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ルルシィ・ズ・ウェブログ  作者: イサギの人
第二章 折衝のダグリア編
20/60

◆◆ 15日目 ◆★

  

 元々ダグリアに来た目的はなんだったか。

 そう、ヴァンフォーレスト領事館である。


 わたしたちはパーティーを組んで港に面した大きな建物を訪れる。


「でもぉ、イオリオさんが来てませんけどぉ~」と困り顔のルビア。

「大丈夫大丈夫。許可は取っているよ。彼は『勝手にやってくれ』だってさー」


 これホントの話。


「はー、なんとも頓着のないお人ですねぇ」


 感心?するルビアに、シスが告げる。


「あの通りだ。変わっているってわかるだろ。好きにさせてやりゃあいいって」


 ふたりが話しているところをわたしがニヤニヤして見守っていると、気づいたシスくんが顔を赤らめてそっぽを向いた。

 かーわーいーいー♡(←ウザい)


「ったく、それにしてもあいつはなにやってんだか」


 シスくんが咳払いをして、話を逸らそうと必死です。


「あれ、シスも知らないの?」

「ああ。コールしても無反応だしな。

 つーかあいつの考えていることなんて9割わかんねーし」


 ぶっきらぼうに告げながらも、なんかその言葉には信頼を感じられちゃって。

 そんなとき、ちょいちょいとモモちゃんがわたしの袖を引いてくる。なーにー?


「あ、あの、モモも一緒に、イイの?」


 モモちゃんは不安そうだ。


「まあ大丈夫でしょー。渡航免状持ってなかったのに船に乗れたんだから。

 パーティー組んでいたら進むクエストなんじゃないかな」


 ざっくりと答える。

 うん、結果的には、その通りだった。

 

 



 ヴァンフォーレストとダグリアの交流は古くから続いていたようだ。

 そこに砂漠の民【ヌールスン】(虎面人身の種族だ)の思惑も絡み、状況はかなり複雑とのこと。

 ヴァンフォーレストの国力を削ぐためにダグリアの貴族がヌールスンと手を組んでいるのだろうが、それを処罰するためにも証拠が必要らしいので……


 ええとダグリア城とか色んなところをたらい回しにされた挙句、

 今度は砂漠の先のワータイガーたちの村に行って来てほしい、と頼まれました。


 これぞお使い!

 ゲーム黎明期より綿々と続くクエストの真髄!


  

 モモに「どうする?」と聞いてみる。


「……行きたい」


 すると彼女はうなずいてみせた。


「危険かもしれないよ。もし死んじゃったら、復活するのはヴァンフォーレストだから」 


 なるべく感情を排して告げる。

 モモは一瞬びくっと体を震わせた。

 ヴァンフォーレストは<ゲオルギウス・キングダム>の手にある。

 もちろんダグリアにも寺院はあるが、

 改宗する(復活地点を変える)ためには多額の資金が必要だ。

 設定間違えたんじゃないかってレベル。

 リスポーンポイントを変更するのがこんなに高額なゲーム、わたしは他に知らない。


 つまり、今のわたしたちの経済事情ではひとりだって難しい。

 ていうか無理。

 それでもモモは、置いてかれたくないと言っている。


 さーてどうしましょ。

 クエストを進めずにこの街でのんびりするのもひとつの手だけど……


 と、ルビアがため息をついた。


「これだからコドモは、都合の良いことばかりです」


 いつになく冷たい声だ。

 キミ、ここに来てから好感度だだ下がりだよ……

 

「あなたのために誰かが苦労を肩代わりしてあげてるんですよ。

 ここにはパパママはいないんですからね」


 指を突きつけるルビア。

 真っ向からの正論に、モモはおろおろしている。


「だから……」


 ルビアはわたしを見て、口を尖らせた。


「……あなたは、先輩にすっごく感謝してくださいよね」


 いやいや、そういうの別に良いんだけど。

 くすぐったいだけだし。

 モモはわたしに120度ぐらい頭を下げる。


「おねえさん、ありがとうございます!」


 いやいや。


「だからモモ、おねえさんにまずは、ちゅーくらいだったら……

 ……んー」


 目を瞑るなエロ中坊。

 

