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ルルシィ・ズ・ウェブログ  作者: イサギの人
第一章 始まりのヴァンフォーレスト編
12/60

◆◇ 9日目 ◆◆ その3

  

 まずはわたしだ。

 相手の注意を引きつけるため、広場の中頃まで進んで立ち止まる。


 って魔術師だけ警戒してたら、親玉がナイフを投げてきたー!

 防御が間に合わず、手の甲に突き刺さる。

 痺れが走った。

 紫色のエフェクトが輝く。ステータス異常【毒】。


「こいつ、装備に似合わずシーフかい!」


 俊敏な動きで懐に潜り込まれ、何度か斬り結ぶ。

 短剣のダメージは少ないが、確実に体力を奪われる。

 痛い痛い!

 やめてよね! 本気でケンカしたらわたしがキミにかなうはずないじゃない!


 そこでシスの大呼。


「オークは全員引き入れたぞ! ルル戻れ!」


 あいあいさー。

 ワータイガーの刀使いはなぜか動いていない。

 やる気なし勢かこいつ! 今はとってもありがたい!


 うわ、てか何匹いるんだ。

 横目にオークの脇を通り抜け、通路に戻る。

 イオリオ、シスの姿を確認したが、ルビアがまだ来ていない。

 オークに道を塞がれているようだ。

 このままじゃルビアちゃんがリアルで痛い目を見て病院で栄養食を食べるハメになるぅー!


「うおおおお!」


 シスが吠えた。目の前の一匹に《チャージ》、そしてその隣の相手に《足払い》を仕掛けた。

 どちらもスタンの効果を持つスキルだ。

 さらに《掌打》で邪魔なオークを吹き飛ばし、無理矢理道を切り開いた。


「こっちだ、ルビア!」


 やるじゃん!

 命からがらルビアが飛び込んでくる。


「ふえーん!」


 HPがずいぶんと減らされているようだ。慌てて水薬を使用する。


「盾がなかったら今頃死んでましたぁ……」


 


 ともあれ、これで相手は二匹以上同時に攻撃してくることはできない。

 あとは持久戦だ。

 前衛を交代しながら回復魔術と水薬で粘り続ければ敵はそのまま骨になる。


 するとシスがその場に土下座した。

 あまりにも唐突すぎて呆気に取られた。

 少年は叫ぶ。


「ふたりとも落とし穴のこと本当にすまなかったああああああ!」


 え、今!?


『そんなことをしている場合かー!!』


 わたしとイオリオの怒号が重なる。

 可哀想に思ったのか、フォローに回るルビア。


「ま、まあまあ。あたしたち気にしてませんから! たまの失敗は人生のスパイスかもね、です!」


 シスが顔をあげてルビアの手を握り締める。


「あ、ありがとう! 俺、頑張るから!」


 なら今頑張って戦ってー!?


 シスとルビアが早くも役に立たないので(暴言)、ここはわたしが持ちこたえるしかない。

 クモ戦で覚えたホットなスキル、使いたかったんだよねえ!

 わたしは柄の端を持ち、遠心力に任せて斧を振り回す。

 メニューから選ぶこともできるけど発声のが楽だから叫ぶ!


「《テンペスト》!」


 自分の周辺にいる敵4匹まで通常攻撃の1.5倍撃だ!

 その斧から生じる真空状態の圧倒的破壊空間はまさに歯車的砂嵐の小宇宙!

 吹き飛ぶオークどもにすかさず見栄を切る。


「わたしは天下無双のアクスブレイバー・ルルシィール!

 命のいらないやつからかかってきやがれー!」


《タウント》で敵の注意をガッチリ引きつけ――が、やりすぎた! 敵来すぎ!


 今度はわたしのHPが持たない!

 毒がウザぁぁぁぁぁぁいしぃ!


「ええいっ!」


 ルビアが前に出てきた。

 盾をオークの顔面に打ち付けて、スタンを誘発させる。


「先輩、一旦下がってくださぁい! ここはあたしがぁ!」


 おお……!

 ルビアちゃんが頼りになる、だと……?

 下がり、わたしは水薬を使用する。

 薬パワーだー! 連打連打――

 ってなんだよ! 一回使ったらリキャスト時間必要なのかよ!

 先に言ってよモモちゃん!


 それならなんとか頑張ってくれたまえ、後輩……

 シスくんも後ろから槍で突いているし。


 と、Root(足止め)すらせずに休んでいたイオリオが、ゆっくりと杖を掲げる。 


「ようやくMPが回復したか……」


 彼はオークの中心を見据えて、叫ぶ。


「アグニ・ス・グランデ・リベラ・ダムド!

 《ヴォルケーノ・エグゾースト》!」


 5つの呪言から成るその魔術は、オークの団体さんの中心で炸裂した。


 Area Effect(範囲攻撃)! Coooooooool!


