表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/60

0日目

 

 はっつばーいびー!!


 ……ハッ。

 失礼しました。

 取り乱しました。


 ついに来たんです。

 事前情報+PVだけで世界に名を轟かせた、あの“アーキテクト社”の送る完全新作MMORPG。

 しかも日本独占タイトルです。

 ……もう、やるしかないよね。

 それ以外の選択肢が存在していないよね。

 ……うふふ。

 

 いくつになってもゲームの発売日っていうのはウキウキします。

 たとえ、実際プレイしてみて「ああこういうものかぁ」ってガッカリするんだとしても……

 でも、ドキドキして待つ時間は嘘じゃないもんね。


 っていうかこの日のためにね。

 講義もバイトも約束も食事の作り置きも済ませておいたからね。

 わたしは本気です。

 きょうからわたし、一週間は引きこもってやるのさ……

 うふふふふ……



 え? MMORPGってなにかって?

 そうですね。

 よく知らない方のために、おねーさんが解説させてもらいましょう。


 MMORPGとは略称です。

 本来の名前は、


 Massively Multiplayer Online Role-Playing Game。

 

 すなわち、『大規模多人数同時参加型オンラインRPG』です。

 これはあるひとつの世界を舞台として。

 世界中の人が同時に遊ぶことができるゲームなのですよ。


 スキル制だったりレベル制だったり、月額課金制だったりアイテム課金だったり。

 ファンタジーだったりSFだったり、画期的な意欲作だったり既存作品の劣化コピーだったり……

 うん。

 十数年前に史上初のMMORPGが登場して以来ですね。

 実に様々なMMOがインターネット上に生まれてきました。

 MMOは流行りました。

 とにかく、世間で大流行しました。

 パソコンを持っているヒマな大学生が、MMOをやっていないわけがない! ぐらいのレベルです。

 社会現象です。


 非常に多くのMMOがこの世に出回りました。

 世はまさに大MMO時代!

 とき○モONLINEとかまで出る時代です。

 ……いや、あれはあれで趣があったのだけど、まあいいや。


 なぜそんなことになったのかというと。


 作り手にとっても、MMORPGは非常に魅力的だったからです。

 断言。

 

 身も蓋もない話をすると……

 MMORPGというのは“一度ゲームを作りさえすれば”ですね。

 あとは少ない維持費・運営費でいくらでも集金できるという……

 企業にとって、夢の商品だったのです。

 そうです、家庭用ゲームに比べて非常に高収益だったのです。


 かつての話です。

 あの最後の幻想でお馴染みの四角い会社さんが、オンラインゲーム一本の収益で屋台骨を支えていた時代です。

 そりゃあもうすごい利益だったのですよ。

 というわけでその頃。

 ひとつのゲーム会社が、ひとつふたつのMMORPGを運営しているのが当たり前でした。

 そんなには昔じゃないんですけど。


 以後。

 ※なんやかんや(後述)ありまして。


 日本国内の企業は徐々にMMORPG業界から撤退してゆくこととなります。

 まだ続いているのは、一部のトップ企業と低コストなお気軽MMORPGのみ……


 そうして、今となってはソーシャルゲームにその役目を奪われつつあります。

 どこでも遊べますし。

 友達と遊んでたらもはやネットゲーム同然だし。

 口惜しや……

 ……と、元気がないのは国内だけですし。


 それはいいとして。



 十年以上も続くような大作もあれば、たった一年で終わってしまう箱庭世界も、なにもかもがわたしは好きです。

 わたしはこのMMORPGというものが、昔から大好きなんです。

 キーボードを叩けば、いつでも違う自分に変身できる魔法のようなゲーム。

 職業はおろか、性別の壁すらも余裕で飛び越えられるその自由度。

 それはまるで赤子の手をひねるように、成長期のわたしをとりこにしました。


 ……そりゃもう、何度か現実を見失いそうになるぐらいにハマって……

 いや、この話はいいか……廃人更生日記とか暗くなっちゃうし……


 きっとそのうちVRMMOとかできるんだろうなあ。

 3Dモニターを頭にすっぽりとかぶって、まるで自分自身がゲームの世界にいるようなことを体感できるゲーム。

 やばいよね、絶対もう現実世界に戻って来れなくなっちゃうよね。

 現実はお金を稼ぐだけのところで、一生VRMMOの中で暮らしちゃうよね。

 やばい。

 なにがやばいってそんなことを平気で考えるわたしが一番やばい。

 

