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60日目(後日談) その2

  

 結局、ケーサツさんに寄っていたために大学の講義に遅れてしまった。

 まあしょうがない。

 あとでひき逃げ未遂があったから、と説明いいわけをしよう。

 でもひき逃げに未遂ってないんだよな……

 危うく、可憐な女の子の命が奪われるところだったかもしれないのに。


 さすがに大学に入ってからはわたしと瑞穂は別行動だ。

 お昼はたまに一緒に食べに行くけど、それも時間が合ったらで。

 わたしはわたしの友達たちと合流する。


 え、いるよ!

 ちゃんとフツーの友達もいるよ!?

 わたしネトゲ廃人だったけど、コミュ症じゃないし。

 いやホント、ホントよ?

 リア充……ではないと思うけど。

 ま、まあいいや……

 ムキになるとかえって怪しいと思われかねないからね……(震え声)

 

 足は昼休みにはもう、痛くなくなっていた。

 もともと怪我ではなかったのだろう、と思い、特に深くは考えなかった。

 

 

 きょう最後の講義が終わったところで、ケータイにメールが届いた。

 おっと、レスターくん。

 ちなみに彼のお兄様は、『レッドドラゴン』世界が救われたことによって、無事意識を取り戻したそうです。

 今はリハビリしながらも、少しずつ元の性格に戻りつつあるとか。

 良かった良かった。


 で、そうそうメールメール。

 この世界じゃコールが使えないからねー。不便不便。

 彼から送られてきた内容ね。

 題名はなし。本文だけ。


『相談したいことがある。大学の前で待つ』


 急っ。

 え、なんですか。

 そりゃあ大学の名前も前に教えたけど。

 ていうか、レスターとリアルで会うの初めてなんですけど。

 いつもみたいにスカイプとかじゃダメなんですか。

 む、むむ……

 強引すぎる。

 まあ、いいけどさ。


 しばらく迷いながら学門に向かっているとね。

 なんか学門のほうから来る女の子がきゃあきゃあ言っているの。


「なにあのかっこいい人、だれか待っているのかなあ」とかね。

 頬染めちゃったり、押し合ったりはしゃいじゃって。

 ……嫌な予感しかないよ。

 


「よう、ルルシィール」


 片手を上げて挨拶してくる長身の男性。

 さすがに【ベイズィー】のように2メートル近いわけじゃないけど、180センチちょいあるんじゃないかな。

 肩幅広く、なにかスポーツでもやっていたのだろうと思う細マッチョな体型。

 明るく染めた髪は割と長めで、目つきが悪い。

 お顔は整っていて、一見強面風だけれど、よく見れば相当なイケメン。

 全体的に、アブない感じの退廃的な色気漂う男の子だ。

 片手をポケットに入れて、片手にバッグを抱えています。


 遠く離れて見ている分にはすごくカッコいいけれど、多分ふたりきりにされたら逃げると思う。


 そんな彼はわたしが返事をしなかったことに不満だったようで、眉をひそめる。


「ルルシィール? 行くぞ?」

「ええっと……」


 こめかみを押さえてうなる。

 ちょいタンマ、と手を突き出す。


「いや待って。ふたつ言いたいことがあるんだけど」

「あん?」


 この時間、帰る学生たちであふれている学門前。

 周りの女の子たちが、こちらを見てヒソヒソ話をしているようだ。

 あのルルシィールさんに彼氏がねえ、的な。

 女の子だけじゃなくて両刀使いだったのねえ、的な。

 美男美女だったら誰でもいいのねえ、的な!

 居心地が悪い!


「まずキミ。なぜわたしがルルシィールだとわかったの」


 写メとか送ってないよ!

 ブラック系イケメンは眉根を寄せる。


「はあ? ンなの見りゃわかるだろうが」


 解せぬ。

 全然キャラデザなんて似せてないのに……


「……じゃあ二つ目。わたしにこれから用事があるとは考えなかったのですか」

「そういえばそいつは想定していなかったな。でも大した用事じゃねえだろ?」


 この人、自分勝手!

 なんて自分勝手なんだレスター!

