◇◆ 28日目 ◇◇★ その1
ここ数日はホントにプライベートの恥ずかしい話ばっかり書いている気がする……
いいんだ、ブログって元からそういうもんだから……
自らの恥部を切り売りしてアクセス数を稼ぐのがブロガーってもんだから……(偏見)
で、朝日とともにヴァンフォーレストに帰ってきたわたしたち。
その足取りは控えめに表現してもまるでゾンビのよう。
いやー……本気辛かった。
ていうか、なんでみんな生きてたんだろう。
わたしたちもしかしてチートキャラの集団なの?
HPが残り一割を切ってた場面が全員十回ぐらいあった気がするんだけど(言い過ぎ)。
ちなみによっちゃんなんかは「<キングダム>の訓練の百倍ぐらいの密度があった……」とか語ってました。
メンタルとタイムの部屋のようだ。
違うよ。わたしたちのは訓練じゃなくて事故だよ……
こんなはずじゃなかったんだ。
もっと、キャッキャウフフな感じで。ルビアちゃんと仲直りピクニックのつもりで。
それがフタを開けたら、ただの死闘だったよ……
ダンジョンの奥なんて、遺跡ばりの敵が出てきたからね。
辛かった……
まあ、おかげでスキルはとんでもなく上がりました。
もう二度と行かねーけどな!
つーかなんで誰も途中で止めようとか言い出さないんだよ!
もっと冷静になろうよ!
全員が一丸となってひたすらに生き残るために全力を尽くした一日でした。
こんなことばっかりやっているから、
まったり系ギルドのはずの<ウェブログ>が<キングダム>に目をつけられちゃうんだよ……!
ホント、こんなことに巻き込んでごめんねよっちゃん……
お願いだからこれに懲りないでまた遊んで……
あ、あとはドロップアイテムもなかなかのが出ました。
これは(むしろこれだけが)純粋に嬉しかった。
スタン効果のついた【トゲトゲしいダガー】はよっちゃんに。
とってもピョンピョンと喜んでくれていたので、多分また来週も地獄に付き合ってくれるはず……
秒間MP回復効果のついた【白いローブ】がイオリオ。
全身白ずくめの清廉な司祭っぽいファッションになったので、余計に腹黒さが強調される結果になりました。
【炎の属性を持つハルバード】は使い手がいなかったので、自動的にシスくん行きです。
ウェポンマスターがいると、武器を腐らせることがないから便利すぎィ。
ルビアちゃんは、なんだったかな。キラキラした貴金属とか集めていたような。
彼女だけなんか違うんだよな……性能とかじゃないんだよな……
本人満足そうだからいいケド。
あ、わたしはなんか水薬いっぱいもらいました。
ありがたいね。少しでも【犠牲】で死なないようにってさ。
全員でギルドハウスに戻り、全員で寝床につきました。さすがに体力の限界です。
シスくんとか72時間ぐらい起きていたみたいだし……本当に人間か?
というわけでこの日記は午後、起きてから書いています。
明日の朝は進軍だから、今からまた明日の準備を整えないといけないのさ……
あーもう、ここ一週間ぐらいひたすら忙しい気がするんだけど!
大学生活より充実してる……!
「しっかしお金を余らせてもしょうがないもんねえ。良い鎧でもあったら、多少高くても買っちゃうんだけどなあ……」
そんなことをぼやきながら、わたしはショッピングです。
街の防具屋をめぐってみようっと。
「なあなあ、そこの綺麗な剣士サン、これどうよ」
「え?」
綺麗ってわたしのことー?
ってそんな見え見えの世辞に引っかかりませんけど。
そこにいたのは優男のヒューマン。
ペラペラとビラのようなものを手渡して、というよりも半ば強引に押し付けてくる。
「世界を救う戦いよ。どう? 誰でも参加オッケーで今なら気軽に募集しているよー。高貴な女騎士さんもいっちょ噛んでみない?」
見やる。
そこにあったのは檄文だ。
『このネットゲームに閉じ込められた諸君。今こそ立ち上がるときは来た。世界を救うのは君たちだ。剣を持て。杖を掲げろ。我らと共に行こう、禁断の地へ!』
思わず「うわぁ」と声が出た。
仲間を集めているとは聞いていたが、こんな恥ずかしい紙をばらまいていたのか……
文面考えたのは、多分レスターじゃないと思うけども……
裏を見ると署名の数々。<キングダム>だけではない。
ヴァンフォーレストの数々のギルドが名を連ねている。そこには<ウェブログ>の名も。
「ね、どう? 今ならお弁当も出るし、水薬っつー貴重なアイテムも支給されるよ? 出発は明日! 急で申し訳ないんだけど、とにかく人数集めているんだよねー」
「はあ」
タダで水薬がもらえるんだ。
なら参加しておこうかな、なんて思っていたところで。
ひとりの男の人が血相を変えてこちらに走って来ました。
あ、こっちは<キングダム>のエンブレムの人だ。
優男はへらへらとした笑み。
「あ、ダンナからも誘ってくれませんかね? このお嬢さん、なかなか首を縦に振ってくれなくて。こんな一大イベントなのに」
「馬鹿野郎っ!」
うわあ。
急に怒鳴るのやめてほしい。心臓に悪いから。
「お前この方を誰だと思ってんだ?」
「は? いや、キレーな人だなーって……」
「馬鹿野郎!」
男の人は再び叱りつけると、優男さんの頭を掴んで無理矢理謝らせた。
「申し訳ございませんでした!」
ええー!?