 と妄想はここらへんにして。



 ホームページから早速ゲーム『666』をダウンロード。

 今回のMMORPGはパッケージ販売ではなく月額課金制のため、データを落とすだけならタダなのですよ。

 最近多いよね。レベルいくつまでは無料だったり、最初の何日間は無料だったりするの。

 これもMMORPG乱立による、サービス競争の激化なんですよねえ。

 ユーザー的にはー、とっても嬉しいのー☆ みたいな。


 すみません、はしゃぎました。

 完全新作だけあって、容量とかマジぱないです。

 ダウンロードマネージャが完全に悲鳴をあげています。

 ぴくりとも動きやしない。

 求められるスペックも相当ハイだけれど、その点は抜かりなし。

 この日のためにバイト増やして、最新のPC機器諸々を揃えておいたからね……

 事前にテストしたら1920×1080の解像度でも『快適』評価だったからね。

 まったく問題なし。


 いや、もうお金じゃないんだよ……

 そこに新たなゲームがあります。

 やりますか? やりませんか? って具合ですよ。

 MMORPGのサービス開始直後の混沌とした世界は、今じゃないと味わえないんだよ!

 じゃあいつやるか?

 今でしょ!

 的な。





 光回線さまが不休で頑張る様を見つめること30分。

 いつの間にやらメールが届いておりました。


『それにしても、今時βテストすらしないMMOって珍しいですよねぇー』


 おや、一緒に始める約束をしていた後輩ちゃんだ。

 なにが「それにしても」なのかはわからないけれど……

 まあ、あっちもきっとダウンロード中だろう。

 そういえば打ち合わせもなにもしてなかったっけ。

 中でスムーズに合流するためにも、最初の街は決めとかないといけないね。

 めるめると返信。


『スタート地点の希望とかある?』


 公式サイトを見ると、スタート地点は計六ヶ所。

 北方の雪に覆われた街や、機械化が進んだ大都市。平原に建つ王城など。

 さすがバラエティ豊かだねー。

 と、暇なのか一分も経たずにメール着信音。


『あたしは特にないです。先輩にお任せします』


 ふーむ。

 ならこの【ヴァンフォーレスト】にしようかな。

 それは森の中にひっそりとそびえる神秘的な都です。

 いかにもエルフの女王様とか住んでそうな。木漏れ日とかすっごい綺麗な感じの。


『じゃあヴァンフォーレストね。いかにもファンタジーっぽいじゃない?』


 送信。すぐに返信。


『了解です』


 普段あんなんなのに、このメールの事務的っぷり……

 絵文字ひとつ使わないからね。本当に花の女子大生かい。

 ま、いいや。


 公式サイトを漁りながらキャラ設定も膨らませないとね。

 まだ全然決めてないんだよねー。楽しみは後に取っておくほうでさー。

 とりあえず種族はー……うーん、色々いるけど、ヒューマンかなあ。


 わたしは割と自分のキャラに感情移入しちゃうほうなので、自分とあんまりかけ離れた容姿だと「アレレー?」って思っちゃうんだよね。

 だから男性キャラとかたまに使ってみても長続きしないで、セカンドキャラのつもりで作った女性キャラがいつの間にかメインキャラになってたりします。

 飽きっぽいだけとも言う。


 とかなんとか書いている間に。

 ダウンロードが終わってた!

 念願のキャラクリエイトォ!


 もうメールなんてしてらんない! ケータイぽーい!