 わたしは地団駄を踏む。


「い、いくらわたしだって毎日毎日ヒマじゃないんだよ! アクションやったり、RPGやったり、積ん読崩したり、ネットの海にダイブしたり!」

「全部ヒマなときにすることのように思えるんだが。つかヒマなんだろ?」

「ヒマだけども!」


 ああ、認めてしまった。

 なぜか負けたような気持ちでいっぱいだ……


 イケメンくんは落ち込むわたしに手荷物を見せながら。


「とりあえず、どこかの店に入るぞ。話したいことがある」


 ああそうね、そんなこと言ってたね……

 なんかもう、抵抗するのが馬鹿らしくなってきたよ、はは。

 軍団長さま、マイペース過ぎ。


 こいつが俺様系主人公ってやつか……

 リアルで付き合いたい人種ではないな……


「じゃあえっと……」

「構内でもいいぜ」

「はは、ご冗談を」


 噂になったら、たまったもんじゃないし。

 わたしはMMOでもリアルでもそんなに目立ちたくないんです。

 レスターと違ってな!

 

 

 場所を変えて。

 たどり着いた先はわたしの働いているカフェ。

 大学から徒歩5分だし、その割には人が全然いないからガラガラだし。

 隠れ家的カフェってやつ。ステルススキル高すぎの。

 ……ホントに、なんで潰れないんだろう。

 まあいいや。


 奥の席を借りて、レスターさんと向かい合ってソファーに座ります。

 わたしは頬杖をついて、ふてくされた表情。


「はいはい、それでなんですかー?」

「ああ」


 バッグからノートパソコンを取り出して、彼はなにやら操作し出す。

 どうせ突拍子もない話なんでしょ、また。


「フランスのダチに聞いた話なんだけどな」

「え? フランス?」


 ずいぶんと国際的ね。


「19世紀のフランスに、エリファス・レヴィという近代西洋儀式魔術の術者がいた。実在の人物だ」

「へ?」

「ルルシィールは“魔術”と“魔法”の違いを知っているか?」

「えっと」


 思わず姿勢を正してしまう。

 ちょっと待って。

 これ何の話?


 魔術と魔法の違い?


「……えっと、字面が違う?」


 冷たい視線を浴びせられた。


「……“魔法”はお伽話や空想上の産物だ。だが、“魔術”は実在している」


 実在する魔術って。

 ドミティアにあったような手から炎を放つ術とかではない。

 いわゆる悪魔との交信術などの類だ。


「それって、なんかアレでしょ。魔術結社とかのお話でしょ?」


 すっごい怪しい感じの。

 そう、薔薇十字団とか。

 黄金の夜明け団とかさ。


「そうだ。魔術とは精神、あるいは内的なものを追求した学門のひとつだ。錬金術が化学の発展に多大な貢献をしたように、魔術もまた歴史に大きな影響を与えたのだ」

「は、はあ」


 その話なんか関係あるんですかね。

 こういうの得意なのはイオリオでしょ?


「その点、エリファス・レヴィが研究していたのは、より魔法に近い魔術だった。彼がやっていたのは“本の中に入る”魔術だったのだ」

「そりゃまたメルヘンな」


 鏡に中の世界なんてありませんよ、的な。

 あるいは、ネバーでエンディングなお話、みたいな感じの。


「当時の文献によると、彼はその魔術を成功させたらしい。もっとも、その世界で死ぬことは“魂を失う”ことに繋がったようだから、とてつもなく危険な魔術らしいけどな」


 魂を失う、ねえ。

 眉唾ものねえ。


「まあ、ここまではただの伝説や逸話の類だ。特に目新しいことはなにもない。問題はここからだ」


 ずいぶんと長い前座でしたね。

 そこでツボとか御札を取り出したりしないよね。

 買わないよわたし。

 全力で逃げるよわたし。


 と、レスターはパソコンの画面を見ながら。


「彼には六人の弟子がいた。彼が独自に開発した言語によって描かれたグリモワールを受け継ぐ六人だ。その名は、アド。エメラルダ。リュネー。ノルパルフラ。イニデ。ベラノエル」


 ……うん?

 どこかで聞いたことのある名前ね。

 って、さすがに覚えているよ。


「レッドドラゴン・クデュリュザを封印した六柱の神様だね」


 ちゃんと元ネタあったんだなあ。

 よく練られた世界観なんですねえ、って。

 そのときまでは、まだね。

 わたしは感心していたのだけど。


 レスターはくるりとノーパソをこちらに向けてくる。


「そしてこれが、フランスのダチから送ってもらった画像でな。そのグリモワールの一部だ。研究者の間ではヴォイニッチ手稿と似たようなものだと呼ばれていて、未だに解読されていないのだが」


 うん。

 そこに描かれている言語は、紛れもない。

 さすがのわたしでもわかります。


「……『RD言語』じゃないですか」


 段々、わかってきた。

 レスターが語ろうとしている話の意図が。

 


