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ルルシィ・ズ・ウェブログ  作者: イサギの人
第三章 北伐のゲオルギウス編
31/60

◆◆ 23日目 ◆◆卍 その1

 

 第三次北伐。

 まあ仰々しい作戦名がついているけど、遺跡が北にあるからってだけなんですけどね。

 にしても行軍が徒歩ってなんかなあ……ちょっと雰囲気出ないよなあ。

 馬車とか、戦車チャリオットとか、そういうので行きたいなあ。

 

<キングダム>の精鋭は60名弱。

 わたしたちはその左翼の後方で固まって歩いています。


 モンスターとエンカウントしても前のほうが一瞬でSATUGAIしてしまうのでつまんなーい。

 せっかくの未知のエリアなのに、探索できないなんてー。

 くー。

 これだから団体行動はっ!


 ヴァンフォーレストを北に歩くこと、すでに四時間。


 慣れない道でも全然疲れないのは、さすが冒険者の体……って思うけどさー。

【ベルーラ段丘】を抜けた先。【メトリカトルの高地】が目的地なのだが、まだ結構かかるみたい。

 景色は色鮮やか。見たこともない木々の合間を縫って歩いたり、大きな湖を迂回して行ったり、

 急な山道を登ったり、すごく冒険しているんだなあって気がします。

 途中、いくつか小規模な村があったりクエスト発注者がいたりしたのに、道草しちゃだめなんて……

 新手の拷問か……!





「しっかしなー。いざ『666』から脱出できるって言われると、ちょっと惜しい気もするよなー」


 進軍中、シスくんが脳天気にそんなことを言い出した。


「色々あったけど、滅多にできない経験でしたからねぇ~」


 ルビアも同意。

 なんとものんびりしてて危機感の足りていないふたりである。


 実際、MMOに人が閉じ込められることによる被害というのは、どういうものなのだろうか。

 わたしは考えてみた。


 ひとつは“時間的被害”だ。

 拘留期間によって失われた青春の時は帰ってこない。

 わたしとかルビアは座敷犬並に暇を持て余している大学生なので構わないが、

 モモちゃんなんか中学生の貴重な何ヶ月かが過ぎ去ってしまうのは、非常に惜しい。


 あるいは社会人の時間が奪われることは、そのままそっくり労働時間が消えてしまうわけで。立ち回らなくなる部署も出てくるかもしれない。

 まったくお客さんがこないからアルバイトがわたししかいないカフェとか。

 ……スミマセン店長。

 しばらくお休みをいただこうとはしましたが、まさか二十日以上もかかるなんて思わなかったんです。


 次に“健康上の問題”だ。

 例えば一人暮らしだったら、誰にも発見してもらえずに衰弱死してしまう可能性もあるのではないだろうか?


 実は今までなるべく考えないようにしていたのは、わたしもそれに当てはまるからで。

 何日も大学を休んでいるから、不審に思った誰かが来てくれているかもしれないけど……


 魂戻ったら肉体なかったらどうしよう。


 あるいは持病持ちで、毎日お薬を服用しなきゃいけない人とか命の危機かもしれないし。

 あと生理現象については言及したくないな……

 ……一応オンナノコのブログですしコレ……


 レスターの話では、ゲームに閉じ込められた人はまるで人形のようになってしまうだけで、

 実際には生命活動を継続させる程度のことはできるみたいだけど。


 でもそれってあくまでも『レッド・ドラゴン』の話でしょ。

 前回のケースと今回のケースが同一のものとは限らないし。


 つまりは、現実の時間経過がどうなっているかわからないけど、

 一日でも早くこの世界を脱出するに越したことはないんだよね。

 アタリマエの話です。

 シスもルビアもそれを前提としてわかっているからこそ、名残惜しいセリフを吐くのでしょう。

 




