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ルルシィ・ズ・ウェブログ  作者: イサギの人
第四章 還魂のレッドドラゴン編
44/60

◆◆ 30日目 ◆◆卍 その2

 

 今回の相手は、まったくの初見というわけではない。


 円形状の広場を前に、選出された戦闘班はそれぞれbuff(強化術)や装備のカスタマイズなどを行ない、準備を整えていた。

 右に四匹、左に四匹。わたしたち五人が担当するのは、左から二番目のナイトゴーレム。


 15x7+5x1ということで、この広場に110名もの冒険者が突入することになる。

 もしナイトゴーレムが爪王ザガみたいに範囲攻撃持ちだったら、広場は阿鼻叫喚の地獄と化すだろう。


 ま、前回はどうも単体攻撃だけだったし?

 でももし、HPが減ったら攻撃パターンが変わるタイプだったら……

 寺院が大繁盛するな……

 うん、まあ。

 レスターだったらきっとなんとかしてくれるでしょう。


 はー、気持ちが高ぶってきた。

 陣形を整えて突撃する騎馬隊は、こんな感じだったのかな、なんて。

 斧を握り締める手にも力が入るってもんさ。


「頼んだぜ、お前ら」


 今回、レスターは後続に控えております。

 レスター怖気づいたり! ……というわけではありません。

 理由は3つ。


①大混戦が予想される今回の戦いでは立ち位置も重要なポイントになってくるため、俯瞰で広場を観察し、調整する指揮者が必要なこと。


②それぞれのファランクスに欠員が出るたびに、後続部隊から補充要員をあてがう役割が必要なこと――それもタンクがやられたらタンク。ヒーラーがやられたらヒーラーと、瞬時に正しい判断を行える人物じゃないとダメ。


③それでも補充が間に合わずファランクスが壊滅状態に陥ってしまった際の保険として。

 

 今回の討伐隊の全員を把握しているのってレスターとあと<キングダム>の何人かぐらいしかいないからね。

 その代わり、ドリエさんが<キングダム>の戦闘部隊に編入されています。

 狭いところだから、あんまり威力の高い魔術は唱えられなさそうだけどね。


「がんばろうね、ドリエさん」


 ウキウキ気分で肩を叩くと、彼女はびくっと体を震わせました。

 あ、あれ。


「……はい、誠心誠意尽くしてやらせていただきます」

「ドリエさんひょっとして緊張している?」


 エルフのおキレイな顔が、いつもより怖い怖い。 


「……お恥ずかしながら」


 そうだったんだ。

 いつもあんまり表情が変わらないからわからなかった。


「大丈夫大丈夫、うまくいくって」


 軽い言葉で励ましてみると、「はあ」と生返事をもらった。

 ほら、こっちなんて五人しかいないけど、シスリオルビアとか、現実世界に帰ったらまずなにを食べたいか、とかの話をしているよ。

 キミたちはちょっとは緊張感を持ちなさい。

 わたしはエクレア! たっぷりチョコレートをかけた甘ぁ~~~いの!


 そんなことを言っていると、レスターが突入のカウントダウンを始めた。

 いかんいかん、元の位置に戻らなきゃ。

 最初はシスの《タウント》からだ。

 いつもの<ウェブログ>の黄金パターンね。


「ルルシィールさま」


 と、ドリエさんに呼び止められて。

 ゆっくりと頭を下げられた。


「ご成功をお祈りいたします」

「そっちもね」


 ドリエさんに拳を突き上げて、戸惑う彼女の手の甲にコツンと合わせる。

 なんとなくこっちのほうが冒険者らしいかな、って。

 ドリエさんはちょっと首を傾げていたけれど。

 すぐに手の甲を撫でながら、ふんわりと微笑んでくれた。あらやだかわいい。

 


 わたしがボコボコにされたナイトゴーレムも、五対一なら良い戦いができる!

