◇◆ 2日目 ◆◆
決めた。
お金を貯めたら装備よりもなによりも、最初にお布団を買おう。
次に鏡だ。
こんな、なんにもないだだっ広いお部屋……
まったく落ち着かないですの……
このルルシィさんのお顔、とてもおキレイでいらっしゃるから、
お化粧の心配がいらないのは良かったけれど……
うん、お金は貴重だけれど。
ここでこれから過ごすなら、まずはストレスの軽減に務めるべきよ。
この先、どんなことが待っているかわからないんだし。
精神だけはピカピカに保っておきましょう。
節々の痛みに耐えながら起き上がる。
あ、夢から覚めても夢のままでした。
げんじつっ!
というわけで、わたしのクエスト消化+お金稼ぎの一日が始まるのです。
世の中ゼニや! 愛は買えないかもしれないけど、暖かい寝床が買えるんや!
とかなんとかそんな感じで。
いや、愛もコンビニで売っている時代だからな……
とか微妙に古いのはいいとして。
露天で朝ごはんのメープルパンを買い食い。
うん、おいしいおいしい。
食べ物片手にあちこち歩いてね。
明るい街を散策して地理を覚えておきましょー。
これから何日ここで過ごすかわからないからね。
先を見据えて色々と動いてかなくっちゃ。
あれ、なんでこんなにわたし意欲満々なの?
憧れのVRMMO世界だから?
この日のためにシミュレーションを今まで重ねて……
いやいや、さすがにそれはない、それはないです。
危ない危ない。
ルルシィールさん、アブない人疑惑が浮上するところだった。
それにしても、こうして歩いているとね。
二日目なのにわたし、メッチャ馴染んでいるよね。
……わたしって、日本のヴァンフォーレスト市生まれだったっけ?
そういえば地元も森に覆われていたような……
ないです。
都は中央に執政院があり、そこが行政の要らしいんだけど。
まーそのうちにクエストで行くのかなーぐらい。
徒歩で20分ぐらいかかるみたいだから、わざわざ観光には行きませんよー、と。
用がないところには出歩かない。
休日はコンビニにも出たくない。
それがわたし。
ヴァンフォーレストでも絶賛ヒキコモリ中……
執政院の西側に居住区と色んなお店がありまして。
さらに外側には、各種ギルド(魔術師ギルドとか商工ギルドとか)が立ち並んでおります。
さらに右手に見えるのはー。
ヴァンフォーレストのシンボルタワー【プランティベル】でございまーす。
街のどこからでも見上げることのできる建造品ね。
確か灯台を兼ねているとか誰か言っていたような。
あ、もちろんおっしゃっていたのはNPCの方です。
手持ちのお金がわびしいので。
とりあえず街を巡りながら、困っているNPCの方々からお話を聴きこみ調査(クエスト受注)なのです。
おやそこのお嬢さん、なにかお困りで?
レーダーに『!』マークが映っているじゃありませんか。
……困っている人、すっげーわかりやすいね。
べんりだからいいけど。
さて、お話聞きましょう。
このわたし、ルルシィールさんにお話してごらんなさい?
ふんふん。お手紙を届けてほしい、ね。
「見ず知らずの素性も知らない人に頼むのはどうかと思うなあ!」
……。
はい。
NPCに無視されるのもね、段々慣れてきたよ。
とりあえず一番安いけれど、オシャレめな腕防具を購入して。
お外にまいりましょー。
ヴァンフォーレストの周囲は草原になっていて、ずいぶんと見晴らしがいい感じ。
頬を撫でる風が気持ちいいー。
おー、昨日に比べてウサギ狩りの人たち増えたなー。
一晩経ったからね。
結局はこの世界で過ごすしかない、って決意したのかも。
昨日の女の子がいないかなって思ってちょっと気にしてみたけど、見当たらないみたい。
うーん残念。
まあさすがに偶然見かけちゃったりなんてないか。
どこかで立派な主人公になってくれているといいな。
なんてね。
それはそうと。
害獣風情に、みんな苦労しているようだね。
フフ。慣れない武器で、みんなウサギの洗礼を浴びるがいいさ……
昨日のわたしのようにな……!
ヴァンフォーレスト周辺の【ステッピード草原】を少しずつ進んでゆくと、出てくる敵の顔ぶれも変わって来ます。
ハチやらコウモリやら鳥やら。
のんきにね。
辺りを、ふわふわと飛んでいるわけですよ。
となると背後からエリーゼちゃんをお見舞いしてやりたくなるのは人のサガ。
知らないけどきっとそう。
そこにツボがあったら割りたくなるのと一緒ですね。
パワーグローブ……装着。
とかいいつつ手甲を装備。
よし。
それでは。
ヒャッハー!