 

 ルビアが『<●> <●>』みたいな目をしたので、モモは大人しく引き下がりました。

 ていうかモモちゃん、怯えていたような気もする。

 なんという地獄の番犬ルビア。

 あの忠告の件で、あんまりモモちゃんがルビアに食ってかかることもなくなったみたいだけどね。

 結果的には良かったのかな。


 で、一応は村に使者として向かうだけということなのでね。

 最低限の準備を済ませてわたしたちはすぐに旅立った。


 雑貨屋で購入した地図を参考にするなら、徒歩で二時間程度だろう。

 ここらへんでアクティブ(向こうから攻撃を仕掛けてくる)な敵は、

 毒を持つサソリとワータイガーの盗賊ぐらいなので、それほど厳しい旅路ではないね。


 こっちは四人PTだし、余裕アリアリ。


「ていうか、やっぱりルビアがいると助かるね。回復魔術ありがたし」

「んっふっふー」


 ルビアは含み笑い。


「杖と剣と盾を交互に持ち替えるあたしに隙はありませぇん」


 キミもシスも器用なことしているなあ。

 ルビアちゃん、めっちゃ顔緩んでますよ。


「にしても、ダンジョン攻略で自信をつけたのか、ルビアは良い動きになったね」

「そうなんですよぉ~。ねー、シスさぁん」


 頷いた笑顔をそのままスライドする。


「お、おう」


 シスはそっぽを向いてうなずく。

 えーなになにー♡(←ウザい)


「実はあたし、ナイショでシスさんに教えてもらっていたんですよぉ。

 相手の目線で次のターゲットがわかったりぃ、武器を掲げている角度でなんの攻撃が来るかとかぁ」 

「ま、まあそういうのがハッキリとわかるのはヒューマンタイプの相手だけだけどな」


 シスはチラチラとわたしを見る。

 明らかに『知られちまった』って顔だ。

 わたしはシスをさり気なく肘でつつく。


「やるねぇ、シス」

「うっせーよ!

 ンなのフツーだろーがフツー!」


 わたしの腕を払いのけるシス。

 ウヒャヒャヒャ。

 心中は爆笑である。


「先輩、悪魔みたいな顔してますけど、どうかしたんですか?」


 ルビアはきょとんと首をひねる。

 意外と察しの悪い子である。

 これだから女子校育ちの純粋培養お嬢様は……

 しかし、シスくんも物好きなものだ。

 もしかしたら合っているふたりなのかもね。





 ヌールスン族の村【ギヌ】に到着したのは、昼過ぎだった。

 周辺で敵モンスターとして出てくるワータイガーが平和に生活している様子というのは、なかなかの違和感。


 柵に覆われた村の雰囲気は、西部開拓時代のようだね。

 いや実際に見たことはないケド。


 この辺りで取れる珍しい鉱石を採掘・加工して富を得ている他、

 ラクダ(のような別動物)の放牧なども行なっているらしい。

 うーん、住人以外はごくごく普通。


 っていうか他種族がひとりもいない村だ。衛兵すらいないのはどうなの。

 なんかそのうちローグの溜まり場になりそう。


 これが物語の世界ならわたしたちは怪しまれるか、物珍しがられるだろうが。

 ここはゲームの世界。どんなに不審者丸出しのわたしたちでも、話しかけるまではいないものとされるのだ。

 ゲームって素晴らしい。

 

 とりあえず手紙を届けに族長の元に向かいます。

 宿泊施設と雑貨屋はあるけど、武器とか防具を売っている店はないみたいで残念。

 まあ狭い村だしね……

 だけどこの村までやってきてわたしたちのお使いもようやく終わりかーって ク エ ス ト ま だ 続 く の か よ ォ ! 


 たてがみのご立派な族長さん曰く。

 ヌールスンは自分たち牙の一族の他に爪の一族がいる。

 彼らは誇りを捨て、武を売ること(つまり傭兵業)によって富を得ているのだと。


 ハハーン、ルルさん閃いちゃった。

 その爪の族長さんを説得すればいいんですね?