 さ、第二の自分を創造するよ!

 MMOの醍醐味は、キャラクリエイトが半分といっても過言ではないと思う。


 最近は洋ゲーでも女性のアバター(自分の分身のこと・この場合プレイキャラクター)に力を入れているとはいえ、やっぱり国産MMOと海外産MMOのグラフィックには大きな隔たりがあります。

 もちろんそれは単純に日本人の好みの問題なのだけど、やっぱりわたしは操作するなら可愛かったり綺麗だったりするほうが良い。

 髭面のマッチョマンも、まあ嫌いではないんだけどね?


 で、問題のMMO『666 The Life』はいかがかというと……

 うん、すごい。

 ていうか最高。

 自由度高い。パーツ多い。デザイン秀逸。非の打ち所なし。

 あんまり好き勝手にできるゲームだと今度はバランスの問題があるけれど、これは結構適当にやっているのに大体みんな可愛いっていう神がかり的な造形……

 すごい、すごいよ。

 すごすぎるよ。

 まさかこれほどのものとは思わなかったよ。アーキテクト社ちょっとナメてたよ。


 ちょっとやばい。

 震えが、震えが止まらない。


 これは今世紀最高のMMOを予感させる出来栄えかもしれない……

 まだキャラクリ段階だけど!


 ていうか全然関係ないけど、胸のサイズを変えられるMMOとか初めて見たときには狂人の所業かと思ったけど、今はもう大体のMMOにあるよね……

 そういう設定があるとやっぱり弄っちゃいたくなる時点で、開発者の術中にハマっている気がするけど……


 てかすごいなあ! キャラクリすごいなあ!

 短めの銀髪に、体型はスラっとしててー。

 外見年齢はわたしと同じ19才でいいよね。

 平均より長身。鼻は高め。唇は薄くしておこ。

 目は切れ長気味。でもあんまり冷たくならないようにしなきゃ。

 足は長く、指の長さは……長めか? 

 アクセサリーはとりあえずちっちゃめのピアスで、マニキュアは別にいいや。

 まだまだあるなあ……よし、どんどんいこう。


 肩幅。足の大きさ。まつげ。眉毛。下まつげ。アイライン。

 口紅。髪つや。顎の形。耳の形。刺青の有無。頬の厚み。

 ……段々と適当になってきました。


 舌の形。ふとももの太さ。腕の長さ。二の腕。体毛の濃さ……

 筋肉。シワ。涙袋。首の長さ。おしりの形。額の大きさ。古傷。手相…………

 お、多すぎる……なんだこのMMO、正気か……!?


 こんだけ設定させておいて、それを全員のプレイヤーキャラ描画する気なのか……?

 ど、どんなサーバーを使っているというのだ……? 4次元サーバーか……?

 わたしのPC、スペック足りるかなあ……!

 


 いや他にもすごいんですよこのMMO。

 なんかね、スキルがすごいの。いっぱいあるの。

 一万個ぐらいあって、さらに生活するだけで、例えばお掃除とかしているだけで《お掃除》スキルがあがったりするの。

 やばくないですか? よく知らないけど、多分きっとやばい。

 大学寮のワンルームで危うく奇声を発してしまうところだったよ。

 明らかにわたしが一番やばい(二度目)。

 ほらもう、あがったテンションが戻らないよ。


 

