◆◆ 29日目 ◆◆卍 その2
「と、その前に」
デュエル開始の合図と同時、わたしは手を上げて制止した。
斬りかかる前にブネさんに言っとかなきゃ。
「あくまでもルールに則って、正々堂々と戦いましょう」
「言われるまでもない」
ブネさんの声は低くて渋いです。
こちらの方は完全に社会人ですね。30代かなー。
さ、ネトゲ・プロファイリング開始。
えーとえーとね。
安定した社会的地位を持ち、自分の能力にも自信があるのでしょう。
生活基盤が整った今だからこそ、思う存分に趣味であるネットゲームに打ち込んでいるといったところかな。
組織を組み立てる能力は、レスターよりあるかもしれませんね。
ふーむ。
先ほど「レスターに対抗心を燃やしている」と言ったのは訂正しましょう。
ブネさんみたいに成熟した大人だったら、そんな考え方はしないよね。
だったらなおさら、こんな腕ずくのやり方もしないと思うんだけど……
どっちかというとそういうの、レスターが好きそうだし。
「となると……このデュエルの目的は……」
「……先ほどから、何をブツブツ言っているんだ」
ハッ。
口に出てた?
なるほど。でも大体わかった。
この戦い、多分レスターが悪い(断言)。
ブネさんは追い詰められていたんだと思う。
レスターは確かに戦力を欲していたからブネさんのギルド<シュメール>の参戦は、ノドから手が出るほどありがたかったのでしょう。
普段から戦力不足に嘆いてたし。
ただそれにしたって、レッドドラゴンをその手で斬殺したがっていたレスターは、共同戦線の提案なんて受け入れるはずがない。
ここまで調べあげたのも<キングダム>だし、対等のつもりなんてないのだ。どこまでも高圧的に命じたに決まっている。
だって、レスターの手の中には、なによりも強い外交のカードがある。
“このゲームの終焉”だ。
もしそれが事実だとしたら、ブネさんにはどうしようもない。
誰かがラスボスを倒せば終了と言われて、それでこの戦いに参加せずにいられるような人はゲーマーじゃないね。
ジョーカーを放り投げられた場はジ・エンドだ。
<キングダム>に継ぐギルドを運営していたマスターとして、これほどの屈辱はない。
というわけで、ブネさんはせめて一矢報いて――自分のギルドメンバーのために?――指揮権を得るために全てのチップを賭けたわけだ。
きっとこれが事の真相です。
プロファイリング終了。[Q.E.D]。
「あなたも大変なんですね……ブネさん」
「……よくわからんが、そろそろ戦わんか?」
剣を肩に担いで、しらけた顔のブネさん。
周りのギルドメンバーたちも空気を読んでいるからなにも口出して来ないけど、完全に退屈そうです。
まあ、同情はしました。
「とりあえず、お互い色々背負っているとしても、そういうのは一旦置いといて……」
おいといて~のジェスチャーをしてから、にっこりと笑う。
「このデュエル、楽しみましょう」
「……あ、ああ」
納得できない表情でうなずくブネさん。
人差し指を立てながら、わたし。
「言っておきますが、わたし【ギフト】使いますからね」
「……わざわざ宣言する必要はないだろう」
「いえいえ、女だと思って手を抜かれると心外なので。そちらもどうぞお願いします」
い、言っちゃったー。
“女だからってナメないでよね”は、一生に言ってみたい台詞ベスト10のひとつだった。
ていうかこの人、絶対にわたしナメているからね。
「む」
眉をひそめるブネさん。
ほら、やっぱり。
「ダメですよ、手を抜いちゃ。わたし結構エグいですからね」
「……良かろう」
ほら、ようやく目がマジになってきた。
完膚なきまでに叩き潰さないと、勝った気がしないじゃない……(暗黒微笑)。
できればこの人の【ギフト】、【守護】だったらいいんだけどなあ。
レスターにリベンジできたみたいなもんだし。
「オラー、さっさと始めろー」って外野からヤジが飛んできました。
っていうかレスターだよ。
誰のせいでこんなことになったと思っているんだよ……
わたしもブネさんも戦う理由アンタのせいじゃねえか……!