 違った。

 お前たちにはその族長ザガを殺してほしいってゆわれた! ゆわれちった!


 ざんこく!


 しかも今度は本格的に砦攻略戦だ……

 さすがにモモちゃんは連れていけないよなあ。

 イオリオがいないのも痛いし……


 テントを出て伸びをする。

 そうして開口一番。


「よし、やめよう」


 えー! と悲鳴があがる。

 まあまあ、ここはわたしの意見を聞きなさいって。


「しばらくはこの村を本拠地に探索しましょうよ。

 色々と面白そうなエリアと隣接しているし、それにここにだって色んなクエストがあるみたいだからさ」


 なにも焦って進めるこたぁないでしょ。

 マイペースマイペース。


「怪しい」とルビアがわたしを見つめる。


「先輩がそんな日和ったこと言うなんて……

 先輩だったら一も二もなく血をすすりにいくはずなのに」


 わたしはドラキュラか。

 でも鋭い。

 ごまかそう。


「なんにも怪しくないってば。

 ほら、とかくこの世はラブアンドピースよ。ぶいぶい」

「自分から容疑を深めるなよな」


 シスくんがため息。

 すっかりツッコミ役が板に。


「今までみたいにヤンチャはできないよ。

 わたしにも守るものができたからね……」


 モモの肩に手を置く。

 キュッと身を固くする美少女。

 ふたりの視線が合う――前に後輩が割って入ってきた。


「キ・モ・い・ですぅ」


 う、羨ましいくせに!(負け惜しみ)




 

 クエストを集めた後、辺りのコデューアル砂漠(西方)の探索へゴー!


 新たな発声スキルはやはり見つけ出せないものの、《刀》スキルはうなぎのぼり。

 0から育てるとギュンギュン強くなっていく過程が自分でもわかるから気持ちいいね。


 小刻みにダメージを与えてゆくシスと違い、刀は大振りかつ大ダメージ。

 斧より威力が高い代わりに、相手によっての不利有利が激しいみたい。


 甲殻系のモンスター(サソリとか)には効きにくくて、人型の敵には効果大。

 腕部や脚部に斬撃ダメージを重ねることにより、相手の様々な能力を削ぐ部位攻撃が得意なようです。これは短剣もだね。


 相変わらずメインタンクはわたしだけど、シス&ルビアで分担もするようになってきました。

 HPを均等に減らしてから一斉に休憩すると効率いいからね。

 効率大好き!

 ○○さんアレ持ってないんですか? PT抜けますね^^; なんて時代がわたしにもありま……

 いやいや、ないない! ありませんからね!?


 人様に迷惑をかけるロールプレイはいけませんよ!

 おねーさんとのヤクソク! 


 

【荷馬車の荷を取り返せ】と【迷子のコドモ探し】をクリアして(ちなみにちっちゃいヌールスンはすごく可愛かったです)、一時的に懐を潤す。

 質素に暮らせば、一回の依頼で2週間は食べて暮らせるんだから、良い世界よねえ……

 

 



 宿屋という名のテントに戻った後で、寝る前シスくんを連れ出す。

 誘い文句は「デュエルしようぜ!」だ。

 色気ないね。

 あ、カードバトルではないです。

 

 