わたしの路銀となれー!
エリーゼ・ザ・インパクト!(必殺技名)
さすがに一撃とはいかなかったけれど、それでも大体三発ぐらいで弾けていってしまいます。
綺麗な花火だー!
いやーこれ気持ちいいなー。
現実世界で斧振り回してモンスターをぶっ叩くことなんて未だかつてなかったし。
あったら前科持ちだし。
わたし前科持ちじゃないし。
みんな大斧使えばいいのに。
ていうか、なぜかわたし以外に扱っている人ひとりもいない。
……カッコイイのに、斧。
そんなとき、目が合いました。
ここに来て初めて見る。
プロデューサー、人型モンスターですよ、人型モンスター。
あれはファンタジーでお馴染みの亜人種。
そう、オークさんだね。
革鎧を着た体のおっきなお方。
あらまあこんにちは、良い天気ですねー、ってね。
めっちゃこっちに襲いかかってきたけどね。
ひぎゃー!
斧を掲げるけれども、ガードは失敗。横薙ぎの攻撃をまともに食らってしまう。
なにこの豚、強いんだけど豚!
豚のくせに、一発が重い。
いや、豚だからこそと言うべきか……
そんなこと今はどうでもいい。
格上にもほどがあるってばよ。
明らかに装備が間に合ってないし、スキルが足りないし。
やばい逃げるしかない……
でもこういうタイプって。
うわあ、追ってきたー!
振りきれるかなあ! 振りきれるかどうかはゲームによるんだよなあ!
中には、本当に、息の根を止めるまでどこまでも、街の前までも追いかけ続けてくるゲームもあるしなあ!
できればすぐに諦めてくれる、諦めの良いタイプでいてほしいんだけど……!
わたしはグングン逃げる。
オークはドンドン追ってくる。
剣なんて振り回しちゃてあらまあ!
なんだよチクショー!
そんなので人殴るなんてどうかしているぞ!
すっごいビリッするんだよ!
さすがに痛みがそのまま痛みとしてフィードバックされないのは良かったけど。
でも何分の一か、ぐらいの痛みが襲ってくるの。
あと衝撃とかはそのまんまだし、恐怖感はすごいし。
気の弱い子だったら泣いちゃうよこんなの!
そ、そういえば。
今更気づくのもちょっと致命的な感じがしないでもないんだけど。
この世界のデスペナルティ(死亡時の罰)って、どうなっているのかな。
確認してないんだけど!
ていうかNPCに聞いても教えてくれなかったし!
あいつらなんにも役に立たねえ(暴言)。
まさかリアルに……
『死』とかやめてよね!?
ひー!
逃げ続けてさらに気づく。
やばい。
このまま走ってったら……
街のほうでしょ?
ってことは。
わたし逃げる。
→どこかでオーク諦める。
→オークの帰り道に初心者さんがいる。
→オーク初心者を襲う。
→(゜д゜)ウマー
ってなる可能性がある。
そう、ウサギ狩りをしている人たち巻き込んじゃう。
これはれっきとしたMPK(モンスターを利用した殺人)行為だ。
誰かが死んだら、完全にわたしのせいだ。
そんなのはだめ。
人としてだめ。
ううむ……
た、戦うしかないよなあ。
とりあえず振り返って斧を構える。
オークさん近づいてくる。
こわい!
でも現状。
わたしのHPは242/567。一方、オークさんまだ7割残っている。
うん。
……うん(蒼白)。
勝ち目ないね。
悟った。
ざんねん、わたしのぼうけんはここでおわってしまう。
いやいや、でも待てよ。
わたしは覚えているよ。
こんなときのためにあるんじゃないの? あの力。
そう、【ギフト】。
神様がくれた打開の力。
それはジョブの概念がない本作において、キャラクターを個性付ける切り札。
わたしの選んだ【ギフト】は【自己強化】。
一定時間、自らの能力を引き上げるものです。
殲滅ならわたしに任せろー! バリバリ!
攻撃痛い! やめて!
いや、でも、あれ。
これどこで使うの?
やばい。今戦闘中だし。
ログとか見ている余裕がない!
と、そこに掛け声が。
「今助けてやるぜ!」って!
わー!
キャー!