「へー。この文字で“お話の中に入る”ことができるんだー。へー」

「そうだ。それが『666 The Life』のプログラムコードの中に書き込まれていたわけだ」

「へー」


 ……

 えっと。


「あの、レスターさん?」

「あん?」

「あなたがなにを言おうとしているか、わたしがちょっと当ててみてもよろしいでしょうか」

「なんで敬語なんだかわからねえが、いいぞ」

「えっと、ですね」


 わたしは眉間を揉みほぐしながら。


「アーキテクト社の開発者の中に、エリファスさんのお弟子さんの六人の魔術師がいる」

「おう」


 口に出しただけで目眩がしそうだった。

 完全に陰謀論だ。

 厨二病乙、である。


「その魔術師たちがプログラムコードの中にグリモワールの魔術を編み込んだ。結果、ゲームをプレイしたわたしたちは、“本の中に閉じ込められる”ように、ゲーム世界の中から出られなくなった」

「そういうことだな」


「――ねーよ!」


 机をバンと叩いて、立ち上がる。


 ハッ。

 辺りをキョロキョロと見回して確認。

 良かった他にお客さんがいなくて。

 ていうか店長すらいない。

 お客さん来たらどうするつもりなのか。

 まあそれはいい。


 わたしはレスターに食ってかかる。


「ありえないでしょ! バカなの? アホなの? 死ぬの?」

「ほう」


 なんでそんなに落ち着いているの。


「この世界に“魔術”なんてものはないってば。21世紀なのよ? 人が月に行く時代なのよ? レスター、さすがにそれはちょっとないって思うよ?」

「俺たちは現にゲームの中で一ヶ月を過ごしていたぞ」

「それは、だから……」


 平然と言い返してくる彼。

 言葉に詰まる。


 そうだ。

 結局はそこなのだ。

 わたしたちは『666』に閉じ込められて、その原因はいまだに不明だ。

 完全にブラックボックスである。

 でもだからって、魔術だなんて。


「だ、だいたいフランス人の集団なんでしょ? それがなんで日本でMMO作っているのよ」

「確かにな」

「で、でしょ?」


 一言必殺。

 完全論破。

 勝った。

 そう思って着席する。


 胸を撫で下ろしているところで。

 再びレスターがノートPCを向けてきた。


「このことを聞いて、俺も疑問に思ったんだ。もしかして、“被害は日本だけじゃないのかもしれない”ってな」

「……へ、へえ」

「ネットゲーム先進国は、北米、カナダ、韓国、中国、それにイギリスとフランス、ドイツ辺りだ。俺はこの一ヶ月、海外のネットゲームにまつわる事件を徹底的に洗い直していた」

「お、おう」


 執念恐るべし。

 ま、また嫌な予感がする。


 レスターがノートPCのタッチパネルを操作する。

 一枚のニュース記事が表示された。

 ……読めない。


「ど、ドイツ語?」

「ああ」


 よかった、当たった。

 こ、これでも現役大学生ですからね。

 レスターが読み上げてくれる。


「ネットゲーム、邦題『偉大なる獣の目覚め』を遊んでいたプレイヤーが、突如として意識を失い病院に搬送されたという内容だ。被害者数は不明だが、診察を受けなかったものを含めれば千人を越えるという。警察はこの会社についてしばらく調べていたものの、結局、なにも痕跡を発見できなかった」

「……」


 わたしは絶句した。


 記事が切り替わる。

 今度は英語。


「ネットゲーム、邦題『千年王国』を遊んでいたプレイヤーが、突如として意識を失い病院に搬送されたという内容だ。こちらも被害者数は不明。だが彼らはすぐに起き上がり日常生活を送っていたことから、大きなニュースにはならなかった。やはりその運営開発会社については不明」


 記事が切り替わる。

 韓国語。


「ネットゲーム、邦題『エデンの園』。こちらも内容は同じだ」


 記事が切り替わる。

 中国語。


「ネットゲーム、『撒旦世界』。こちらも内容は同じだ」


 記事が切り替わる。

 英語。


「も、もういいってば」


 わたしは思わず声をあげる。


「あ、ありすぎでしょ! これ全部アーキテクト社がやったことなの!?」

「さて、どうだろうな。ネットゲームがニュースになることは多い。誰かが死んだり、誰かが誰かをネットゲーム絡みのトラブルで殺害したりな。だが、これだけの類似事件が大々的に放送されていないのはなぜだと思う?」


 急に?

