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番外編4 赤髪と野良犬。


 俺には親と言う記憶が無い。


 俺は、捨て子だった。


 俺の故郷がドイツと知ったのはつい最近だ。俺の両親だと言う奴らがわざわざ『学園』までやって来たんだが、俺は素気無く追い払った。


 俺に親はいない、いらない。


 だが『仲間』はいる。


 絶望と諦観が入り混じったあの薄暗い裏路地で、俺は〝一匹〟の野良犬に救われた。


 まぁ暇があるなら聞いて行って欲しい。


 何せ、その野良犬はフランスを変えてしまったような奴だから――――








 俺は物心ついた時からこの裏路地にいた。親は無く、浮浪者の爺さんに育てられた。


 俺には名前は無かったから、爺さんは俺の事を『赤毛』呼んだ。


 だがその爺さんも、固く冷たくなってしまって俺は一人で生きることを余儀なくされた。


 その日の飯を手に入れるだけで精一杯。堅いパンに泥水を啜って生きた。


 そんなある日だった。その日もどうやってこの飢えをしのごうかと考えていた時、目の前から俺と同じくらいの子供が歩いてきた。


(…結構身なりがいいな。こりゃ久しぶりにいい飯にありつけそうだ)


 すれ違った後、引き戻って後ろをつける。


 近道をしようとしたのか、裏路地に入っていった。


(よし、チャンスだ!)


 俺が裏路地に入った瞬間――天地がひっくり返った。


「!!?」


「やっぱりか。俺の財布狙いだったんだろうけど、狙い相手を間違えたな」


 そいつは上から目線で――物理的にも――言った。


「これに懲りてスリなんて止めるんだな」


 その言葉に――何故だか無性に腹が立った。何を偉そうに、お前に何が分かる、と。


「んだよ…」


「ん?」


「お前に何が分かるって言うんだよ!!」


 俺は叫んだ。今から思えば、俺はこの状況にうんざりしていたんだろう。俺と同じ境遇の奴らはどこか諦めた表情をして生きているし、俺よりよっぽど年上の奴らですら同じだ。


「俺だってこんなことしたくねぇよ、だけどこんなことでもしなきゃここじゃ生きてけ無ぇんだよ!!お前みたいに身なりが良い奴には一生分からねぇだろうけど、俺だって柔らかいパンが食いたい、暖かい服を着たい。それに――」


「親に抱きしめて欲しかった!!」


 路地裏に、静寂が下りた。俺は息も荒くしてそいつを睨みつけていたけど、次第に惨めになって顔を下げた。


「――そうか」


「え?」


 俺はまさかそいつが口を開くなんて思っていなかったから、どこか間抜けな声が出た。


 そして、そいつは言ったのだ。俺の、運命を変える言葉を。


「柔らかいパンが食いたいか?」


「…食いたい」


「暖かい服が欲しいか?」


「欲しい」





「幸せに、なりたいか?」


「なりたい!!」


 そいつは、俺に手を差し出して言った。


「だったら、俺について来い。特等席を用意してやる。俺がこのフランスと言う国を変える瞬間を目に焼き付けろ」


「…デカいこと言うな。俺と同じくらいのガキが言うことじゃないぜ」


「まぁな。だが、俺には大勢の『仲間』がいる。それなりに楽しいぜ?」


 俺はこの時、騙されているんじゃないかとか、そういう余計なことは考えもしなかった。


 それに――――



 こいつに着いて行ったら、何かが変わる。そんな予感がした。


 俺はそいつの手を取って握手する。


「来い。仲間にお前を紹介する。名前は?」


「『赤毛』」


「そんなのは名前なんて言わねぇよ。よし、確か仲間の中に姓名判断士がいたはずだ、そいつに考えてもらうか」


「そんなのも居るのか」


「まぁな」


「それより、お前が考えてくれよ」


「俺が?そうだな…こんなのはどうだ――――?」















「で?で?どうなったの?」


「ああ。その後レジスタンスのみんなに紹介されてな。最後の作戦まで旦那と付き合ったよ」


「そうだったんですか…というか、先輩の名前はゴーシュさんが付けたんですね」


「まぁな。結構気に入ってるぜ?この名前」


 空を見上げる。


「それに――」










「初めての貰いもんだからな」


 親はいない。でも、『仲間』は大勢いる。


 俺は二カッと笑った。




「そう言えば、町のトラブルを解決した恩人って言ってなかった?」


「ああ?そりゃお前、パリも広義で言えば町みたいなもんだろ」


「先輩、それはあまりにどうかと…」


「未だにミュラーが騎士クラスなんて信じられないわー…」


「??」

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