フランス騎士 vs ブリテン騎士
昨日おとといと忙しかったので、続けて投稿します。
実を言うと、俺は言う程強くはない。そんなことを言うと、ミュラーやアレンには「何言ってんだコイツ」的な視線で見られたことがある。俺は「嘘じゃないさ」とその時答えた。
自称神とか言ってくれちゃってるあのイカレたクソガキは、俺に一つの才能を与えた。直感を極限にまで高めたその力は、確かに有用な力ではある。しかし、万能の能力などこの世に存在しない。
あっても、便利な能力程度が関の山だ。俺は、そのことをこの第二の人生で嫌と言うほど経験してきた。
一つとしては、あくまでこの力は自身に関することにしか発揮されない、ということである。身の危険、あるいはある種の予感。第六感とでも言うべきその感覚は、他者の危険予知にまでは作用しない。
つまり、仲間がピンチになっていても直接見ていなければ意味を成さないということだ。これの所為で、大きなしっぺ返しを何度も喰らってきた。過信は禁物とはよく言ったものである。
もう一つは、実力差があり過ぎる場合は危険の度合いが分からないという点である。例えば、目の前にナイフが在ったとしよう。突きつけれれば傷付くし、切られれば血が流れる。
直感はその危険性を教えてくれる。
しかし、このナイフを誰かが持っていたとしたら?
ナイフ自体の危険性は変わらない。しかし、持ち主の危険性までは測れない。実力とは、目に見えるものではないからである。それを知ることになるのは、大体においてナイフが自身の体に突き刺さっていた時である。
つまり、何を言いたいかというと俺にでも負ける可能性は十二分に存在する、ということなのである。
「オラァッ!!」
剣風が舞う。
モードレッドの剣を譬えるならば、それは旋風といった所だろう。
一閃一閃が驚くほど鋭い。いくら自身に直感という能力が備わっていると言っても、眼で捉えらないものに反応するというのは難しい。俺が辛うじて躱せているのも、今までの戦闘勘の賜物によるものだった。
「はんっ、避けるのだけは一人前だな!」
「そりゃあどーも!」
踏み込み鋭く振り下ろされた剣閃を、半身をずらして躱す。体スレスレを通り過ぎてゆく剣の圧力に、先程から肌が粟立つのを止められない。
俺に授けられた直感が、人生で最大規模の警鐘を鳴らしていた。
一撃でも、掠りでもすればそれでお仕舞だと、俺の直感が教えてくれている。
避け続けることで相手が焦れてくれたらまだチャンスがあるが、目の前にいる騎士は少しもそんな様子を見せてくれない。流石は、イギリスを守護してきたブリテンの騎士だろう。
しかし、焦燥の気はなくとも油断は辛うじて見えていた。
フランスの騎士になど負けないと言う自負。そして、己の力に対する圧倒的な自信。付け入る隙があるとするならばそこだ。
モードレッドは、ゴーシュという人間を下に見ている。
ならば、そこを徹底的に利用するまで。
俺はモードレッドの剣戟を避けながらタイミングを計る。チャンスは一回。それも、針の穴に糸を通す様な正確な動きを要求される。しかし、タイミング自体はそこまでシビアではない。
何故ならば、超直感の能力はこういう時にこそ大きな力を発揮するからだ。自分に対する危機だけでなく、勝敗の趨勢を決めるような一瞬に対しても鋭敏に察知する。
俺はその隙を逃さず————モードレッドの虚をついて体を沈める。相手には、俺がまるで消えたかのように見えたことだろう。完全に予備動作がない動きかつ、相手の意識の外。
それに加えて、鎧兜を装着していることによる視界の狭さも有効に働いているはずだ。
俺は体を横たえ、モードレッドの体勢を崩そうと足払いをかける。脚甲に守られたアキレス腱側を、救い上げるように蹴る。
それにより、勝負が決まった————かのように見えた。
「……ははっ、冗談キッツいぜこりゃあ……」
「…………」
俺の足は——モードレッドのアキレス腱を叩いて止まっていた。彼の騎士から伝わってくるのは、途方もない〝重さ〟。まるで、山に蹴りを見舞ったかのような、圧倒的なスケール感の差しか感じられない。
「————それで仕舞か?」
頭上からモードレッドの声が落ちてくる。
「なら」
その声に合わせるように、無慈悲な剣が俺目がけて振り下ろされた。
「テメェはここで死ね」