「では、いきます」
「うむ」
盾と剣を構え直すブネさんに、わたしは鞘を掲げて。
「……【犠牲】!」
体の正面で刀を抜き放ちます。この動作に意味はない。
白銀のブリガンダインが黒い炎に包まれます。
さすがに開幕の【ギフト】は想定していなかったのか、ブネさんは度肝を抜かれたような顔。
観客たちがどよめいています。多分、みんな【犠牲】を初めて見たんだと思う。
<キングダム>調べの【ギフト】内情調査では、【自己強化】の使い手は80人いたんですけどね、その中に【犠牲】を選んだ人はゼロだったよ。
レスターの【聖戦】は彼を含めて五人もいるらしいのに……
いけない。話が逸れた。
ブネさんはどうやらまだ【ギフト】を温存しておくようです。
うーん。
Wikiがないから、知らないっていうのもしょうがないけどね。
残念だけどそれ、悪手です。
【ギフト】に対抗できるのは【ギフト】だけ……とは言わないけれど。
少なくともわたしの【犠牲】だけはそう。
わたしは脚に力を込め、跳躍した。
一瞬で彼の視界から姿を消す。
余炎の先を追い、見上げたブネさんの脳天にわたしは渾身の力で刀を振り下ろした。
驚いたのはわたし。
彼は反射的に盾を持ち上げていた。
刃は盾を叩き、金属音を響かせる。
やるなあブネさん。
エル兄さんだったら絶対反応できなかったのに、今の。
「っ」
苦悶に顔を歪めるブネさん。
寸前のところで盾で防いだものの、わたしの剣撃にガードを弾かれてしまっています。
慌てて剣を振り下ろそうとしてくるけど、その腹に抜き胴の《両断火》。
返す刀で《氷柱割》。
気持ちいい。
スキルが上がると『こうしたい!』っていう動きを想像した通りに体が動いてくれるから、まるで達人の剣士になったみたいな気分になれる。
気持ちいい。
と、ここでようやくブネおじさんは叫びます。
「【強靭】!」
その叫びカッコイイ。
【強靭】は全六種の【自己強化】のひとつ。
【叡智】、【加速】、【犠牲】、【精密】、【天眼】、そして【強靭】だ。
シスくんが【加速】でイオリオが【叡智】だから、そのふたつはよく知っています。
それに【強靭】も割とメジャーな【ギフト】らしく、“第三次北伐”で<キングダム>の人たちが使っていたので大体理解しているつもりです。
「この――《キラーエッジ》!」
ブネさんが発声とともに剣を振ります、が――
「でぇい!」
わたしは無理矢理その剣を刀で弾きます。
ぐっ、さすがにこれは無理か!
ほぼ相打ち。わたしも少しのけぞります。
「そんなばかな」
だけど復帰するのはわたしが早い。
驚愕する彼の腹を、《ダブルスウィング》で十字に切り裂きます。
うーんしかし、さすがは【ギフト】中。
鎧の上からじゃロクにダメージが当たらないね。
やっぱりアレをやってみるしかないかな。
衆人環視の場、ちょっと印象が悪いんだけど……
「《グラウンドバッシュ》!」
渾身の力で盾を振り回すブネさんの死角に回り込み……っていけない。この技は全方向だ。
バックステップで距離を取る。
ちょっとかすっちゃった。
けど、ダメージはほとんどなし。
さすがは<虹色工房>製のブリガンダイン、なんてことないぜ。
それはそうと、そろそろHPの残量がやばい。
追い込まれているのはブネさんのはずなのに、わたしたちのHPが同じくらいっていうのはなんか、こう、釈然としないよね。
さすが【犠牲】。安易な俺TUEEEEを許してくれない……
「……じゃあ、秘密兵器解禁といこうかな」
そう言ってわたしは、ゆっくりと“刀を鞘にしまった”。
その代わり、左手にだけ小さな短剣を構える。
U字に伸びたガードを持つ特徴的な短剣。
実は昨日<虹色工房>に無理言って作ってもらったんだ。
本当にありがとうございました!
『なんだそりゃ』
レスターからコールが飛んできたけど、ちょっと今忙しいの。
わたしは真正面から猛然と駆ける。
ブネさんの直前で左に飛んだ。
「《レイジングブレイド》!」
ここ!