 そんな風に思っていた時期が、わたしにもありました。

 ナイトゴーレムは本当の強敵だった。

 HPはそんなに多くないみたいだけれど、なによりも硬い。で、一撃の破壊力が異常だ。


「ひいいいいぃ!」


 絹を裂くような悲鳴が飛び出しました。

 今回のタンクは引き続きルビア。盾でがっちり防ぎながらも、その上からとんでもないダメージを食らい続けています。

 でもシスとわたしがタンクするよりは全然マシ。だってわたしたち、防具で相当硬くなったとはいえ、0か超絶ダメージかのどっちかだからね……

 ホントにヒーラーに優しくない。


 しかし、物理攻撃が効きづらいゴーレム相手にイオリオが回復に専念する状況は、なるべく避けたかった事態だ。


「大丈夫だ! 守っていればきっと倒せる!」


 その不安を感じ取ったのか、珍しくイオリオが檄を飛ばす。


「ルビアさん! ふたりでとにかく《ヒール》だ! シス、マスター、耐えてくれ!」


 お、0か超絶ダメージかのわたしたちで頑張れってことですね。

 よっし、やったろうじゃないの。


「シスくん、あれ言おうよあれ」

「あぁーん?」


 ナイトゴーレムの振り回しパンチを避けながら、その横っ腹を斧で薙ぐ。


「『この戦争が終わったら、俺結婚するんだ』とかそういうの」

「フラグじゃねえか!」


 シスくんが思いっきりスレッジハンマーを振りかぶり、渾身の力で叩きつける。ゴーレムに負けてないぐらいの威力だが、それはちょっと隙が多すぎる。案の定、ゴーレムに反撃を食らっちゃう。

 はー、お互い水薬がぐいぐい減ってゆく。


 せめて【一期一振】が使えたらなあ。

 本来はわたしがぶちころがさないといけない相手なのに……!

 わたしとよっちゃんが頼りないから、やっぱりシスくんが頑張るしかなくて、それで余計な反撃を食らって回復が飛び交うっていう悪い流れだ。

 風術も効き目が悪いしなあ!


 シスくんがブン殴られようとしていたそのとき、イオリオの《ターン・オア・ターン》が決まってゴーレムの攻撃は空を切る。

 うわー、ひやっとした。


「サンキュー!」


 わたしとシスとよっちゃんの攻撃スキルが同時に炸裂する……も、ゴーレムのHPはちょっぴり減っただけ。

 う、うざってぇ……!

 思わず【犠牲】を使いたくなってくるけど、なるべくならここで【ギフト】は温存しておきたい……

 でもそろそろブチキレそう。


 ぷっつん寸前に、medi(MP回復)中のイオリオがなにかに気づいた。


「そうか、水と風か」


 わたしとルビアを交互に見ている。

 な、なにかしら。


「雷の魔術だ!」


 それって魔術習いたての頃にイオリオが言っていた、水と風の複合魔術ってやつ?

 ああ、確かにこのナイトゴーレムにはメッチャ効きそう。

 全身鋼鉄の塊だし。

 もしかしたら一瞬で倒せるかも!?


「だが……」


 イオリオは躊躇していた。

 そりゃそうだ。効かなかったらMPの浪費だもの。

 こんな重大な場面で賭けるのは、効率厨のイオリオにはちょっと耐えられないかもしれない。


 でもさー、このまま戦ってたってじり貧だよ?

 ここで水薬使いきっちゃったら、これから先全然ダメでしょ。

 やるだけの価値はあるって、わたしは思うからさ。

 だから叫ぶ。


「シスくん、よっちゃん、全力でヘイト(敵対心)を高め続けるよ! ルビアはMP回復の水薬をいくら使ってもいいから、わたしたちのこと守ってね!」

「おう!」

「はぁ~い」


 シスくんの気合の入った叫びと、ルビアの脳天気な返事。さらに《シャープ》(※29日目その1参照)を途切れさせないように喋れないよっちゃんも、指でOKサインを出していた。

 これでもう、イオリオも覚悟を決めるしかない。


「……いいのか」


 杖を握りしめるイオリオ。

 その眼鏡の奥の目に、ウィンクを飛ばす。


「いざとなったら【ギフト】使えばいいだけでしょ。責任を取るのはマスターわたしの仕事ってね」

「わかった」


 決断は早かった。

 さすがシスの親友。

 叫び声が飛び交う広場にて、イオリオの詠唱が朗々と響いたような気がした。

 彼の周囲が青紫色に輝いてゆく。


「インドラ(稲妻よ)・リベラ(残留し)・バイド(わだかまれ)・エルス(標的に)!」


 イオリオの手を離れた魔力はゴーレムに付着し、次の瞬間爆発するように火花を散らした。

 やば、離れないと。

 飛び退くと同時に、最後の呪言が発動する。


「《ライトニング・ソーン》!」


 回転するグラインダーにレンガを無理矢理押しつけたような切削音じみた響き。思わず耳を塞ぎたくなる。ゴーレムの体は青白いいばらに囚われたようだった。

 それはまるで毒のようなDoT(継続ダメージ)を与える魔術だ。

 一瞬の派手さには欠けるものの、その累計ダメージはDD(直接ダメージ)系魔術を凌駕することが多い。コンシューマーゲームではあまりピックアップされることはないが、本来は極めて強力な攻撃魔術だ。


 っていうかナイトゴーレムのHPはみるみるうちに減ってゆく!

