けだるい出会い
…………。
ここでこうしていても仕方がないのは知っている。それでも、では他に何をすべきか……それすらも分からない。
青々とした空を見上げながら、その少女はただじっとしていた。草の上に寝転がり、時折行き交う雲を目で追う。
もう何時間そうしているだろう。いや、もしかしたら数分のことかもしれない。それとも何百年もこうしていただろうか? まさか。しかし……
「……分からない……」
なんとはなしにつぶやいたそれに、答える者があった。
「何が分からないんだ?」
? 思いもしなかった声に、少女は声の主を仰ぎ見る。いつの間に来ていたのだろう。
15,6歳の……自分と同じか、もしくは年下と思われる少年がすぐ側に立っていて。顔だちは悪くないほうだろう。
比較的整った顔の、何よりその表情は悪意を感じさせない。しかしそれよりも目を引いたのは、その瞳と髪の色。
金色の……さながら太陽の光を反射して燃えあがるかのような金髪は美しく、
後ろで軽く束ねているが、ほどいてみたらさぞかし見事なことだろうと思われる。
そして、丁度今の空を宿したかのような碧い瞳が、じっと自分を見下ろしていた。
少女は、ゆっくりと上半身を起こしたのだった。
「・・・・・・・・は?」
少年は、絶句していた。そして目の前の人物を見る。自分と同じくらいの歳の、この辺りには珍しい……漆黒の髪の持ち主。
いや、おそらく自分も目にしたのは初めてだ。そして、漆黒の瞳。嫌悪感はない。
だが、どこか深く底がしれないその瞳に魅入られる前に、ふいと少年は目を逸らした。
不思議な少女だ。しかし、とにかく今はそんなことはどうでもいい。
何よりこの少女は――変だ。 少年にはそれしか言いようがなかった。
「あまりじろじろ見ないで。…失礼でしょう?」
もっともだ。つま先から頭のてっぺんまでつい見てしまったのは認める。
しかし、原因はお前にもあるではないか。そう言いたいのを、少年はぐっと我慢した。
“何が、分からないんだ?”
“全て。何もかも”
自分の問いに対する少女の返答はそれで。予想だにしないことに、言葉がつまってしまったのも無理のないことだろう。
とりあえず…見下ろして話すのもなんだ。少年はゆっくりと少女の隣に腰を下ろし、間近で視線を交わすと順序だてて問いかけていくことにする。
「まず、いくつか聞くがいいか?」
こくん、と比較的素直に少女はうなづいた。
「お前は、どこから来た?」
「知らない。」
「なぜ、ここにいる?」
「なぜかしら。」
「…歳は?」
「さあ。とりあえずあなたと同じくらいか、それよりもちょっと上ってところ?」
「……そうだな。そんなところだと俺も思う。」
そう答えた後、少年は再度少女を見る。
ふざけているのか? だが、悪意があるようには感じられない。それほどに少女の瞳はまっすぐで。疑えというほうが無理のような、何かがあった。そこで、ふと気づく。何と肝心な事を忘れていたのだろう。
「お前、名前は?」
少し目を見開いて、何か言いかけようとする少女を制しながら、少年は続ける。
「と、その前にまずは俺から名乗るのが礼儀というものだな。俺はブ――」
? そのまま固まる少年に、少女は疑問の眼差しを送る。しかし、その原因はすぐに分かった。
風にのって、そう遠くないところから声が聞こえてきたのである。
《ブライド様ー…っ》
それは数人のようで。どうやら段々と近づいて来ているらしいことが、声の調子からうかがえる。
ちらり、と声のする方向を見やる少年。確かに人影がある。
ち… 舌打ちをすると、少年は少女の手をとった。