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ルルシィ・ズ・ウェブログ  作者: イサギの人
第四章 還魂のレッドドラゴン編
46/60

◆◆ 30日目 ◆◆卍 その4

 

 あんな指令を受けて自ら殴りに来るやつは、よっぽどの自信家か本物のバカだと思う。


 ちなみに前衛は現在9名。本物のバカは大斧の《テンペスト》で一掃されたので、今残っているのはよっぽどの自信家+巻き込まれたわたしです。退避したい。

 ブリガンダイン硬ぇー。

《外套》スキルも防御関係スキルも大して育ってないくせに、わたしってば重装備騎士並に硬くなっちゃってまあ。


 これがモモちゃんのわたしへの愛。

 愛が硬い。



 四本腕のミノタウロスとのバトル開始から30分ほど経っただろうか。

 タンク部隊のメインタンクを担っているのは、我らが<キングダム>のリーダーさま、レスター。

 体を半分覆い隠すほどの大盾を構え、裂帛の気合とともに巨人獣と対峙しております。

 この人のメインタンク姿って初めて見たけど、やっぱりやるぅ。


「来いや、もっと来いやオラァ!」


 レスターはリチャージごとに《タウント》し、砦をも叩き潰すようなミノタウロスの斧撃を受け止める。

 彼が左腕に握っているのはジャベリン(投擲槍)。隙を見ては投げつけて、ヘイト(敵対心)を稼ぎ続けています。

 完全にデカブツ相手との戦いを想定したその戦法は、鮮やかなもの。


 そっかー、ジャベリンっていう手があったなー。

 あれいいなー。大物の弱点ウィークポイントに直接攻撃できるし、投げる必要がないときは片手槍としても使えるし。

 すでにミノタウロスの頭部は針ネズミと化しています。

 所持重量と運用資金の問題さえ解決したら、いい戦法だ。

 両方の観点からわたしにはできないけれど……!

 

 ミノさんは大斧を振り切る。

 目の前を電車が通過したような音がして、わたしは思わず仰け反った。

 あっぶな。ちょっとヘイト稼ぎすぎた。

 顔面に《爪王牙》を当てたら、さすがにこっち振り向いちゃうな。


「ルルシィール! そのままアゲとけ!」


 マジっすか。

 命令っすかそれ。ヤベーっすね。

 やるしかないか……


「こ、こっちこーいやーい! 斧とかイマドキはやんねーんだよー!」


 控えめな《タウント》。ぎょろりとした目玉で睨まれる。こ、こわ!

 ブン回される大斧を、態勢を低くして避ける。ここで反撃にいくと死ねます。なぜなら両肩から生えた腕がそのままパンチを浴びせてくるから。

 さらに二本の腕を避けた後、ようやくカウンター。すねに斬りかかります。


「タンクしながら反撃もするとか、おかしなことやってんなあ!」


 シスくんが某無双ゲーのようにハルバードを振り回しながら叫びます。

 そんな彼は立派なダメージソース。全軍の中でもミノタウロスの大斧と正面から打ち合って見劣りしないのは彼ぐらいじゃないかな。

 いや、他にもいた。ていうか目の前にいた。

 レスターが大盾から持ち替えて構えた大剣。

 なにそれ、ドラゴンバスター?

 刃の部分が二メートルほどあり、しかも柱のように分厚い。竜をも叩き殺せそうです。こんなの持ち上げられるの? STR足りるの?

 大剣ってよりは、超大剣だ。


 って見とれてたらミノタウロスのパンチを食らっちゃいました。てへり。

 壁まで叩き飛ばされて、HPの半分が削られる。

 うわーちょーいてー。クリティカルヒットしているし。

 慌てて《ヒール》が飛んできます。すみませんすみません。


「投射部隊、今です。てーっ!」


 そこでドリエさんが腕を掲げました。

 全弾発射。矢が空を飛び、魔術団が次々と火魔術を仕掛ける。矢はミノタウロスの表皮を突き破り、火炎弾はその肌を砕いてゆく。爆音が広場を真っ赤に照らした。花火大会開催中。