ブネさんの剣が振り下ろされる瞬間、幅広の騎士剣の刃の付け根に短剣を噛ませる。
付け焼刃の《短剣》スキルだが、【犠牲】中だからこそできる芸当だ。
押し出された盾を避けながら、ブネさんの顔面を自由な右手で掴み――そのまま地面に叩きつける。
叫ぶ。
「ヴァユ・グランデラ・エルス! 《ウィンドバースト》!」
右の手のひらから打ち出された風の塊は、ゼロ距離でブネさんの顔に炸裂した。
よし、良いダメージ。
見たかレスター!
対レスター戦の切り札として開発したびっくり戦法。
鎧が硬くて攻撃が通らないなら、柔らかいところを攻撃すればいいじゃない。byマリー・アントワネット(言ってない)。
利き腕と頭部を押さえつけられて、ブネさんは身動きが取れない模様。
あとは煮るなり焼くなり。
と。
「……参った」
目を塞がれながら、口元を動かすブネさん。
おっと。
まだHP1にしてないのに……!
「勝負あったな」
レスターが終了の合図を出します。
わたしも立ち上がって【犠牲】を切り、短剣を腰の後ろの鞘に納めます。
よしよし。
これで重装備タンクに挑まれても怖くないぞ。
レスターの【聖戦】だって、時間稼ぎに逃げ回るより、引きずり倒しちゃえばいいんだ。
って、あ、あれ。
なんか周りを見てみたら、わたしを見る目がみんな、なんかこう。
引いてる……?
「マジでエゲつねえな」
代表したかのように、レスターが感想を口に出します。
そ、そんなに酷いかな。
顔面押さえつけて地面に後頭部を叩きつけて逃げ場のない状態で風魔術を放つのが、そんなに酷いことかな……
うん、ひどい。
腹いせして、すみませんでした。
「どうだ、こいつは強かっただろう」
起き上がるブネさんに勝利宣言をするレスター。
なんかわたしの肩に腕を回してきてます。
馴れ馴れしいなアンタ!
「身の程をわきまえてくれたか? こいつが『白刃姫』ルルシィールさ」
ギャー!
これ以上その名前を広めないでよ!
っていうかなんでキミがそんなに偉そうにしているんだか!
「……確かに強い、な」
ブネさんはしょぼくれた顔。
「……それに、相当手馴れている。よほどデュエルの経験があるのだろうな」
いえいえ、そんなにないです。
どうしたらレスターをぶちのめせるかは、いつも考えてます。
レスターは背筋を正す。
「ちなみに俺はこいつに勝った」
嬉しそうに!
「次やったら絶対に負けないし……」
「かはは。今更悔しくなってきたか?」
そりゃあこんな大勢の前で言われたらさ!
ルルシィールさん怒りの腹パン!
「ぐはッ!」
一撃でレスターをノックアウト!
再び、ギルドマスターたちの目がわたしに集まる。
辺りはザワザワし……
ハッ、この場合指揮権はわたしに!?
いやいや、いらないってそんなの。
一応フォローはしておこうと思います。
ブネさんが弱いわけじゃないんです。
ホントはレスターが戦おうと思ったんだけど、彼が苦戦したら威厳がなくなっちゃうし。
かといって部下では誰もブネさんに勝てない。
だからわたしが抜擢されたんだと思うよ。
まあいいさ。
レスターにも逆襲したし。
事後に――ひわいな雰囲気がするのはなぜだろう――レスターが改めて尋ねて来ました。
「で、あの短剣はなんだったんだ?」
「なんで言わなきゃいけないの」
ギルドマスターたちは各々、与えられたテントに戻っています。
というわけでふたりきり。
珍しくドリエさんもいません。
「ソードブレイカーだな?」
「知ってんじゃん!」
レスターはわたしを見下ろしてニヤリ。
……こ、こいつぅ。
「またわたしははめられたのか……」
「スイッチが入ってねぇときは、隙だらけだな」
この人、絶対に性格が悪い。
ソードブレイカーはマインゴーシュと並んで、防御メインの短剣です。
左手で相手の剣をさばくための、日本でいう“十手”みたいなものだね。
その名の通り、相手の剣をへし折る機能に特化しているため、ソードブレイカー(まんま)の名がついております。
ていうかひょっとしたら『白刃姫』も、わたしが嫌がることも全てを理解していて言っているんじゃないだろうか……
わたしがうなっていると。
「で、その短剣は【大破】できンのか?」
「この情報、いくらで買う?」
「うるせえな、さっさと吐け」
どう思いますか、この言い草。
こんな人がわたしたちのレガトゥスだなんてゾッとします……!
