逆立つ鱗。
番犬共、狩りの時間だ。
精々、鼻を伸ばしている下種野郎に噛みついてやれ。
ピチャ…ピチャ…
血の雫が地面に落ちて音を立てた。
ッ…と、流れる血はナイフを掴んだ俺の手から流れたものだ。
「どう…して」
セレナが喋った言葉は運命か皮肉か、俺が刺された時と同じだった。
「どうしてってそりゃぁ、俺がお前に生きて欲しいからだよ。あの時と同じだ。俺は、お前に傍にいて欲しいんだよ」
俺の言葉にセレナはボッと音が聞こえそうなくらい顔が真っ赤になった。
?
何か変なこと言ったか?
「ふん、面白くもない」
上から落ちてくる金属を引っ掻くような声に、俺は顔を上げた。
「お前には茶番に見えるかな?ジル・ド・レイ」
「ええ、まったくです。奇麗な赤い血を見れるかと思ったのに…残念至極極まりないですよ」
ジルはそのまま手に持つ召喚の書を捧げ持つ。
「仕方がない。少々シナリオを変えて、私の手で引導を渡してあげましょうか」
本から薄い光が漏れる。
その光と同色の魔方陣が10…20…30と増えながら俺たちの周りをぐるりと囲んだ。
Gyaooooooooooooooo!!!!
「使い魔…」
「貴方たちには、彼らの牙で死んでもらいましょう」
「これだけの数…人間の魔力では到底賄えないだろう…。貴様、あの時の黒い騎士はお前が操っていたな?」
「その通りです。旧フランスはあの魔方陣で何をしていたと思います?あれはですね、地下に流れる、東方で言う〝龍脈〟――魔力の流れを塞き止めるものだったんですよ。彼らはずっと塞き止めていた魔力をある時一気に解放することで爆発を起こす…言うなれば地雷を作っていたんです」
「だから、フランスのあちこちにあった訳か…」
「ええ、その通り。それを全て拝借させてもらいました。この魔力のおかげで、私はこれだけの数の使い魔を召喚できたわけですよ!!」
「…いいや、それだけじゃないだろ?」
そう、命のない魔力の塊を動かしたってあんな風にはならない。召喚の書と魔力だけでは使い魔は呼べないのだ。
「命。それがないと使い魔は動かない…。10年前、ハイランクが召喚をする前に兵士をを殺したように――人の魂が必要な筈だ。なぁ、大量殺人鬼さんよぉ?」
俺の言葉に、ジルは厭らしく笑った。子供が自分のおもちゃを自慢するように。
「ええ、ええ。その通りですとも。この使い魔たちには私が今まで殺してきた子供たちの魂が使われています。私にも正確な数は分かりませんですけどね」
「なんてことを…」
「この外道が…!!」
「なんとでも。さぁ、おやりなさい我が使い魔どもよ!」
Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaooooooooooooooooooooo!!!!!
「ゴーシュさん!」
「セレナ、伏せろ!」
血風が舞った――――だが、それは俺たちの血ではない。
「何…が」
ジルが呆然と呟いた。それも当然だろう――なにせ、自慢の使い魔の群れがたった一人の偉丈夫に貫き殺されたのだから――――!!
「遅いぞ、親父」
「スマンスマン。ちょいと乗る列車を間違えてなぁ」
その男は身の丈を超える豪槍――その男の二つ名の由来になった槍を構える。
「さーて、狩りと洒落込むとするか」
『逆鱗』――ガンテ・アーバントは部下に激を飛ばした。
「番犬共、狩りの時間だ!!
精々、鼻を伸ばしている下種野郎に噛みついてやれ!」
ラストまで残すところあと2話となりました。
最後までよろしくお願いします。