◆◆ 4日目 ◆◆
「やっほー、またよろしくねー」
朝食後、木漏れ日の下。
手を挙げて元気よく挨拶するわたし。
その後ろには、木の影に隠れるみたいに後輩が縮こまっている。
雛の鳴くような声を出す。
「よろしくお願いしますぅ~……」
人見知り発揮してますねコレ。
わたしにとっては見慣れたアレです。
「おー、そっちが昨日言ってたー」
シスくんが会釈する。
「どうも、シスっす」
「よろしく、イオリオだ」
続いて、イオリオくんが頭を下げた。
ふたりの装いは一昨日とは若干変わっています。
まずシスくん。
ボロ布みたいな革鎧をまとっていた彼は、こざっぱりとしたレザーアーマーに。
装備のランクがワンランクあがったみたい。
それだけでちょっと凛々しく見える。
で、続いてイオリオ。
彼は手に持った杖の種類が変わっている他に、防具はどこも変わっていないみたいだけど。
ただひとつ、凄まじい変化があった。
メガネかけてる……!
どこで入手したんだ。
金髪ロンゲ眼鏡エルフ魔術師、だと……
シスくんキャラ負けてるぞ!
「ねえねえイオリオくん、それって」
わたしが指さすと、彼はメガネの縁を持つ。
「ああ、これか。別に防具でもなんでもないけれど、ないと落ち着かなくてな」
「なるほど、skinなんだ」
「皮?」
「あ、えっとね」
尋ねてきたシスくんに説明する。
「元々は装備の見た目をskinっていうんだけどね。
いつしかそれが見た目が変わるだけの装備をskinって呼ぶようになったんだよ」
「ああ、つまりオシャレ装備ってことだな」
「うんうん」
イマドキはほとんどのMMOにあるね、skinアイテム。
PS○シリーズは特に有名かな。
見た目が良いものは、それだけで高価だったりするし。
MMOは大事よね、見た目。
ちょっと違うけれど、頭防具の見た目を表示するか表示しないか、っていうオンオフ機能がついていないと、わたしはちょっとげんなりする。
せっかく凝って考えた髪型が、ずーっと防具に隠れているなんて、つまんないし。
対するわたしたちふたりは、質素なローブ姿。
ローブっていうかワンピースみたいなものだけどね。
街中の女の子がほとんどコレを着ているから、なんかこの街で大流行しているオシャレみたいな感じ。
ちょっと制服っぽくもあるね。
でも4日目に突入して、そろそろ飽きてきた。
新しいおよーふくに着替えたいでござる。
それはいいとして。
「さ、きょうはなにして遊ぼっか、シスくんリオくん!」
にぱーっとした笑顔を浮かべるわたし。
一日の始まりがこんなに楽しいなんて、いつぶりぐらいだろう。
高校生、中学生、小学生?
いや、あれはそう。
『666』の稼働日ぶりだね。
4日前だった。
ううむ。
で、わたしの言葉に引っかかったようだ。
ン? と動きを止めるのは、金髪ロンゲ眼鏡エルフ魔術師。
「リオ?」
わたしはうなずく。
「うん。ほら、イオリオ、って長いし」
「たった四文字じゃないか」
彼はこめかみを指で抑える。
「それなら“ルルシィール”のほうがよっぽど長くないか?」
「うん。じゃあ“ルルシィ”でいいよ。それなら呼びやすいでしょ?」
すると、リオくん。
彼は顎をさすりながらつぶやく。
「なら、僕もイオリオでいい。敬称は不要だ」
イオリオ、リオくん。
同じ四文字。
天才現る。
「ならオレもそれでいいや。シスでよろしく」
とシスくん、もといシス。
あらあら。
なんて良い子たちなんでしょう。
しかし、ですね。
美形の男性ふたりを前に、ルビアはすっかり萎縮していた。
完全にわたしの体を使って、ガードモードです。
うーん。
このままじゃ、同じパーティーとしてイカンよね。
これから一緒に遊ぶ仲間だし。
しょうがないなあ。
ここはおねーさんが、潤滑油になってあげようじゃないか。
わたしはルビアちゃんの肩を掴んで、前に押し出す。
「わひゃあ!」
叫び声まであざとい。
これが女子力か。
「で、この子がルビアね。
昨日も言っていたわたしの後輩だけど、根性ナシだから優しくしてあげて」
「うう~」
ルビアは前髪をいじりながら、目を伏せる。
「紹介のされ方がひどいけど事実なので言い返せませぇん……」
わたしとルビアのやり取りに、ふたりは笑ってくれたようだ。
緊張ほぐし成功、的な?