 ミノタウロスの態勢が崩れました。ここぞとばかりに投射部隊の勢いが増します。


「俺たちも負けてらんねーなー! 《フルスイング》!」


 思いっきり遠心力を乗せたシスくんのハルバードが、ミノタウロスの側頭部に突き刺さります。ポップしたダメージ値は、相当なもの。さらにモンスターの体が傾ぐ。

 わたしはというと、投射攻撃の弾幕の熱量に到底近づけません。迂闊に踏み込むと、ダメージは食らわないけど、味方の邪魔になっちゃう。こういうときポールウェポンって便利ねー。


 申し訳程度に風術で援護をしていると、ようやくミノタウロスが起き上がりました。狙いは完全に投射部隊。

 このまま押し切るつもりだ。ドリエさんは一歩も引かずに魔術を連打して、さらにミノタウロスが一歩足を進める。

 で、レスターが動いた。


「《インパクト》」


 その威力、まさに竜殺ゲオルギウス

 タメ時間に比例して威力が高まってゆく大剣スキル《インパクト》の、恐らくはMAXチャージだ。超大剣はミノタウロスの脳天からその股下までを一撃で両断する。

 残りわずかだったボスのHPは、その瞬間蒸発した。


 う、うはあ。

 光の粒となって消えてゆくミノタウロスの向こうで、レスターは地面に剣を叩きつけた態勢のままゆっくりと片腕で額を拭います。


「ふう……」


 気だるげに息を吐く。

 か、かっこいいじゃないのこの人……

 あまりにも重すぎてまともに運用できない攻撃力だけのバカ武器を、スキル専用装備として使うことによって、ボス戦の切り札にするなんて。

 大盾&大剣。それが本来のレスターの戦闘スタイルなのか……

 ホント、レッドドラゴン討伐以外なにも考えてない。

 すごい。



「アイテムドロップはなしか。しけてやがんな」


 大剣をしまい込んだレスターはいつもの調子に戻っていた。


「ていうか、キミのほうが一兵卒として似合っているんじゃない?」


 刀を鞘に収めたわたしは、レスターの肩をぽーんと叩く。

 すると彼はわたしを無視するような形で、急いで軍団の状況確認に走った。

 はー、レガトゥスさまはお忙しいですなあ。

 わたしは小規模のギルドを統括するので精一杯。


「先輩平気でしたぁ?」

「うん、平気よ。モモちゃんの作ってくれた防具のおかげでね」


 やってきたルビアに微笑む。

 ルビアはウンウンとうなずき。


「あの子もできるようになりましたからね。あたしの教えが良かったのもそうですが、成長したものですぅ……」

「いや初対面の時点でうちの誰よりもクラフトスキル高かったと思うけど」


 指摘するも聞いてなし。

<ウェブログ>のメンバーが集まってくる。

 シスとイオリオはふたりでログを確認して、ダメージ値を競い合ったり、「なるほど、攻撃を当てる部位によって大きくダメージが違うな……」とか相談している。

 向上心があるっていいことだね。


 ルビアの頭を撫でくりまわしていたところでよっちゃんが来たので、すかさずターゲット変更ルビアぽいっ


「あーれー」


 地面を転がりさめざめと泣くルビア。完全に演技です。しかも本人楽しそう。


 代わりに、よっちゃんをぎゅーっと抱きしめます。


「!?」

 おお、良いリアクション。

 そろそろカワイコのエキスを吸収しないとね。


「お、お師匠様……?」


 はー、いいなあこの子。

 なんかわたしの琴線にビンビン触れるのよね……

 登用したいなあ。

 なんとかならないものか。

 直接交渉とか?


