俺、怒る。
俺は腕に感じる温かい感触を懐かしく思っていた。
まさか、こんなに早く自分の正体をばらすことになるなんてな。俺は少し自嘲気味に笑った。
「アレン、アントン!一般人の保護を頼む」
俺は背後から走ってくる部下に指示を出した。普段の俺はめったに指示を出さない。
が、今回は別だ。最初から最後まで仕切らせてもらおう。
「了解です」
「ラジャー」
ニーナはアレンに任せて前を睨む。
「さぁ、あなたもこちらに!」
「はひいいぃぃぃ」
アントンも倒れているミュラーを担ぎ上げ、学院の教授と思しき人物の後を駆けていった。
土煙がもうもうと立ち込める中、ゆっくりと黒い騎士が歩いてくる。
俺は、目の前の敵に向かって跳躍した。
――――side change:アレン
私は、団長の妹さんを抱えながら来た道を逆走した。すぐに外の光が目に入ってくる。眩しさに目を細めながら後ろの気配を探った。
『学院』の教授と、生徒を担いだアントンはすぐに追いついてきそうだ。外に出て、私たちはホッとため息をついた。
「危ない所を助けて頂いてありがとうございます。あ、私は『学院』で教鞭を取っているジルと言う者です」
「これはご丁寧に。まだ名乗っていませんでしたね――私はオルレアン騎士団・副団長を務めているアレン・ケイナー。彼は十人隊長のアントンと言います」
私たちの素性を聞くと驚いたようだ。と、同時に勘が良いのだろう。確認するようにジル教授は口を開いた。
「では、さっきの方は――」
「ええ。フランス最強の騎士にして、大統領の懐刀。《白騎士》です」
「やはりですか。しかし何故、貴方たちがここに?」
私は話すか話すまいか少し悩んだがここは説明した方がいいだろうと判断した。どちらにせよ、今回の事は『学院』に報告しなければなれないだろうし、彼は当事者の一人だ。当然聞いておきたい所だろう。
「実は、最近妙な事件が相次いでまして」
「妙、と言うと?」
「『学院襲撃事件』を始め、フランス各地で見たことも無い生物を見た、という情報が入って来たんです。そこで、私たちは目撃情報があった場所を綿密に調べました。――それで、一つ分かったことがあるのです」
「それは、いったい?」
「目撃地点の近くには、旧フランスと濃い関係があった場所ばかりだったんです」
「!!」
「それで、次に〝あれ〟の同類が現れるならここだと思い、団長自ら指揮を取られているのです」
「さっきの黒い騎士はいったい、何なんですか?あれも、『学院』を襲ったものと同じなんですか?」
「分かりません。ただ、一つだけ言えるとすれば―――――〝あれ〟は団長の逆鱗に触れてしまった、ということだけです」
――――side change:白騎士/ゴーシュ
「うおおおおおおおおおォォォォォォ!!!!」
俺は思いっきり殴りつけた。あまりの怒りに真っ赤に染まった視界の中、敵を吹き飛ばす。そのまま俺は、壁に叩き付けられた敵に追撃した。
顔面にアイアンクロー。叩き付けた衝撃に加え、顔面を岩に叩き付ける。だがまだ足りない。俺は顔面を鷲掴みにしたまま、一直線に駆ける。当然、鷲掴みにされた敵も顔面を岩にめり込ませたままだ。そのまま岩に頭を削られてしまうがいい。
だが相手はまだ意識を手放していなかったようだ。俺は無防備の横っ腹を蹴られてしまった。
「うごっ」
不自然な体制で蹴ったはずなのに、まるで戦車の砲弾を受けたよう――いや、これはそれ以上!
空中で体を捌いて、不利な体勢にならないように着陸する。その瞬間、目の前の地面に青白く光る魔方陣が現れた。
あれは、ローマ城で見たのと同じ――!
そこから、『学院』で現れたという狼に羽が生えた生物が飛び出してきた。俺は咄嗟に横に飛んで爪の一撃を躱す。
やはり、誰かが操っているのか!!
この状況、あまりにタイミングが良すぎる。まるで待ち伏せしていたかの様だ――その思考が頭に掠めたが、すぐに思考を切り替えた。
今は目の前の敵に集中しなければ。俺は噛みつきにかかってきた狼を避け、首を両手で掴む。そのまま、首を一回転させた。
ボキッ
骨の折れる嫌な音が聞こえたが、無視して黒い騎士を探す。土煙が辺りを覆い、強い衝撃が何度も加えられたからだろう。ドーム状になった天井から欠片がパラパラと落ちてくる。ここも、このまま闘い続けていたら崩落してしまいそうだ。
足を一歩踏み出そうとしたその時――先程とは比べ物にならない光が地面から発せられた。
今回は、けっこう難産でした。戦闘描写はいつやっても難しい…。