「仕方ないね。ルルシィールさまって呼んでくれたら教えてあげましょう」
「さっさと吐け」
ギロリと睨まれる。
その目、怖いから!
「できるよ。《短剣》スキルも育ててるシスくんに検証してもらったけれど。でもほとんど実戦レベルじゃないって」
「はーん。やっぱンなもんか。合成品で簡単に特性ダブル持ちなんて作れたら、バランス崩壊しちまうもんな」
「まーねぇー」
認める。
このゲームの武器選びは奥が深い。
種別。ダメージ値。重量。属性値。武器特性値。様々な判断要素がある。
ひたすら部位破壊だけを狙う短剣アタッカーや、鎧を破壊するために軽いけれども特性値の高い大剣を振るったり、相手によって属性値の違う武器を持ち替えたりもできるだろう。
わたしはよく知らないけれど、杖選びも色々あるんだろうなーって思う。
そういえばレスターはどう考えているんだろう。
「あのさ、レスター」
「ン?」
遺跡を眺めていたレスターが振り返ってくる。
彼に、問う。
「レスターは『666』をやってて楽しい?」
もしかしたら怒られるのかもって思ってたけど。
「面白ェな」
彼は意外にも素直にそう言った。
「VRMMOっつーのか? こういうのは。すげえな。科学の進歩ってやつぁ」
科学ではないともっぱらのイオリオの予想だけどね……
「兄貴は2年も前にこんな面白ェことをやってたンだよな。それでさんざん楽しんだ挙句、魂持ってかれて。バカじゃねえのか。マジで」
ひ、ひどい。
「ムカつくことばっかりだぜ、2年前からよ。兄貴も、イスカリオテグループも、『666』にも、面白ェって思うオレにも、ムカつくんだ。とまんねえよ」
「そっか、レスターには複雑だね」
お兄ちゃんを閉じ込めたネットゲーム会社に面白いって思わされて。
やってらんないよね。
惨めになることもあるよね。
うん、やっぱり悪いことを聞いちゃった。
無理矢理認めさせるみたいな。
「ごめんねレスター」
「ンだよ、急に殊勝になりやがって。そんなタマじゃねぇだろ。なんかのワナか?」
笑いながらレスター。
こいつめ……
「失礼な……ホントに悪いなって思ったから、謝っただけなのに」
「ハァン。そいつがお前の言う“主人公らしさ”ってやつか?」
「……そうだよ。こちらに非があるって思ったら、どんなときでも頭を下げるよ。相手がどんなに嫌な人でもね」
「失礼なのはどっちだか」
にやついた顔で顎をさするレスター。
……アンタだよ、アンタ。
「まったくもう、そんな嫌がらせばっかりしてドリエさんに嫌われたって知らないからね」
「ハア? ドリエにンなことするわけねぇだろ。あいつは大切なギルドメンバーだぜ」
そっか、それは良かった……って。
「待ってよ、じゃあわたしは何なの」
「ルルシィールは……そうだな」
ちらりとこちらを見て、つぶやく。
「……ダチ公、って感じかね」
どう受け止めろと。
「なーんか軽いんだよね、レスターの言い方は……」
普段はあれだけの冒険者をまとめあげるマスターのくせに……
今は俺様系の悪ガキそのもの。
悩むわたしを見て、「ケッケッケ」と悪魔じみた笑い声をあげています。
このギャップはなに? 萌えないよ!
いいさいいさ、レスターなんて慰労会に呼んであげないんだから。
あとでドリエさんにだけメアドと電話番号を伝えてやる。
そうしてやるぅー!
