◆◆ 14日目 ◆★
アラビア装束 + 短剣 + モモちゃん = (*´∀`*)
いいよーいいよー、ちらちらと覗く焼けたふとももとか。
これはお金取れるよ……!(最低の発想)
「よし、そこで短剣を振って! そうそう、当てたら避ける、当てたら避ける!」
ワンツーワンツーとわたし指導の元、モモは大型犬ほどもある巨大なトカゲに着実にダメージを与えてゆきます。
その攻撃は一定のリズムに則って、まるでダンスのよう。うーん華麗!
敵のレベルは割とちょうどいいし、なんといってもモモちゃんは飲み込みが早い。
これが若さか……(目元で涙がキラリ)
「か、体動かすの、やっぱり楽しいね!」
モモちゃんも笑顔を見せる余裕が出てきました。
好奇心も十分だし。
MMOは初めてらしいけれど、意外と向いているんじゃないかなー。
現在、わたしたちはダグリアの外にいます。
西が海に面しているダグリアの地理をざっと説明すると、
北が荒野で、東と南は広大な砂漠が広がっています。
なので、素材を探すために北を目指して進んでみたのですが、
昨日の探索は空振りに終わっておりましたです。
ただの観光デートみたいになってしまったのです。
いや、それはそれでかなり楽しかったのだけどね。
見るもの全てに目を輝かせていたモモちゃんを観察するのがね!
一方、【コデューアル砂漠】には、サソリやらラクダやらトカゲやら、これまでとは違ったモンスターがいらっしゃいます。
シスくんじゃないけど、新モンスターはめっちゃワクワクするぅー。
かなりのんびりした旅だけど、わたしも未熟な《太刀》スキルの訓練になるので実はありがたい話。
ここでちょっとわたしなりに学んだことをメモメモ。
太刀の基本行動は三種類。縦斬り、横斬り、突き。斜め斬りは縦の横の複合スキルです。
斧のように力任せに叩きつけたりせず、ちゃんと斬る方向を意識しないと途端にダメージが落ちるという、玄人好みのあつかいにくすぎる武器! 使いこなせねぇと木の斧より弱いただの鉄くずみたいだってのに、なんだってわたしは!(ギルドメンバーに贈られた大切なモノだからです)
『666』の戦闘力はかなりゲーム的です。
剣道経験者なら太刀も簡単に扱えるようになるかといったらそうではなく、基本的にはスキル値が全てなのよね。
身のこなしだって《体術》や《体幹》、それに様々な防御系統のスキルだし。
リアルで必要となるのは、どちらかというと反射神経。
あと思考の瞬発力が大事みたいです。
これ豆知識。
ほとんど武道有段者らしきシスくんからの受け売りですけどね!
そのシスくんからのコールが入ったのが、お昼手前。
ようやく【オラデルの大葉】を見つけてダグリアに戻っている最中でした。
まさか街のすぐ近くに群生しているとは……
盲点だったぜ……!
で、シスくん曰く、到着したらしいので合流しようぜー、とのこと。
「よしじゃあモモ。わたしの仲間が来たから、一緒に遊ぼうよ」
「う、うん……」
これだけはなんなので、軽く人物紹介でも。
「男の子のほうは天使だし、女の子はぶりっ子っぽいから同性には半端無く嫌われているけど、基本的にはいい子だからね。
仲良くしてあげてね」
「えと……はい、おねえさんのお友達なら……」
まあ不安げな表情。
それはしゃーないよね。
会ってみたら多分印象も変わると思うから。悪いやつらじゃないしね!
街着に着替えてダグリアにイン。
砂まみれだし、チェインで走り回っているから汗かいちゃったし、とりあえずシャワーでも浴びたい気分だけどねー……
大通りを歩いていると、偶然ばったり。
おお、あそこに見えるはカラフルなクローバーのエンブレム!
三日ぶりに会う懐かしきふたりに手を振る。
「おーいこっちこっち」
お、ルビアが走ってきた。
ははは、そんなに長い間わたしに会えなくて寂しかったんだなー、こいつぅー。
両手を広げて、わたしの胸に飛び込んでおいでー、と待ってみれば。
「 こ の 泥 棒 猫 ぉ ! 」
モモちゃんの胸ぐらを掴んでそんなことを叫んだ。
なにこの昭和の娘……
「いやキミ、モモになにしてんの」とか言って止めようとしていた辺りで腹を蹴られました。
こいつ先輩になんてことを……!
