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ふたりの少女(4)

ティナ…漆黒の瞳と長い髪が印象的な記憶喪失の少女 どこか毅然としている…というよりマイペース?

シス…ティナそっくりの少女。髪はやや短い。ティナとは中庭で出会ったばかり。

ブライド…ティナの処遇の困る金髪碧眼の少年。イグニス国王子。根は真面目で素直。

ホナミ…聖ルシエル帝国の王子。王族としての立場は低いが、銀髪翠眼の美しい容姿により父王から目をかけられている。親善大使の肩書きで昔からイグニス国に出入りしているらしい。女好き?

エアトス…イグニス国最高軍事司令官。寡黙で無愛想。ブライドを補佐している。ホナミを警戒中。



 イグニスはいい国だ。心地よい空中で、ブライドがティナにそんな事を言ったのは、今からわずか2時間ほど前だったろうか。それを知る由もないが、場所は違えど同じように心地よい大地を踏みしめながら、金髪の少年の後に続く銀髪の少年も、同じ事を思っていた。

 本当にいい国だね、ここは。大気からして違うよ。民も兵士も正直で素朴で・・・・

 「最近、部屋の改装をしたんですよ。ホナミ殿は確かユリシーザの花がお好きだったでしょう?

 あの色を、少しとりいれた内装にしてあるんです」

 振り返って言うブライドに、ホナミは笑みを返した。

 「へえ、それは楽しみだ。でも、わざわざ悪いですね」

 「いいえ。ホナミ殿の息抜きに、少しはなるでしょうから。…国はどうですか?」

 ・・・・・・・・・そして、この王子サマもたまらなくお人よしで。

 「ふふ、あいかわらずですよ。特に語って差し上げる事もありませんが、何か聞きたいことがあるのでしたら後でいくらでも答えてあげましょう。

 それとも、いつものようにボクの愚痴を聞いて頂くとしましょうか」

 そんなホナミの返答に、ブライドは口元に笑みを浮かべると、再び前方へと顔を向けた。




 かつてこの世界はひとつの統一された国であった。少なくとも歴史書はそう語っている。今存在している五つの大国の王家は、さかのぼれば、その統一国家の創始者の一族の血筋であるらしい。どういった取り決めがあって、今のように落ち着いたかは知らないが、少なくとも五つに分家した当初は、国の規模は大差なかっただろうと、ホナミは思う。

 おそらく、我が敬愛すべき聖ルシエルのご先祖さまが、何かやらかしてくれたんじゃないかな。

 何となくではあるが、ホナミにはそんな確信があった。勢力的に同じ国々の中で、一歩抜きん出るには、何がしかの行動が必要であることを、彼はよく知っていた。

 それがたとえよくないものであったとしても……

 聖ルシエルは、五カ国中最も国土的にも広く、土壌にも恵まれた豊かな国である。田畑を耕す者にも、商いを生業とする者にも、それぞれに税が課せられ、それは一度地方管轄の役人に納められる。そして、その土地を治める貴族から、さらに王都へと流れていく仕組みになっていた。国の兵士は、俸給で雇われている。試験を受け、一定レベルをクリアすると、兵士として採用される仕組みになっているため、支払われる俸給は高い。地道に土地を耕すよりも、そういったものにつられて兵士を志願する者も多く、人材には不足していないというのが現状だ。試験制度のおかげで質もいいうえに、無理に徴兵したわけでもないため、士気的にも問題ない。表面上は、まさに効率の良い模範国家であるといえた。

 だが、それは表面だけだ。ホナミは、握る拳に無意識に力を入れた。


 イグニスを訪れる直前に会った顔ぶれが思い出され、嫌悪が襲う。穏やかな空気の中、心地よい中庭のはずなのだが、ホナミには踏みしめている土でさえも氷のように思えた。



 ここへ来る前に、ホナミは王と兄達に呼ばれていた。家族同士の歓談などではないことは百も承知だ。そもそも、血族らしい触れ合いなど、ホナミはかつてしたことも、されたこともない。皇太子を含むここにいる兄達は、どうやら影でこそこそ何事かをやっているようではあるが。

 第二の謁見室・・・・通称“闇の間”と呼ばれるその部屋で、ホナミは血縁たちに囲まれ、片膝を折り、顔を下げていた。顔をあげるよう指示が出るまでは、ずっとそのままの姿勢でいなければならない。が、美しい銀髪がたれかかる隙間から、彼は周囲の様子を観察していた。

 日々の飽食により、肥え太った肉体を重々しそうに並べて、イスに座っている兄二人。同じ血を分けているはずだが、自分とは似ても似つかないその容姿。少し離れてこれまた、ホナミの兄である皇太子が座っている。こちらは、二人の兄よりは細めだが、それでも肉づきは、よすぎるほうだろう。ぎょろぎょろと、目玉だけが盛んに動く。それが、ホナミは昔から嫌だった。

 まるで豚だ。母親違いとはいえ、なぜこんなに差がでるのだろうね。

 心で毒づいて、ホナミは冷たい笑みを浮かべた。

 そして、正面には木製の、だが彫りこまれた文様から察するにかなりの値打ちがあると思われるイスに腰をすえている父王アイザック。彼のみが、精悍な顔が多いというかつての聖ルシエル人の面影をかろうじて宿していた。

「ホナミよ」

 アイザックの声に、ホナミはよりいっそう低くうなだれる。この国では、王は絶対不可侵の存在だ。父親とはいえど、神にも等しい王の前では、迂闊に口を開くことさえはばかられた。

 「こうべをあげるがよい」

 やっと、ホナミはその顔を上げた。


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