私、入学する。2
「さて、お嬢ちゃん。そろそろこっち側に戻ってこいよ~」
私は驚きで混乱した頭を必死に回転させて目の前の光景を何とか処理しようと試みた。…やっぱ無理。
「ほ、本当に学院の生徒なの…?」
「ん?なんなら生徒手帳見る?」
私は萎えた頭を振って、ため息をついた。
「はぁ、なんでこんなのが…」
私の独り言に赤毛は二カッっと笑った。
「おう、感心してんのか?」
「呆れてるの…」
私は一気にやる気を削がれるのを感じた。もういい…帰ってベットで寝ていたい…。
「ふふ、先輩。そろそろニーナさんをからかうのは止めて、話を進めましょう」
「かーっ、セレナは真面目だねぇ。息抜きだよ、息抜き。人生、ずっと肩張ってたって疲れるだけだろ?」
ミュラーはそう言って肩を竦める。私から見たら、アンタは緩すぎだ。
「もう、先輩はお気楽すぎるんです。さぁ、ニーナさんも。」
私は何とか持ち直して、居住まいを正す。私とミュラーが座り、話をする体勢を整えたのを確認して、セレ姉は口を開いた。
「さて。まずはニーナさん、あなたには中央騎士学院に入学して貰うことになります」
「にゅ、入学?確か、私はセレ姉の護衛ってことになってるけど――」
私はそこまで言って、ミュラーがここに居ることを思い出して、はっとした。動揺したからといって、こんな簡単に依頼内容をべらべら喋っていいわけではない。
「ああ、心配はありません。先輩は協力して頂いてるんです」
「協力?」
「うむ。実は、俺もゴーシュの旦那と面識があるんだ」
私はその言葉を聞いて椅子から跳ね上がった。
「本当に!?」
「応。俺がまだ学院に入学していなかった時――俺の住んでいた町にふと立ち寄った旅人がいてな。それが旦那だった。何か、訳ありだったみたいでな。ちょっとしたトラブルを解決してくれたんだ。ま、命の恩人って所かな」
「そんなことが――」
「ゴホン。それでは話を戻しますね。入学して貰う理由ですが――これには2つあります」
「1つが、学院内の情報を集めるのに数が多いに越したことはない、ということ。もう1つが、私では探れないような情報も、ニーナさんなら手に入る可能性が高い、ということです」
それっていったい?私に疑問があるのが分かったんだろう。横からミュラーが補足を入れる。
「まずは学院の事について説明しないとな。学院は4回生になると卒業するんだが――元々は士官学校だった所でな。学年以外に階級が存在するんだ」
ミュラーは指を立てて説明する。
「兵士・塔・僧侶・騎士。この4階級に分かれているんだ。それぞれ自分の成績によって順番にランクアップしていくシステムでな。卒業時に最終的な階級で成績が決まるわけだ」
「しかし、その中でも特別な階級がある。それが王と女王だ」
ミュラーに続けてセレ姉も口を開く。
「その階級の名前が示すように、男女一人ずつしかなれないんですが――階級に関しては学年は関係ありません」
「完全実力主義って訳さ。俺は騎士クラスでセレナは塔クラス。階級によって閲覧できる内容も変わってくるからな。王クラスと女王クラスだと、最高機密クラスの情報を引き出せるハズだ」
「そ、それを私に目指せって言うの、セレ姉?」
「はい。お願いします」
セレ姉はそのまま私に頭を下げた。
「ちょ、ちょっと!セレ姉顔を上げてよ!分かったから、王でも女王にでもなればいいんでしょ!?」
「ま、そういうこったな」
セレ姉は顔を上げてニッコリ笑った。
「ニーナさん、よろしくお願いしますね」
…セレ姉、少し見ない間に狡猾になったなぁ。私は二人に見えないようにこっそり嘆息した。
「ミュラーの、教えて!豆知識のコーナー!」
「さぁて、今回は前回に続いて銃の歴史についてだ」
「さっそく質問、ありがとうございます!」
「まず弾についてなんだが――魔導銃の弾は魔力が半物質化した物なんだ。衝撃が浸透するイメージかな。急所に当たっても致命傷にはなり難いから、警察が使うことも多いぜぇ」
「中には属性付与が出来る凄腕もいるが…ま、所詮は少数だな。そんなことするより単純に威力を上げた方が便利だし。威力を調節できるってのはいいよなー」
「で!もう一つの質問が命中精度の問題だ。魔導銃は弾が半物質ってことで風などの影響が受けにくい。が、火薬式だとそうはいかない。当初作られた火薬銃は5m未満で使うことを前提にしてたんだなぁ」
「作中でも、ゴーシュが一発しか撃てない銃を渡されたのも、連射が出来る銃が少なかったからだ」
「まぁ、魔法の技術の進歩と相まって兵器の研究が盛んに行われたから、今ではライフルリングの技術はあるんだけどな」
「魔導銃のメーカーはイギリスのセイドン社、火薬銃のメーカーはドイツのハフブルグ社が有名だなぁ」
「他にも、最近では両方の弾種が使える銃も開発中らしい。登場が楽しみだぜぇ!」
「今回はここまで!他にも質問があったらどんどん送ってくれな!」