王子のその後
卒業式から三ヶ月後、王子から私に手紙が来た。
文面は短く、一度会って話がしたい、とだけしか書かれていなかった。
聞いた話では修道院は過酷な生活環境だと言う。
ゲームでは、悪役令嬢はそれが原因で病死するくらいだ。
となれば、王子が考える事は一つ。
私に復讐すること。
この手紙は罠への誘いかもしれない。
だが、無視するのもまずい。
相手の手の内が分からないからだ。
修道士になったとはいえ元は王子。
どんな伝手があるかわからない。
相手を知らなければ対策の立てようもない。
ここは危険を冒してでも会いに行く必要がある。
私は みんなに王子に会いに行く事を一応告げて置いた。
みんな、王子がなにするかわからないからと止めたが、護衛を連れて行くということで納得してもらった。
私も王子が直接的な手段に出る事を警戒している。
護衛は当然だ。
そして修道院に来た私は、面会室で王子と二人きりで再会する。
「やあ、久しぶりだね」
王子は、以前からは想像もできないほど、爽やかな笑顔だった。
なんか、怖い。
あの捻くれた顔しか見せなかった王子が、なぜ陥れたも同然の私に こんな爽やかな笑顔を見せるのか。
なにかある。
絶対なにかある。
扉の向こうの廊下には、私の護衛が二人、待機している。
私が大声を上げれば、扉を蹴り破って助けに入るはずだ。
問題は、声を上げる間もなく、王子が凶行に及ぶかもしれない事。
油断するな。
ちょっとでも隙を見せたら命取りだ。
王子が不審な動きを見せたら、すぐに大声を上げる用意をしておかなければ。
「お久しぶりです、王子」
「もう、王子と呼ばないでくれ。
今の俺は王子ではなく、一介の修道士だ」
「わかりました」
私たちは椅子に座り、テーブルを挟んで対面する。
私は王子が話す前に、先に私から仕掛ける。
「卒業式の日の事は申し訳ありません。
あれは、少しやりすぎたと反省しております。
もっと違うやり方があったのではないかと、今は考えておりますの」
これは牽制。
正式な謝罪ではないが、謝っているように見せかけている。
言葉の裏に、もっと穏便に王子を陥れる事もできたと含ませてもいる。
まあ、実際にはそんな方法、思いつかなかったのだけれど、王子にそう思わせることはできる。
絶対に謝るな。
謝ったら負けだ。
さあ、王子はこの言葉にどう反応する?
「謝る必要はない。
君は何も悪くないのだから。
むしろ謝るのは俺の方だ。
本当に申し訳ない。
婚約者である君に冷たい仕打ちをしてきたばかりか、君をないがしろにして他の女の子と付き合ったりして。
それどころか、最後には、君をありもしない罪で裁こうとし、追放しようとした。
自分は最低の人間だ」
なに?
いったいなんなの?
私に怒っているそぶりを全く見せず、寧ろ心から反省しているかのような態度。
逆に怖いよ。
なにを企んでいるの?
探りを入れよう。
「ですが、それを言うなら私もです。
貴方が私に不埒な行為をしたとほのめかしました」
言質を取られないように、あれが嘘だと断言はしていないところがミソ。
「いや、俺の方に全ての責任がある。
正直に言うと、俺は君を利用していたんだ。
君との婚約は、婚約を迫る他の女性を遠ざけるためのものだった。
君という正式な婚約者がいれば、声高に婚約者にしてくれとは言えなくなる。
そして、本当に愛する人を見つけた時は、適当な理由を付けて婚約破棄するつもりだった。
君はそれに気付いて、卒業式の日にあれをした。
君があんな事をするのは当然の事だ」
まずい。
私から卒業式の事が全部、嘘だと喋らせようとしているみたい。
それが狙いか。
という事は、この部屋には盗聴器の様な物が仕掛けられている。
卒業式の話をするのは危険だ。
話を変えよう。
「ところで、修道院での生活はどうですか?
