◆◆ 29日目 ◆◆卍 その1
早朝、わたしたちはヴァンフォーレストの門の前に集合していました。
ここに集まっているのは<キングダム>だけではありません。
26日目にイオリオが謎を解いてから三日間。<キングダム>諜報機関がヴァンフォーレスト中のギルドに声をかけた結果、とんでもない人数が集まっております。
ていうか諜報機関て。
ネットゲームでそんなの聞いたことないよ……
仮設の演壇に立って、レスターが『666』からの脱出について演説をしております。
はー、ご立派。
プレイヤーの感情すらも掌握する彼は、まさしくこの世界でも有数のギルドマスターなんだろうね。
「いいか、お前たちはひとりひとりが主人公なんだ。誰かではない。お前自身の手で物語にピリオドを打て! 誰かではない! お前がやるんだ!」
あっ、それわたしの言葉!
パクった、レスターパクったー!
唸りながら睨む。しかし彼はわたしの視線に気づかない。
あるいは意図的に無視しているのか。
レスターめぇ……
その演説中、部隊表を配られて、びっくり。
全ギルドを合わせた人数は、なんと213名。
これは第三次北伐の3倍以上に及び、さらにはヴァンフォーレストの冒険者人口の五分の一に当たる人数だった。
一斉に遺跡に突入したら、サーバー落ちちゃうんじゃないかなって思う。
参戦しているギルドは13。
<キングダム>のように大規模な攻略系ギルドもあれば、わたしたち<ウェブログ>のように親しい仲間たちで集まったギルドも参加しているようだ。
うーん。
ワクワクしちゃうね。
気分が盛り上がってくる。
MMOプレイヤーに貴賎はない。
特にこの『666』においては、廃人も脇役もいないんだ。
誰もが同じ時間を共有し、同じ世界で過ごしてきた。
ひとりひとりの想いは必ず力になる。
みんな、このドミティアを生きてきた仲間だ。
この場には、敵なんてどこにもいない。
わたしたちは全員、戦友なんだから。
隣に立つイオリオに、微笑みかける。
「頑張ろうね」
彼はレスターの演説を聞きながら、小さく「ああ」とうなずいた。
天気は快晴。
気持ちが良いようなラスボス退治日和である。
やがて一同は<キングダム>を先頭に、進軍を開始した。
真新しいチェインメイルの上に白銀のブリガンダインを羽織ったわたしも、その列に加わる。
お、あれはモモちゃんと<七色工房>のみんなじゃないか。
お見送りに来てくれたのねー。嬉しいなー。
手を振る。
すると彼女は、口元に手を当てて。
「おねえさん、がんばってー!」
声援をくれた。
モモちゃんだけじゃない。彼女のギルドメンバーたちもだ。
大きく叫び返す。
「ありがとうね! わたし行ってくるよー!」
もう気持ちの整理はついた。
楽しかった『666 The Life』の日々もここまでだ。
さあ向かおう、偉大なる封印の地へ。
先ほどから。
「う~~~ん……」
歩きながらルビアが一生懸命首を傾げている。
……なんのことか、大体わかるんだよなあ。
あんまり聞きたくなかったけど、仕方ない。義務感で尋ねよう。
「ルビアちゃん、どうかしたかい」
「それがですねえ……」
「うん」
「あたし、なんか昨夜の記憶が、ほとんどないんですよねぇ」
案の定である。
覚えていたら、今頃こんな平然としてられないもんね。
逆に言うと、キミはそれだけのことをしたのだよ。
「こういう場合ってどうしたらいいんでしょう……」
いつになく不安そうだ。
確かにまあ、記憶を失うって怖いもんね。
「えっと」
さすがに不憫に思い、わたしは手を差し伸べてあげる。
「聞きたい?」
「えっ、あ、はい。聞きたいですぅ」
ルビアはそれが過ちとも知らず、首を縦に振ってしまう。
そうか、聞きたいか……
「後悔しない?」
「え? ど、どういう意味ですかぁ?」
「そのまんまの意味だけど……」
もしこのことを聞いたら、ルビアちゃんも心に傷を負っちゃうかもしれないし。
しかし勝ち気な彼女はわたしを促すのである……
「もったいぶらないでくださぁい」
身をかがめてこちらに迫るルビア。
わたしはちょっとだけビクッとしてしまう。
わかったわかった。言うから言うから。