颯爽と姿を現したのは、槍を持つ長身の男性です。
太陽に背を向けて、ちょうかっこいい。
なにこのヒーローっぽい人。
わたし生き延びられそうな気配がするわ……
ルルシィールさん、姫化!
乙女、待望の展開ってやつですか。
す、すてき……
相手の猛攻を、斧で受け止めて耐える。
その隙にヒーローはオークの背中に回りこんで槍を渾身の力で突き刺し――
――ダメージ一桁。
「お、おい! こいつ強くね!?」
oh...my HERO...!!
「強いって! だから追われていたんだって!」
「アカン。俺のパワーが効かねえ……ハッ! ラスボスかコイツ!?」
「ラスボスがスタート地点の隣のエリアでエンカウントするかああああ!」
ひーろーなどいなかった……
神は死んだ……
もうヤケだ。
ちくしょう。
オークを挟み込んで、必死に攻撃を繰り返すわたしたち。
連携なんてなんもないよもう。
それでもじり貧で、わたしたちは瀕死に追い込まれてゆく。
今度は掛け声はなかった。
わたしとヒーロー(偽)の間で赤い光がパッと弾けたと思うと。
直後、オークが悲鳴をあげて動きを止めた。
HPバーがググっと減っている。
こ、これは炎……
なんだか知らないけどチャンスっぽい!
ヒーロー(偽)と目が合う。
おねえさま、あれを使うわ。
ええ、よくってよ、的な。
よし。
わたしたちは思いっきり獲物を振りかぶる。
渾身の力で、振り下ろす!
斧と槍が交差し。
ダァンと小気味良い音とともに、火花が散った。
それはオークのHPを最後の1ミリまで削りきり。
オークは断末魔とともに崩れ落ちた。
勝利!
第二日目・完!
「やったー!」と、わたしたちは思わずハイタッチを交わした。
すると、木陰からひとりの男性がこちらへとやってくる。
「相手を見てからケンカを売れよ、シス……」
耳が尖っている、エルフの魔術師さん。
ヒ ー ロ ー ( 真 ) だ !
「助けてくれてありがとうございます」
深々とお辞儀する。
槍使いで黒髪の【ヒューマン】はシス。
さらっさらの金髪ロングでまさに王子様!といった風貌の【エルフ】は、イオリオと仰りました。
ふたりがいなかったら完全に死んでたよもうー。
あー怖かったー!
「でもすごいですね。わたし、魔術って初めて見ました」
憧れの眼差しで見やる。
イオリオさんは頬をかき、視線を逸らす。
「……まだまだ勉強中だがな」
おくゆかしい!
「いやーははは、颯爽と助けるつもりがなあ」とシスくん。
恥ずかしそうだ。
この子は何だか年下っぽい。
でもわたしの恩人には変わりないからね。
「あはは、存分に助かったってば」
「なら良かった」
「ていうか槍もいいね! かっこいい!」
「お、そうだろ?」
というと、シスくんは急に得意げな顔になって。
「戦士として、全部の武器を極めようと思ってな」
「なにそれすごい!」
手を叩いて笑うと、シスくんは嬉しそうだ。
というか、一日ぶりにプレイヤーと話せてわたしも嬉しい。
会話をスルーされないって、すてき。
HPを回復させている間に。
わたしは情報交換をすることにしました。
「ところで、キミたちもこの世界に来たのって昨日?」
この世界についてはまだまだわからないことだらけだしね。
「ああ。『666』をダウンロードし終わったのが、午後17時ぐらいだったかな?」
「そんなもんだな」
シスくんの言葉に、イオリオがうなずく。
「あ、やっぱり元々の知り合いなんだ」
ついつい口から出たその言葉に。
「おう、同じガッコよ」
シスくんは個人情報を隠そうともせず、ぶっちゃけてくる。
ってその言い方だと……
えっ、ふたりって同い年!?
マジで!?
イオリオさん、明らかに二十代にしか見えないんですけど!