「ルルシィはなかなかひどい先輩のようだな」
イオリオがニヤついている。
わ、悪そう。
「可愛い後輩、いじめちゃーだめだぞー」
おっと、なぜかシスまで敵に!?
おっかしいなあ。
本人に確認してみましょ。
「いやだなあ。わたしってば優しい先輩よねえ。ねえ? ルビア」
「ひっ」
その幼い顔に不釣合いな巨乳を揺らして、のけぞるルビア。
性的すぎます。
てか、そのリアクションおかしいでしょ。
おかしすぎでしょ。
そこは太陽のような笑顔を浮かべてうなずくべきでしょ。
ハハーンまだ緊張しているんだなー?
ならわたしが簡単なジョークで場を和まそうかな。
フフー。
わたしといったらジョークのセンスだけで生きているようなものだからね。
あ、ごめん、今のウソ。
あんまりハードル上げないで。
で、ルビアの頭を撫でて告げる。
「ちなみにこの子がいくら合法ロリだからって言っても、触るときはわたしに許可を取ってよね?
勝手に手を出しちゃだめだからね。ねえ? ルビア」
三人同時に吹き出した。
あれ?
なにか見当違いなこと言ったかな、わたし。
あ、面白すぎたのかしら。
ならば、畳みかける。
「ナデナデしたり、抱きしめたり、ほっぺにちゅーしたりとかだよ?」
「もう黙っててくれませんか!?」
あ、あれ。
怒られた……
なぜかしら。
ていうかなんだよ、大きな声出せるじゃないか後輩……
というわけで、わたしたちはクエストを受けて狩場へと移動する。
例えば一昨日やった【手紙配達】などは、みんなで受けてみんなでNPCさんに渡せば、四人分のお仕事が一気に終わるみたいだったり。
クエストっていうのは基本的に、パーティーで行なったほうが、明らかに効率がいい。
一部のMMORPGでは『ボスの落とす宝を持って来い』みたいなクエストで、ボスがアイテムを落とすのが一回で一個だけ、というひどいものがあってだね……
つまりパーティーメンバー全員分を確保するために、何度も討伐を繰り返さなければならないものもあるんだけど……
……『666』がそうじゃないことを祈りたい。
あれ、ギクシャクの元だからね。めんどくさいし。
まあ、今から心配してても仕方ない。
「きょうはこれにしようぜ!」
なにやらシスくん、目をつけていたようだ。
その名も【オーク兵団駆除】。
詰所のおヒゲさん。もとい、ライエルン氏のところで受けられたことから、チュートリアルの発展クエストらしい。
しかしその難易度は、まさに桁違いのようだ。
【ステッピールド草原】に入り込んだオークの軍を返り討ちにしろ、という指令。
軍て。
いやムリでしょ。
しかし、わたしたちに拒否権などはない。
下っ端兵は辛いぜ!
外に出たところで、各々、アイテムバッグから武器を取り出す。
手ぶらだと、急にモンスターに絡まれたときに対処できないからねー。
わたしはエリーゼちゃん!
という名のブロンズダブルアックスです。
後輩はブロンズソードにブロンズシールド。
この子、こんななりで女騎士を目指しているそうです。
ルビアのくせに生意気である。
で、イオリオがカナン樹のスタッフ。
そしてシスの装備が……
「えっ、なんでシス、大斧装備しているの!」
「え?」
わたしのツッコミ。
彼は慌てた顔をする。
「いや、これは別に、い、言ったろ! 俺は全部の武器を使うんだってな!」
だったらなんで動揺をしているんだろう。
彼も戦斧の魅力にとりつかれたのかと思いきや。
そこでイオリオがぽつりと。
「まあ影響を受けたのは間違いないだろうけどな」
なるほど。
はやし立ててやろう。
「ぱーくりー、シスくんがぱくったー、せんせーに言ってやろー」
両手を口に当てるわたし。
小学生の帰りの会レベルである。
しかし、シスは顔を赤くする。
「よ、余計なこと言うんじゃねえイオリオ!
