかしたら、キミを不快にさせてしまう可能性がある。

    率直に言うのは遠慮させてもらいたい。



 はっはーん。

 このおねーさんを、みくびってもらっちゃー困るね。

 この子、わたしの打たれ強さを知らないね。

 今さらそんな指摘を気にするわけがないじゃん!


 わたしがどれほど新人賞に落ち続けて、精神力を鍛えられたか。

 今回こそは必ず受賞できる! って気持ちで書いた小説が、無残にもゴミのように一次落ちしたときの絶望に比べたら。

 キミがわたしに言う指摘なんて、凪のようだよ!

 わたしの心にさざなみひとつ立てることなんてできないね。

 だから、安心して、言ってみ言ってみ、と。

 

 そうメールを返すと、しばらくの間、返信はなかった。

 むむう。

 イオリオも優しい子だからなあ。

 やっぱり、言ってくれないのかな、なんて。

 そう思っていた辺でね。

 長文が届いた。

 


>差出人:イオリオ


>件名:わかった。

>本文:なら言わせてもらおう。

    まず導入部だ。

    キミのキャラクターはあまりにも特殊すぎるため、人を選ぶ。

    人を選ぶ文章が大多数の支持を得られるとは思えない。

    序盤は穏やかに進め、中盤辺りからキミの持ち味を発揮するべきだった。

    『ウェブログ』と言っているのにブログ感がまるでないのもどうだろう。

    それが売りであるなら、もう少しそこを押すべきではなかったか。

    前半と後半の文体もまるで違うしな。

    細かいところを言うといくらでも出てくるが、

    引っかかりを覚えたのはネトゲ・プロファイリングの辺りだな。

    ああいったことを堂々と誇るのは、少し痛々しいと思うね。

    歳相応に落ち着いた文章を心がければ、読者は伸びただろう。

    ストーリーは悪くないんだがね。

    といってもそれはリプレイだから当たり前か。

    それと日本語の間違いも多かったな。

    キミはもう少し文法の使い方などを学んだほうがいい。

    あの一文字間隔の強調はなにか意味があるのか?

    読みにくいからやめたほうが良い。

    他にも……(ここから先は省略されました。気力が復活したら続きを読みます)




 わたしはベッドに崩れ落ちた。

 呼吸が止まりそうだ。

 気をつけの姿勢のまま、埋もれる。

 うう。

 もうだめだ。

 震える手で返信。


『そんなにいっしょうけんめい、よんでくれてありがとうね!

 そっかあ、つぎからちゃんとがんばるね!』


 だめだ。

 しぬ。

 しんでしまう。

 むねがいたいよぅ。

 




 もはや夕暮れ前。

 前回会ったバイト先のカフェに、レスターを呼び出しました。


「助けてレスタえもーーーん!!」

「なんの話だよ」


 呆れた顔の彼。

 奥の席で前と同じようにノートパソコンを広げています。

 レスターはどうやらこの辺に住んでいる模様で。

 大抵の場合、彼の方が先に到着しています。


 そんなことはいいとして。

 すがりつくように対面に座るわたし。


「ううう、イオリオがいじめるんだぁ……」

「はぁ?」


 泣き真似に冷たい視線。


「だから、わたし決めたよ……!」


 ぐぐぐぐと拳を握る。

 

 そう、わたしは決意した。


「わたしは、もう一度『666 The Life』に潜るよ……!!」

 

 そして。

 もう一度。

 ネタを取ってくるのだ……!


「だからあの物語の中に入れる『RD言語』をちょうだい! わたしにちょうだい!」

 

 わたしには『666』しかない!

 やり直すしかないんだー!

 

 ざっぱーん。

 わたしの背後で荒波がしぶきをあげた……ような気がした。

 

 ただ、レスターはそんなわたしを見つめて。


「……まさか、自分で気づくとはな」

「え?」


 なにが?

 わたしのルルシィ・ズ・ウェブログの欠点?

 違うよ……

 イオリオに指摘されたんだよ……

 砕かれた後にロードローラーで平らにされたんだよ……

 

 そこで、カフェのドアがカランコロンと音を立てて開いた。

 まさかこのお店に?

 ここにお客さんがやってくるなんて。

 そんなばかな……

 

 そう思って振り返ると。

 あら美人さん。

 綺麗なストレートの黒髪を伸ばしたスラリとした女の子がいらっしゃいました。

 よくある落ち着いたお姉さんって感じの、黄色のロングスカートと緑色のカーディガン。

 年はわたしと同じぐらいか。


 ひとりで優雅にお茶をするようなお店じゃないんだけど。

 って思ったら、その後ろにメガネをかけた線の細いイケメンが。

 真っ白なシャツに黒いスラックス。なんて清潔感溢れる格好だ。

 美男美女カップルのデートらしい。

 ケッ、デートかよ……


 リア充どもめ……

 なんだかもう、世界そのものがわたしの敵に回ったような気がする。

 今のわたしはブラック・ルルシィールだ。

 悪の華なのだ。

 こんな気持ちを味わうなら、瑞穂についてって女子力をゴリゴリ磨いてきたほうが良かったのではないか。


 そんなことまで思っていると。

 ふたりはこちらにやってきた。

 

 黒髪の美人さんが「隣よろしいですか?」って。

 ガラガラなのに、わざわざ相席!? ってちょっとびっくりしたけど。

 その声には聞き覚えがあった。

 そうだ。

 あの金髪エルフの声だ。


「ど、ドリエさん?」

「こちらでは初めまして、ですね。ルルシィールさま」


 丁寧に腰を折るドリエさん。

 髪が耳からこぼれて、黒絹のように揺れる。

 う、うわあ。

 どうしよう。

 明らかに文学少女って感じの乙女さんが、わたしのことを様付けで……

 キュンキュンしちゃう……

 し、心臓に悪いわ、これ……

 

 あれ、ちょっと待ってよ。

 ってことは、もしかして。


「……もしかして、じゃあそっちのは」

 

 彼は微妙に目を逸らしながら、つぶやく。

 緊張しているような声で。

 

「そうだ。僕だよ。イオリオだ」

 

 うわあ。

 生イオリオだ。

 

※ケロッグ出版と、

 サイト『小説家になってやる』の件は全てフィクションです。

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