 やっぱり、これが弱点だったんだな、って……

 ナイトゴーレムはイオリオにまっしぐらに向かってゆく!


「ちょ、ちょっと、こっち来なさいよ! ばかー!」


 わたしの《タウント》で引き寄せる。が、DoTのダメージによりゴーレムは再びイオリオへ。


「行かせるかよ! オラァ!」


 シスくんの《タウント》+攻撃スキル《ヘヴィプレス》が決まった。今度こそゴーレムはシスくんが固定したと思ったが……


「《サンダーボルト》!」


 イオリオの破壊魔術で、ゴーレムは再び彼に目標を変更する。

 もっとも低級な雷魔術ですら、シスくんのスレッジハンマーを軽く凌駕するダメージ量だ。

 これだから魔術師ってやつは……!


「うおおおお! 《テンペスト》ぉ!」


 恐らくはHP調節だったのだろう。イオリオは最後の魔術の詠唱に入っている。次で決めるつもりだ。

 わたしの《ウォークライ》+《テンペスト》も、ゴーレムを振り向かせることはできなかった。


 ゴーレムはイオリオに向かって走る。その柱のような腕で殴られれば、イオリオは二撃か――あるいは攻撃スキルにクリティカルが出てしまったら、一撃で絶命だ。


「《クッション・ヒール》ですぅ!」


 わたしとシスくんの傷を放置して、ルビアがダメージ量吸収の水魔術をイオリオに唱える。焼け石に水かもしれないが、正しい判断だ。


「させっかよお!」


 シスくんが苦し紛れに《チャージ》を仕掛けるが、巨大なゴーレムは微動だにしない。

 くそう。

 ここまでだとは思わなかった。

 イオリオは状況も見ずにターゲットのHPを減らして、窮地を招くような人ではない。

 イオリオが想定した以上に、ナイトゴーレム戦におけるわたしたち前衛のヘイトコントロール能力は、脆弱だったのだ。


 だめだ。

 これもう無理。

 ゴーレムは腕を振りかぶって、渾身の力でイオリオを叩き潰そうとしている。

 やるしかない。

 地端地突入前だろうが、ここでイオリオを失うよりはずっとマシだ。


「サクリ――」


 叫ぼうとして。

 わたしとシスの間を駆け抜けた影があった。



「《デスモーヘクス》!」


 ヨギリの短剣がナイトゴーレムの足の腱をえぐる。

 クリティカルとともに発生したRoot(足止め)効果はレジストされ、効力を及ぼさない――が。

 同時に発動した“スタン”は、ゴーレムの動きを一瞬停止させることに成功していた。

 その刹那が、分水嶺。

 動いたのは、イオリオ。


「インドラ(稲妻よ)・テラグランデア(隆隆と)・エルス(標的に)!」


 イオリオの杖がゴーレムの体に触れて。


「《パープル・ランス》!」


 紫電を放つ。

 光が広場に瞬いた。


 電荷は蛇のようにナイトゴーレムの体を食い破ってゆく。

 徐々にナイトゴーレムの動きは鈍くなり、その拳もまた、イオリオの直前で停止し――

 そしてついに、甲高い音を立てて砕け散った!


「やった!」


 思わずガッツポーズ。歓声をあげちゃう。


 っていうかわたし、なんにもしてなかったな……

 かなり屈辱的な戦いだった……

 けどまあ、勝ったからよし!


「やりましたぁ! 先輩ぃ!」


 ルビアと抱き合って勝利を喜び合い――


「まだ終わってないって」


 シスくんに告げられて、ハッと気づきました。

 周辺を見回すと、まだナイトゴーレムは六匹残っています。

 おっと、一段落している場合じゃない。

 ヘルプに向かわなきゃね!

 


 イオリオの活躍でナイトゴーレムを見事撃破したわたしたちは、サポートに走る。

 残るナイトゴーレムは六匹、<キングダム>の精鋭さんたちが一匹仕留めたものの、まだまだ予断を許さない状況です。っていうか結構な人たちがやられたみたい。

 でもでもこっから人間さんの逆転開始だぜー。


“雷魔術”は水と風の複合魔術だ。そのふたつの魔術を鍛えている人は討伐部隊の中にももちろん何人かいる。

 けれど問題は触媒だった。

 雷魔術の触媒は金属、貴金属。ようするに、電気を通しやすいアレコレです。

 イオリオは土属性の触媒として使っていた【鉄粉】や【銅板】を触媒として使っていたみたいだけれど、水と風の魔術に加えて、土の触媒まで持っている人となると、さすがに数人しかいなかった。