動揺をわたしは完璧なポーカーフェイスで押し隠し……
「わかるわかる。コイツの落ち着きっぷりったら、マジでオッサンの領域だし」
あれー。
「ほっとけ」とイオリオ……くん。
いや、そっか。
少なくとも高校生か……
しっかりしているなー……
おねーさん年を感じちゃうなー……
って、たそがれている場合じゃない。
「わたしがこの世界に来たのは14時ぐらい……だった気がする」
だとしたら、入ってきた時間は関係ないのかな。
「俺とイオリオは、昨日すぐに再会できたから、色々話してたんだけどさ」
あぐらをかいたまま、シスくんが話す。
「ここは完全に“ゲームの中”なんじゃねーかってさ」
ほうほう。
「それって?」
アイテムバッグから日記を取り出すわたし。
完全にインタビュー態勢である。
「えーと、つまり……イオリオ、タッチ」
「はいはい」
説明を委ねられたイオリオ。
空に指で文字を書くようにしながら。
「僕が見ていた限り、チュートリアルクエストの木製装備には、“品切れ”の概念がないようなんだ」
ピンときた。
「あ、なるほど。あれだけの人数が押しかけていったのに、
まだまだ装備が眠っていたもんね」
「ああ。飾られているのは全てオブジェクト(飾り)だろうな。
次から次へと武器が湧き出てくるような魔法の道具があるなら話は別だが……」
うーん。
……まあ、ないとは言い切れない、かなあ。
異世界だとしたら、ね。
イオリオくんは野のウサギを眺めながら。
「死体の残らないモンスター。やつらはどこからともなく復活する。
さらに排泄を必要としない僕たちの体は、生物として明らかに不自然だ。
いつでも出来たての食事を売る道具屋。
他にもまだまだ材料はあるが……つまり、ここは異世界じゃない」
「へー……」
感心する。
たった一日でそんなにものを考えているだなんて。
でも。
「まあ、明らかにゲームの世界だよね。メニュー画面とかあるし」
わたしがそう言うと、イオリオくんが黙りこんでしまいました。
シスくんは「そりゃーそーだ」と大笑い。
あ、あれ。
悪いこと言ったかな。
ミもフタもなかった?
イオリオくんは咳払いする。
「……というわけで、ここがゲームの世界なら、悩むだけ無駄だ」
「え、そうなの?」
「何者かが僕たちを引きずり込み、何者かが千人以上のプレイヤーをゲームの世界に閉じ込めた。
ただ、僕たちに今それを突き止める手段はない」
うん、確かに。
「恐らく世界を回れば手がかりもあるのだろうけれど、ゲームを始めたばかりの僕たちは実力不足だ。
ならば今はせめて【スキル】を高めるしかない、というのが僕たちの話し合った結論だ」
「とかいって」
シスくんが後頭部に手を当てて笑う。
「色々理屈で言っているけど、イオリオだって『666』で遊びたくて仕方ねーんだよな。
憧れのファンタジーの冒険だぜ? 胸が高鳴らないなら男じゃねー!」
拳を突き上げるシスくん。
……清々しい!
なにこの子、気に入った。
うちに来てわたしの妹を(以下略)
すみません、わたしに妹なんていません。
妹みたいな後輩だけです。
イオリオくんは呆れたように顎をさする。
「僕はそんな単純な行動原理で動いているわけじゃない。この世界のことがもっと知りたいんだ」
「わかったわかった、そういうことにしといてやらぁ。な、イオリオ」
シスくんは彼の肩をポンポンと叩く。
が、イオリオくんは表情を変えない。
ポーカーフェイスな方みたいだけど……
否定しないってことは案外的を射ているのかも。
でも、なるほどなー。
今はとにかくなにかあったときに対処できるように、『666』で遊んで強くなるしかないのかあ。
そっかぁ、残念だなあ。
“思いっきり遊ぶことしかできない”なんて、辛いわー。
遊ぶのだいっきらいなんだけどなー。
今すぐ脱出したくて脱出したくてどうしようもないんだけどなー。
でもそれしかできないって言うんだったら、仕方ないかー。
辛いわー(笑顔)。
となると、ですよ。
明らかにひとりで狩るよりも、パーティーを組んで戦ったほうが効率がいいわけでして、ね……?
つまり、うん。
話してみた結果、悪い人じゃないんだろうなって思ったし。
昨日の反省を生かして、わたしは勇気を出してみることにした。
さすがにちょっとだけ緊張しながら原っぱに正座して……
「ねえねえ、ふたりとも」
シスくんとイオリオくんに。
「もし良かったら、その、パーティー組まない?」
なんて聞いてみたり!
ぎゃ、逆ナン。
はしたない……
大和撫子のすることじゃないけれど……
で、でも、ネットゲームは出会いっていうし!
結構な勇気を出したんですがね!
ふたりは「おー」「いいよ」って!
軽ぅ!