「はー、よっちゃん……」

「っ!?」


 耳元にささやく。

 ヨギリお嬢様の体がびくりと震えた。

 わたしは彼女の頬を薄く指で撫でる。


「よっちゃんが欲しい……」

「ふぇあああああ!?(*ノェノ)」


 叫び、手をバタバタと動かす。全然忍んでないシノビである。

 彼女を離さないように強く抱きしめる。

 芝居がかった口調で、脳髄の裏をくすぐるように。


「わたし、どうしてもヨギリがほしいんだ……ねえ、いいでしょう、ヨギリ……ねえ」

「ちょ、ふぇあ!? こん、その、ふぇあああ!? ご、ござるぅ!?」


 ふぅ~~っと吐息を吹きかけるとさらに抵抗が強くなった。

 STRちからづくで拘束し、さらに今度は耳をアマガミする。ヨギリはかわいいなあ! ヨギリはかわいいなあ!!

 おお、よっちゃんがくてんと力を抜いた。

 それならここぞとばかりにラッシュを……とか思っていたところでルビアによっちゃんを奪われた。


「先輩……いい加減にしてくださぃ……」

「あっ、それわたしの!」


 息を荒げてなんかすごいセクシーな感じのよっちゃんに手を伸ばすものの、ルビアにパシッと叩かれてしまう。


「ちーがーいーますぅ! こんなところで発情しないでくださぃこのバカマスター! あたしの海よりも広い心もここらが我慢の限界ですよぉ!」

「一日一回可愛い子を抱きしめないとモチベーションを保てないんだよ!」

「そんなの知りませんよ! バカマスター! 慎みどこに忘れてきちゃったんですか!」


 キャンキャンと鳴く小型犬のようなルビア。

 ルビアちゃんの怒り顔とかふくれっ面は、結構絵になるものがあります。

 それはいいとして。

 あっ、なんでよっちゃんルビアの後ろに隠れちゃうの。

 み、耳はダメだったの!? 

 しまった。やりすぎた。あまりのかわいさに、我を見失ってしまった結果だ。

 ……わたし、淑女失格ね……


 と、反省している間に休憩は終了していたようだ。

 早く行くぞー、とシスに声をかけられた。

 弱々しくよっちゃんに手を伸ばすも。


「く、くノ一の技、み、見事……でござるっ」


 涙目で走り去られた。

 よっちゃん勧誘計画失敗……!

 あ、ああー待ってー!



 くっ。

 こうして戦士は悲しみを乗り越えて強くなってゆくのだ……

 はいはい、茶番はこれぐらいにして。

 どんどん巻きでいきますよ。

 安定のボスラッシュ開始ですよ。

 扉に次ぐ扉。番人に次ぐ番人。クデュリュザの封印を守るためか、あるいはクデュリュザの眠りを守るためか。

 わたしたちの前には、中ボスが次々と現れました。


 二番手は四匹の翼持つ大蛇。

 わたし&シス、レスター、ベルガーさん、それに他ギルドの二名で引きつけたものの、他ギルドのケツァルコアトルが暴れてしまい、後衛含めた7名がブレスに焼かれて戦闘不能。不幸な事故でした。残り158名。


