俺、発見される。
カラン。
ある酒場に、一人の男が入ってきた。歳は30半ばぐらいだろうか?全身を筋肉で包まれた黒髪の偉丈夫は酒場をぐるりと見渡すと、カウンター席へ座った。
「マスター、この店で一番強い酒くれ」
重低音の効いた声を響かせる。店主であるマスターはその声に少し怯みながらも、黙って準備を始めた。男は酒を待っていると、隣から声をかけられた。
「おや、あんたはウチの町に来てるサーカス団の団長さんかい?」
「ああ、そうだ」
声をかけてきた村人に肯定の意を返す。
「明日にはこの町を出るんでね。俺は寄った町の酒場で最後の夜を過ごすのがポリシーなのさ」
二ヤリ、と笑みを返す。
「へぇ、そうなのかい。ウチの娘がえらく興奮してダンナのサーカスの内容を教えてくれたよ…。俺も見に行けばよかったかな」
「はは、また俺らが来た時にでも見に来ればいいさ」
男はマスターから酒を受け取り、一気に3分の2程飲み干す。
「くっはぁ。なぁ、一つ聞きたいことがあるんだが」
「何だい?俺に答えられることなら何でもいいよ」
「ああ、コンヴェールの村ってどこにあるか知ってるかい?最近買った地図にゃあ載ってなかったんだが」
男の質問は村人の顔を真っ青にさせた。
「…ダンナ。悪いことは言わねぇ、それだけはこの周りの村じゃあ聞いちゃあいけねぇことだ」
「何故?」
村人は周囲に聞き耳を立てている者がいないか確かめて、囁くように答えた。
「あの村は1年前に廃村になっちまったんだ。当時の内乱の余波でなぁ。今の国王軍に敗れた元国王軍がここの近くまで来ていてよ。奴ら、逃げる途中途中で町を襲ったのさ。コンヴェールはその犠牲になっちまった」
村人は乾いた唇を酒で湿らせながら続ける。
「噂じゃ、人っ子一人助からなかったらしい。今じゃすっかりあそこを通ろうとする奴はいなくなっちまった。バカと盗賊くらいしかな」
「そうだったのか…」
男は気落ちしたかの様にグラスに残った酒を見つめた。
「ああ、そういえば…」
「ん?」
「いや、これは俺が又聞きした話なんだけどよ。なんでも、今あそこには鬼が住みついているらしい」
「鬼?」
「うん。なんでも、5、6歳くらいの姿をした白髪の鬼がいるらしい。そこを通った奴はほとんど帰って来ず、生き残った奴もまともに話が出来なくなるほど怯えて帰って来るんだ」
男はその話を聞いて椅子から勢いよく立ち上がって村人の両肩を掴んだ。
「本当か!その話は本当なのか!?」
「あ、ああ。確かに、この耳で聞いた話だよ」
男はその返事を聞くなりテーブルに金貨を置いて走り去っていった。
「…なんだったんだ、今の…」
「さぁ…」
その後、金貨に気付いた酒場にいた人々が大騒ぎすることになるのはちょっとした余談である。
「聞け、お前ら!!」
「何すか、お頭。血相変えて」
「お頭じゃねぇ、団長と呼べ」
町の外れに建てられたテントには、サーカス団の団員が思い思いの体勢でくつろいでいた。
「団長。何かあったのですか…?」
「ああ、マーカス。一大ニュースだ」
団長はそこにいる団員全員に聞こえるように、しかし興奮を抑えた声で言う。
「生きてた。あの子が」
一瞬の静寂。そして、
ワアアアアアァァァァァァァァ!!!!
団員たちは同僚の肩を叩き、お互いに喜びの声を上げる。
「それは、本当なんですか、お頭!!」
「ああ、ああ、本当だとも。きっとあの子だ。生きててくれた…!!」
「良かった!ああ、これも戦神アグイア思し召し!神よ感謝します」
「ふん!普段は神なんざ信じねぇってほざいてる奴が言うセリフじゃねぇな!」
「別に良いじゃねぇか!こんないいこと、神に今さら祈ったって一緒の事よ!」
「違いねぇ!!お前ら!今夜は飲むぞ!」
「「「オオーーー!!!!」」」
男は騒ぐ団員たちをしみじみとした気持ちで見つめていた。男も彼らと同じように内心は喜んでいる。だが、団長としての立場が彼らと混ざることを出来ないようにさせていた。
「団長…」
「マーカスか…。お前もあれに混ざってきたらどうだ?」
「私は副団長です。そんなことは出来ませんよ…。そんな歳でもないですしね」
「マーカス。明日から本業を再開するぞ」
「了解、団長」
後ろから、ごそごそと物音がして、一人の女の子が眠たそうに眼を擦りながらテントに入ってきた。
「パパー…。どうしたのー…?」
「ニーナ様」
「ああ、悪いな、ニーナ。起こしてしまったようだ」
「んん~…?」
「聞いて驚け。実はな、お前の兄が見つかったかもしれんのだ」
男はかがんで頭を優しく撫でながら娘――ニーナに話す。
「お兄ーちゃん?」
「ああ、そうだ。お前の、お兄ちゃんだ」
「本当?」
「本当だ」
男はニーナに優しく微笑む――それにつられてニーナも笑みを浮かべた。
ついにタイトル通りの彼らを出せました…。
ゴーシュは新たな運命に巻き込まれていきます。
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