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ふたりの少女(2)

 目の前に立ちすくみ、しばらくは互いに固まっていた両者。だが、先に言葉を発したのは、茂みから出てきたほうの少女だった。

 「むにぃ〜…たたたたっ、痛いでふよ! 何ふるんでふかー!」

 言葉をうまく発音できていないのは、ティナが彼女の頬を両側から引っ張っているからである。

 「…夢じゃ、ないみたいね」

 「!! 確かめふなら、自分でやってくださーいっっ」

 少女が、涙目で叫んだのは言うまでもない。




 「鏡、でもないわよね」

 「……最近の鏡は、触れる上にほっぺたをつねれるんですか? そもそも着てる服からして違うんですけど」

 恨みがましそうに返す少女に、ティナもうなづく。

 言われてみればそうである。メイド服を着ている自分に対して、相対する少女は、生地こそ上質そうではあるが、ごく普通の服を着ている。

 「それも、そうよね。・・・・・・・じゃ、精巧につくられた人造人間かも。言いなさい、私にそっくりなその目的は、何?」

 「――怒りますよ」

 額を押さえる少女。

 「そう? この世界なら、ありうるかもしれないと、思ったんだけど」

 さて、しかしどうしたものだろうと、ティナは考える。目の前にいるのは、何から何まで自分にそっくりな少女だ。身長も、おそらく体重にも変わりはないだろう。髪の色から瞳の色…そして、先ほど聞いた声さえも、口調が違うだけで一緒だった。自分から解放されて、ほんのりと赤くなった両方の頬をさすっている、その少女。先ほどの口ぶりから、何となく素直そうなものを感じる。きっと、性格はよいに違いない。

 うん・・・そのあたりは、私に似て、いい感じ。

 まったくもって都合のいい解釈をして、ティナは心でうなづいた。

 一方、少女のほうであるが。混乱を深めながらも、このままではらちがあかないことは理解していて。だが、自分とそっくりな外見の、唯一違うとすれば、髪の長さくらいであろうと思われるこの少女に、何を話せばいいものか分からない。しかも、さっきからあくまで自分のペースで物事をすすめるティナに、その少女ははあ、と息をつくと片手を前に出して言ったのだった。

 「あの・・・、私もいろいろとごちゃごちゃしてて、頭の中がうまく整理できないんですけど・・・とりあえず、自己紹介しあいませんか?」






 「そうですか。では、今年はどの国も天候に恵まれて軒並み豊作ということですね」

 「ええ、おかげさまで」

 「いいことではあるのだけど…ボクの国としては、残念なことになるのかなぁ?」

 「ホナミ殿?」

 「ふふ、だってそうじゃないです? 自国の豊富な食料で他国に貸しをつくることが出来なくなるのですから。とりあえず、眉間にしわを寄せた父上、兄上たちの顔が浮かぶようですよ。そして、ボクは新たに聖ルシエルを優位に立たせるような策を練らなくちゃならない。親善大使というのも、なかなかに大変なものなんですよね」

 やれやれ、とばかりに肩をすくめるホナミに、ブライドは笑った。

 「ははは、冗談がうまいですね、ホナミ殿は」

 あながち、冗談でもないんだけどね。

 だが、冷たい視線で自分を見ているエアトスの前で、ホナミも今は、笑うことにする。

 やがて、ホナミが言った。

 「公的な話はこのくらいでよしましょう。ボクが疲れてしまいます。ところで、さっきのお嬢さんですが……名前はなんと言うんです?」

 突然振られた話題。ブライドは一瞬躊躇する。そんな彼の様子を見て、ホナミは苦笑しながら付け足した。

 「いやだなあ、ブライド殿。本当に名前が知りたいだけなんですよ。ボクはこの城の女の子たちは全てチェックしているけれど、彼女はデータにないようですから。それとも――」

 ははあ、と指先を顎にそえながら、ホナミはにっこりとした笑みを浮かべる。

 「もしかして、彼女は、キミのお気に入りですか? いや、そうでしょうね。自分付きの侍女にするくらいですから。ああ、そうか。だから、さっきも早々と返してしまった、と」

 「ホナミ殿!?」

 「いやいやいやいや。まったくブライド殿もすみにおけない。大丈夫、そういうことでしたら、ボクは手をひきますから・・・て、まだ出してもいませんけれどね、あはははは」

 「!! ち、違います!!」

 慌てて、ブライドは否定した。

 確かに、ティナを早く返してしまったのは、この女好きの親善大使兼隣国王子が、やたらとティナを見ていたからでもある。だが、いろいろと謎の多いティナ。しばらく接していれば、おそらくホナミには不審に思われてしまうだろう。すでに、エアトスはそうである。今はホナミの手前おとなしくしているようだが、後で質問攻めにされるかと思うと、うんざりだ。とりあえず、ティナはただの記憶喪失ではない。エンヤの家での顛末から、これは特殊なことだということはブライドにも分かっていた。イグニス国の王子として、最適だと思える決断を下しただけだったのだが。

 ありえない解釈に、ブライドは慌てるしかなかった。

 少し、からかいすぎたかな。

 思いのほか、初々しい同い年の隣国王子に、ホナミは困ったように笑うと、続ける。

 「いや、すみません。実は彼女、キミとここへ現れた時から、何となく顔を伏せていたから、よく見えなかったのですが・・・・・、あの髪の色・・・・・・・・・・・・・・・」


 ・・・・・・・・とてもよく似ていた・・・・・・・・・


 どこか遠くを見ているようなホナミに、ブライドは言う。

 「…あの色は、珍しいですからね」

 その言葉に、ホナミは我に返ったように言った。



「ええ。でも、私は知ってるんですよ。・・・・・・・あの髪を持つ、もう一人の人物を」


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