◆◆ 17日目 ◆★●
モモがルビアに心を許しているのはどうも、“同年代の友達”だと思っているかららしい。
彼女が「やっとおんなじくらいの子と出会えてホッとした」と語っていたのを聞いたから間違いありません。
ケンカだってなんだか楽しんでやっている模様。
一方ルビア。
「あたしにもようやく後輩ができましたね、フフーン」とか嬉しそうでした。
責任感が芽生えるのは良いことだ……
余計なことは本人には伝えまい……
それでもルビアはわたしの所有権は主張し続けているらしく、
モモがわたしとイチャイチャしている気配を感じると、どこからともなくやってきて邪魔してきます。
信じられないだろ?
大学生なんだぜ、それ……
そもそもシステムをよく知っていないモモちゃんはともかく、
ルビアとシスはどうしてわたしたちがグレーネームになっていることに気づいていないんだろう。
シスくんはもしかしたら大体わかっていて、あえて黙っているのかもしれないけれど。
ルビアは……
いや、いいや。なにも言うまい。
彼女は自分のことで精一杯なんだ……
最近ではラクダ(に似た別の生物)の皮をせっせと剥いではニヤニヤしています。
つるはし持って鉱石を掘って、
その鉱石をわざわざダグリアまで帰って炉で精製してきて、
鳥の羽をバラして糸を作って布を編んで……
なにこの子、職人? すごい。
鞄屋さんで稼いだ資金を湯水のごとく投入して、スキルをあげているようです。
さらに最近では革に飾りを彫り込むエンチャント技術なんてのも覚えたらしく。
自らのお手製の鎧に紋章を彫り込んでは「INT(賢さ)が上昇するんですぅ!」だとか手を叩いてはしゃいでます。
うん、ごめん。
あんまり賢くなっているように見えない……
完璧と思われたこの逃亡生活にも欠点が。
それは、他のプレイヤーが村にやってきた場合、犯罪者のわたしとイオリオは問答無用で攻撃されてしまいかねないということ。
そうなったら本格的に野宿だ……
寝袋買っておいてよかったなあ!(涙)
イオリオに相談すると、「さすがに女性と外でふたりきりというのは」と眉をひそめていました。
っていうかわたし女性として扱われていたんだ。
初めて知った。
化け物の矢面に立ってメインで体張っているんだけども、イオリオ的にそれはいいのかな。
「あ、じゃあみんなも巻き込んじゃう? キャンプだよー、とかなんだかテキトーなこと言ってさ。
多分みんなついてきてくれるよ!」
「楽観的だな、マスターは……」
そこがわたしのいいところでしょ!?
自分で言うなって話ですが。すみません。
するとイオリオ。
「まあ、そこがルルシィールのいいところか」
同じことを言うではありませんか。
これにはわたしもドキッとしたよ。
イタズラがバレた的な意味でな!
「さすがにシスよりは手強い……イオリオ……!」
「なんの話だよ」
冷静に突っ込まれました。
金髪ロンゲ腹黒沈着エルフ魔術師っ!
癒しを求めて癒し系の双璧シス(もうひとりはモモ)にちょっかいを出す。
「ねーねー、シスー。シスって女の子と付き合ったことあるのー?」
「ぶふっ」
すごい勢いでそっぽを向かれた。
「そんなのルルシィさんに関係なくね!?」
まったくもってその通り。
「どうなのー? どうなのー?」
まあ反応見る限り……
「ねえよ! 悪いか!? モテねーんだよ!」
あーそこまで言わせるつもりはなかったのに。
そこで通りがかったイオリオが一言。
「いや、シスは意外とモテる。
スポーツ万能だからな」
「お前に言われても嬉しくねーんだよ!!」
シスくんは叫び、拳を握る。
「ルルシィさん、あいつマジでモテっからね。
ゲームか勉強しかしてねーくせに!」
ああ、雰囲気あるもんなあ……
「 リ ア 充 爆 発 し ろ … … 」
シスくんの妬み声が響き渡りました。
そういえばひとつ明らかになった事実がある。
それはヌールスンの槍使いと戦っていたときだった。
「あれ!?
わたし槍スキルちょっとずつあがってる!」
なにこれこわい。
ひょっとして寝ている間に、誰かがわたしの体を操作して……!
怪奇、勝手にあがるスキルの恐怖……!(デデーン!)
「ああそれな。どうやらスキルは食らっても上がるらしいぜ。
見覚えは、上限値はあるみたいだけどな」
シスくんが解説してくれました。
さすがウェポンマスター。
つまり、わたしは刀を振るうヌールスンと戦い続ければ、効率良くスキル上げができるってことなのか。
なるほど。
確かに見て覚えるっていうのも、理にかなっている……のかな?
「なんだと」
眼の色を変えたのは、なぜかイオリオ。
「じゃあ魔術師タイプのモンスターから延々と魔術を食らい続ければ、
触媒もなしに魔術のスキル上げが……!?」
「い、いやそれは知らねーけど」
イオリオの勢いにわずかにのけぞるシス。
美青年の胸ぐらを掴みかかりかねない金髪エルフ。
こ、この絵は……
シスくんはびっくりして頬を染めているように見えるし、イオリオの眼光は鋭い。
キケンよ、キケンだわ……
わたしがもし腐ってたらこれだけで番外編が書けちゃうわ……
イオリオの鬼畜責めか、シスくんの誘い受けか……
いや、逆でもアリだな……とか。
いやいやわたしは全然そんなじゃないですからねホント全然。
そんなことを思っていると、メニューを操作して確認したイオリオががっくりと肩を落とす。
「いや……ダメだな、今まで何度か食らったことがあったが、スキルはぴくりとも動いていない……魔術は別枠か……」
シスは頬をかいて、イオリオを慰める。
「ま、まあ……ほら、これでお前も杖スキル上げやすくなるだろ? な?」
「……杖で殴りかかってどうする……」
「……いや、まあね……」
「……すまんな、取り乱した」
「いや、うん、俺もゴメン」
しみじみと謝り合うふたり。
むしろ頭を下げなきゃいけないのはわたしです。
ゴメンナサイ、おねーさんキミたちで変な妄想をしました。
この日記、絶対にふたりには見せられないよ!