俺、護衛する。2
夕刻。日も暮れ、太陽が沈みかけた空を、俺は窓から眺めていた。今回の依頼内容は国王、王女の暗殺の阻止。
正直、初めての仕事でする内容ではない。だが、俺は気後れといった感情は無かった。今日初めて会って、ほんの数時間話しただけの仲だ。だが、セレナは今日こんなことを言っていた。
「お兄様は、少し恐い方だけど、家族なの。私は、仲良くなりたい」
親父に聞くまでは、こんな裏があるとは思いもよらなかったが、セレナの言葉は俺に胸に深く響いた。俺にとって、家族は守るモノだ。それを踏みにじろうとする奴は、誰だろうと許さない。
しかし、ご都合主義のように今日いきなり暗殺はしないんじゃないか、とも思ったが、どうやらローマ国王はわざわざ舞踏会を開くそうだ。つまり、わざと隙を作ってあっちから来てもらおう、というのだ。これを聞いたときはその胆力に流石は一国を治める国王だな、と思わされた。
俺は舞踏会が終わるまで案内された部屋で武器の手入れをしていた。俺の命を預ける大切なものだ。し過ぎて困ることじゃない。(ちなみに場所はセレナの部屋から一番近い部屋だ。それでも50m位離れているけど)
外から声が聞こえてきた。どうやら舞踏会が終わったらしい。暗殺するなら緊張感が緩む瞬間だ。護衛には俺たちの事は伝えてない(当然だが)。
俺はセレナが部屋に戻ってくるのを耳を澄ませて待っていた。
かつん、かつん、かつん。
広い廊下を靴が音を立てている。音は複数。どうやら護衛とセレナらしい。
「どうも、護衛ありがとうございます」
「いえ、これも我々の仕事ですので」
礼を言う声と謙遜する男の声。几帳面なやつ、と思いながらタイミングを見極めるためにドアのノブをつかむ。
「よし、我々も戻るぞ」
隊長(?)が一声かける。靴音がするがすぐに止まる。
「どうした?早くこ――」
シュッ。
「かっ――」
何か鋭いモノが肉を立つ音。
ドサッ。
「きゃああぁぁぁーー!!」
俺は悲鳴が聞こえた瞬間、ドアを思い切り開け放った。
ドアが開く音が聞こえたのだろう。暗殺者はとっさに俺の方を振り返る。俺はそいつに持っていた投擲ナイフを手首をスナップさせて投げる。
「ぐあっ!」
ナイフは俺の目的通り腕に刺さった。暗殺者は痛みで持っていたナイフを落としてしまう。俺は痛みで怯んでいる間に走って距離を詰めて、とび蹴りを放つ。
暗殺者は俺の蹴りで吹っ飛んで行った。俺はその間にセレナの方に怪我がないか調べた。どうやらショックで気絶してしまったらしい。
この後のことを見て欲しくなかった俺は、少しほっとしてそのまま部屋の中に入れ、扉を閉める。中にはメイドさんがこっそり待機している、と打ち合わせがあったから安全だ。
俺は暗殺者の方を向く。相手は腕を掴みながら起き上っている所だった。
「ちっ!何でこんなとこにガキがいるんだよ…聞いてねぇぞ」
「俺はあんたと同じ雇われもんだ。暗殺ってのはばれたら効果は薄い…。さっさと帰った方が身のためだぜ」
「俺様が、お前と同じ…?そんなわけねぇだろ」
暗殺者は顔を隠していたマスクを剥ぎ取る。マスクの下は、セレナと同じ空色の髪と瞳を持つ青年だった。
「俺様はハイランク・ズーク・ローマ…次期、国王だぜ…?」