 三番手にサソリのような八本の毒針を生やした獅子。

 八人同時に攻撃する能力(猛毒付与)を持つマンティコアに対し、我々は一時撤退。

 とてもじゃないけれど回復が持たなかったの。

 幸い、ナイトゴーレム同様に広場の外までは追って来なかったため、わたしたちは死傷者ゼロで立て直しを図ることができた。

 さーてどうすっかなー。ってみんなが作戦を練っていたところ。

 鬼才レスターは、なんとふたりタンク作戦を提案。


「八人同時に攻撃してくるんだったら、ふたりでタンクをすれば回復の手間は四分の一で済むだろ」とおっしゃいました。


 ま、まあね。そのタンクが崩れなかったらね。


 担当のひとりはレスター。

 ならば、もうひとりは重騎士のベルガーさんか、<シュメール>メインタンクのブネさんがやるのかな、なんて思ってたけど。


「頼むぞルルシィール」


 はい、生贄はわたしでした。

 う、うそでしょう……


 理由はズバリ攻撃力と防御力の割合。

 ふたりタンク態勢で迎え撃つと、どう考えても稼げるヘイトに限界がある。

 というのは、ヘイトというものは、常に減少してゆくものなのだ。

 特にモンスターから殴られた場合。殴ったモンスターは“スッキリ”してしまうので、その分多くのヘイトが霧散してしまう。

 そのため、ダメージを受ける機会が多ければ多いほど、よりたくさんのヘイトを稼がなきゃいけなくなる。ふたりタンクの場合、これがネックになる。


 回復や投射部隊以上のヘイトを、ふたりで稼ぎ続けるのは難しい。重騎士二名ならなおさらだ。

 なのでレスターの作戦では、わたしが直接攻撃に徹し、なおかつ回避行動を取って攻撃を食らわないことでヘイトを高め続け、そうしてレスターが背後から超大剣をお見舞いしてターゲットを奪い、ふたりでヘイトを稼ごう、って。


 それなんて無理ゲー?(シスくんの真似)


『回避行動を取って攻撃を食らわないことでヘイトを高め続け』ってキミ。

 どんな理想論なのそれ。

 ていうか大体、それができるんだったらわたしソロで勝てるんですけどねえ!?

 だから。

 ぐったりとため息をつきました。


「……死んでも知らないからね。わたしが」

「まあ大丈夫だろ。お前ならいける」


 軽い、軽すぎる。

 わたしの命の重さ、きっと約2グラム。

 こうして、投射部隊45名、ヒーラー15名、タンク2名、交代要員13名の驚くべき布陣での戦闘が始まりました。

 

 ナイトゴーレムに叩き込んだDoT(継続ダメージ)並の猛毒を食らい続けながら、大量のbuffと《クッション・ヒール》、《マックス・リバイブ》を浴び続けて。

 必死に必死に必死に、文字通り八方から迫るマンティコアの毒針をさばき続けて。

 爪をブレスを、飛びかかってくるボディプレスを避けて。

 何度サクリファイスと叫ぶところだったか。


 戦いは長時間に渡った。


 辺りは魔術と矢が飛び交い、わたしとレスターの《タウント》の声が響く。

 永遠に続くかという闘争だったが。

 それでも先に地に伏したのは、猛獣のほうだった。

 戦い終わり、わたしはよっちゃんに抱きつくこともなくその場にふらっと倒れそうになった。

 集中力を使い過ぎて。


 イオリオがわたしの体を支えてくれる。


「よくやった、マスター」

「へへへ……」


 減らず口も叩けず、彼に体重を預ける。

 さすがにしんどかったのか、レスターもまた地面に腰を下ろして肩を回していた。

 わたしも寝っ転がりたいくらい。


「でも、まあ……割と楽しかったよ……」


 精一杯の強がりをはいて笑うわたしを、イオリオはなんだか慈しむような目で眺めていました。

 そ、そんなに痛い子かな、わたし。

 


 で、ようやく中ボス戦を死傷者ゼロに押さえて戦って。

 四番手のボス。

 門の前に立っていたのは、単眼の獣だった。

 翼が生えて、出来損ないの竜のようにも見える。なにをしてくるのかますます不明。

 先ほどの戦いが戦いだったので、今度はレスターと<ウェブログ>は待機部隊に回っております。すごろくで言う、一回休みだね。

 どーれ、ベルガーさんの戦いっぷりを見物していようかなあ、って。

 広場の外から見物しているところ。


 魔獣の眼が輝いた次の瞬間だ。


 戦闘で親衛隊を率いていたベルガーさんの体が、ぐらっと揺れて。

 そのまま前のめりに地面に倒れて、動かなくなった。


 え?

 なにが、起きたの?

 呆然とするわたし。

 だがレスターの行動は迅速だった。


「戻れええええええええー!!」

 

 レスターが叫ぶ。だがそれすらも既に遅かったのだ。

 光を浴びたタンク部隊は次々と倒れてゆく。

 まるで未知の疫病に侵されたかのように。

 彼らはその場から一歩、二歩動いた直後、やはり同じように崩れ落ちてゆく。

 そして、15名は誰ひとり再び動くことはなかった。

 

 戦闘開始から、10秒以内の出来事だった。

 


 残“レッドドラゴン討伐部隊”142名。

 この時点で人数は、すでに突入時の三分の二まで減っていたのだった。

 

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