一瞬の交錯
モードレッドを中心として魔力が渦巻く。その力強さは半端ではなく、きちんと足を踏ん張らなければ引き寄せられてしまいそうな程強烈だ。
見た感じではただ大きく振りかぶっているだけだが、その実彼の騎士の剣に魔力が集結していっているのが分かった。
「いくぞ」
言葉は一瞬。
モードレッドはその剣を振り下ろす。
そしてその瞬間。俺の中に今までにない警鐘が鳴り響いた。モードレッドと戦い始めてから鳴りっぱなしだが、これは今までで最大のものである。俺は自身の内から湧き出る警告に疑問を抱くことなく、素早くその場から飛び退る。
もはや恥も外聞もない。
頭から飛び込むように地面に転がる。が、背後から生じた衝撃波に体を叩かれ、受け身を取る暇もなく吹き飛ばされた。恐ろしいことに、その衝撃波は剣が空気を切り裂いて生まれた豪風でしかなかった。
地面を叩いた際に第二波が襲い掛かる。轟音と共に水飛沫が舞い、あるとも思えぬ足場が崩壊する。遠方まで広がった衝撃波は、背後の木々をなぎ倒しながらやがてその脅威を減じさせた。
痛みに堪えながら身を起こす。背後を見やると、予想以上の被害の大きさに頭が痛くなった。湖面のような台地は切り裂かれ、まるで神話に出てくる一場面の如く分かたれてしまっていた。
恐るべきはその範囲の広さだ。モードレッドの剣は俺の魔法によって拳を重ねた程度にまで寸断されてしまっていたのにも関わらず、凡そ1キロメートル先まで切り裂いていた。
長大な線断面を見て、思わずその威力に生唾を呑み込む。こんなもの、直撃すれば真っ二つどころか存在すら残らないのでは、と思わせる。
モードレッドは寸断された剣を肩に担ぎ、何てことはない、とでも言う風にその場に立っていた。
「おいおい……冗談はよしこさんだぜ……。これだけの大事を成しておきばがら、疲れた様子がかけらもないとか頭イカレてるんじゃねぇのか……?」
「はっ、フランスにゃこの程度も出来る奴がいねぇのか?」
「いたらお宅にボロ負けなんてしませんよ……」
「そりゃあそうだ」
モードレッドは再び剣を構える。
俺も似たようなことはしようと思えば出来るが、しかしその分消耗はする。少なくとも、乱発は出来ない。しかし、モードレッドの口ぶりやしぐさを見る限り、彼の騎士にとってこの程度屁でもないことらしい。
この戦いを見守っている他のブリテンの騎士たちも、特に驚いた様子がないのでこの程度彼らにとって標準的なレベルのことらしい。
クソッタレ、と小さく呟く。
世界は広い。
頭では理解していたことだが、実際に目の前に現れたとなるとその凹みようったらない。自分は前世的な記憶を一部引き継ぎ、更には特殊な才能を持っている。そのことで天狗になったことはないが、何処かで俺以上に特別な人間などいないと高を括っていた。
しかし、それは間違いだったと身をもって経験することとなった。これで凹まずにいられるだろうか?