 キャラクリ、スタート地点、名前、そしてこのゲーム独自の要素【ギフト】。

 全て入力完了。

 ほら、このゲームってジョブがないからキャラクターの個性が出にくいっていうので、一番最初に“特殊能力”みたいなのを選ぶんですよね。

 モンスターを使役したり、獣人に変身したり、なんかいきなり60秒だけ強くなったり。

 そういうのです。


 とりあえず戦士っぽいことをやりたいので、わたしは戦士っぽい【ギフト】を選んでおきました。

 あとはエンターを押すだけってところで止めて、わたしはふぅと一息つきます。

 紙パックの紅茶(リプ○ン)で喉を潤して、とりあえず選択項目を再確認。

 うん、間違ってない。



 いやーでも、テンションあがるのも仕方ないじゃない。

『666 The Life』が魅力的すぎるのが悪いんだよぅ。

 まあね、始める前が一番楽しいのかもしれないけどさ。

 そういう経験がチラホラと頭をよぎったりするけどさ……


 実際遊んでみたら運営方針とか難易度バランスとか、そもそもラグの嵐でまともにゲームができなかったり、現実を突きつけられるのかもしれないけれどさ……

 完璧なゲームなんてこの世には存在しないっていうのも、いい加減わたしだって知っているよ。

 でも期待することぐらいはわたしの勝手ってことでさ。


 ハッ、なんだかこれって恋みたいね!?

 いつか現れるであろう理想の王子様を求めるアテクシ。

 ……ゲームを王子様とか言っている時点でだいぶ手遅れだけどさ!


 うるせえ! ここはそういうブログじゃないんだ!


 恋バナが読みたいんだったら毎日毎日食べ物の写真ばっかり載っけたり、

「きょうはドコドコに○○クンと行きましたー(なんかすごく可愛い顔文字)」とかのたまっているやたら行間の長いページに行きなよ!

 なんか色んな方面の人にケンカ売っている気がするけど知らないよ! 今のわたしは『666』さえあれば幸せなんだーッ!

 よし、気合入れた! やるぞお!


 インカム装着! ボイスチャット準備よーし!

 ――エンターキーに思いっきり指を叩きつける!

 ゲームスタートォ!(ッターン!)







 で、気がついた時には、わたしは草木の香りに包まれていたんです。

 えと……

 

 ここどこ?

 

 

 

◆MMORPGについて


※なんやかんや

 興味のある方はどうぞ。

 

 MMORPG戦国時代とでも呼びましょうか。

 ひとつのゲーム会社が、ひとつふたつのMMORPGを運営しているのが当たり前の時代の話です。

 

 すぐに、MMORPGの乱立によりパイを奪い合う自体が発生。

 MMORPGというのはひじょ~~~に、時間を食べちゃいますからね。

 プレイ時間が○時間? なんてもんじゃないんです。

 ○日間、と表示されるレベルです。

 プレイヤーの数もそれほど多くはありませんしね。

 日本国内のプレイヤー人口ともなれば、たかが知れています。

 その少ない人数を様々な会社が取り合うのです。

 通常の月額課金制度だけではなく。

 それプラス、アイテム課金という“付加価値”で集金する方法が主流になり出したのも、この頃ですね。


 その上、ライバルは国内だけではありません。

 様々な国で、国境を越えてのMMORPGの開発競争です。

 元々、MMORPGの本場は北米でしたからね。

 さらにMMORPGの開発に国が力を入れて、国策として支援しているところもございます。

 状況はなかなか難しくなってゆきます。


 競争が激しくなれば、やはり求められるのは独自性やクオリティ、サービスです。

 ですが、そこに力を入れてしまうと、今度は開発資金が莫大なものになってしまいます。

 稼働するまでに何億という資金を投入し、さらにそれを回収できるかわからない。

 簡単に説明すると、そういった背景があって、MMORPGは徐々に割りが合わなくなっていくのですね。


 日本国内の企業は徐々にMMORPG業界から撤退してゆくこととなります。

 まだ続いているのは、一部のトップ企業と低コストなお気軽MMORPGのみ……


 そうして、今となってはソーシャルゲームにその役目を奪われつつあります。

 どこでも遊べますし。

 友達と遊んでたらもはやネットゲーム同然だし。

 口惜しや……

 ……と、元気がないのは国内だけですし。


 今でも開発会社は多くあります。

 頑張りましょう、MMORPG!

 さらに国産の大作MMORPG!

 わたしは期待しています!

 わたしは期待してますよ!

 

 ……すみません、熱くなりました。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