◆◆ 19日目 ◆★●
ようやくノーマルネーム! わたしは真人間に戻ったぞー!
きょうはやること目白押しです。
まずは牙の村長に話しかけて、クエスト遂行を伝えます。
すると彼は彼でわたしたちに報酬の銀貨とスキル経験値をくださいました。
イェイ。
これでギヌの村でやることはほぼ終了。
荷物をまとめてダグリアへ向かいまーす。
その途中、【爪王の砦】で入手したアイテムの説明でもいたしましょう。
雑魚から入手した武具防具は(一部のチェインを除いて)、大体シスの懐に入りました。
彼は「店売りよりつえーじゃん!」ってとっても喜んでいましたが……
小手がスケイル、胴がプレート、下半身はリングメイル……
という風に、防御力と反比例して見た目がかなり残念な感じになってます……
ああ、統一感がない……
個人的にはあのファッション、かなり許せないんだけど、
でもシスくんが幸せそうだからいいっか……
その他、彼らが飼っていた獣の皮は言うまでもなく、ロリ妖怪皮置いてけに。
ヌールスンの魔術師が溜め込んでいた触媒は9割イオリオで、残りをわたし(風)とルビア(水)で分け合いました。
射手の持っていた矢などはモモちゃんへ。
あと用途不明のクラフトワークスの素材と思しきものもまとめて彼女行きです。
モモちゃんはアイテムを取り出しては「どんな使い方するのかなぁ……」ってキラキラした瞳で眺めていました。
純真無垢を具現化した少女のようだ。
「そこらへんのガラクタも売ればまぁまぁのお金になるんじゃないですかぁー?」とか、
のうのうと言っていたルビアが忘れた心を持っている……
で、肝心の爪王ザガさんのドロップアイテム。
身のこなし関係のスキル値(体術・跳躍・ダッシュ)にボーナスを得る腕輪【爪王の腕飾り】。
さらに彼がつけていた頭装備【族長の冠】です。
こちらは《戦術》スキルと、《指揮》。
さらになんと《ギルドマスター》スキルにプラス補正がかかるようです。
《ギルドマスター》スキルって何!?
具体的に何がどうなるの!?
わたしの謎は誰からも答えをもらえません。
とゆーわけで、腕飾りはシスくんへ。
これで彼の混沌とした格好に拍車がかかるでしょう。
で、冠は……
うん、満場一致でわたしに送られました。
ていうかその三つのスキルを鍛えているのわたししかいなかったみたいでね。
装着してみると体の奥から未知のパワーがみなぎる……という展開には別にならず。
なんにも実感しないし……
代わりに、
「あ、でもカッコイイですよぉ」と<ウェブログ>のファッションリーダー・ルビアからお墨付きをいただきました。
冠っていうか、これも羽飾りだね。
常時持ち歩いている手鏡を取り出して、角度を変えて眺めてみる。
んー、インディアンみたいな冠を想像してみたけど、実際つけてみると……
「おねえさん、まるでヴァルキリーさんみたい……き、きれい……!」
そうそう、そんな感
北欧神話で有名なあの方ね。
額当てとその横から羽飾りが飛び出していてね。
かなり高貴な感じがするねコレ。
例によって受け渡し不可能なレアアイテムなので、男性がつけるとどんな感じになるのかは見れずじまいです。
「おねえさんが、女神おねえさんから戦乙女おねえさんに……!」
……それパワーアップしているのかな。
まあ、【自己強化】の使い手を引き連れるってことなら、間違ってないのかもね。
「むむむ……先輩ばっかりキレイになっちゃって……
そんなにオシャレなら、わたしもほしいって言うんでしたぁ……!」
ルビアはなんか指をくわえてました。
いや、そういう(着せ替え)ゲームじゃないから、コレ。
お喋りをしていたら、あっという間にダグリア到着。
ヴァンフォーレスト領事館で爪王ザガの密書を渡すと、
彼と繋がっているダグリア貴族の名が芋づる式に出てきた模様。
これで反ヴァンフォーレスト派の勢力を一掃できる!
