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番外編3 窓の下のセレナーデ。

番外編第三弾です。


今回は、ゴーシュが姿を消す直前のお話です。

 あの日の事は、昨日のように思い出せる。


 10年前の、あの日を――――


「君が一生かかっても知りえないような情報。つまり、あの村を焼き払い、皆殺しにした犯人を教えてあげようと思ったわけさ――――さぁ、どうする?」


 自らを『神』と呼ぶ悪魔のような奴は、何も穢れを知らない子供のような無垢な笑顔で俺に言い放った。


 ポツリ、ポツリと雫が天から落ちてくる。それは、これからの困難を暗示しているかのようだった。


「――――全部、話せ」


「オッケー♪」











「全てはね、くだらない勢力争いからさ。君も聞いたことぐらいはあるだろ?フランスの大臣が謀反を企てているって。フランスの王はね、僕が見てきた中で、一番〝王らしい〟人物だったよ。もし、僕が一国の王になったらまず彼を参考にするくらいさ。それぐらい彼は王として完璧だった」


「〝だった〟か」


「そう。〝だった〟。彼はね、民を思うあまりに懐を(ないがし)ろにし過ぎたのさ。つまり、臣に対してあまり気を払わなかったんだね。当然、不満が出てくるわけさ。勿論、王に賛同する人もいたけどね。王に最も近い大臣が一計を案じた訳だよ。『このままで、この国は大丈夫なのか』って。その考え自体は悪いことじゃない。彼も王と同じく国を愛していたのさ」


 『神』はそこでやれやれ、と言う風に首を振った。


「だけどね、彼はそのことを友人に相談したんだ。その相手が悪かった。そいつは上昇志向が強すぎる奴でね、彼は大臣を言葉巧みに唆してしまった訳さ。『このままじゃ国は亡びる』、と。そいつはそのままじわじわと仲間を増やして――王を亡き者にした」


「そこからは雪だるま式に悪くなっていったよ。君も経験した通り。君の村を襲ったのは、隣村の(・・・)奴らさ(・・・)。税が異常に高くなったのが原因だね。彼らは、足りないなら余所から持ってくればいいと考えたのさ。実に合理的な考えだね?」


「まぁ、こんなものかな。真相っていうのは。隣村の奴らを潰そうが何しようが君の自由だよ?後は君次第だ、頑張ってね」


 そう言って、『神』はどこかへと去ってしまった。


「…なんだよ」


「何だよ、それは!!?」


 俺は、吠えるしかなかった。















「そうか…それで、君は復讐をするのかい?」


「――はい。もう、決めたことです。そのことと、もう一つ。お願いがあって参りました」


「何だい?」


 ローマ国王は、俺の言葉に玉座の上で肘を突き、手を組みながら聞いている。


 俺は『神』に全ての真相を聞いた後、すぐに王宮を訪れた。


 見切りの才を使えば簡単に侵入できた。いきなり俺が現れた時はかなり驚いていたが。


「こんなことを頼むのは何ですが――セレナに、兄が彼女を殺そうとしていたことは隠しておいて頂きたい」


 はっきりと、俺はローマ国王に面と向かって言いきった。俺のセリフにどんな反応をするか、じっと見つめる。


 しかし、ローマ国王は眉一つ動かさずに口を開いた。


「理由を、聞かせて貰えないかな?」


「はい。恐らく、セレナは今、塞ぎ込んでいるのではないですか?兄が、死んだわけですから」


「ふむ、なかなかはっきり言うね」


「事実ですから」


 と、何でもないように言う。


 だが、俺の胸には棘が刺さったままだ。


『お兄様は、少し恐い方だけど、家族なの。私は、仲良くなりたい』


 俺は今から、彼女を裏切る。それも、二回も。


「セレナがもし、兄が彼女を殺そうとしていた、と知ればさらにショックを受けるでしょう。二度と、立ち直れないほどに」


「……」


「ですから、彼女には言わないで頂きたい。セレナのことを、思っているのなら」


 俺の言葉にしばし沈黙を保っていたが、しばらくしてローマ国王は重い溜息をついた。


「はぁ。別にそれは構わない。しかし、それだと娘はじきにこう考えるだろう。『何故あの時、君がいたのだろう』と。そしてこうとも。『兄を殺したのは君ではないか?』とね。あの時、娘は多少意識があったはずだ、君の事ももしかしたら覚えているのかもしれない」


 ギロリ、と俺を睨む。


「君は、自ら復讐の対象になろうと言うのだね?」


「――そうです」


 しばしの間、玉座の間に沈黙が下りた。


「はぁ。決心は、固いようだね。分かった。君の好きなようにすると良い、なにしろ君は娘の命の恩人だからね」


「しかし君は酷い人間だ――可愛い私の娘を、進んで復讐者にしようと言うのだから。もし、娘が本当の真実を知った時はどうするつもりだい?」


「その時は――償いを。どんなことでも受け入れるつもりです」


「だろうね、君はそういう人間だと思うよ…でもいつだって不測の事態というものはある。それを肝に銘じておきなさい」


 俺は、返事をすることなく城を去った――――。









 セレナは独り、泣き続けている。しかし誰も、彼女を慰めることは出来ない。この城にいる全員が共犯なのだから。






「お兄様…お兄様…。寂しいよぉ…」




「――――ゴーシュさん…」










 彼女と再会するのは実に10年の月日が経ってから――それまで、彼女が何を知り、何を思うかは――――別のお話である。



「俺と旦那の昔話は!?」


「ごめーん、一緒にやろうかと思ったけど、足りなかった。また次回☆」


「うそーん!?」


11/21 訂正しました。ご指摘ありがとうございます。


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