もうちょっと距離を取って。
「ていうか、どこまで覚えているの?」
「えっとぉ~」
ピンクの唇に指を当てて思い出すルビア。
「隣にいたはずの先輩が、いつの間にかシスくんになっててぇ~……?」
そっからもう自信がないのかい……
「……じゃあシスと何の話をしていたか、覚えている?」
「すみません、ちょっと思い出せないです……」
そっか。あの時点で理性が飛んでいたのか。
「だってさ、シス」
「……」
小声でシスくんに話を振る。
しかし彼は完全に聞こえないフリを決め込んでいた。
思い出したくもないらしい。
全然関係ないけど、スケイルフルセットという格好に戻っている彼は、とりあえず見てくれはだいぶマシになっていた。
3メートル級のマジックハルバードを担いでいるため、相当に目立っている。
それはともかく。
「わたしとイオリオが少し目を離して戻ってくるとね」
「はい」
「キミはシスの前で飛び跳ねながらお歌を熱唱していたんだよ。もちろんソロでね。とても楽しそうだったね」
「え、ええぇ~~!? あたしそんなことしませんよぉ!」
身を引いて叫ぶルビア。
いや、してたんだって。
ていうかこんなの序の口だし。
「その後、観客が増えたことに気分を良くしたキミは、めちゃくちゃなダンスを踊っていた。特にコアラみたいな感じでわたしに抱きついて足を絡ませてきて嫁入り前の乙女は絶対に取っちゃダメだろってポーズをしていたから、せめてもの情けでシスくんとイオリオを部屋に避難させたよ。この時点でわたしはキミと一蓮托生となる決意をしたんだ」
「え、えええぇ…………?」
今度は血の気が引いた顔だ。
そこから先のことは、シスくんもイオリオも知らない。
朝、わたしがげっそりとした顔で出てきたときに少し話したくらいだ。
肝心なことはなにも言っていない。
「プライベートルームに連れ込んでからのキミのスキンシップはもう度が過ぎたね。完全に貞操の危機を感じたよ」
「いやいやそんなまさかぁ……」
他人事っぽく首を振るルビア。
信じたくないんだろうけど、ホントなんです。
「まさか『666』でそんなことがあるなんて思っても見なかったけど。てかさ、わたしキミから昨日だけで300回ぐらい愛の告白を受けたんだけど、まさか本気じゃないよね。普段からあんな……わたしで妄想とか、してないよね?」
「あたしなにを言ったんですかぁ~~~~!?」
ルビアはもう涙目だ。
すがりついてきてわたしは思わず「ヒッ」と悲鳴をあげた。
軽くトラウマです。
「ちょ、ちょっとだめだってば。こんなところで昨日みたいなことしてくる気……?」
「だからあたしなにをしたんですかぁ~~~~!?」
ルビアのキンキンとした叫び声が行軍中に響き渡り、辺りの視線を根こそぎ引き寄せてしまう。
こっちまで恥ずかしくなってくる。
昨夜はマジで犯されるかと思ったし。
MO5(マジで犯される五秒前)ですよ。
相手が瑞穂とはいえ、ちっちゃい女の子。殴りつけるような真似はできなかったし……
おまけに、泥酔していても基本は可愛いから困るんだよな……
まあ、なにもなくてよかった。
……なにもなかった、ですよ?(震え声)
まあまあ、もういいじゃない、この話は。
誰も幸せになれないよ。
小さくため息をつき、ルビアの肩をぽんぽんと叩く。
「……昨夜のことは忘れよう。それがお互いのためだから……ね? ルビアちゃん」
「ううう……先輩の優しさが辛いですぅ……」
それにしても、ここ最近の移動時間がひじょ~~~に長い。
わたしたち<ウェブログ>のスキル帯における適正モンスターは、すでにヴァンフォーレストから徒歩2時間以上の箇所にしか生息していないしね……
っていうか、ゲーム的な設計図としてさすがに移動時間がこんなにかかるわけないから、いつまでもヴァンフォーレストにとどまっているのが間違いなんだと思うんだ。
MMORPGのセオリーだと、スタート地点の街って大体レベル10ぐらいまでで、そこから先はあちこち点々としながらそのレベルにふさわしい敵が出現する街にその都度、拠点を変更するっていう感じだし。
で、移動魔術とかを覚えたらまた最初の街に戻ってくる、みたいなね。