<キングダム>魔術団もメインは火魔術らしいしねー。

 手っ取り早く強くなるなら、なんでもかんでも特化するのが一番。だけど今回に限っては四色魔術師イオリオの存在が功を奏したってところかな。

 人と違ったプレイスタイルをすると、こういうところで結果が現れるっていうのは面白いよね。

 いや、<ウェブログ>ってなんかみんなそんな人ばっかりだけど……

 とゆーわけで、イオリオ無双の始まりです。


 MPを回復したイオリオは、単体で雷魔術を繰り出しながら広場を駆け回り、ワンマンアーミーさながらのとてつもない戦果をあげていた。

 足りない触媒は、広場に落ちたナイトゴーレムの破片を使ったりしてね。


 もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな。

 あ、多分これ異名つくね。

 フフフ、『青き稲妻』とか……フフフ……広めちゃおうかな。


 

 無事、八体の撃破を完了し――

 わたしたちは広場を制圧しました。

 各々のギルドはインペリアルを再編しています。


「何人死んじゃったんだろう」

「ざっと、24名だな」


 そばにきたレスターがぽつりと言います。


「うわ、結構な被害じゃないの」


 213ー24ってことは、残り189名か。


「あんまり言いふらすなよ。士気に響く」

「でもみんな楽しそうだけど」


 周りを見渡すと、勝った人たちは大喜びしています。


「今はな。一時の勝利と達成感に浸っている間は、そりゃ楽しいさ。苦境に陥ってからが辛ぇんだ。『無理かも』って思っちまったら後は転がり落ちるだけよ」

「そういうものかなあ」


 ま、わたしとレスターは立場が違うしね。

 レスターが慎重になるのは当然。

 でも人間ってしぶといものよ。

 大好きなゲームの世界での冒険となれば、なおさらね。

 

 さ、イオリオとドリエさんが固く閉じられた大扉の前に並びます。

 ここまで来て開かなかったらルビアの「てへぺろー☆」じゃ許されないからね。

 下着くらい見せてやらないといけないかもしれない。

 いや、でもそれで喜ぶのはロリコンだけか……

 ならいちご柄とか、しましまとか、そういうよりあざといのがいいな。

 いや、きっとルビアなら言われなくてもあざといのを履いているはず。

 あとで確認しておこうかしら……


 みんなが緊張の面持ちで扉を見つめているのに、わたしは端っこに座ってものすごくどうでもいいことを日記に書いていたりします。

 ルルシさん、協調性スキルをどこに置いてきたのか。


「わー」


 かたやルビアなどは、わたしの隣に座って手を叩いています。

 完全にお祭り気分だ。

 あ、でもシスくんも戦闘のログを確認してダメージ値とかを見比べて「くそっ、DPSでトップになれねえ……!」とか悔しそうにしていたり。

 よっちゃんはひたすら《隠密》のスキル上げしているし。

 なんだこの集団……

 まあ、慣れたネトゲプレイヤーなんてこんなもんだよ(偏見)。


 おっと、始まるぞ。

 ふたりのエルフは顔を見合わせて、高らかに魔法のような台詞を、唄い上げます。


『――アド・エメラルダ・リュネー・ノルパルフラ・イニデ・ベラノエル』


 次の瞬間だ。

 長い間開かれることのなかったコケの生えた扉は、轟音を立てて開いていくではありませんか。

 オー、ファンタスティック!

 あちこちから歓声が湧きました。

 扉の奥は一切光のない漆黒の世界だった。そこに飛び込むのはちょっと勇気が要りそう。


 イオリオが一仕事終えたような顔で戻ってきます。

 いやあおつかれおつかれ。

 しかしあの言葉は一体なんだったんだろう。

 あれ、アドさんって聞いたことがあるな。

 そうだ。『骸の干戈エインフェリア・アド』は、わたしが誓約を結んだ神の名じゃん!