「そういや、ルルシィール女史よ」


 進軍中、レスターがこちらに歩み寄ってくる。背が高いからすぐわかります。

 漆黒のプレートアーマーを難なく着込んでいることから、よっぽどVITに特化しているのだろう。

 見た目的に威圧感がすごい。いや、悪い人じゃないってのは知っているけど……


「どーしたの?」

「いや、お前んとこのギルドは四人なんだよな。一応フルパーティーにしときてーんだが」

「ああ、そういう」


 ピンと来た。

 レスターくんも恐らく効率厨なのだろう。同じ効率を追い求めるもの同士、なんとなく通じ合うものがあるのです。

 完全に同類の匂いがします。


「今回戦闘メインだもんね、了解」

「話が早ぇな」


 というわけで、ギルドマスター同士の相談は一瞬でおしまい。

 知らない人はルビアが人見知りしちゃうから気が進まないけど、まあ仕方ないね。


「っつーわけで俺が選んどいたからな。おい、来いシノビ」


 彼が手招きすると、ドロンと現れる覆面男。


「お初にお目にかかる……でござる」


 に 、 ニ ン ジ ャ だ ー ! ! 


 アイエエエ!! ニンジ――ってこのネタ昨日使ったー!

 いやそんなことより、なにこのヒューマン。マジでニンジャすぎる。


 顔を布で覆って、さらに上も下も道着みたいなニンジャスタイル……

 どこにそんな防具売っていたの……クラフトで? わざわざ作ったの? 自作なの?

 背はわたしとルビアの間ぐらいだけど、ゼンッゼン気配がないし……!


 武器は短剣二刀流!? 投げナイフ完備!?

 すごい、テンションあがる!

 かかかかかかかっこいい……


「名前はヨギリ。こんなふざけたナリだが、《探知》系のスキルを高めた優秀なローグだ。

 シノビ、ちゃんと仕えろよ」


 レスターの指示にヨギリは小さくうなずく。


「合点承知の助」


 それなんか違うんじゃないか?

 いや、まあいいか……

 面白い人だ……(ワクワク)





 五名でひとつの“パーティー”。

 それが三つ集まって“ファランクス”。

 ファランクスが三つ集まると総勢45名の“インペリアル”と呼ばれます。

 今回の討伐ではレスター率いるフルインペリアルと、ドリエさん要するサポートのファランクス部隊。

 さらにわたしたち<ウェブログ>の1パーティーが参戦しています。


 ここまで大規模な戦いは、<キングダム>でも初めてだそうで、指揮するレスターの声にも力がこもっています。


 その一軍の端っこでわたしたち。

 ヨギリさんにちょっかいを出して遊んでます(主にわたしが)。


「ヨギリさんは本当に忍者なんですか?」


 彼はこちらを見ず、くぐもった声で返してくる。


「ニンジャです」


 その返しを聞いてシスがはしゃぐ。


「すげえ、本物の忍者だ!」 


 忍者が自ら『ニンジャです』と言うかどうかはさておき……

 お、面白い……


「本物のニンジャだったらカラテも使えるんですよね!?」


 とわたしが迫ると、彼は「えっ」っていう顔をする(目しか見えないけど)


「まさか知らないんですか……? じゃあアイキドーは? ジュー・ジツは!?」

「し、知らない……でござる」


 なんてこと! ショッギョ・ムッジョ!


「マスター、ヨギリさんが困っているだろ……」


 やれやれという風に口を挟んでくるのはイオリオ。

 ひとりだけ常識人ぶっちゃって!

 こんな見事なロールプレイを前にテンションあがらないなんてどうかしてるぜ!


「よし、じゃあマスターたるわたしが、ニンジャについての心を教えてあげようじゃないか……うふふ」

「なんとまことか……」


 ヨギリさんは目を輝かせて、こくこくとうなずく。


「お、お願いするでござる、ルルシィール……殿」

「違うよ! 人の名前を呼ぶときには、名前のあとに『=サン』をつけるんだよ!」

「が、合点承知の助。ルルシ=サン!」


 そう、いいよいいよ! 奥ゆかしい!