自分が物語の主人公だと思っていたら、横からぶん殴られて「お前は主人公などではない」と言われた挙句、その相手も自分と同じくただのモブ。
ああ、穴が合ったら入りたいとはまさにこのことだ。恥ずかしさのあまりに、喉元を掻きむしって死んでしまいたい程には最低の気分だ。いっそのこと、ここで派手に負けて仕舞えれば気も楽だったのだがそうもいかない。
この身は曲がりなりにもフランスの騎士の上に立つ者なのだ。早々に負けては彼らに面目が立たない。それに、こちらを心配そうに見ている義妹にもこれ以上の心労はかけたくない。
いくら恥ずかしくたって、それ以上にかきたくない恥というものもあるのだ。
俺は再び手に魔力を集め、鉄すら融解させる魔剣を生じさせる。
「なんだ、まだ諦めないのか? まあ、その根性だけは買ってやるよ」
「…………」
俺は無言で応える。
モードレッドも、揶揄うような口調だったが俺の身に纏う空気が変わったらからか、佇まいを正した。粗暴な口ぶりをしようとも騎士は騎士。真剣勝負の際は全身全霊を持って挑むということを理解しているのだ。
しばしの静寂。
そんな中、先に動いたのは俺の方だった。魔剣を両手で構えながら、モードレッドに駆けよる。
当然、モードレッドもそれを許すはずもなく再び剣に魔力を凝縮させた。いくら魔力をぽんぽん消費して平気であったとしても、即時に先程の大斬撃を連発する程の魔力を装填するには時間がいるらしい。
しかし、それは時間がかかると言ってもあくまで数秒。間合いを少し詰めた時にはリチャージが完了していた。
「さぁ————コイツをどう避ける————!?」
再び振り下ろされる斬撃。真上から落ちてくる斬撃は、まるでギロチンのように無慈悲・正確に俺に向かってくる。先程の切り裂かれた大地の跡からして、これはとっさに左右に避けようとも避けれない大きさだった。
そう、あくまでとっさに避けようとするならば、である。来ると分かっていれば対処は出来る。一度見れば尚更だ。俺からすれば、どうぞ避けてくださいと言わんばかりの攻撃だ。
手に保持された魔剣に指令を送る。
先程、この剣の属性が一種のエンチャントだと述べた。つまり、魔法を付加させる対象を指定しなければ効果を発揮しないのである。俺はある物質に作用するよう指令を送る。
何分、これは初めて試すことなので上手くいくかは分からない。しかし、心の中の更に奥、本能とでも言うべき部分が、この賭けは〝成功する〟と告げていた。ならば、それに従って全力を出すまでだ。
剣の根元から、ボッと何かが小さく爆発するような音が響く。それはボ、ボ、ボ、ボ、ボ、と間断なく発せられた。そして音と音の間隔が次第に短くなってゆく。
その音は次第に大きくなっていき、ある臨界点を超えた瞬間——俺の体が宙に浮いた。その瞬間を見逃さず、魔剣に込める力を更に強める。
それに応じるかのように、浮いた体は鎖から解き放たれた狼のように真っすぐに宙を駆けた。
「な————!?」
モードレッドの表情が驚愕の色に染まる。当然だろう。人が突然宙に浮いて、あまつさえ自分の方に飛んで来たら誰だって驚くに決まっている。
俺は体にかかる圧力に耐え、真っすぐに騎士の下へと滑空する。その姿はさながら人間ミサイルだ。空いていた空間を瞬時に捻じ伏せ、モードレッドの目の前へと到着する。
モードレッドは、剣を振りかぶった体勢からすぐさま防御の姿勢に転じさせた。その咄嗟の判断力、行動力には舌を巻いたが、如何せん今回は間が悪かった。
何故ならば——身を守ろうと体の前へ出された彼の騎士の剣は、俺の手によって短く寸断されてしまっていたからだ。なまじ、それを可能にさせる身体能力が仇となった。
俺は空を駆ける勢いそのままに、魔剣を振るう。そもそも、この剣は防御不可能の斬撃だ。防御の構えなだ意味はない。
一瞬の交錯。
魔剣に注いでいた魔力を徐々に緩め、両足で踏ん張って地についた。勢いを殺し、ようやく止まる。
背後を振り向けば、防御の構えのままモードレッドは固まっていた。
やがて————モードレッドの身を覆っていた鎧が音を立てて落ちてゆく。中身ごと斬る、なんてことはせずに鎧だけを融解させた。怪我でもさせたら外交問題に発展しかねないからだ。体を傷つけないように剣を振るった瞬間が一番肝を冷やした。
だが、これで————。
「勝負あり、ですね」
モードレッドと口論していた騎士が一歩前に出た。彼は周囲を見渡して異議がないかと確かめる。戦いを見守っていた騎士たちは無言で意を示した。
「勝者————ゴーシュ・アーバント!」
戦いの幕が下ろされた、瞬間だった。
FGO楽しい