 そんな話を振られても。


「ね、ネットゲームの法整備が進んでいないから、とか」

「それもあるだろうがな。一番の問題は魂を奪われた者の末路だ」

「ええ?」

「彼らは日常生活を送ることはできるんだ。木偶のようにな。だからニュースになりにくい。中には報道されていないだけで、もっとたくさんの数の人間が魂を失っているのかもしれない」

「そ、そんな無茶な理屈」

「“彼はネットゲームをプレイして人が変わってしまった”」


 びくっと震えた。


「そんな言葉を聞いたことはないか? その中で魂を奪われた者がいないとは言い切れるか?」


 レスターに見つめられて。

 わたしは唇をわななかせる。


「……魂なんて、ないよ」


 小声でそうつぶやく。


 昔、魂の重さが2グラムだと聞いたことがあった。

 死亡した人間は軽くなり、その差が2グラムなのだと。

 だがそれは、生命活動が停止したことによって、体の中に溜まっていたガスが失われたという結果に過ぎない。

 目に見えない、科学的に立証されていない魂などは、存在していないのだ。


「……そうだな」


 あっさりとレスターはうなずいた。


「魂の実在について議論したところで仕方がない」


 彼は机の上で腕を組む。

 なんでそんなに落ち着いていられるのか。

 わたしは小さく首を振る。


「そんな、何百年も前の魔術師が、ネットゲームとか……」


 結びつかない。

 けれどレスターは持論があった。


「だが、彼らがより効率的に魂を集めようと思ったら、どうすればいい?」

「え?」

「この現代社会だ。様々な方法を考えられるだろう。視覚、聴覚に訴えかけて、たったひとりで精神を集中しやすい状況において、さらにリラックスできる環境。そこに適したものはなんだ?」


 ……。

 それで、ネットゲームを選んだってことですか。


「“電子魔術”。俺はそう呼んでいる」


 ……えっと。

 電子ドラッグって、そんな話あったね。

 なんだかわたしの生きているこの世界が、急に危ういものに見えてきて。

 少し、怖くなる。


「ルルシィール」


 彼は『666 The Life』で見たことのあるような。

 決意の眼差しをしていた。


「あいつらは世界中で“なにか”を集めている」


 魂、とレスターは言わなかった。

 だからこそ、余計に恐ろしい。


「日本は失敗した。もうここには来ないかもしれない」


 いや、でも。

 わたしは気づいた。

 反論する。


「おかしいよ。だって、た、魂だけを集めたいならクデュリュザ使うなんて面倒なことしないで、難攻不落の鬼畜ステージを設定すればよかったじゃないの」

「同感だ」


 レスターはうなずいた。

 で、でしょ?


「寺院で復活せずに、デスゲームにしたら、もっと効率よく魂を集められたのに……」

「俺たちがここで言っても仕方ねえがな」


 ま、まあね。

 デバッカーみたいじゃないの、わたしたち。

 そのことについてはレスターも納得していないらしく。


「なぜクリアーできるかできないかわからないような難易度に設定したのか、そこは俺もわからねえ。もしかしたら人間から“なにか”を奪うためには、条件のようなものが必要なのかもしれない」


 そう言って、肩を竦めた。

 むむむ。


「それに、なんのためにそれを集めて」

「それこそ知らねえよ」


 あっさりと言い放つ。

 自分から話を持ってきたくせに……

 む、無責任ボーイ……!


 わたしは窓の外に目を向ける。

 ここは現実だ。

 わたしたちの生きる、現代社会の日本だ。

 時々、ドミティアにいるような気がしてしまうけれど。


「……クデュリュザは魂を集めて人間を滅ぼそうとしていたけれど」

「案外、六魔術師も世界を滅ぼそうとしているのかもしれねえぞ」

「冗談じゃないって……」


 どこかの狂った科学者さんですか。

 それが魔術師になっただけじゃない。

 冷や汗が背中を伝う。


「ルルシィール」

「な、なにさ」

「どれだけの人間がイスカリオテ・グループに気づいているかわからねえ。だがな、俺はこんな真似をしている連中が許せねえ。一発ぶん殴ってやりたい」


 好きにすればいいじゃない、とか言おうとして。

 気づく。

 レスターの性格もそこそこわかってきたからね。

 この人わたしを誘うつもりだ。

 に、逃げないと!