だからわたしたちもヴァンフォーレストを離れて、周辺の村を拠点に冒険する時期なんだと思うけど……
あるいは、もうそろそろ乗り物(馬とかグリフォンとか)が手に入ってもいい頃合いなんだけどなー。
まだ誰もそれっぽいクエスト見つけられてないんだよねー。
少なくとも<キングダム>が知らないってことは、ヴァンフォーレストのプレイヤーは誰も知らないってことだろうし。
やっぱりそう思うと、『666』の要素全然やってないなあ。
というわけで、移動中の暇の潰し方、<ウェブログ>編でございます。
まー、一番多いのはお喋りだよね。
うちは四人全員多弁だから持ち回りでそれぞれの得意なトークをしています。
プライベートなことよりは『666』関係の話が多いかなー。
イオリオは魔術講座か、ドミティアの歴史に関するお話です。
ヴァンフォーレストの歴史や、大陸にどんな国家があるらしいとかさ。
雪に覆われた国とか行ってみたかったなあ。
ウェポンマスター・シスくんは武器やモンスターの特徴などを語ってくれます。
どの武器が誰に効いてどんな効果があるか、とかね。モンスターについてもシスくんが一番詳しいのは、きっと分析と観察に秀でているのでしょう。
あるいはただの野生児なのか。
ルビアちゃんは手広くクラフトをやっているのでそっち方面の話題が多いのですが、もっと興味があるのはお金稼ぎについてです。
露店街に行くときはメモを持って、昨今のアイテム相場の変動と需要をチェックしています。値上がりと値下がりのタイミングを見て、仕入れたり作ったり。なぜその情熱をリアルでも活かせないか。
で、わたしに関しては、今までやってきた色んなネトゲのすべらない話などを披露しています。
貪欲に笑いを取りにいきます。
あれ、なんかひとりだけ毛色が違うな!?
で、今回は最後だし、せっかくだからそれぞれが持つ『これはレアだろ』っていうスキルを暴露する大会となりました。
特になにかあるわけじゃないんだけど、そこらへんお互いあんまり関与しないようにしていたんだよね。
求められていないのに余計な口出しをするのも、ネットゲームのマナーとしてどうかと思うしね。
わたしたち四人は全員が全員、目指すところがまったく違っていたからというのもある。
オールマイティ前衛のシスくん、オールマイティ後衛のイオリオ。刀と風魔術の魔術戦士のわたし。盾と水魔術の治癒系騎士、ルビア。
せいぜいわたしがイオリオに魔術を習って、ルビアがシスくんに剣を習うくらいだったかなあ。
というわけで、ジャンケンし、負けた順からの発表。
ちなみによっちゃんも参加しています。
彼女もうちのパーティーの一員だからね。
本音を言えば、永続的にレンタルしちゃいたい!
最初に負けたのはシスくん。
「一番手か。えーとそれじゃあな……」
メニューを操作し、適当なスキルをひとつ選ぶ。
「《グラディエーター》スキル。リチャージ10分」
なにそれ!
聞く限り、前衛のbuff(能力強化)スキルのようだけど……
「体力の続く限り、決して退くことができなくなる能力?」
「バーサーカーじゃねえか!」
叫ぶシス。
はいはいはい、とルビアが手を挙げる。
「誰かとデュエルをして、勝ったらお金を奪うことのできるスキルとかぁ」
「野盗じゃねえんだから! 《スイッチ》スキルからの派生だよ」
いや、そもそも《スイッチ》がわからない。
あれ、でもわたしもちょっぴり成長しているな。
あ、あー。戦闘中に武器を持ち替えることかー。
イオリオも首をひねる。
「グラディエーター……古代ローマの剣闘士か。剣のグラディウスをどれだけ上手に使えるか、っていうことか?」
「それだとリチャージの意味がわからねーよ!」
ごもっとも。
ていうかいつの間にかクイズ大会になっているし。
こっちのほうが面白いからこのままでいこう。
ちなみに《グラディエーター》は『効果時間内に武器を持ち替えることにより、直後の武器のダメージ倍率が上がる。なお使用中は《スイッチ》する武器種が多ければ多いほど倍率は上昇する』というものでした。
ウェポンマスターのシスくんにピッタリ。
正解者はイオリオです。