はーもう、遺跡突入前にまさかデュエルするだなんて。
「ずいぶんと遅かったな」
森の中で凶暴なモンスターを狩っていた四人と合流します。
「まあね、色々あってね、イオリオ」
ちょっと疲れたよ。
でもぐったりしてなんていられない。
本題はここからなのだ。
「はいはい、全員集合ー」
手を叩いて<ウェブログ>+よっちゃんを集める。
引き続きレスターが指揮すること。
他部隊の配置図。
全メンバーの大雑把な戦力分布を伝えてから、puller(釣り役)の権利をもらったことを告げる。
ルビアは黒い笑みを浮かべます。
「ふっふっふ、このあたしの華麗なる釣りさばきを再び見せるときが来ましたねぇ~」
もう二度とやらせないって言ったでしょ。
三分経たずに<ウェブログ>全滅するよ。
「とりあえず明日は、よっちゃんにpullerを、シスにそのサポートをお願いするとして」
「……了解でござる」
「おう」
なぜっ!と甲高い悲鳴があがりますが、NPCします。
「タンクはわたしとシスとルビアで交代ね。なるべく回復は一分間隔の水薬で済ませられるように、ローテーションを組んでいこう。ルビアちゃんは前衛と後衛行ったり来たりで忙しいと思うけど、頼んだよ」
「あたしにお・ま・か・せ・ですぅ~」
急に不安になってきたのはなぜだろう。
まあいいや。
「イオリオは外から状況のコントロールをお願い。任せたよ」
「それはいいんだが」
四色魔術師イオリオは杖で肩を叩きながら。
「まるで僕たち五人だけで突入するような言い方だな」
そこに気づくとは、イオリオ。
さすが<ウェブログ>の頭脳。
「お、そうなのか?」
シスくんはなぜかちょっとワクワクしている顔。
彼は彼なりに考えて、武器を見直してきた模様です。
その成果を存分に発揮してくれたまえ。
「……主君の命に従い、標的を抹殺するのみでござる」
よっちゃんもなかなか高ぶっているね。
やっぱりダメージディーラー(相手のHPを削る役割の人)として、自分のメイン武器が効きにくいっていう状況はホントに嫌だよね。
ゴーレムにも短剣の差し込む隙間があればいいんだけど。
「で、どういうことか説明してくれるんだよな」
「もちろん」
イオリオにうなずき、声色を改める。
「キミたちに言っておくことがある!」
芝居がかった口調で。
「わたしは大学に通う文学部の二年生だ。だけどこのまま卒業してOLとして生涯を終えるつもりはあんまりない。このルルシィールには夢がある!」
ババァーン!とか。
そんな効果音が多分鳴った。多分。
果たしてわたしの夢とは……
ルビアが手を挙げた。
「ブログのアクセス数を今の二倍にすることですね!」
「そういうんじゃないよ!」
それだって結構大変だけど!
てか、そんな身近なことじゃなくってさ!
「わたしは小説家になりたいんだ!」
ルルシさん、突然のカミングアウトである。
えぇぇ!? とルビアがいいリアクションをしてくれた。
他の三人は「おー」となにやら手を叩いてくる。
和やかか。
割と一世一代の決心をして告白したつもりだったのに……
一方、わたしをよく知るルビアは、詰め寄ってくる。
「せ、先輩! 小説家目指していただなんて、どうして教えてくれなかったんですかぁ!?」
いや、だってそういうの……
ホラ恥ずかしいじゃん……
投稿しても落選ばっかりの日々だし。
一次落ち、二次落ち、二次落ち、一次落ち、二次落ちのループだし……
くそう……(ギリギリギリギリ)
ってそんなことはいいんだよ!