「ヨーシ、ガンバルゾー!」


 ガッツポーズを取るヨギリ。

 はー……た、楽しい。

 わたし忍者ヨギリの組み合わせ、早くも気に入ってしまった……


 盛り上がるわたしたちの横で、ルビアが頭を抱えているのが見えた。


「ああ、また変なお方が……唯一のギルドの良心としてぇ……わたしだけはせめてマトモで……」


 わたしが突っ込むよりも先にイオリオが聞きとがめた。


「おい……マスターとひっくるめないでくれよ」


 えっと。

 これわたし、ふたりに怒ってもいいかな。




 

 さ、ヨギリと一緒に楽しいニンジャスレイヤー講座(そのもの言っちゃった!)を開いていたところで、目的地に到着しました。

 わたし彼と二時間ぐらい喋ってたんだな……


 遺跡はぱっと見はなんだったかわからないような建物です。

 きょうは手前の林で夜を越し、明日の朝早く突入するそうです。

 わー、初めての野宿ー。林間学校みたいー。


 ご飯を作る必要がないのは手軽と言うべきか物足りないと言うべきか。

 アイテムバッグから取り出してポワンッと実体化。


 今夜のディナーはダグリア産サンドイッチ!

 具材は、焼きナスをすり潰してオリーブオイルと混ぜ合わせたペーストと、子羊のこれまたペーストですが、もうおーいしい。

 ダグリア料理店がヴァンフォーレストにできればいいのに!

 つーかわたしガチで出資するのに!

 うちの国はヘルシーすぎるんだよなーちくしょうー。


 というわけで、和気あいあいと食事を済ませた後は、

 いくつかのテントに別れてきょうはおとなしく休む……とでも思っているのか!?

 行軍の疲れなんてなんのその。

 新天地にやってきたんだったら、やることはひとつっしょ。バトルっしょ。

 つーか、これからっしょ!

 



  

 団体行動の反動でのソロプレイ。

 ひとりで勝てるかどうかわからないけどー!

 生と死の狭間がこのわたしを蘇らせ続けるのだ……

 ククク……わたしは夜の住人である……!


 と、厨二病を患っていたところで、深い森の中、敵発見。


 こいつは……おー、オオカミ(ジャイアントウルフ)!

 群れからはぐれているのかたった一匹!

 でかーい。かーっこいー。

 いざ勝負!


「かかってこーい!」 


《タウント》で引きつけると、凄まじい速さで飛びかかってくる。

 うお、早い!

 さらに一撃が重い! なにこれ目に見えて減る!

 やっぱりエリアが変わると敵の強さ全然違いますよねぇ! ちょーこわい!


 牙と爪に翻弄されながらもわたしは刀を振り回す。

 やー、オオカミさんの攻撃リズムがひたすら早いから、《捌き》スキルがガンガンあがりますなあ(顔面蒼白)。


 あれ、もしかしてわたし死ぬんじゃね?

 キャンプ中にオオカミに襲われて死亡とか海外のニュースじゃないんだから……

 ひとりで寺院送りとか嫌だよー!

 一進一退の攻防を繰り広げていたところ、オオカミの後ろの林から人影がヌッと現れます。

 ……が気づいたのは、オオカミを始末したところでした。


 必殺の刃――《爪王牙》はスマッシュヒット。見事オオカミはひっくり返ります。

 ひーひー。

 わたしは息を切らせてしゃがみ込む。

 こんなところでやられてたら、カッコ悪いなんてモンじゃないよね……


「コイツぁヤベえ」


 やってきたのはレスターとドリエさんだった。

 ふたりっきりで行動とか怪しいねチョット……ってそんな邪推している場合じゃない。

 ま、マズイところを見られたか……?

 HPバーを隠したい! 隠したいよぉ!


「お、おやお二方……揃ってデート中ですかしら。おほほ……」


 手のひらを口元に当てて優雅に(見えるといいな!)笑う。

 苦戦? いやいや何のこと?

 わたしはただお花摘みに来ただけですわよ? ほほほ……


 っていうか、レスターが近づいてきた。

 彼は屈んでわたしの目をジッと見つめてくる。

 な、なんすか。あなたの目、悪魔みたいで怖いんですけど。

 彼はニッと笑う。


「なあ、俺とデュエルしねえか?」


 あらまあ……

 色気のないお誘いですこと……

 

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