そのうち全十問出して、もっとも正解率が高かった人がきょうのお弁当を選ぶ権利をもらえるルールが追加されました。
今から本気出す。
Q:出題者よっちゃん。《シャープ》。
A:無発声スキル。戦闘中に発声しないことにより、移動速度とクリティカル率に上昇補正を得る。一度でも発声すると、その戦闘中は効果が失われる。効果中は《クライ》系スキルの影響を受けない。
どうりでよっちゃん、戦闘中はとことん無口だったわけだ。
《ウォークライ》と対になっているスキルってわけですね。
正解者、わたし。
Q:出題者イオリオ。《R・D学》。
A:言語学スキル。R・D言語魔術の使用に関わる。属性魔術の特殊呪言の効果にボーナスを得る。
ていうか、イオリオ自身どうやって取得したかわかっていないとか。
そんなのわかるかっ。
正解者、ナシ。
Q:出題者ルビア。《乙女の祈望・水》。
A:乙女スキル(!?)。次に行なう回復行動の効果を倍増させる。入手には《水魔術》と《医学》、《癒し手》の3スキルの合計値が関わる。
外見年齢15才以下の少女のみ取得可能(!?)。
マジか……ルビアちゃん、公式で乙女認定か……
ていうかそしたら、女性スキルとか青年スキルとか壮年スキルとか老人スキルとかもあるのかしら……
正解者、シスくん。
Q:出題者わたし。《クイーン》。
A:称号スキル。《ギルドマスター》と《指揮》・《戦術》の融合スキル。NPCの行動に影響を与え、クエストのシナリオに若干の変化をもたらす。
戦闘中にも影響があるらしい?
詳しくは不明です。
正解者、ルビア。なぜわかったし。
以下、残り五問を置いておきます。
答えはあとがきにありますので、それぞれがどんなスキルでどんな効果があるのか、どうぞ予想してみてください(わかるわけがない)。
◇◆◇◆◇
Q:出題者シス。《クイーン・ズ・ブレイド》。
Q:出題者ヨギリ。《二刀流・逆手》。
Q:出題者イオリオ。《幻術師》。
Q:出題者ルビア。《美脚》。
Q:出題者わたし。《咎人》。
◇◆◇◆◇
そんな感じでワイワイと賑やかに楽しんでいると、いつの間にか辺りの人たちも加わって大クイズ大会が開催されていました。
あれ、十問じゃ終わらなくなっちゃった!
なんだこれ! どんなノリ!
「第十三問ー! 両手斧スキル《トマホーク》にはとてつもない代償があるぅ! それは一体なにかー!」
拳を突き出しノリノリで叫ぶわたし。
どうしてこうなったし。
わーわーギャーギャー騒ぎながら、周りの人たちも盛り上がっているようです。
この世界、娯楽が少ないからね……
こんなちっちゃいことでも無理矢理楽しんじゃおうとしているんじゃないかな、みんな。
このイベントに参加している人は刺激を求めているだろうからね。
とかなんとか考えちゃったら止められなくなっちゃった!
あーもー、ちょー騒がしい。
2km先からでもモンスターに発見されそうな具合だ。
あちこちから丁々発止と言葉が飛び交う。
んーそろそろ正解が出ちゃいそう。
と、ここで問題を打ち切り。
このMC、いやらしいのである。
「惜しいー! 正解は『三倍撃だけど、使用してる武器を投擲するため、武器を失ってしまう!』でしたー! なんだこのフザけたスキルはー! 一生使わないぞー!」
おー、と拳を突き上げて叫ぶ人たち。
それにしてもこの冒険者ども、ノリノリである。
「現実世界に戻りたいかー!?」
おー!!
「おうちに帰ってママの手料理が食べたいかー!」
おー!!!
なにこれ気持ちいい。
今ならなにを言っても許される気がする!
騒ぎを聞きつけてやってきたレスターは呆れているようだった。
これみよがしに、隣のイオリオに尋ねる。
「……なにやってンだ、あいつ」
イオリオも「さぁ……」とか言って他人のフリしているし!
冷たい視線が刺さる刺さる。
でも人々が求める限り、わたしは役割を終えるわけにはいかないんだ。
むしろ誰か助けてー!
世の中には流れというものがある。
そこに逆らうのは大変で、わたしはなぜか遺跡前に到着するまでの残り3時間、クイズ番組の司会者みたいなことをさせられた。
ルビアも巻き込んでやったけどな!