 しかもその場に留まり、継続ダメージを与える効果つき。

 見たか! これがうちの大魔術師さまですぜ!

 オークのHPがあっという間に溶けてゆく。なにこれ気持ちいい。

 

 が、はたと気づくイオリオ。


「しまった。回復に使うMPがないな」


 大魔術師さん!?

 すると彼は剣と盾に持ち替える。


「仕方ない。ルビアさん、MP回復するまでの間、交代だ」

「キミ、近接戦闘もできるの!?」

「いや、できないから時間稼ぎ」


 潔い! 

 イオリオとルビアがチェンジ。

 ルビアはイオリオから杖を借り、回復魔術を唱え出す。

 

 っていうか、そういえばわたしもMPは余っているじゃん!

 援護だ援護。叫ぶ。


「ヴァユ・デア・エルス!」


 風属性の投射魔術ウィンド・ボウ

 それは真っ直ぐに伸びてゆき――


「痛っ!」


 イオリオの後頭部に当たった。

 ね、狙いが難しいです。


「“ヴァユ・ス・ダムド”でやれ!」


 怒られた。

 叫び返す。


「ヴァユ・ス・ダムド!」


 前方で発生した気流はオークの中心で炸裂した。

 すごいすごい、範囲魔術になった!

 だがダメージは微々たるもの。なのに触媒の減りがすごい!

 なんという価値のない銭投げ。




「あ、あれ!?」


 一方、杖に持ち替えていたルビアが、素っ頓狂な声をあげる。


「なんか回復の威力がすごいですぅ!」


 ログを見れば、普段の二倍近く回復している。

 一体なんのズルをしたの!?


「も、もしかしてイオリオさんの杖のおかげ!?」


 え、えー……

 まさかルビアの回復魔術の効果が低かったのって、装備のせい……?

 ま、マジでか。

 ルビアははしゃいでいた。


「きゃーきゃー、パール・イリス! 《ヒール》ですぅ!」


 あちこちでシャボン玉のエフェクトを振りまくルビア。

 脱力はしていたけれど、状況的には非常に心強い。


 わたしは二本目の水薬を一気飲みする。

 苦い。もうお腹いっぱい。



 現在の状況。

 シス、ルビアの傷が深く、わたしとイオリオは八割といったところ。

 相手のオークは“雑魚3匹+ボスクラス3匹”がまるまる残っている。

 でもこれ、イケるんじゃないかなー。

 イオリオの魔術とルビアの回復で一気に希望がスタンドアップだよ!


 その時、広場から氷の槍が飛来してきた。

 それは偶然オークの隙間を抜けて――シスが直撃を受ける。


「うあああ!」


 すっごく痛そうなエフェクトが閃く。

 シスのHPが残り二割を切った!


 慌てて立ち上がる。

 オークの壁が薄くなったということは、ボスクラスの攻撃も届きやすくなったということで。

 やばい。少なくとも魔術師だけはどうにかしないと。


 わたしはオークの輪の中に飛び込む。

 その中心で《テンペスト》!

 オークの絶叫が響き、これで残りは一匹。

 そのまま魔術師に駆け寄り渾身の《ダブルスウィング》!

 って全然体力減らないよ! 魔術師のくせに!


 言い放つ。


「みんな、危なくなったら逃げてね!」


 魔術師の頭部に槍がめり込む。

 飛び込んできたのは、ひ、瀕死のシスくん!


「その命令だけは聞けないさ、マスター!」


 わ、わかった。


「だけど絶対ターゲットにはならないようにね!」


 釘を差し、踵を返す。


「でええい!」


 最後の雑魚オークの背中に斬りかかる。

 どんな手を使おうが勝てばよかろうなのだー!

 デストロイ! 

 これで最後の雑魚オークが消滅!


 すかさず回避行動に移り、その場から飛び退く。

 案の定、先ほどまで立っていた場所には、氷の槍が突き刺さっていた。

 へっへっへ、まるっとお見通しなんだっての!


 これで残りは“ボス三匹”。

 しかしこっちはみんなMPは空っぽで満身創痍。つらい。


「あたしが親玉を引き受けますぅ!」


 シスに続いてルビアが広場に入ってきた。


「その間に、みんなで魔術師さんを殺っちゃってくださぁい!」


 ルビア、立派になって……

 いやいや、ほろりとしている場合じゃない。

 って、ワータイガーも動き出した。

 しかしルビアは引かない。


「あ、あいつもあたしがぁ……」


 がくがくがくと震えながらも宣するちびっ子ナイト・ルビア。

 キミのその覚悟、確かに受け取ったよ。


 今こそ使うべきでしょう【ギフト】。

 本邦初公開。

 わたしたちは示し合わせたわけでもなく、同時に叫び声をあげた。

 エフェクトが広場に閃く。


『【自己強化エインフェリア!!】』


 全身からオーラが噴き上がる。

 シスは赤。イオリオは紫。そしてわたしは黒だった。

 

 効果時間60秒のパーフェクトソルジャー爆誕。

 これがクライマックスだ。


「オラァ!」


 まずはシスくん。

 赤い光が残像を映す。槍の一撃でのけぞる魔術師に、さらなる突き。突き、突き突き突き。

 シスの動きは圧倒的だった。通常攻撃のひとり槍衾。

 それはことごとく敵の詠唱を中断に追い込む。

 まさに術者殺しのInterrupter(阻害者)!