なんでふたりして急に謝罪しているの!?
「白刃姫さま! 無礼なこの男を何卒お許し下さい!」
え、ええー……?
白刃姫って、<キングダム>がわたしに勝手につけた二つ名じゃないか……
なにこれ、なんでこんなことになっちゃっているの。
あくまでも頭を下げたまま、優男さんのほうはぷるぷる震えていました。
「……マジすか、この人がっすか……」
「名前ぐらい覚えておけ、お前……」
「……アレっすか、<キングダム>の精鋭が束になっても敵わなかったゴーレムを、たったひとりで三匹も始末したっつー……」
始末してないなー!?
「あのレスターさまとデュエルして生き残った唯一の冒険者だぞ……」
いつからこのゲーム、デスゲームになっちゃったの!?
ていうかデュエルのこととかバレてるし!
「……お、俺は大変な口を聞いちまった……」
あ、ああもう、め、めんどくせえー!
「ま、まあわたしは気にしてないから。だからほら、ね、顔をあげて」
跪いて、わたしを見上げるふたりの男性。
その目には畏敬の念。
『白刃姫さまっ……!』
「……はは、あはは」
乾いた笑い声をあげながら、その場を少しずつ去ってゆく以外になにができただろうか!
あーもう、なにこれ、ちょうハズい……
昼夢市で水薬やら触媒やら必要なものを調達していると、モモちゃんからコールが入りました。
『渡したいものがあるから、自分たちのギルドハウスに来てもらいたい』とのことだ。
そういえばギルドの様子も見てなかったし、もうすぐゲームが終わるんだとしても一回ぐらいは遊びに行こうと思っていたんだよなー。
今までお話はちょっと聞いてたけど、相談もされなかったし、ずっとうまくいっている風だったから心配してなかったのよね。
モモちゃんたちのギルドハウスは、ヴァンフォーレストの海側にあるようだった。
徒歩で10分少々。
「こっちこっちー」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながらこちらに手を振るのは、とてもとても可愛い褐色ロリ。モモちゃんとても可愛いです。
ギルドハウスの前でお出迎えしてくれました。
きょうはツインテールなのね。いいよいいよ、そういうの好きよおねえさん。
ルビアと違って全然あざとくない。ふしぎ。
頭の上の大きなリボンも揺れて、わたしを手招きしているようです。飛び跳ね可愛い。
「ごめんごめん、待った?」
「え? ううん、全然……あ、ううん! 今来た、今来たところだよ!」
「え? そう?」
なぜか顔を赤らめて言い直すモモちゃん。
ギルドハウスで待っててくれたはずなのに、今来たとは一体……
わからない。時々この子がわからない。
そんなことも露知らず。
「はい、おねえさんこれ、ギルドパスだよ」
モモちゃんはラブレターでも渡すように、手紙のようなものを突き出してくる。
ピンクの便箋がとってもラブリー。
「うん、サンキュー」
これがギルドハウスへの行き来を可能にするパスポートというわけですね。
アイテムバッグにしまい、モモちゃんに誘われるまま扉をくぐる。
彼女の新たな居場所に足を踏み入れます。ドキドキ。
おお、ハウスの規模が大きい。
メンバー10名越えているから二階もあるみたいだ。
でもそれよりも目についたのは、調度品の数々。
うーん、さすがはクラフターの集まり。内装は<キングダム>と比べても遜色ない豪華さだ。
机も椅子も壁紙もカーテンも絨毯もなにもかも全部ハンドメイドなんだろうなー。
とっても素敵。こういうところに住みたいわぁ……
内観に見とれていると、えへへ、とモモちゃんが隣で笑っています。
「ようこそ、ギルド<虹色工房>へ」
若干得意げなその笑みは、どこか誇らしそうで。
「いい名前だね」
わたしが褒めると、さらに頬を赤く染めた。
こんなにちっちゃいのに、もう立派なギルドマスターさんだね。
嬉しいような寂しいような。うん、ちょっと複雑です、おねーさん。
モモちゃんは頬に手を当てて中に呼びかける。
「みんなー! おねえさんが来てくれたよー!」
すると続々とギルドメンバーが集まって来ました。
わ、わ、みんなちっちゃくて可愛い!