「えー、あたしそういうの無理ですぅ~……」って最初は縮こまっていたルビアちゃんだったが、すぐに「人間の言葉を喋るなんてぇ、生意気な子豚さんですねぇ。えへへ~」とか言い出していた。
こわい。
蔑まれて喜ぶ人も喜ぶ人だけど、のせられて罵倒するルビアちゃんも単純そのものである。
……いや、これも彼女なりのロールプレイか。
現実世界では芸能プロダクションに誘われても、「怖いから」って全部断っているもんね。ホントはアイドル願望とかあったのかも。
大人の愛着行動……ってわけじゃないけど、愛情には割と飢えてそうだし。
みんな喜んでくれているようで良かったね。
これこそWin-Winの関係ってやつかしら。
ルビアちゃん=チヤホヤされて嬉しい。
皆様=可愛いルビアちゃんに罵倒してもらって嬉しい。
うん……
なんかただれているような気がするけど、気のせいよね。
これできっと彼女のファンは倍増しただろう。
……会員費取ってブロマイドとか売れば、儲かるんじゃないかな。
恥ずかしい写真とか。撮りまくって売りまくって。
「ねえルビアちゃん。今度撮影会とか、する?」
「絶対に嫌ですぅ」
そういう方面のお金稼ぎは、お気に召さないようです。
チッ。
夕方前、ようやく遺跡に到着です。
あれ、でもそんなに時間がかかった気がしないなあ。
前回はよっちゃんをいじり倒して満足したし、今回はルビアちゃんとクイズ大会を開催していたらすぐだったし……
ああ、どんどん暇の潰し方が上手になってゆく……
“第三次北伐”同様に本格的な突入は明日からだけど、それまでは自由行動になるみたい。
まあせいぜい周辺の探索でもして、明日までに鍛えておけ、ってことですね。
ふっふっふ、わたしもあちこち巡ってみようっと。
でもギルドマスターだけは謎の招集を食らいました。
早く遊びたいのに……
いや、うん、わかってるわかってる。
大事だよね、色んなギルドが集まっているしね……命令系統の整備とか、役割分担とか……決めておかないとね……
基本はみんな、最大手のギルドマスター・レスターに従うようだね。
わたしもだし。
でも色んなギルドがいると、起きるわけですよいさかいが。
うん、知ってた。
まー揉めちゃうよねー。勝ち気な人もいるもんねー。
輪になって座る12名のギルドマスターを眺める。
ちなみに女性のギルドマスターってわたしだけです。微妙に居心地悪い。
まあ、どんなに無茶なことを言われても、最終的にはレスターがなんとかするでしょうという安心感がありますからね。
彼のリーダー気質はぱないです。
マジでギルドマスター・オブ・ギルドマスター。
今回わたしは傍観者気取りでいいんだもーん。
行軍中に頑張りすぎたから、今はちょっと休みたいんだ……(本音)。
「いっそのこと、一番強いやつが指揮を取ればいいんじゃないか?」なんてそんな馬鹿な意見が出てきたりもします。
武力と統率は違うって、光栄のシミュレーションゲームやったことないのかな。
良いアイデアも浮かべずに武力で解決って、なにその原始人的発想。
その人はヴァンフォーレストで二番手のギルドのマスターだそうで。
ははあ、レスターに対抗心がバリバリあるんですね。
武将のようなヒゲを生やした青年?です。
ヒューマンだけど、鋼のような肉体は実際とてもとても強そう。
VIT振りタイプかなー。
はてさて、レスターはどう対応するのか。
お手並み拝見といきましょう。
レスターは小さくため息をつきました。
「いいぜ。それで他の奴らも納得するんだったらな」
ほほう。
彼の挑発に乗ったフリをしていますね。
解説のルルシィールさん、どうですか? この手は。
ええ、これはなかなかエグいですよ(一人芝居)。
全員の目の前で自分が戦って、突っかかってきたギルドマスターさんを完全に叩き潰すつもりです。
相手を下げて自分を持ち上げる。
常套手段ですが、これは効果的ですよ。
「ルルシィール女史」
ふぇ!?
なんでわたしの名前を呼ぶの。
ひっそりと気配を消していたのに。
ていうか完全に成り行きを見守っていたのに……
「俺の代わりに戦ってくれないか」
なん……だと……
こいつ、何を考えていやがる……!?