 他にもリュネーは確か、メタモルポセスの二つ名を持っていた神だったような……

 そっか、つまり今の六つの言葉は……


 考え事をしているイオリオの肩をちょんちょんとつつく。


「ねえねえ、イオリオ」

「ん?」

「ちなみに今のって、クデュリュザを封印した神様たちの名前?」

「そうだ。五柱までは子供でも知っているが、最後のひとりがなかなか見つけ出せずにいてな。本来はずっと先のクエストでようやく判明するものだったのだろう。ヴァンフォーレストの書物では限界があったので、ダグリアや他の都市にいたものたちにも協力してもらった」

「それって……えっと」


 六種類のギフトを思い出す。自己強化、使役、変身、守護、付与、そして最後のひとつは……確か、【魔道】。

 その名の通り、今は滅び去った“魔法”に関するギフトだけど、なんか効果がイマイチらしいと聞いている。

 独自の《BP》という値を消費して、使うことができる魔術のようなもので……なんか、うん、詳しくは知らないけど、外れギフトって評判が高い。

 それが、ベラノエルっていう神様のものなんだ。


「ベラノエルはクデュリュザを封じ込めたが、他の五柱の神とも反りが合わなかったのさ。だから記録から抹消されていた。その名前を突き止めるのは苦労したさ」

「へー……」

「正直、最後の決め手は推察だな。魔術に縁のある神だと言われていたから、恐らくは“エルス”に近い言葉がどこかに入っているだろうと思い……」


 お、長くなりそうな気配がするぞ。


「さ、あとは帰ってからにしましょう、イオリオさま」


 そこでドリエさんに言葉を遮られて、イオリオは「む」とうなる。

 見たら、レスターの号令でギルドは整列しているではありませんか。

 わたしたちも並ばなくっちゃ。

 そういえばこのエルフふたりって、先週辺りからずっと一緒にいるけど……なんだろう、ウマが合うのかしら。

 それとも目的のために協力しているだけなのかな。


 一団の隅っこに立ったわたしは、小声でイオリオに問いかける。


「ねえねえ、イオリオくん。ひょっとしてキミって……ただの年上好きだったりする?」

「断固そういった事実は存在していない」


 きっぱり。

 竹を割るように断言されてしまった。

 なんかもう、追求するな、ぐらいの圧力を感じる。

 でも、その横に立っていたシスが「あー」となにかに気づいたような声。


「確かにお前、年上好きだよなー」


 なんという勇者シス。

 イオリオは咳払いし、静かに告げる。


「……結果的に年上が多かっただけだ」


 うん、でもなんかね。

 ムキになった時点でね……


「違う、年下にはどう接していいのかわからないだけだ。人格的に成熟していない人と話すのは、僕は苦手なんだ。だからいつも年上になってしまうんだよ」


 さ、はい、突入突入。



“地端地”については、イオリオほど知っているわけじゃないけれど、それなりにイメージというものはありました。

 魔界っぽかったり、地獄みたいだったり。


 だけど、わたしたちの前に広がる空間はまるでワイヤーフレームの3Dダンジョンで。

 古風すぎる……

 ていうか、ゲームゲームしすぎじゃない?

 手抜き?


「“天儀天”が僕たちの現実で、“中雲中”がVRMMOの空間なら、より深く潜れば潜るほど作り物めいた世界が広がっているということなんじゃないかな」


 ははあ、なるほど。

 ありがとう解説の年上好きのイオリオくん。

 でもそれって『666』自体を一個のネットゲームとして見た場合、世界観ぶち壊しじゃない?

 なんかメタメタしいっていうか……

 それはそれでアリなのかしら。


 扉の中に足を踏み入れた瞬間、ログにマップ名が表示されます。

 おどろおどろしいフォントで。


【偉大なる封印の地“地端地”】


 わーカッコいい演出。



 仄暗いダンジョンには、何本もの道が広がっていました。

 レスターはとりあえず、全ての通路に先遣隊を派遣する気のようです。

 わたしたちはレスター組に編入されました。ということは、しばらくはお留守番ってこと。

 この人は完全に<ウェブログ>を便利な特攻隊だと思っているに違いない……


 さて、先遣隊の報告を待っていると、緊張が高まってゆきます。

 なんといってもここはラストダンジョン。

 伝説の武器とか伝説の防具が配置されているであろう、あのラストダンジョン!

 普通は新作MMOを一ヶ月で攻略なんてできないから、きっと一筋縄ではいかない場所なのだろう。

 720時間連続ログインしているわたしたちなら、もしかしたら可能かもしれないけど(とんでもないクラスの廃人だ……)、きっと現実世界とは1時間の尺度が違うだろうし。


 あーもう、あれこれ予測を立てても無駄なんだけどさー!

 しかしさすがにこの空気で大暴露大会とかする気にはなれず、わたしたちも自粛しています。

 暗闇の中、壁や障害物がほんのりと光っている様は、まるでアミューズメントパークのアトラクションのよう。

 どことなく空気がひんやりしています。


 レスターは先ほどから忙しそうに先遣隊とやり取りをしている。

 っていうか不謹慎だけど、この先、一体どんな敵が現れるのか。


 わたしは実は、相当ワクワクしているのだった。

 

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