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私、入学する。4

 さて、みなさん覚えているだろうか。実は、ある存在が途中からすっかり出ていない。


 そう、ベルガ―だ。


 別に、『忘れていた』という訳ではなく、彼にはある役割があるのだ。












 夜。


 いかに文明が進もうとも、人間が暗闇に恐怖を抱かない、ということはない。街灯の灯りが遠のき、月明かりしか辺りを照らす物はない森の中――一匹の影が走っていた。


 そんな中、一人の男が足音に気が付き、そちらを向く。


「おう、ベルガー。ご苦労さん」


 中年の男は、背負っていた布に包まれた長い物体を肩から下した。見る者が見たら一目で分かるその長い物体――銃を、近寄ってきた犬の背中に落ちないようにロープで固定する。


 彼はニーナやベルガ―が傭兵団と関係があることを知っているが、彼も傭兵であるわけではない。


 彼は俗に言う『運び屋』だ。


 ガンテの豪槍など、特殊な例を除いて、銃など危険な物をフランスに持ち込むことは禁止されている。そのため、彼のように武器を運ぶ人間などが必要になってくるのだ。


 彼はロープで固定し終えると、ベルガ―を一撫でしてそっと来た方へ手で押す。


 ベルガ―は『運び屋』の男の手に礼を言うように鼻をスン、といわせると森の暗闇の中を駆けていった。







 朝。


 私はカーテンから透けて差し込む朝日と鳥たちの鳴き声で目が覚めた。


 ゆっくりと脳が覚醒する感覚に任せながら目を開ける。そこは、私の見たことのない天井だった。


 ここは女子寮――家が他国にある者は例外なく寮に入る。手配はセレナがすでにやっていた――。私は起き上ってカーテンを勢いよく開ける。


 フランスの朝は、ローマとはどこか違う気がした――。







「おはよう、セレ姉」


「おはようございます、ニーナさん」


 私は服を着替えて一階の食堂に来ていた。そこでばったりセレ姉とあう。まだ起きていない人も多いのに、セレ姉は制服をビシッと着ていて、1分の隙もない。


 かくいう私は、まだ制服が届いていないので私服を着ている。


 セレ姉は驚いた風に私を見たけど、すぐに立ち直って笑顔で話しかける。


「ニーナさん、朝ご飯は食べました?」


「ううん、まだ」


「それでは一緒に食べましょうか」


 私は嬉しくなってニコニコしながらセレ姉に着いてゆく。他人が見たらニーナを母親に着いてゆく雛を連想したことだろう。


 学院の寮のご飯はバイキング形式だ。異国情緒あふれたメニューが所狭しと並んでいる。


 私はセレ姉から取り方を教えてもらいながらご飯を皿に乗せる。私はセレ姉の反対側に座って一緒に食べた。


「今日の午後に入学式の時に採寸した制服が届くはずです。それまでは自由ですからね。それまでどうします?」


「うーん、これといって…。ゴーシュにぃを探すにしても、闇雲に探すわけにはいかないし…」


「そうですね。それだったら、今日は武道場に行ってもいいかもしれませんね」


「武道場?」


 私は聞きなれない単語に首をかしげた。


「はい。学校、と言っても元々は士官学校でしたから――模擬戦や、訓練をする場所があるんです。授業でも手合せの授業があるぐらいですから」


「へー、そうなんだ!でも私、武器とか持ってないよ?置いてきたし――ベルガ―が今取りに行ってくれてるけど。確か、ここでは火薬式はだめなんだっけ?」


「ええ。魔導式と違って危険ですから。一応、扱う授業もありますけど三回生からですね」


「ぶーぶー、もったいない。あれほどきれいな物はないのに。洗練されたフォルム、効率を重視した銃身。それに、撃った時の感覚。全てが良いじゃない」


 言っていることは物騒極まりないが、別にニーナは人殺しが好きなわけではない。銃を愛しているだけである。――傍から見ると、ただの危険人物だが。


 セレナはそのことを知っているから苦笑する程度だ。だが、ふと笑いを引っ込めると真剣な目をニーナに向けた。


「時にニーナさん、武道場が開くまで時間があります。その間に――」


「その間に?」


「その、ボサボサナ髪を切っちゃいましょう」


「……。え?」


 ニーナが後に語ることによると、この時のセレナの眼差しは一流の傭兵の眼光より鋭かったそうだ。




 次回に続く!


 感想その他、お待ちしています!



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