辺りもざわつきます。
そりゃざわつきますよ。
わたしの心もざわついてますもん。
いやさすがにね、ここでわたしも思ったままのツッコミをしたりしないよ。
他の11名のギルドマスターの目があるからね。
なかったらレスターの首根っこ掴んで「いきなりテメーなに言い出してんじゃあああこの腐れギルドマスターがぁあああああ!」とか叫びかねないけどね。
レスターと目を合わせる。
そのとき、わたしは彼の表情にあまり余裕がないのを感じ取った。
というか、感じ取ってしまった、というか。
視線で問う。
……なにか考えがあるのよね?
レスターにはきっと伝わったはずだ。「どうだ?」と再度尋ね直してきた。
ううむ。ちょっと真面目に考えよう。
敗北のリスクと勝った場合のメリットを並べて考えてみる。
この場合のリスクはもちろん、彼が指揮権を手にすること。
そうなったら“レッドドラゴン討伐戦”の全滅は必至だ。
よく知らない彼には失礼かもしれないけれど――というかむしろ、今回はレスター以外の誰が指揮をしても失敗するだろうとわたしは確信していた。
もちろん、わたしでも無理。
それだけレッドドラゴン討伐に賭けるレスターの思いは熱い。
決意、情熱。そんな言葉では足りない。
憎悪、執念と呼んだほうがふさわしい。
ならば、勝ったときのメリットは……
この場の全員にわたしの力を誇示できること、かな。
本来ならそんなの、土下座で頼まれてもごめんだけど……
わたしは短い時間で“打算”する。
ひとつ、レスターに頼みたいことがわたしにはある。
それは今回の冒険において、だ。
「捨て駒にするな」とか「もし最奥にたどり着いたときには、レッドドラゴン戦に連れて行ってくれ」とか、そういったものではない。そんなのはレガトゥス(軍団長)のレスターが決めることだ。口を挟むべきではない。
だから代わりに。
「レスター」
「どうした」
「もしわたしが彼に勝ったら、遺跡のpuller(釣り役)はわたしたち<ウェブログ>に任せてほしいのだけど」
彼は一瞬だけ怪訝そうな顔をした。
「そいつは」
でもわたしたちのパーティーには今、よっちゃんがいる。
できないことはないと判断したのか、すぐに了承してくれた。
「……それも、考えがあるんだな? いいぜ」
よっし。
わたしは小さくグッと拳を握った。
これはわたしにとっては大事なことだ。
「ならお引き受けいたします」
わたしは微笑を浮かべながら立ち上がる。
そして、もうひとつ。
わたしは負けたときのリスクと勝ったときのデメリットを考えていたわけだけれど。
そんなのはまったく意味がないのだ。
だって、わたしとデュエルしたレスターが“ルルシィールなら勝てるだろう”と判断してわたしに振ったのだから。
本来なら、リスクなんてないも同然なのです。
そんなのはお互いわかっている上で、わたしは力を誇示して明日のpullerを正式に任命される。
それはレスターの描いたシナリオとはちょっと違うのかもしれないけれど、でも彼もどちらでも良いと思ったからOKしてくれたのだろう。
予定調和のようです。
当の二番手のギルドマスター・ブネさんを除いて。
彼は面白くなさそうな顔をしています。
見くびられたと思っているのかなー。そうなんだろうなー。
「……この娘を倒せば、本当に指揮権をもらえるんだな?」
「ああ、二言はねえ」
念を押すブネさんに、不敵な笑みを浮かべるレスター。
「派手な鎧をつけているが、果たして実力が伴うかね……」
「そいつぁやってみたらわかるんじゃねえかな」
なによ、わたしが引き受けた途端に肩の荷が降りたみたいな顔をしちゃって。
面倒を押しつけてきただけのくせに……!
小声でわたしにコールが入る。
『サクリファイス、今度は見せてくれるよな? 言っとくが、【ギフト】使わずに勝てるほど甘い相手じゃなさそうだぜ?』
うわー。
まったくこの子は、ホント黒い。
アンタ、ブネさんと組んでグルになってわたしを引っ掛けようとしているんじゃないでしょうね……?