「キミには、ドリエさんとかいるでしょ!」

「莉子ももちろん呼ぶ。俺はこの話をイオリオやシス、ベルガーや<キングダム・コミュニティ>の皆にもするつもりだ」

「そんな」

「その前にお前に話しておこうと思ってな」

「大体そんな、どうやって」

「方法はまだ考えていない。だが、警察にこんな話をしたところで信じるとは思えないな」

「そりゃそうだけど!」


 ネットゲームを通して世界を征服しようとしているやつらがいるんですー。とか。

 頭を心配される。


 彼は手を伸ばしてくる。


「俺と来い。世界を救うぞ」

「うそでしょ……」


 わたしは混乱していた。

 そんなのブログのネタにならないよ。

 レスターの手を見つめる。

 視界が狭まってゆく。

 世界の喧騒が遠ざかる。

 まさかドミティアでの日々が、こんなことに繋がるなんて。

 

 レスターの手を握ったら、もう引き返せないような気がする。

 平凡な今の毎日か。

 あるいは、『666』で過ごしていた矢のような日々か。

 生唾を飲み込む。


「来い」


 レスターの言葉。



 わたしはその手を――











 




◆スタッフロール


 浅尾志鶴シス


 橘涼介イオリオ


 和久井瑞穂ルビア


 浜山桃香モモ


 伊藤聡エルドラド


 不破大和レスター


 山本省吾ベルガー


 木下莉子ドリエ


 加藤拓人カット


 服部萌ヨギリ


 高橋謙次郎ブネ


 夏原絢音デスデモーナ


 鈴木陸ダークス


 イスカリオテ・グループの方々。


(登場順・敬称略)



◆スペシャルサンクス


 感想を送ってくださった皆様。

 

 誠に感謝しております。

 感想こそが原動力でございます。

 よろしければ、これからも、

 お気軽に書き込みください。


 

◆作者


 T・M・ルルシィール




 








 

 寮の部屋に帰ってきたわたし。

 クリアケースも床に放り投げて、椅子にもたれかかる。

 なんかもう、きょうは疲れた。


 はぁ。

 まさかこんなことになるなんてさ。

 別にね、わたしが未知の力を持っているならいいよ。

 異世界から呼び出された勇者だったりね?

 でも、わたしって普通の女子なのよ。

 ちょっとネトゲにハマってただけの、一般人。

 それがねえ。

 良からぬことを企てている魔術結社と戦うだなんてねえ。

 ムリムリ。


 はぁ。

 棚からルーズリーフを一枚取り出す。

 ……魔術ねえ。

 瑞穂は触媒が足りなかったから発動しなかったなんて言ってたけど。

 まさか、ね?

 わたしはぺらぺらと紙を揺らしながら。

 意識を集中する。

 指先に魔力を宿して。


 ……よし。

 つぶやく。


「……ヴァユ・エルス……」

 

 そのときだ。

 背中に視線を感じてわたしは振り向いた。


「せ~ん~ぱぁ~い~♡」


 ドアから半身を出して覗いている。

 小悪魔がそこにいた。

 

「え、ちょっと先輩、今なにやってたんですかぁ?」

「い、いや、その、ちょっとね」

「も、もしかして、もしかして……ほ、本気で、ぷぷ、ま、魔術唱えようとしていたんですかぁ~~?」


 う、うぜえええええ!

 喜色満面で擦り寄ってくる瑞穂。


「だめですよぉ、先輩♡ そんな、現実とゲームを一緒にしちゃぁ」


 う、うああああ。


「あ、あんただってやってたでしょー!?」

「えー? 人前でジョークのつもりでやった《ヒール》と、ひとりでこっそりとお部屋で真剣な表情でやっている魔術を比べられてもぉ~♡」


 あああああああ。

 死にたい!

 わたしはベッドにダイブ。

 顔を枕に押しつけて叫ぶ。


「――――――!」


 声ならぬ声である。

 そんなわたしの傷口を容赦なくえぐるように。

 覆いかぶさるようにして瑞穂。


「ぷぷ、せ、先輩ってば、口ではカッコつけても、やっぱり……ちょっと、痛々しいですね♡」


 うあああああああああ。

 足をバタバタ。

 わたしは悶え苦しむ。

 も、もうだめだ。

 恥ずかしすぎる。

 生きていけない。


 こいつを殺さなくては……!


 しなだれかかってきた瑞穂。

 耳の後ろから囁いてくる。


「いいんですよぉ、あたしだけはそんな先輩の理解者でいてあげますからねぇ? ずぅ~っと、ずっと一緒にいてあげますからねぇ~? えへへ、先輩ぃ?」


 悪魔のような声だ。

 人の弱みを見るや、つけあがる!

 これがこのあざとい娘の本性ですよ!


 くっそう、誰か。

 誰か刀を持ってきて。


 わたしは気づいたよ。

 これ、ルビアエンドじゃない。

 ルビア編のバッドエンドだよ。

 くっそう。

 

 お願い、誰か刀、刀を。

 愛刀一期一振を……!

 わたしにサクリファイスの力を、今一度……



「ねぇ~? せ~んぱぃ~♡」

「やめろー!」

 


                           <FIN>

 

 

 

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