とか貴族の方が息巻いていましたが、そこから先はわたしたちのお仕事じゃないのでパース。
あとの顛末はヴァンフォーレストに戻ってから手紙で届けてくれるらしいので、<ウェブログ>はこれにてドロンいたします。
とゆーわけで、我らパーティーは船の時間まで自由行動でーす。
特にイオリオなんかはダグリアに来て全然観光できてないしね。
たっぷり楽しんでくださいな。
あ、わたしも愛しのダグリア料理いっぱい買い込んでおこうっと。
しばらく来れなくなっちゃうもんね。
シスくんの過ごし方。
ひたすら武器屋を巡って、装備を見定め続ける。
放っておけば丸一日でもそうしている気がする……
そのうち《鍛冶》をあげて、自分で武器を製作するんじゃなかろうか。
それでいて出来にめちゃめちゃこだわって、気難しい陶芸家みたいになりそうだ……
イオリオの過ごし方。
図書館や魔術堂、それに古書店(そんなお店がゲーム内にあるなんて初めて聞いたよ)を見て回っているらしい。
「クデュリュザ……天儀天……地端地……」などとうわ言のように繰り返していて、傍目には相当ヤバイ男である。
モモには近づかせたくない。
ルビア&モモの過ごし方。
武器屋や防具屋を重点的に覗いているらしい。
ただしシスくんと違うのは自分のための装備ではなく……
「え、えっと、どんなのがイイの? ルビっち」
戸惑うモモにルビアが眉を吊り上げる。
「とにかくオシャレで高そうに見えるものですぅ!
あっちで値段を釣り上げて売って売って売りさばいてやるですぅ! ウヒヒヒ!」
これが転売屋である。
モモっちドン引き。
わたしの後輩がこんなに金の亡者のはずがない……
数時間後、再び合流。
乗船し、ダグリアに別れを告げます。
うう、船酔いの旅の始まりだ……
衰弱とスキルダウンさえなければ、迷わず死亡を選択するのに……!
船が出て3分後、ルビアがウンウンとうなずきながらわたしの背を撫でる。
「先輩、具合が悪くなりましたか?
大丈夫ですか? あたしが介抱してあげますよぉ」
「うん、ありがとう。優しいねルビア。
でもさすがにそんなに早くダウンしないからね?
布団に入ったのび太くんじゃないんだからね?」
「……キャラ付けが中途半端ですぅ」
『ですぅ』とか喋るやつに言われたくねえ!
甲板で揺られながら海を見つめる。
わたしの住んでいる街は海沿いだけれど、あんまり遊びに行ったことはないんだよねえ。
ま、基本ヒキコモリだし?
落下防止の手すりに腕を置いて顎を乗せる。
なるべく遠くを見つめるのがコツなのよ。
さらに船の揺れに合わせて体を揺らしたりね……
ふ、ふふふ、具合悪い……
っていうかあれだな。わたしがホントに酔ってくると、ルビアは寄ってきてくれないんだな……
なんか下の方から笑い声聞こえてくるし……
いいさ、気持ちだけで嬉しいさ……
「大丈夫か、マスター……ってなんだその格好」
うぇあー?
「パジャマですがなにかー……」
本を抱えたイオリオを横目に見る。
「いやいや、人の目を気にしなさすぎだろう。こんなところで寝間着って」
「体は圧迫させないほうがいいんだよ……ゆったりとした服がいいのよ……」
「といってもなあ」
首を傾げながらイオリオは隣に腰を下ろす。
「水でも飲むか?」
「うーん、ありがとう……
え、なに、心配してきてくれたの?」
「いや、下が騒がしくなってきたからこっちに来た。おちおち本も読めん」
「船上で読書だと……?
キサマ、ロボットか……!?」
「いや全然わからんが。
まあ、大変そうだな。ルルシィさんがそこまで弱るとは」
うーうー。
男の子が隣にいるから、さすがに戻すわけにはいかないよなー……
「シスくんは下? ルビアとお喋りしているのかな……」
「ん? ルビアさんがどうかしたか?」
イオリオが怪訝そうな顔。
ハッ、しまった。
「……これは言うべきことではなかったか」
わたしとしたことが。船酔いで気が緩んでいた。
「よくわからんが、ふたりの間になにかあったのか?」
ちょっと迷ったけれど、切り出す。
「……実は」
まあシスの親友イオリオくんだしね。
話聞いているかもしれないし。
「……」
わたしが告白した後、イオリオはしばらく黙っていた。
えと、ノーリアクションですか?
親友の恋路もどこ吹く風ですか?
クールすぎる!
「あいつは昔から僕に遠慮する」
違った。
なにかを黙々と考えていた模様。
っていうか、本気でわからなかった。
「遠慮、ってなにが?」
イオリオはズバリと言う。
「シスはマスターのことが好きだよ。
ただ、それを言うと僕に悪いと思っているんだ」
え?
ええ?
えええ?
シスくんがわたしのことを……?
っていうか、え? え?
「え、ちょっと待って。ていうかそれ、それキミ」
いや、それじゃまるでキミまで、わたしのこと……
イオリオは無言で海を見つめている。
え、ちょ、マジで?
つまり、その、えええええええええええええええええええええ!?
……酔いとか覚めちゃったよオイ。