ガード呼んだら今の普通に違法行為で捕まるんじゃないのこの子!
「いっつも返事をよこさない人は黙っててくださいっていうか全然聞こえませぇーん!」
久々の出番だからってエンジン全開のルビアちゃん。
「こ、この、憎い……」
ふんっとそっぽを向かれる。
野良猫のようなルビアは半眼でモモに詰め寄り。
「それよりなんなんですかぁ!
勝手に先輩とハネムーンだなんてあたしに許可取ってないんですけどぉ!?」
完全にいちゃもんつけている上に間違っているし。
そんな優雅なクルーズじゃなかったし。
新郎ずっと寝込んでたし。
モモなんてほら、怯えているじゃないか。
かわいそうに。
「お、おねえさんは、ただわたしを助けてくれただけだし。
それよりそっちこそ急に出てきてなんなのー……」
あれ、ちょっとムッとしてる?
「急じゃありませぇん。あたしは先輩とずーっと一緒にいましたぁ~。
割り込んできたのはそっちですぅ~」
何この子、性格の悪さが顔ににじみ出ている……
いくらロリっ子のアバターを身にまとっていても、本性は隠せないものね……
っていうかキミ、なんでそんなにモモちゃんに絡むの。
いくつ年下だと思っているの。
「いい加減、突っかかるのはやめなさい、ルビア」
少し強い口調でたしなめると、ルビアは下唇を噛みながらうなる。
まったくもう。イライラしているのはわかるけど、それならわたしに当たりなさいよ。
ようやく彼女の勢いは収まるかと思われた、が……
「えあ~~……!」
モモが拳を握る。
そうして今度はこっちの子が爆弾を降らせる。
「つ、月日とか関係ないし! モモはおねえさんに告白されたんだから!」
「ファッ!?」
ルビアがおかしな叫び声とともにわたしを見る。
オーライオーライ、落ち着こうか。
「それには深いわけがあってだね――」
「――先輩は黙っててください!」
言論を弾圧される。
弁解すらも認められない……?
「そ、そ、それに……昨日なんて、一緒に……寝ちゃった、し……」
ちらちらとモモがわたしを見る。
いや事実だけどさ。
ルビアは般若のような顔だ。暗黒のオーラをまとっているような気がする。
キミはいつから【犠牲】の使い手に。
「あ、あたしだってそれぐらいありますぅー!
おんなじ寮に住んでますしー! いっつも同じベッドですー!
お風呂だって一緒ですぅー!」
「お、お、お風呂なんてぇ……ず、ズルいぃー……!」
「ていうかなんで張り合っているの? キミたち」
わたしの言葉はNPCされる。
うん、わかってた。
っていうかこういうのモモが大人しくなると思っていただけに意外。
わたしを挟んでふたりの美少女が修羅場……
これは人類の夢ね……(現実逃避)
がるるると牙を剥くルビアおねーちゃんから隠れるように、モモはわたしの背に回り。
「わたしはおねえさんと、ずっと一緒に旅するんだもん……そう言ってくれたもん……」
キュッとわたしの裾を握り締める褐色の美少女。
いやーちょーかわいー(現実逃避)
でもね。
見た目だけはモモちゃんと同い年に見えるルビアだけど、仮にも大学一年生だよ?
さすがにそんな見え見えの挑発を前にしても落ち着いて「きいいいいいいいいいいいいいいい先輩のばあああああああかあああああああああああ!」走り去りました。
あの子、精神年齢どこに置いてきたんだろう……
わたしの腕を掴んで離さないモモの重みを感じつつ。
もしかしたら大変な拾い物をしたかもしれないなあ、なんて思いつつ。
ず~~~~~っと放置されていたシスくんに向き直る。
「……ごはん食べにいこっか、シス」
「 え 、 あ 、 は い 。 そ う っ ス ね 」
なんで敬語なの、少年。
ダグリア料理は甘いものは徹底的に甘く、辛いものは香辛料がとことん振りかけられていて、その中間というものがないようです。
極端な配分なのだけど、でもそれぞれがとっても美味しいから許しちゃう!