「アグニ・エルス!」


 続いてイオリオが放った火炎は、今までのものとはまるで大きさが違う。

 二倍以上の炎が魔術師を包み込んだ。

 うっはー、素敵なキャンプファイアー。

 火炎は空高く立ち上り、天井にまで届く。


 ギフトは六種類。さらにそのうちのひとつ【自己強化】もまた、六種類に細分化される。


 シスの赤のオーラは【加速フリングホルニ】。

 イオリオの紫のオーラは【叡智オーディン】。

 そしてわたしの選択した黒のオーラは【犠牲サクリファイス】だ。


「ひいい!」


 HPとMPが猛烈な勢いで減少してゆく。

 毒ってレベルじゃないぞ! 失敗した!

 完全にギフトのチョイスに失敗した!


 わたしは軽く跳んだ――つもりだったが、それはオークを見下ろすほどの高さとなっていた。

 そのまま、斧を振り下ろす。

 まさに一刀両断。


 見たこともないダメージ数値がポップアップし、わたしの一撃は魔術師を真っ二つに切り裂いた。


「うお、すげえ」


 シスが面食らう。


「大斧に【犠牲】の組み合わせは、『666』において最強の補正なんじゃないか……?」


 イオリオも唖然としていたが、わたしは叫ぶ。


「早く! ルビアを!」


 急がないとわたしも死ぬぞォー!!




 少し目を離した間に、ルビアはもはや瀕死だ。

 ここからターゲットを引き剥がさないといけない。

 シスの飛び蹴りは親玉の顔面を捉えた。

《チャージ》で突き放し、流れるような装備変更。

《足払い》からの《掌打》で、親玉を壁際に追い詰める 


 駆けつけたイオリオはルビアを治癒し出す。

【叡智】によって《ヒール》の効果も大増量である。


 ならわたしは――ワータイガーとの一騎打ち!

 いつものように不意打ちをして、振り向かせる。

 ぐっ、迫力がオークと全然違うなっ。


 漆黒のオーラをまとい、向かい合う。

 閃光のような一撃を、わたしは斧で受け止める。

 斬撃の重さに足が地面に沈み込むが、体の軸は少しもブレない。

 身体能力も相当あがっているようだ。

 こんなのとまともに戦えるなんてギフトすげー。

 HPとMPの減り具合もすげーけど。


 しかし太刀から繰り出される変幻自在の連撃に、わたしは防戦一方だ。

 ふたりの間を火花が弾ける。

 一撃食らったら即死亡のオワタ式ボス戦状態!

 頭がフットーしそう。


 こいつがルビアをあっという間に追い込んだ張本人か!

 反撃の糸口が見つからない。一瞬でも隙があれば……

 って、そうだ! わたしはバックステップで距離を取る。

 ワータイガーは追ってくる。


 その顔面に――

「ヴァユ・デア・エルス! 《ウィンド・ボウ》!」


【ギフト】により威力のあがった風の刃は、直撃。相手を十分にビビらせた。

 攻守交替よ。


 まずは《チャージ》。

 スタン状態にしてからの《ダブルスウィング》。怯む相手を押し込む。

 サンドバック状態の敵に斧を叩き込む。もう手出しさせないよ。


 オラオラオラオラオラオラー!


 そしてリチャージが間に合った。

 これがラストだ。


「《サクリファイス・テンペスト》ォォォ!」


 遠心力のついた斧は、ワータイガーの胴体をなぎ払った。

 1.5倍撃がクリティカルヒットし、相手のHPゲージが蒸発するように消え去る。


 ワータイガーが断末魔をあげた。

 天に伸ばした手を震わせて、彼はすぐに光の粒となって消える。


 慌てて振り返れば、シスとイオリオもオーク親玉を撃破していたようで――


 クエスト達成の文字がログに踊った。

 全身に鳥肌が立つ。

 誰も死んでない。

 みんな生きてる。

 喜びを抱きしめるように両手を開いて、わたしは叫ぶ。


「か、勝ったー!」


 ルビアとハイタッチをかわそうとして、走り寄る途中、

 急に足に力が入らなくなって、わたしはその場に倒れた。


 あ、あれ? 視界が暗転する、よ……?


「せ、せんぱぁぁぁい!?」


 あ、ああ……

 まだ、【 犠 牲 】 の 効 果 中 だ っ た ん だ… … 

 

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