 ここでPvP(対人戦)についてのおさらい。

『666』にはPKプレイヤーキリングが実装されております。


 敵対行動を起こすと名前がグレー化し、

 もし人殺しでもやろうものなら赤ネーム。PKer認定。

 街に入ったら衛兵に即、襲われます。抵抗もできずに袋叩きに合うでしょう。

 赤ダメ、ゼッタイ。


 ま、そんな非合法な行ないとは別に、

 同じパーティープレイヤーであれば【デュエル】を仕掛けることにより、一対一の試合をすることができるのです。


 相手のHPを1(自動的に残る)にしたほうが勝ちというルール。

 それ以外は基本的になんでもあり。


「なんでまたこんなこと」


 つぶやきながらナックルを装着し構えを取るシス。


「とか言いつつ、まんざらじゃなさそうじゃない」


 対するわたしは愛刀【一期一振】。

 お互い本気の武器&防具です。


 シスくんをターゲットし、【デュエルを申し込む】をクリック。

 すると直後、眼前にカウントダウンの数字がポップアップしました。


 3,2,1。緊張の一瞬。

 そしてスタートォ。


「そら、興味はあるっしょ!」


 シスが一気に間合いを詰めてくる。

《チャージ》だ。直線的な動きを、とっさに回避する。

 振り向き際に一撃を当てて離脱。


「いてえ!」

「ま、これも訓練訓練」


《足払い》をさらに避ける。

 防戦しつつ、間合いを保って部位攻撃を重ねてゆく。

 狙いは足。

 目的はAGI(敏捷性)の低下だ。


 我ながらいやらしい戦い方である。

 なるほど、大体三発ぐらいで部位破壊が起きるわけか。


「ちょっと容赦なくね!?」


 シスは武器を持ち替えた。

 やばい、鋼鉄のアイアンスピアだ!


 彼が繰り出したのは、肩口をかすめる《三段突き》。

 直撃を受けたわけでもないのに、わたしのHPは一気に20%減らされる。


「うわあ、やっぱり脆いなあ」


 スケイル装備のシスに比べて、わたしは軽装のチェイン装備だ。

 動きやすいからこその避け主体の芸当だが、防戦に回ると一気にHPを奪われる。

 なんて安定感のないタンク! 


 その後、槍を払い、なんとかして斬撃を重ねるも、ダメージは積み重なってゆく。


「うーん、なるほどねえ」


 お互い三割ほどになったところで、わたしは武器を収めた。


「あ、あれ、最後までやんねーの?」


 息を切らしたシスくん。わたしは手を振る。


「まあほら、どっちが上とかは別にいいかな、って。こんなの時の運でしょう」

「そうかね……」


 シスは納得がいかなそうだった。

 まああのまま続けていたら、よほどの番狂わせが起きない限りわたしが勝っていただろう。

 ていうか単純に武器の差だと思うけど!


 わたしはテキトーにごまかす。


「ま、付き合ってくれてアリガトね」


 拳と拳を合わせる。

 シスは小さくため息をついて槍を背負い直す。


「次はルビアさんとイオリオも加えて、<ウェブログ>最強決定戦でも開くか?」

「あら楽しそう。だけどイオリオとか、えげつな手段で勝ちに来そう……」

「あり得るな……」


 足止めされて遠くから延々と《フレア・ボルト》とかね。

 正しい魔術師の戦い方……恐ろしい。

 

 

 深夜、わたしはひとりで宿を抜け出した。


 うーん良い夜ね。月が綺麗。

 ダグリアへの街道を進む。

 夜だけ現れるアクティブなモンスターに気をつけながら。


 ああ、バレたらまたルビアには怒られるんだろうなあ……前のもまだ許されてないのに。

 でも仕方ないよね。わたしがやりたいからやっていることなんだしー。


 歩きながらのお夜食は、ダグリアのデザート。

 お餅のような食感のお菓子にたくさんのハチミツを絡めて頂きます。

 うーん、一粒でエネルギーがたっぷり補給できそう。

 やばい、これもちょっと買い込んでおくしかないな……

 色とりどりで、見た目にもちょーかわいい……


 ちなみにハチミツがヴァンフォーレストの特産で、ダグリアは輸入に頼っているらしいので、

 二国間の仲が悪くなるとこの美味しいお菓子(ダグリッシュ・ディライトって言うらしいです)も食べられなくなるんだよね。

 そういう意味ではわたしたちが今行なっているクエストも、大事……なのかな。


 口笛を吹きながら歩くことしばらく。

 わたしはようやくダグリアの門前に到着する。はー、夜の一人旅は疲れます。


 時刻は深夜1時。

 寒さに手をこすり合わせたりしつつ、手頃な岩に寄りかかって待っていると、会談相手がどうやらお目見えのようで。


 五名さま(フルパーティー)かー。

 大きく手を振る。


「やっほー」


 そこにいたのは見慣れたエンブレム。

 そう、<ゲオルギウス・キングダム>の面々だ。


 彼らはまるで 敵 を 見 る み た い な 目 をしていた。


 どうしてなのかしら?(すっとぼけ)

 

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