「おねえさんー」「おねえさんだー!」「わーいわーい」「こんにちはー、いいところでしょー」「おねえさん結婚してー」「ここめっちゃ居心地いいぞ」「おねえさんー」
なんかお茶とか運んできてくれるし、白雪姫と七人の小人みたい!
わたしは白刃姫だって? 一文字違いで大違いですね。
どの子も楽しくやっているみたいで、良かった良かった。おねーさん嬉しいよ。
「それでね、きょうはモモたちからおねえさんにプレゼントがあるの!」
「あらまあ」
一瞬だけ、ホントに一瞬だけなんだけどね。
このエロ厨房ならこれだけ多くの子が見ている前でも『ぷ、プレゼントはね……モモ、だよ♡』とか言って服を脱ぎだしそうだなあ、とか思ってしまったよ。
そんな妄想をしていると。
「実は、みんなでおねえさんたちの戦いに役立つように、色んな装備を作ったんだよ。使ってくれると嬉しいなあ!」
ピカピカの眩しい笑顔。
うっ……こんな美少女を前にわたしは、なんてみだらな想像を……
心が汚れているのはわたしだった……!
わたしたちがラスボスに挑むというのは、モモちゃんたちの耳にも届いているようだ。
そりゃそうか、クラフターともなれば世間の動向には詳しくないといけないもんね。
で、きっとモモちゃんも噂を聞きつけてくれたんだろう。
ホンマにええ子や……
モモはテーブルの上に合成品を並べてゆく。
ゴトッ。ガタッ。ゴロゴロ。ゴトゴト。
どんどん出てくるんですけど。
えっ、えっ、一個か二個ぐらいじゃないの!?
春の新作【チェインメイル】フルセット!?
それだけじゃなかった。テーブルの上はあっという間に装備品で埋まってゆく。
わたしの分だけじゃなくてシスの【スケイル装備】。
イオリオの【ローブ一式】。
ルビアはレザー防具を自作しているからというので、軽くて硬い【カイトシールド】。
さらに大量の水薬。ところ狭しと並べられた。
これ全部合わせてどんだけお金かかったの……?
「鎧はほとんど僕が作ったんですよ」
えっへんと胸を張るのは、副マスターのカットくん。
この子は板金師さんでしたか。
いやーすごいけどさー……
「モモ、これ」
思わず真顔に戻ります。
さすがにこれは買い取り切れないよ。水薬8本とはわけが違う。
モモちゃん憧れの女神おねーさまでも無理無理。
するとモモちゃんはわたしの手を握って、静かに首を振った。
「お金なんていらないよ。だっておねえさんが取り返してくれたものだもん」
「いや、だからってさ」
彼女たちが<キングダム>で奴隷のような身分で稼いだお金は、返還された。
確かにそれを頼んだのはわたしだが、結局はレスターの勇断だ。
だからいくらなんでも、こんな高額のアイテムをタダでもらうわけにはいかない。
きちんと相場の代金をお支払いしないと。
一向に受け取ろうとしないわたしの手を、モモちゃんが引く。
「え、なになに?」
立って立ってと急かされて。
「それとね、それとね」
わたしはモモちゃんの部屋に連れ込まれる。
え、体で払えって? それだとちょっと条例に引っかかっちゃうんだけど……
「それでね、これもなんだよ」
違ったようだ。
ふたりっきりになった彼女は、プレゼントボックスを開くような顔でそれを取り出した。
銀色の衣に色鮮やかな装飾が施された防具だ。
掲げて、わたしの肩に当ててくる。
「4回失敗しちゃったけど、最後の1回がうまくいったから、その、おねえさんの分しかできなかったけど、新作防具なんだよ。【ブリガンダイン】っていうんだ」
ファンタジーではお馴染みの防具だ。
作品によって扱いは違うが――恐らく『666』でのカテゴリーは外套なのだろう。とにかく美麗で、高貴だった。
思わず見惚れてしまった。
「うわー……かっこいい」
きっとわたしが戦闘中に身に着けている【髪の羽飾り】と、非常によく似合うだろう。
っていうか、すごいよこれ。
ゲーム開始時から延々と制作に没頭し続けてきたクラフター集団が、1/5の確率で作り出した一品だよ。
現時点でこのドミティアに一体いくつ存在しているのもわからない。
防御性能だって頭ひとつ抜けているだろうし……
とても値段なんて付けられないんじゃないかな。
「おねえさんにとっても似合うと思って」