こういうメリハリの効いた味付けってわたし好きよ。大好きよ。
本日はカリフラワーっぽいお野菜の素揚げに、パンケーキ。
さらに男の子がやってきたということで、大小様々なスペアリブをテーブルの上にずらっと並べてみます。うーん見た目にも豪勢……!
「うおー、うまそーだな!」
と、なにやら疎外感を覚えていたようなシスくんも喜んでむしゃぶりつきます。
それにしても、食感や味覚や匂いまでも感じるなんて、すごいよねマジで。
『666』さえあれば現実で旅行する必要なくなっちゃうんじゃないかな。
物語の中に閉じ込められるお話は昔からいくつも読んだことがあるけれど、言うなればそれのゲーム版でしょこれ。
一体どうなっているのかしら……
イオリオじゃないけど、ホントに魔術の実在を信じちゃいそうになるなー……
あ、ごはん食べている途中にルビアは帰って来ました。
一見落ち着いたように見えるけど、時々モモちゃんを威嚇していたりする。
お願いだから年をわきまえて。
ところで、先日のクエスト。“病気の娘を救え”の件。
【キイロの塗薬】を持って行くと、クエストは達成されました。
お子様の具合は目に見えて良くなったようで、モモは自分のことのように喜んでいました。
で、初報酬。
ピンク色の頭部装備【プリティーリボン】でした。
可愛いヒラヒラ。しかもなぜか防御力が結構上昇する。
どうやらお礼をもらえるってことを想定しなかったらしく、モモはしばらく驚いたような顔でそのリボンを見つめていた。
「これ、モモが……」
「そうよー」
ニッコリと頭を撫でる。
「人助けができてスキルまで上がる。オマケにクリア報酬だって。
クエストっていうのは一石三鳥でできているのよー」
ぱぁっと彼女の顔が明るくなる。
ようやくモモちゃんはこのゲーム――『666 The Life』の遊び方を理解したようだった。
「そうなんだ……ちょっと、楽しいカモ……」
そう言ってくれて何よりだ。
「さ、つけてみなよ、そのリボン」
促すと、モモは嬉しそうにメニューを操作した。
それからポンっと頭の上に大きなリボンが咲く。
「えへへ」とはにかむモモ。
このときばかりはルビアも茶化さず、「……良かったですねぇ」と腕組みしながら祝福してくれた。
根は優しい子なんですよ、根は。
きょうはこのままクエストを続行しよう、ということになりました。
戦闘班がわたしとシス。合成班がルビアとモモ。
四人で手分けしながら街と外を行ったり来たり繰り返す。
するとどうでしょう。
難しかったクエストの山が次々と片付いてゆくではありませんか!
劇的ビフォアアフター!
なんと夕方までにクリアしたクエストの数、五つ!
そのどれもが一日仕事クラスだってのに、これが匠(人海戦術)の力よ!
暗くなってから宿に戻った後で、(多少心配だったものの)モモちゃんをルビアに任せて、わたしはコールでシスを誘った。
刀のスキル上げするけど一緒にどう? と。
彼は快諾してくれた。
「ちょうどいい。じっとしているのは退屈だし」とのこと。
とゆーわけで、砂漠へレッツゴー♪
町の外に出て手頃な相手を斬り刻む。
夜の砂漠の敵はちょっと手強いみたい。普段は現れないモンスターもチラホラと。
でもふたりなら、強めの相手に挑んでも余裕で勝利できちゃったり。
ルビアは付き合いが長いし、イオリオとは気が合うものの、
実際に組んでみて一番しっかり来るのはシスだとわたしは思っている。
発声スキルを使うタイミングや、立ち回り。敵を仕留めに行く瞬間がなにもかも重なるのだ。
息ぴったり。相棒って感じです。
いや、わたしが勝手にそう思っているだけかもしれないけどさ!