大体、武器を使うのにパクったもパクられたもあるかぁ!」
そのムキになった反応にわたしは笑ってしまう。
なんだこの子。
面白いぞ!
「ああ、先輩が新しいオモチャを見つけたような顔を……」
ぼそっとつぶやくルビア。
「ンなことよりも、だ!」
力づくで話をねじ曲げるシスくん。
なんという強引な子。
彼は武器を変えた。
と、その手の中に現れたのは、なんとわたしの大斧を凌ぐほどの長さの剣。
いわゆる、両手剣と呼ばれるシロモノだった。
なにこれシス△!
ライエルンコレクションの中にこんなのなかったけど!
「へっへー、すげーだろ。オークが落としたんだぜ。グレートソード!」
「うっわー、かっこいーかっこいー! あとでわたしにも持たせてよ!」
「おう! まだ実戦では使ってないけどな! 楽しみだ!」
「うっひょー! ベルセ○クだ! モン○ンだ! FFのクラ○ドだー!」
はしゃぐわたしとシス。
いやーステキだなあ、『666』。
コレ多分、美大の人とか遊んでたら、楽しくてならないだろーなー!
手を叩いて喜ぶ。
いや、気づいてはいるんですよ。
イオリオとルビアが、なんというか、こう。
生暖かい眼差しで、こちらを見守っているのはね?
『先輩、楽しそうですねぇ……』とか。
『シス、良かったな……』とか。
まあね、でもね!
でも、新武器ってロマンじゃん!
そういうものじゃん!
どんなゲームでも一番ワクワクするのって新しい武器を手に入れたときじゃん!
ふっふっふー。
早速一匹のオークを発見。
「ヒャッハー! 行くよー、シスー!」
「おうよー! 試し切りじゃー!」
意気揚々と、わたしとシスは突っ込んでゆく。
遅れてルビアとイオリオも戦闘に加わってくる。
最初の一打はシス。
「うおー!」
裂帛の気合とともに彼はグレートソードを振りかぶる。
だが。
そのままよろけて。
グレートソードが傾いて。
盾を構えたルビアの脳天に。
ゆっくりと。
ゴッツーン☆
「 ギ ャ ー ! ! 」
後輩の叫び声が草原に響き渡ったとさ。
……めでたしめでたし。
いやいや。
終わりません。
ていうか、先ほどからシスはずっとルビアに平謝りだ。
ま、パーティーアタックはできないから、ダメージはゼロだったけどね。
PvPするならパーティー外にいなきゃいけないし。
てか、薄々気づいていたことではあるんだけど。
【スキル】が足りていないと、派手な動きはできないみたい。
筋力や器用さなども行動には関わってはくるけれど、そこらへんの数値はなかなか伸びないからね。
手っ取り早くカッコイイことをしたいんだったら、やっぱりスキル値だ。
斧の振りや、立ち回りがどんどんと洗練されてゆく。
これね、かなりの快感ですよ。
ずーっとスキル上げをしていたいぐらい。
逆に、スキルもないのにカッコつけると、シスくんみたいなことになります。
変な態勢を取ると、腕とか肩とか傷めるぐらいだし。
バッドステータスもあるとかなんとか。
あ、オークはわたしとイオリオくんで始末しました。
戦斧スキルを順調に高めているからか、大斧が振り回し放題!
わたしの怪力にルビアがドン引きしてたけど気にしない。
ファンタジーだし!
ちっちゃい子がデッカイ武器を振り回すのって、ロマンがあるよね。
ウフフ。
ていうかそんなことを考えていると。
「もう俺、素手で戦うわ!」とかシスが言い出した。
いやあそこまで気にせんでも。
相手はルビアだし(ひどい)。
「まあ格闘家もかっこいいけどね」
フォローすると、シスが嬉しそうだ。
「だろ!? 素手でモンスターをぶっ飛ばすとかすげー!」
ホントになんでもいいんですねアナタ!