「いいの!? こんな得体の知れないやつをホイホイ、パーティーに加えちゃって!?」
「得体が知れないのか……?」
怪訝そうにシス少年。
「ある日突然裏切って、とても大切なクリスタルとか奪い去ってゆくかもよ!?」
「それはぜひとも、しょうきに戻ってほしいものだが……」
嫌そうにイオリオくん。
ふたりは顔を見合わせて、首をひねる。
キョドるわたしに温かい言葉。
「だって別に、そんな危険人物にも見えないし」
「ああ。断る理由もない」
なんとまあ。
おねーさん感激しちゃう。
ふたり、ひょっとして聖人なのかしら。
抱きつくまではいかなかったものの、わたしは「ありがとー!」とふたりの手を握ってしまった。
そのときのふたりの顔。
うん、かなり引いてたよね。
わかっている。わたしだって自分を見たら、ウザいと思う……
パーティーが三人になりました!
>前衛:ルルシィール(斧使い)
>前衛:シス(槍使い)
>後衛:イオリオ(魔術師)
安定感、ぱない。
いやっほーぅ!
というわけでわたしたちはヴァンフォーレストに戻って、クエストを受け直すことに。
【手紙配達】から【汚れた毛皮集め】、さらに【オーク退治】なんてのもね。
正直、三人で組んでいたらなにも怖いものはなかったし、誰にも負ける気はしない。
単純!
シスくんが片手槍と盾に持ち替えて敵を引きつけ、わたしが後ろから大斧を落とし、離れたところからイオリオくんが【火の矢】を撃ち出す。
その連携はまさに太陽系銀河的なパーティーであって、ことごとく敵を殲滅してゆくのだ!
平原は死の国と化す!
オークも楽々と倒せるようになって(意外と行動パターンが少なかった)、わたしたちは意気揚々と凱旋したのです。
イオリオくんすらテンションがあがって「面白いな、このゲーム!」とか叫んでいた辺り、可愛らしいことで。
ええ、若いっていいよねー……
辺りが暗くなってきたところで、きょうの狩りはお開き。
「いやー楽しかった」
完全に脱出する目的も忘れて、ゲームを満喫しているわたしがいました。
だ、だって強くならないとあちこち冒険できないし……(震え声)
っていうか、シスくんもイオリオくんも疲労感と満足感の混ざり合った笑みを浮かべて賛同してくれたし。
あ、収穫品は均等に三等分なのですよ。
「きょうはありがとうね、ふたりとも」
仲間に入れてくれて、とお礼を述べる。
すると、ふたりはピッピとメニューを操作し出して……
え、NPC化……!?
違ったようです。
「よし、じゃあフレンド登録しようぜ、ルルシィールさん」
なんと。
ログを確認すると。
わたしのメニューの【フレンドデータ】が点滅しているじゃありませんか。
「登録しておくと、相手がどこにいても通信が送れるんだよ」
と、リストにシスくんの名前が浮かぶ。
それを選ぶと【コール】のメニューが表示される。恐る恐るたっち。
『はい、こちらシス』と、耳元に声が!
なにこれ便利!
「文字チャットも送れるからな」
付言するイオリオくん。すげー。
電話代とか、かからない? パケット使い放題?
「って、ってことは……ま、また今度、よろしくお願いします?」
「おう」
「ああ、また遊ぼうぜ」
さ、爽やか……!
なんだこいつら、天使か!?
小生意気じゃないのに……
うー、いいなあ。
仲間って良いなあ……!
と、メニューと彼らを見比べていると、わたしはそこで【サーチ】の項目に気づく。
そういや今まで試したことはなかったけど……
もしかしてこれで瑞穂を見つけられるんじゃない?