戸惑う人を置いてけぼりにしつつ、ルビアの顔を押し返しつつ。
むぎゅ~とうめく後輩から顔を逸らしつつ。
「そこでわたしはみんなに頼みたいことがあるの」
ぽいっとルビアを放り投げて、バッグから日記を取り出す。
今まで初日からず~~っと記入し続けてきたわたしの旅の物語だ。
雨の日も晴れの日も、【犠牲】で死んだ日も船酔いで参っていたときも、疲労困憊でなんにもやる気が出なかった日も、ずーっと綴ってきた。
こんな奇特なことをやっている人間なんて、多分『666』の中でもわたしひとりだけのはず。
だってVRMMOに実際に閉じ込められるだなんて、そんなに良いネタはきっともう二度と体験できないだろうし。
だから――
「わたしはこのブログ小説で……新人賞を取る! これは決定事項です!」
ババァーン!(二回目)
今度は誰も驚いてくれなかった。
あ、どうリアクションしていいかみんな困っている。
イオリオがなぜか気まずそうに口出してくる。
「普通に電脳犯罪に巻き込まれたレポートとして出版したほうが、それ相応の扱いを受けると思うが……」
イオリオの提案にわたしは首を振る。
「いやよ! だってわたしライトノベル作家になりたいんだもの! それに自分でもわかっているの。わたしのお話には品格がないな、って」
「お話っていうか、それはルルシさん自身が……」
つぶやくシスくんに笑顔を向ける。
面白いことを言うじゃないか、シスくん。
「すみませんでしたっ」
ソッコー謝られた。
……まあいいとして。
「だからきっと、“不謹慎だ”とか怒られるんだよ。ウケ狙いやユーモラスな文章は、偉い人の神経を逆なでしちゃう気がするもの……」
「そうかもしれんが……」
わたしの文章を読んだことがないのに、なんでみんなそこだけは理解しているんだろう。
明治時代の文豪みたいな文章を書いているかもしれないじゃないか……
『世の人いはく正太夫に涙なし、ただ嘲罵の毒素をもてるのみと。こは皮相の見なるなからんか。』とか……
うん、ないね。ないない。
「つまり、この物語はもうクライマックスを迎えているわけですよ。わたしがラスボスを倒してハッピーエンド。それは間違いないことなのだけど」
「……さすがお師匠様。すごい自信……でござる」
ありがとうよっちゃん。
若干呆れているようなニュアンスを感じるけれど、きっと気のせいだよね。
「問題はその過程よ。前回みたいに多くの犠牲を出しながら進んでいたら、雰囲気も暗くなっちゃうわ。それに実際にクリアーできるかも怪しいし」
全員が『そんなことを言われても』という顔をする。
まあ待って。ここから先もあるのよ。
別にレスターのやり方を非難しているわけじゃないんだけど、前回よりもわたしたちは明らかに強くなっているはずだから。
だからきっと、できるはず。
「だからね、明日はわたしたち<ルルシィ・ズ・ウェブログ>が先導して――遺跡の敵を皆殺しにします! 後に続く者の道を切り開くのよ!」
『 は ! ? 』
四つの声がハモった。
わたしはみんなに大きく頭を下げる。
「だからお願い、全員力を貸して! この世界から脱出するために……ううん、わたしが新人賞に受かるために!」
「いや、そこは直結しないだろ……」
とイオリオ。
いやいや大事なところだと思うよ!?
ルビアは唸りながら首を傾げる。
「うーん……でも、実際にできるんですかぁ?」
「大丈夫。わたしたちは相当強くなっているわよ。全員の防具だって一新しているし」
実際、わたしのブリガンダインの硬さはハンパない。
きょうのブネさん戦で、割と自信がついたしね。
「てか、日記持って帰れないだろ? どうするんだよそれ」
シスくんの素朴な問い。
親指を立てて笑う。
「大丈夫。書いた内容は全部覚えているから。完全再現できるわ」
「それひとつの才能じゃね!?」
大丈夫、できるできる。
……できる、と思う。多分。
多少置いてけぼり感のあるよっちゃんが尋ねる。
「えと……お師匠様の日記が、もしかしたら出版される、ってことで……ござるか?」
Exactly。
彼女はグッと拳を握った。
「なら、やる。ルルシ=サンが拙者と出会う前に、なにをしていたか……かなり、気になる……でござる」
良い子!
ノーベル良い子賞……!
しかしノーベル悪い子兼ノーベル酒癖酷い子のルビアが水を差す。
「いやそれ、単純に日記を見せてもらえばいいだけだと思うんですけどぉ……」
「悪いけどねルビア。わたしは絶対にコレを見せないよ。無理矢理奪ったら腕を切り落としてでも取り返してやるからね」
「そこまでぇ!?」
絶対に嫌でござる。
絶対に嫌でござる。
各自はわたしの無謀(と思われる)提案に、それぞれ思案していたが。
「まあヨギリさんの言う通りか。内容すげー気になるもんな」
し、シスくん!
「ルルシさんがワガママを言うのって、初めてのことだもんな。ギルドマスターを押し付けたのも僕たちだ。いいじゃないか。やろう」
イオリオもうなずく。
なんか諦めたような感じだけど!
そして最後に。
「……はぁ。わかりましたぁ。印税半分で手を打ってあげますぅ」
ホントにもう……
こんなに良い仲間を持って、わたしは幸せだよ。
ルビア以外のみんな、ありがとう!