「おかしいな」
イオリオがメニューを眺めて、顎に手を当てる。
「クエストが更新されない。どうやら相手のオークはこいつらじゃないみたいだな」
あらあら。
どのオークでもいいってわけじゃないんだ。
ふーん。
「なら集団探さないとね」
言ってからわたしも気づく。
「となると、初めての多対多の戦闘になっちゃうのかな?」
イオリオもうなずいた。
「どうりでライエルンも“パーティーを組んでいけ”、って言っていたわけだ」
ほうほう。
グループバトルかー。
多少の戦術も必要みたいね。
あ、ちなみにネットゲームでよく言う“PT”は和製英語みたいなもんです。日本国内の人にしか通用しないから気をつけてねー。
洋ゲーでは大体、grpって言います。
このウェブログではパーティーで統一するけどね?
以上、ルルシィさんの豆知識でした。
話に戻りましょ。
わたしとイオリオは簡単な作戦会議を開くことにした。
(その間にシスが体術スキル上げをして、
ルビアも一緒になってオークをペチペチと剣で叩いていました)
「やっぱり、一番防御力高い人――“タンク”が敵軍を引きつけて、
それ以外の相手を各個撃破していくのがセオリーじゃないかな」
わたしが告げる。
すると、イオリオは少し驚いたような顔だ。
「ルルシさん、ネットゲームは結構やるのか?」
えっと。
頬をかく。
「まあボチボチね」
……うん、まあ。
小学生の頃からずっとネトゲにハマり続けて……
……早ウン年だなんて言えない。
「しかしだな、この中で一番防御が硬い人っていうのは……」
イオリオの視線。
それは自然と、シールド所持のルビアに向く。
敵の攻撃を一手に引き受ける役目は“タンク”と呼ばれている。
本来は戦車の意味である。
もっとも固いプレイヤーが敵の攻撃の全てを受け止めるのだ。
タンクが倒れてしまったら敵の狙いは散り散りになり、パーティーは危機に追い込まれてしまう。
一般のファンタジーならば、盾を持った重騎士が担うネットゲームの最重要職だ。
相応のプレイヤースキルも要求される上に、パーティーの精神的支柱ともなる存在である。
「うん、ルビアじゃまだ頼りないね……」
言いづらいであろうイオリオの代わりに、認める。
ていうかさ。
……シスくんが素手となった今さ、もう選択肢って残ってないんじゃないの?
イオリオも同じことを思ったようだ。
「メインタンクは決まりだな。ならサブタンクはシスにしよう」
まあ、イイケド……
「その代わりにイオリオくんはターゲッターね。次の敵を素早く指示してよ」
「それって普通は前衛がやるものだけどな」
イオリオくんは唸る。
しかしその表情は楽しそうだ。
「こんなことなら、クラウドコントロール(無力化)のひとつでも学んでおくべきだったな」
グループ同士のバトルでは、相手の数を減らすのが大事だ。
もし敵の一匹を、例えば“眠らせる”ことができたら、数的な有利を取ることができる。
イオリオの言っているクラウドコントロールとは、そういうことだ。
あらゆるMMORPGにおいて、メイジ職が担当する重要な役割のひとつだ。
タンク、ヌーカー&メレー。
そしてバッファー、デバッファー、ヒーラー、ヌーカーを兼任するキャスター。
これがあらゆるMMOにおける、基本的なパーティー構成だ。
ゲームによって詳細は違うけれど、これがスタンダードと考えてもらって間違いない。
わたしたちで表すなら。
ルルシィール:タンク
シス:メレー(通常攻撃で削るアタッカー)
イオリオ:キャスター
ルビア:……
なんだろう。
ルビアなんだろう。
なんなんだこの子。
なんのためにここにいるんだろう。
なにがしたいんだろうこの子。
……いやまあいいか。
彼女はまだニュービー(初心者)なんだ。
それに、いると可愛いし。
で、まあ。
本来なら各々の役割を一から説明しなきゃいけないとこだけど。
幸いにも、シスくんとイオリオくんはMMORPGの熟練者みたいだし。
それにルビアちゃんも、ゲームに対する知識は深い。
このパーティー、意外とみんな手馴れている。
というわけであとは細部を整えて簡単な作戦会議は終了です。
