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Another Side_1 白騎士

 今回は同じ時系列中にあった話です。


 ニーナがフランスに着いた辺りの時――

 ニーナがフランスに着いた頃――


               ――――フランス東部・ドイツとの国境線にて――――


 ここ最近、ドイツはフランスに対して露骨な圧力をかけていた。ドイツは未だ貴族制を残し、昔からヨーロッパの覇権を握ろうとしてきた強国であり、軍事演習と言い実弾をフランス領に〝誤射〟するのは日常茶飯事。最近では戦車を乗り回してフランスにプレッシャーを与えている。


 ドイツの戦車隊と言えば、ヨーロッパでは陸上最強部隊とまで言われ、隣国を併呑し続けている。このことにフランス政府は再三止めるようにドイツに呼びかけたが、それを止めることは無かった。


 そしてついに――フランスは対抗策を打つことになったのである。





 ゴクリ。


 その場で、唾を飲み込む音が聞こえるほどに静かだった。ここはドイツとの国境線の最も近い位置。フランスの前線基地のとある部屋での一幕。


 ガラス張り――もちろん、対衝撃魔術をかけてある――部屋にて、基地司令と副司令は目の前の人物に酷く緊張していた。


 全身を白の甲冑で包み、肩からは真紅のマント。顔も完全に甲冑で覆われた姿は、まるでおとぎ話に出てくるような中世の騎士のよう。


 彼は、《白騎士》と呼ばれる騎士だ。


「そ、それで、大統領は何と?」


 脂ぎった汗を次から次へと滴らせる基地司令は、人生でも初めてと言っていい程目の前の人物に委縮していた。


「ええ、『降りかかる火の粉は切り捨てろ。』――それが、大統領の言葉です」


「では――?」


「私が出ます」


 2、3言葉を交わしたあと、彼は騎士の礼を取って部屋から出て行った。


「基地司令――あれが、かの?」


「ああ、ハンス君。あれがフランス最強の騎士にして、大統領の懐刀――《白騎士》殿だよ」









「本当にお一人で行くのですか?」


 前線基地のとある廊下を歩きながら、白騎士の従騎士、アレン・サスナーは己の仕える主に問いかけた。


「ああ、私の実力は君も知るところだろう。何、ちょっと運動してくるだけさ」


 気楽に応える彼――白騎士は、自分の事を心配してくれる弟子に頬を緩ませる(無論、甲冑のため彼の顔は誰も見ることはできないが)。


 彼は、廊下の先から漏れる光を潜り――〝最前線〟へと足を踏み入れた。


「「お疲れ様です!」」


 両脇の兵士の敬礼に応えながら、前へ出る。彼の足取りは、まるでちょっと散歩に出るか、というぐらい軽いものだった。


「ちょ、ちょっと!危ないですよ!?」


「まぁまぁ落ち着け、新入り。お前はラッキーだぜ?」


 まだ年若い少年兵士に老練の男は少年を止めながら肩を叩く。


「?」


 分からないように首をかしげる若者に、百戦錬磨の兵士は言った。


 


 なにせ、フランス最強の騎士の戦闘を特等席で見れるのだから、と。







 彼は、鼻歌を歌いながら歩いてゆく。ある程度基地から離れ、フランスの(・・・・・)領土内(・・・)で歩みを止める。


 そして、朗々と口ずさむ。


「My desire is force.(我は力を望む)」


 風が吹く。


「My desire is not hope.(我が望みに希望は無く)」


 彼を中心にして、力が渦巻く。


「But,it is an unfullfilled desire.(だが、それは満たされぬ欲求で)」


 正確には腕。見えない何か(・・)が形作られる。


「The thirst can not fullfill.(その渇きは癒やすことは出来ない)」


 彼は腕を振り上げた。


「That is even more reason for desiring more of force.(だからこそ、もっと力が欲しい)」


 そのまま、振り下ろす。


「Hand of death still hold me.(死の(かいな)に抱かれるまで)」


 そして――莫大な光が周囲を塗りつぶした。









            ドッコォォォォォォン!!!!









 閃光と、爆音の後には――深い、谷が出来ていた――。











「…やり過ぎた」


 彼の独り言が、虚しく響いた。
















「まったく!貴方はいつもやり過ぎるんですよ!」


「ごめんごめん。でも、やっちゃったもんはしょうがないでしょ?」


「反省の色が見えません!」


 彼らが去っていく中、兵士たちは呆然とその結果を眺めていた。


「な?すげぇだろ?」


「…これは、人間技じゃないですよ。先輩…」


 少年兵の言葉が、周囲の兵士全員の言葉を代弁している。少年は、去って行く白い騎士に恐怖を覚えたのだった。








「まったく、聞いてるんですか!?――ゴーシュさん!!」






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