表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/58

私、からまれる。


 パリ。


 フランスの首都であり、ここ10年でヨーロッパの中心地になった場所だ。なだらかな丘陵が周囲を取り巻き、中央をほぼ東から西にセーヌ川が流れている。


 ゴーシュの生前――前世では芸術都市として名を馳せたがここでは学術都市として世界中に知られる。ヨーロッパでも初の民主国家でもあり、他国から移住してくる人も少なくない。


 ニーナは1日をかけて列車でパリに到着した。


「っは~!ここがパリかぁ!すごいすごいっ!人がい~っぱい!」


 私は初めて見る光景に心が躍った。一面人、人、人の群れ。ローマも小国ながら人口はそこそこあるが、一度にこんなに大勢の人を見るのは初めてだった。


「ウォン」


 と、はしゃいでいると私はベルガ―に荷物を引っ張られた。用事が先、とばかりに私を見る。


「む~。分かったよ、ベルガ―。観光は後、ね。まずは合流しないとね」


 私はズボンのポケットからガイおじさんに渡されたメモ書きに目を通して、目的地に向かった。







「えーと、確かここらへんに…」


 私はメモの住所と列車の中で覚えた地図と照らし合わせる。列車の中は暇だったので地図をずーっと眺めていた。地理の把握は傭兵の基本だからね。


 私はメモとにらめっこしながら道を歩く。何だか視線を感じるけど、そんなに物珍しいのかな?と、思っていると、前から気配を感じて顔を起こした。


 前方に3人組の男たちがいた。顔立ちはまだ幼い所があるから、学生か何かだろう。ここにはニーナが通うことになる騎士学院以外にも、たくさんの学校がある。今日は休日だから学生がうろついていても何ら不思議ではない。


 三人組の学生(?)の内、背の高い一人が二人に何事か言うと、私に近づいてきて話しかけてきた。


「ねぇ君。観光?一人だったら危ないよ」


「なんだったら、俺たちが案内してやるぜ。ここらには詳しいし」


「なぁ、行こうよ」


 何だこいつら。妙に馴れ馴れしくて鬱陶しい。こんな奴ら、無視するに限る。私はチラ、と一瞥しただけで歩くのを再開しようとした。


 だけど、三人組は巧妙に私の前に立ちふさがって前に進むのを邪魔する。私はイラッとして初めて口を開いた。


「何、なんか用?」


 私の剣呑な響きに一瞬怯むも興味が湧いたと勘違いしたのだろう。さらに図々しく近寄ってくる。


「や、君、観光者だろう?だったら俺たちが道案内しようと思って。どうかな?」


 背の高い奴がキザったらしく笑う。キラーンと光った白い歯が妙に腹が立った。


「別に。困ってないし」


 私がぶっきらぼうに返事をすると金髪の男が声を出す。


「それに、女の子が一人だと危ないだろ?犬一匹に何ができるわけでもなし」


 はっはっはと笑う男たちだが何が面白いのか訳が分からない。ベルガ―は基本的に私が指示を出さないと動かない。パリに来るときにむやみやたらに噛みつかないように、と言っておいて正解だったかもしれない。

 今にも噛みつきそうなほどイラついてるのが分かる。後で褒めてあげないと。


「私、急いでるから――」


 さっさとどいて、と続けようとしたら男たちの後ろから手が伸びてきて三人組の一人の肩を掴んだ。


「あ?」


 肩を掴まれた男が振り返る。そこには、赤い髪をした青年が立っていた。


「あ~、君たち。女の子一人を囲むたぁ男の風上にも置けねぇな。ちょっち、下がったらどうだ?」


 軽い感じの雰囲気を醸し出しているが、妙に隙がない。が、私にはそれが分かるが目の前の三人組に分かろうはずがない。男は鬱陶しそうに眉を吊り上げた。


「あぁ?なんだよ、お前」


「人が話してるのに邪魔しないでもらえますー?」


「さっさと失せろ。しっし」


 三者三様の反応をしているが、私から見ると隙だらけ。こっちを見てないのをいいことに私は三人に足払いをかける。


「うわっ」


「痛っ」


「ぐうっ」


 三人は見事にひっくり返って無様に転がった。私はフン、と鼻息ひとつして歩き始める。


「待ちやがれ!」


 後ろから声がして私は振り返った。そこには背の高い男が顔を真っ赤にして私を睨みつけている。


「下手に出てればいい気になりやがって…。俺は侯爵家の息子だぞ!」


 知りません、そんなこと。私はそのまま言ってやった。


「知らないし、そんなこと。第一、ここは民主国家フランスよ?身分なんて関係ないじゃない」


「う、うるさい!このメスガキがぁ!!」


 私の挑発に乗って、男は拳を振るってきた。私は女だが、鍛えてもいない一般人に負けるほど弱くない。私は男の腕を避けてカウンターを腹にぶち込む。


「グフッ!?」


「ひゅー」


 赤毛の青年は口笛を吹いて感心したように私を見た。ていうか、止めなさいよ。男でしょ。


「キ、キサマ、こんなことして、ただで済むと、思ってるのか?」


 息も絶え絶えに這いつくばる男。道を歩く人々は遠回りに私たちを眺めていた。


「ふん、先に手を出したアンタが悪いでしょ。ね?お兄ーさん」


「そうだなぁ。確かに、俺には旦那から手を出したように見えたぜ?確か、暴行罪、ってやつに引っかかるんじゃないか?いやー、捕まったらお父上になんて言われるか見物だなぁ」


 ニコニコと言い放つ。この人、男が手を出すのを止めなかったり嫌味を言ったり、いい性格してるわね。


「くっ」


 悔しそうに唸ると男は私たちを一睨みして「お、覚えてろっ!」と、捨て台詞を言い放って去っていった。


「さぁ、見物は終わり!帰った帰った!」


 青年は見物人にそう言ってしっしっと手を払う。見物人たちは興味を失ったのかどんどん輪が崩れていって元通りの風景に戻った。


 さて。


「さっきはありがと。じゃあね」


「うおぃ!それだけ!?」


 私はツッコミを無視して再び歩き始めた。





 こんなの一度書きたかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