緊張してきたわたしに、イオリオがつぶやく。
「ま、どうもこの世界ではHPがゼロになっても、寺院に送られて【衰弱】になるだけらしいからな。
なんにでも挑戦してみようじゃないか」
え。
それなんか、今。
すっごい大事なこと言ったような気がする……
で、約四時間後。
腹ごしらえも済ましたわたしたちは、オーク小隊を高台の上から見下ろしていた。
敵の数は四匹。奇しくも同数です。
クエスト説明と外見的特徴も一致するから、まず間違いない。
わたしらも結構強くなったから、一対一ならまず負けない(ルビアを除く)けど。
気になるのは、敵に一匹魔術師が混ざっていること。
これもこっちと同じだねー。
「ま、見つけちまったんだからやるしかねーべ」
シスが拳と拳を打ちつける。
あら嬉しそう。
この子、やる気満々ね。
「開幕はルルシィさんからな。それと、まず狙うのは魔術師だ」
イオリオにわたしも同意。
なにをしてくるかわかったもんじゃないからね。
キャスターは最優先に潰さなきゃいけない。
こちらがクラウドコントロールを仕掛けたいように、あちらもクラウドコントロールをしてくる場合だってある。
それでわたしが眠らされたら、他の子たちが狙われちゃう。
緊張感がピリピリと肌を刺す。
「ルビア、大丈夫?」
わたしが気遣うと。
彼女はこわばった笑みを浮かべる。
「が、がんばりますぅ……」
うーん心配だ。
まあ、やめないけどね!(鬼)
だって、楽しいんだもん!
わたしは斧を抱えて斜面の端に足をかける。
「じゃあ、準備はいいね?」
皆を見回す。
いやー、みんな、いい顔しているね。
部活の引退がかかった夏の大会とか、こんな感じなのかな。
特に、つっついたら今にも泣き出しそうな後輩とか、最高!(外道)
ならばいざ、開戦っ!
「うおおおおおおおおおおお!」
わたしは叫びながらオークの集団に突っ込む。
この瞬間、たまらない。
普段よりも体が軽い気がする。
オークの目が次々とわたしを貫く。
“射手”がクロスボウを構えて、“魔術師”が杖を掲げた。
残りの“隊長格A”と“オークB”は突っ込んでくる。
よし、彼らの標的はわたしだ。
これでタンクの務めは果たした。
わたしは足を止めた。
射出されたボルトを冷静に避ける。
この間に三人はすでに回り込み、魔術師に強襲を仕掛けているはず――!
見やる。
シスの拳が魔術師の横っ面を殴りつけていた。
イオリオの放つ火炎が追撃する。
思わず杖を取り落とすキャスターのオーク。
なんらかの詠唱をストップさせた!
ここまでは全てが完璧。
さらに二の矢を避ける。
ウフフ止まって見えるわ。
高笑いしたくなるね。
あとはわたしが耐えている間に三人が各個撃破をしていけば……
ってアレレー?
二匹のオークがわたしの方に来ないゾー?
オークの隊長格がなにやら叫んでいた。
もしかして、あいつがターゲッターの役をしているのかしら?
気づく。
オークは出遅れていたルビアに。
総攻撃を仕掛けようとしていたじゃありませんか。
「ひいいいい!」
悲痛な叫びが響く。
わたしは猛然とダッシュした。
近接雑魚Bの腹に斧を叩きつける。
だが、オークは止まらない。
さらに、すでに隊長はルビアに斬りかかっていた。
シスが横から助っ人に入るも、それでも隊長はルビアを執拗に狙う。
「い~~や~~!!」
ルビアは必死に盾を構える。
彼女は逃げず、その場にとどまっていた。
あんなに弱虫なくせに。
いつも一も二もなく逃げ出すくせに。
一体どうして、って。
まさか。
誰かが助けてくれるのだと信じて?
で、多分それは、わたし?
なにこれ。
魔術師とイオリオが一対一で、あとはルビアが強制タンク状態じゃない。
わたしは思わず叫んだ。
完全にプッツン状態だった。
「ル ビ ア に 触 れ る ん だ っ た ら 、
わ た し に 許 可 取 れ っ つ っ て ん だ ろ ー が ! ! 」
そのときだ。
青い光がオークたちを包み込んだのは。
直後、隊長が向きを変えて一心不乱にわたしに向かってくる。
アレ今わたし何したの?