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俺、育つ。

 俺が生まれて早5年。5歳になりました。え、早い?しょーがない、しょーがない。だって作者が何も考えてないん――ゲフンゲフン。


 さて、三下篤改め、ゴーシュ・アーバントっす。この世界――異世界に転生して5年か。まぁ、まずはこの世界について頭の整理を兼ねて話そうか。


 まず、この世界に生まれて一番驚いたのがこの世界がもといた世界――地球とよく似ている、という所だ。母さんに黙ってこっそり今は誰も使っていない書斎に入って地図をあさってみた。するとそこには、見たことがあるような大陸の形が。


 ――――これ、ヨーロッパじゃん!!


 どうやらこの世界は、〝魔法が発達した地球〟のようで、大陸の形は完全にヨーロッパのそれだった。ただ、魔法が存在しているようにここは所謂パラレルワールドみたいなもののようだ。学校で習った世界史では成功した革命が失敗していたり、戦争では敗けた国が勝っていたりした。


 その点からいうと、国自体の形はもといた世界とは似ても似つかない。やっぱりここは異世界なんだとほっとしたものだ。


 俺が住んでいるのは元はフランスだった場所だ。もっとも、内陸の方で周りには山しかない田舎だけどな。


 次に時代背景だ。今は中世――に近い感じだな。移動するには馬とか、いかにもだろ?


 なんでも、近いうちに内乱が起こるかもしれないらしい。この国の王様に反感を持っている大臣たちが謀反を起こすともっぱらな噂だ。こんなど田舎にも噂が届くぐらいなんだからよっぽど悪い政治をしてんのかな?分からん。


 まぁ、この村には火の粉はかからんだろう、というのが村長たち老人の考えだ。ここは何もない所だからうまみがないそうな。…堂々と言うことじゃないけどな。


 なかなか大変な世の中に生まれたもんだが、この生活も慣れたらいいもんだからな。生涯平穏といこう。それが一番だ。


「ゴーシュ?ちょっといいかしら?」


 ああ、今俺を呼んだ女の人が俺の母さん。カーラ・アーバントだ。栗色の髪に青い瞳。なかなかのナイスバディな母さんだ。正直、赤ん坊のころは直視できなかった。


 …まぁ、分かるだろ?分かってくれ、頼む。


 ちなみに俺に父親はいない。なんでもどっかいって帰ってこないままなんだ。だから、母さんは俺が守る。俺を生んでくれた大切な人だからな。


「何、母さん」


「冬に備えて薪を採って来てもらえないかしら。森にたくさん落ちているだろうからあなたでも十分できるわ。お願いできる?」


「お安い御用さ」


「ふふ、お願いね」


 そう言って母さんは台所の方へ行ってしまった。よし、頼まれたからにはたくさん採って来るか!そうして俺は森に入るための簡単な準備――ナイフ、クマ避けの鈴なんかだ――をして森へと入っていった。







「よし、こんなもんかな」


 5歳の子供にしたらこれだけ持って帰ったら十分だろう。前世の記憶があるからこういうのは効率よくできるからな。ふふふ。


 よく見たら日が沈みかけていた。やっべ、集めるのに夢中で気付かなかった。暗くなる前に帰らないと。





            ――――ワアアアあああぁぁぁぁ!!!!!



 なんだ!?突然声が…もしかして、誰かが村に襲いかかってきたのか!?


「クソッ!!」


 俺は集めた薪を放り捨てて村に向かって走る。村の方角からは煙も上がってきた。暖炉に火を付けるのはまだ季節外れだ。間違いない、村が襲われてる!!


「母さんっ!!」


 俺は必死になって走った。間に合え、間に合え間に合え間に合え!!


 こんなに子供の姿でいることがもどかしいと思ったことはない。感覚がマヒしているのか、時間が流れるのがひどく遅い気がする。


 やっとのことで森を抜けて目に飛び込んできたのは――死体だった。


「グフッ!!?」


 凄まじい嫌悪感が俺を襲う。胃がきゅっと締まって、たまらず思いっきり吐いた。真っ青になりながらも、息を整えようと強引に息を吸う。


 ツン、と肉が焼ける匂いが俺の鼻に届いた。吐き気を必死に我慢して家を目指す。


 後から思えば、俺は何とも短絡的に動いていたと思う。もしかしたら村を襲った奴がまだ潜んでいるかもしれないのに。


 でも、そんなことを考える余裕なんか、俺には無かった。前世――あの時代の日本はこんな地獄絵図なんて考えられなかったから。


「はっはっはっ」


 視界に移るのは物言わぬ死体になった村人たち。幼馴染のカーリー、隣のマーサおばさん、村長…。見知った顔が脳裏に次々と現れては消える。そして、母さん。


「はっはっはっ」


 燃える家を縫うように抜けながら、一直線に俺の家を目指す。


 すると、崩れてしまった家が見えてきた。その前に、倒れている母さんの姿が。


「母さん…!!」


 俺はスライディングするように母さんの元に膝をついた。


「母さん、母さん!!目を覚まして!母さん!」


 俺に強請られたからか、母さんはゆっくりと目を開いた。


「母さん!!」


「ゴー…シュ?生きてたのね…。良かった…」


「俺は大丈夫だから!とにかく、応急処置を…」


 俺はうつぶせに倒れた体を持ち上げる。


 そして、真っ赤に染まったお腹を見て言葉を失った。一目で、致命傷と分かる大けがだった。


 これじゃあ、母さんは…!!


 歯をぎゅっと噛みしめる俺の頬に、母さんは血に塗れた手をそっと添えた。


「母さん…?」


 フッと母さんは笑って。


「生きて、ゴーシュ」


 とさり、とその手が地面に落ちた。


「ああ…ああああああ!!!」



『あーあ、死んじゃったね』


「!!」


『しっかし、酷いもんだね、人間は。よくここまで(むご)いことができるもんだ』


「なんで、今頃…!!」


『んー、今だから、かな?いやね、君、気付いてる?何で君だけ助かったのか。気にならない?』


「何を…言ってるんだ…?」


 俺はその言葉を聞いてはいけない気がした。だけど、俺の体は金縛りにあったかのように動かない。


『君にあげた能力。見切りの才だっけ?それはね、別に剣を見切れるとか、そんな安っぽいだけの能力だけだと思う?』


「…え?」


『あー、気付いてなかったか。いや、気が付きたくないだけなのかな?それはね、己に降りかかる危機を察知する、所謂〝勘〟ってやつさ。野生の勘って言うでしょ?それと一緒さ』


「あ、あああ…」


『つーまーりー、君は一人で勝手に助かっちゃった(・・・・・・・)ってことさ。…みんなを、見捨ててさ』


「!!!」


『ごしゅーしょー様ってやつ?ま、頑張ってよ。応援してるからさ』


『あ、そうそう。君の前世の記憶も、時間と共に薄れていくからね。言ったでしょ?そのための輪廻の輪だって』


『それじゃ、あでゅー☆』








「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」






 神、惨すぎる…。


 感想、よかったら下さいね。

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