特にレスターには、【樹下の月長亭】で前科があるし……
でもまあ、ブネさんの表情を察するに、それはなさそうだけどさ。
他のギルマスの方々も興味津々と見守る中、見世物としてのデュエルが始まろうとしています。
彼の武器は騎士剣+大盾のオーソドックスな騎士タイプ。
守りは盤石といった感じかな。
ああいやだ。いやな記憶が蘇るよー。
前にレスターに倒されたのも遺跡前だったもんなあ。
うん。
ごめんなさい、ブネさん。
認めます。
わたしがあなたに斬りかかる理由の半分は、腹 い せ です。
いざ尋常に、
勝負。
◇◆◇◆◇
Q:出題者シス。《クイーン・ズ・ブレイド》。
A:称号スキル。《クイーン》スキル所持者とともにパーティーを組んでいることにより発動。《クイーン》の状況に応じて、全パラメータに修正値が加わる。
なんか、わたしと一緒にいるだけで、わたしの《クイーン》スキル値の何分の一かまで、ドンドン上がってゆくそうです。
どういうことなの。
シスくんもイオリオもルビアもよっちゃんもみんなこのスキルを持っているそうです。
わたしひとりだけ知らなかった。
あと美闘士とかは多分関係ない。
正解者、ルビア(ほぼ早押し)。
Q:出題者ヨギリ。《二刀流・逆手》。
A:武器スキル。両腕に持つ武器の攻撃速度とクリティカル率に補正を得る。なお《二刀流》スキル中はダメージの平均値と部位破壊にマイナス修正を受ける。
よっちゃん曰く、一部の武器は持ち方によっても様々なスキルがあるらしく、これはどうやらシスくんも知らなかったようです。
具体的には、短剣は順手、逆手と二種類あるらしく、それぞれ威力と攻撃速度・クリティカル率に優れているようなのです。
よっちゃん物知りぃ~。
世の中の中二病の人の夢である二刀流ですが、『666』のはあんまり強くないのが難点ですね。
よっぽどのことがない限り、一刀流キャラには勝てないのが二刀流の定め。
そこだけ現実っぽいって、おねーさんどうかと思うなあ。
おねーさんはロマンを追い求める二刀流のニンジャよっちゃんを応援しています。
正解者、わたし。
Q:出題者イオリオ。《幻術師》。
A:魔術スキル。【混乱】や【惑乱】などの【自失】状態の効果時間に修正値を得る。スキル値の上昇に伴い、効果が及ぶ状態異常が増える。
これはまあ、割とわかりやすかったかな。
ところで、『666』の状態異常はとてつもなく多いです。
大別して六種類。【制限】、【自失】、【毒】、【麻痺】、【変化】、【呪詛】。
それらの六種類から更に系統が別れて、無数の数となっています。
毒にしたって、なんか10個ぐらいあるとかないとか……め、めんどくさい仕様……
あとはえっと、【盲目】なんかは【視覚制限】だったりね。
この中では【呪詛】シリーズはまだ一個も見たことないんだよなあ。
えと、はい、余談でした。
正解者、シスくん。
Q:出題者ルビア。《美脚》。
A:ファッション(!?)スキル。一定%以上脚の露出がある格好を継続することで上昇。AGI(敏捷性)と《脚力》スキル、並びに脚の耐久値に修正を得る。
これね。
聞いたとき、マジでポカーンとしました。
女は見られることで美しくなるってこと? ミニスカートを履き続けると上昇?
『666』の開発者さん、ちょっと頭おかしいんじゃないの?
冗談で言ったつもりのわたしが、まさか正解するなんて……
「そしたら《美乳》スキルもあるんじゃないの? 一定以上胸を露出することで上昇するの」
とかこれも冗談で言ってみたら、
「試してみる価値はありそうですねぇ~……」とかルビアが言い出したので、全員で止めました。
それ以上あざとくなったら、キミ絶対そのうちロリコンに誘拐されちゃうって。
正解者、わたし。
Q:出題者わたし。《咎人》。
A:称号スキル。《殺人》を犯した回数により上昇。対人戦に修正値を得る代わりに、逮捕時の釈放金が跳ね上がる。
はいどうも、PKerです。
公式犯罪者です……
殺せば殺すだけ殺し方が上手くなるとかね、ホント皮肉ですね……はは……
ていうかPKしたことシスくんにもルビアにも黙っていたのに、こんなところでバラしちゃうなんて! わたしのうっかりやさん!
正解者、イオリオ。
◇◆◇◆◇
さ、というわけで以上スキルクイズでした。
何問わかったかなー?
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございましたー。
お弁当はわたしのもの……!
◇◆◇◆◇
5問正解 666廃人(レスター級)
4~3問正解 666熟練者(イオリオ級)
2~1問正解 ノーマルプレイヤー(ルビア級)
0問正解 真人間(モモ級)