だったらちょっぴりカナシ。
「そういえば、どうだったの? ルビアとの二人旅」
戦闘の合間の世間話。
夜の砂漠は冷えるなあ。
「それな……」
シスは暗い顔だ。
「え、なんかあったの?」
ドキッとしてしまう。
ルビアは基本的には無害なんだけど……
シスは憂いの表情でつぶやきます。
「 俺 、 あ い つ 好 き に な っ た か も 」
おいカメラ止めろ。
シスくんを隣に座らせて、詳しく事情徴収。
彼は妙に話しづらそう。だけど聞く(鬼)
「いや、別に話すことはないんだけど……なんつーか、面白いやつだな、って」
「異性からの人気が面白さ次第だったら、あの子は相当なレベルだと言えるけど……」
「それならルルシィさんもだな」
あぁー?
咳払いをするシス。
「船でもずっとルルシィさんへの不満ばっかりでさ。もう9割グチに悪口で。
ああ、こいつホントにルルシィさんのことが大切なんだなあ、って思ってさ」
「いや完全に普段のルビアじゃないのそれ」
「なんか、一緒にいて飽きないっつーか、放っておけないっつーかさ……
よくわからねえんだよ、マジで」
「それはアレだよ、少年。家に珍しい犬種のワンコがやってきたから少し構ってやったら、なんか情が移ってきただけだよ。
一週間一緒にいたら耳がキンキンするよきっと」
「かもな」
シスくんは意外とあっさりと引き下がった。
なんか物思いにふけっているような……
複雑な顔をしている。
シスくんの横顔はなかなかに美青年なのだが……ううむ。
そのとき、わたしは大事なことに気づく。
「ていうかさ、ルビアを見て好きになったんだよね」
「いやそりゃあ、俺は現実世界のルビアさんのこと知らないし」
「……つまりロリコンか」
シスがむせた。
「あんな子に欲情するとは、シスはそういう人だったのか……
ハッ、いやもしかして巨乳好き? ロリ巨乳好きという特殊性癖?」
「待て。頼むから待ってくれ。つーかアンタ俺の年知らないでしょ!?」
ふーむ。
じろり。
「高校二年生と見た」
「なんでだよ! 当たってるよチクショウ! アンタこえーよ!」
いやカンなんですけどね。結構当たるんだコレ。
わたしの密かな特技。プロファイリングinネットゲーム。
本気でビビっているシスくん可愛い。
「じゃあアンタたちは一体いくつなんだよ……」
ねめつけるような目。
ニッコリとピースサインを作る。
「わたしは小学五年生。ルビアは小学四年生だよ」
「うそつけえええええええええええ!」
思いっきり怒鳴られた。
静まり返っている砂漠に絶叫が響く。
「絶対アンタ俺よりは年上だよね!? 下手したら30代とかだよね!?」
「なめんなあああああああああああああああああ!」
思いっきり怒鳴り返す。
あろうことか、こいつ、あろうことか……!!
「まだ十代だっての! お肌つるつる化粧のノリもばっちりで脚出しても寒くないしメッチャモテてるっつーの!」
「ってことは19才か……」
お、おお……
なんという誘導尋問……
「え、ってことは……
つまり、ルビアサン……じゅーはち? 俺の二個上?」
そこに気づいてしまったか。
わたしは静かにこくりと頷く。
「……もしかしたらキミは、大学生というものに幻想を抱いているかもしれないが、実際はあんなものだよ」
「そうなのか……」
うん……
なんかシスくんが目に見えて落ち込んでゆく。
「スキル上げするか……」
そうだね……
なんとなく白けてしまったので、わたしたちは立ち上がり再び武器を取る。
さ、目標は実戦レベル。
マスターのわたしが弱いままじゃカッコ悪いからね……
その後、イオリオからの定期連絡があった。
わたしはシスと共闘しつつも、彼と綿密な計画を立てる。
この二日間、遊んでいるように見えたわたしだが、ちゃんとやることはやっていたのです。
『もう止めないが……せいぜい気をつけてくれよ』
うん、ありがとイオリオ。
見ず知らずの子のためにこれほど力になってくれるなんて、なんて良い人なんだ。
って言ったらさ。
『別に。こっちの都合だ』
照れ隠しなのかな、って思う程度にはわたしも段々イオリオのことがわかってきたよ。
彼はズバリ、ツンデレです。
一方的な決めつけです。
……でも、デレはいずこへ。