ワールドサーチ機能は、ほとんどのネットゲームに導入されている馴染み深いシステムだ。
だが、その詳細はMMOによって微妙に異なる。
一度入ったエリアだけはサーチできるもの。
どこの場所でもサーチできるが、人数しかわからないもの。
フレンド登録をしたキャラの居場所だけがわかるもの。
多種多様だ。
ちなみに『666』のサーチ機能は、というと……
①現在いるエリア > サーチ可能 > 人数+キャラクターネーム+種族
②フレンド登録相手 > サーチ可能 > 現在地のみ
③一度入ったエリア > サーチ可能 > 人数のみ
④未到達エリア > サーチ不可能
ということらしい。
なるほど。
ならば、始めた時期が一緒なんだから。
わたしはヴァンフォーレストにいる瑞穂を、このサーチ機能を使って探し当てることができる、ということだ。
だけど。
う、わたしあの子のキャラクターネーム知らない……
わたしはどのゲームでも『ルルシィール』とつけている。
これがわたしのネットの名前、的な。
ハンドルネームとも言うかな。
こういう人は多いと思う。
どのゲームでも固定の名前。
悩む必要もないしね。
推測だけれど、シスくんとイオリオくんもそうだと思う。
だからふたりは早くも合流することができたんだろう。
だけど瑞穂の名付け方は特殊だ。
あの子はその時の気分でつける。
あるときはマリー。あるときはスカーレット。あるときはキャンディー。
あまりひねった名前はつけない。
女の子らしい響きの名前が好き。
それぐらいだ。
こんなことなら、瑞穂のキャラクターネームを聞いておけばよかった。
ダメ元でサーチを実行してみる。
今このヴァンフォーレストに滞在しているプレイヤーの名前が、ずらっと表示されてゆく。
全世界で何人が閉じ込められているのかはわからないが。
都周辺にはどうやら1000人近くが滞在しているようだ。
1000人の中からひとりを絞る?
無茶だわ……
絞り込もう。
まず、性別は女性。
これで残り300人
次に、あの子は必ず【ヒューマン】を選ぶ。
お姫様好きの、そういう子だ。
エルフもちょっと怪しかったけれど……まあ、今は良い。
これで残りは200人。
この200人の中から、瑞穂がつけそうな名前を推測しなければならない。
アンナ、ビビット、ヨギリ、ファルマ、バズ、
ディエーア、パイナップル、ニミー、ペロンチョ……
数々の名前をスクロールさせて。
わたしの目は、ついにひとつの名前を捉えた。
『ルビア』
これだ。
それはもう、最終的には直感だったんだけれど。
あの子ならきっと、これを選ぶ、はずだ。
短い付き合いではないのだ。
「うん、ありがとうね、シスくん、イオリオくん!」
わたしは顔をあげた。
ふたりとも、しばらく固まっていたわたしを心配そうに見つめていたけれど。
「……どうかしたか?」
訝しげに尋ねるイオリオくんに。
わたしはニコッと笑った。
「次に会うときは、わたしの大切な後輩を紹介するね! ばいばい!」
ふたりへの挨拶もそこそこに。
わたしは駆け出す。
彼女はこの街にいる。
ヴァンフォーレストのどこかに、いるのだ。
外周を走れば一時間。
乱雑に立ち並んだ民家やギルドの間を走り回る。
『666』の人探しはまだ簡単だ。
視界の左上に常にレーダーが表示されているのだ。
そこを見れば、人の気配はすぐにわかる。
多分ステルス技能とかなんかで、隠れられるんだろうけれど。
あの子がそんな小技の効いたスキルを覚えているはずがない。
ルルシィさんの体は頑丈だ。
どんなに走り回っても、足は痛くならない。
呼吸は苦しいけれど、それだけだ。
スタミナだって、休めばすぐに回復する。
あと必要なのは根気と根性。
あんまり自信はないけれど。
まああの子に会えるなら、ちょっとは我慢してあげるさ。
中央区にはいないでしょう。
港区もとりあえず後回し。
探すべきは居住区のある西区だ。
汗だくになって、わたしは駆けずり回ってさ。
二時間ぐらいかな。
屋敷の軒先に体育座りをしていた少女を見つけ出した。
彼女は退屈そうに、あくびを噛み殺していた。
特徴的なピンク色の髪をツインテールに結んでいる。
まるで中学生のような背丈の小柄な美少女。
半透明のウィンドウを呼び出して、彼女の名前を確認。
――ルビア。
ビンゴ。
あー、もう、疲れた。
手間取らせやがって、この。
自分はずいぶんとのんきなもんじゃないの。
口元に手を添えて、叫ぶ。
「みずほー! とっとと帰るわよー!」
ハッ、として。
彼女は顔をあげた。
その目はまん丸。
だが、徐々に喜びに染まってゆく。
立ち上がった彼女は、まるで親を見つけた幼児のようで。
こちらに向かって全力でダイブしてきやがった。
「 せ 、 先 輩 ぃ ~ ~ ~ ! 」
うわっと、っと。
わたしは抱きついてきた彼女を、ひしと受け止めた。
というか。
うっわ、軽ぅ。
わたしの一年下の後輩は、ずいぶんと若返ってしまったようだ。
ちょっと羨ましい。
……わたしもロリっ娘にすればよかったかな。
なんてことを思ったり。