「いやーさすがにこれは……」
厚意は嬉しいけれど。
こんなの有り金どころか、持ち物全部置いてっても、全然釣り合わないでしょう。
わたしが難色を示していると、モモちゃんは頬を膨らませる。
「もう、おねえさん……これ以上言うと、さすがにモモも怒っちゃうよ」
彼女は目尻を指で吊り上げながらそんなことを言う。
この子に怒られるのはやだなあ。
いつまでも可愛くて優しいモモちゃんでいてほしいし。
「あんまりわがまま言っちゃだめなんだからね、おねえさん」
そっか、この場合わたしが身勝手なのか……
モモちゃんの頭を撫でる。
彼女はまだ、わたしを警戒しているようだったが。
「……わかった。ありがたくちょうだいするよ、モモちゃん」
そう告げると、緊張を解いて笑顔を見せてくれた。
「わぁい」
わたしが困ったように髪をいじると、彼女は手放しで喜んでいた。
「もらってくれてありがと、おねえさん」
おかしいね。
贈り物をしたモモちゃんのほうがよっぽど嬉しそうだ。
「ずっと街の中にいたから、やっぱりおねえさんと一緒に戦うことはできないけど……」
うん、クラフターが楽しかったのね。
それはとても良いことなのよ。だってキミにはキミの物語があるんだから。
でもこうやって、キミの道とわたしの道が交差するときもある。
だから面白いのよね。MMOっていうのは。
モモちゃんは目を伏せて、それから再びわたしを見つめる。
「ねえ、これでモモも、ようやくおねえさんの力になれたかな」
モモちゃんがわたしを見つめる瞳は、本当にキラキラしていて。くすぐったい。
その純粋な眼差しを浴びて、わたしは思い出す。
今や心の汚れきったルルシィールさんが、初めてネットゲームで遊んだときの記憶だ。
今まで色んなMMORPGを経験してきたけど、あれだけは絶対に忘れない、色褪せることのない思い出。
ニュービー(初心者)だったわたしを導いてくれた人がいた。
右も左もわからないようなわたしを、面倒がらずに色々と教えてくれた先生みたいな人。
本職は戦士だったはずだけど、魔法もかなり高位のものを扱っていた。なんでも知っているし、わたしにもとっても親切にしてくれた。
礼儀も知らなかったようながきんちょに、ネットゲームの作法も教えてくださったね。
当時、攻略情報も何もしらなかったわたしは、その人ならなんだってできるのだろうと思っていた。だって、わたしが困っていたことはなんでも解決してくれたんだもの。
本当に、物語の中の勇者のような人だった。
でもわたしときたら、その後ろにおっかなびっくりくっついていくばかりでね。まるで役に立てなかったし。
……悔しかったなあ。
でも、あの人がいなければ、今のわたしはなかったんだと思う。
こんなにネットゲームにハマることもなかったかも。
それぐらい、大切な出会いだったんだけど。
わたしがちょっとずつ強くなっていくうちに、その人は徐々に姿を見せなくなっていった。
もしいつか、あの人が困ったときには力になれるようにって、結構がむしゃらに頑張ってったんだけどね。
結局、その人と会うことはほとんどなくなっちゃってさ。
そのうちその人は姿を見かけなくなり、わたしはなにも報いることができないまま二度と会うこともなくなっちゃって。
今頃どうしているのかななんて、ひとりでいると考えたりもして。
声をかけられれば嬉しくて、一緒に冒険すると誇らしくて、足を引っ張らないかとひどく緊張して、それでも少しでも成長した姿を見てほしくて、さ。
ここまで育ててくれた、お礼がしたくて。
「ありがとうございます」って言いたくて。
決してうぬぼれているわけではないけれども。
モモちゃんの熱を帯びた視線は、あの人を見るあの頃のわたしのようだね。
わたしもこの子の特別な存在になれたなら、嬉しいな。
物語の中の勇者のような人だって、思ってもらえているかな。
だったらさ、わたしは彼女の期待に答えなければならないね。
あの人がそうしていたように、ね。
だから。
「ありがとう。悪い神さまなんて、蹴散らしてくるからね」
わたしはモモに笑いかける
「……うんっ。おねえさんなら、イチコロだよっ」
カッコ悪いところ、見せられないね。