聞いた話では厳しいそうですが」
「ああ、厳しいな。
以前は王子という地位によって贅沢な暮しが保証されていた。
だが、それらは全てなくなり、今は質素の一言に尽きる暮らしだ。
自分が今までどれほど王子という地位に甘えていたか、思い知らされたよ」
なんか、内心の不満がチラッと出たような。
この修道院は、貴族や王族を受け入れることで有名な修道院で、普通の修道院よりは、生活はそれほど厳しくない。
だけど、贅沢な生活をしていた王子にとって、たいした違いはないようだ。
ここは取引を持ちかけよう。
「もしよろしければ、私から国王様に、貴方を修道院から出しても問題はないと、進言いたしましょうか?
貴方が心から反省したと私から言えば、修道院を出る事ができるかもしれません。
勿論、私とは今後一切、関わり合いを持たないことが条件ですが」
つまり、復讐しないと約束すれば、修道院から出られるようにするということ。
「いや、その必要はない。
俺は生涯、ここで暮らすと心に決めた。
神に誓ったと言っても過言ではない」
え?
出るつもりはない?
どういうこと?
私から卒業式の日の事が全部、嘘だと白状させて、修道院を出て、私に復讐するつもりじゃないの?
王子は私の疑問に答えるように、
「ここの暮らしは厳しいが、多くの学びがある。
学園にいた時よりも有意義に過ごしているんだ。
先輩の修道士たちや、俺の面倒を担当している修道士から、本当に多くを学んでいるんだ。
俺が多くを学び、そして目覚めたことを伝えたくて、君をここに呼んだんだ」
王子の瞳の奥に深い闇が見えた気がして、私は背筋が凍り付くほど慄然とした。
……私、ミスをした。
取り返しのつかないミスを。
この修道院は特別で、王族や貴族を入れることを専門的に行う。
ということは、食事などの生活面での優遇だけではなく、性的な事情も優遇されている。
この修道院、性処理させる女性を入れているんだ。
「フフ、フフフ」
王子が含み笑いしている。
私をもてあそぶのを楽しみにしているかのように。
違う。
ように、じゃない。
楽しみにしているんだ。
私をこの修道院に呼んだのは、私を陵辱するため。
卒業式の時に私がでっち上げた行為の全てを現実に行うため。
いえ、それどころか、他の修道士たちも一緒に。
護衛なんて二人だけじゃ意味ない。
この修道院にいる修道士全員が、武器を持って襲いかかってくれば、あっという間に殺されてしまう。
そして、私を監禁する。
私が帰ってこないことを両親には、帰宅途中で野盗に襲われたとでも伝えておけばいい。
後は時間をかけてたっぷりと私を嬲る。
卒業式の時に私が言ったことを全て。
ここの修道士から学んだということも。
時間をかけて徹底的に。
私はここに来た時点で、罠にはまってしまっていた。
もう私はここから出ることができない。
逃げられない。
「……あ……あ……」
私は体が震えるのを止めることができなかった。
「どうしたんだい? 体が震えているよ」
愉悦の笑みを浮かべている王子に、私は質問しようとしてしまっている。
「……な、何に?……」
王子が何に目覚めたのか、聞いてはいけないのに、私の口から質問が出ようとしている。
「何に、とは?」
「……何に、目覚めたのですか?」
「フフフ……フフフフフ……
君には本当に感謝している。
君のおかげで俺はここに入る事ができて、そして目覚めることができたのだから。
俺が目覚めたもの。
それは……」
「そ、それは?」
「兄弟愛さ」
なんか変な言葉が出た。
王子はうっとりとした顔で、
「ああ、あの大きな瞳。
ふっくらとした唇。
ふわふわした栗色の髪。
可愛い彼の全てが愛おしい。
君のおかげで俺は可愛い彼に出会うことができて真の兄弟愛に目覚めたんだ」
王子の瞳は完全に恋していた。
「いやぁあああああ!
王子がイケない道にめざめてしまいましたわー!」
「ハッハッハッ、君はなにを言っているんだい? イケない道なんかじゃない。イッてもイッてもおさまらない、イキッぱなしの道だよ」
「すでにおやりになった後!」
「いやあ、兄弟愛がこんなにも素晴らしいとは」
「いや、待ってください!
兄弟愛とは一体なんだと教わったんですか!?」
「修道院は禁欲的な生活を旨とする」
「それは存じておりますが」
「つまりシコるのも禁止されていてね」
「シコるって……」
「つまりオ○ニーのことだ」
「ハッキリ言わないでください」
「自慰の禁止は制限魔法をかけられるほど徹底されている」
「待ってください。
男の人って女と違って溜まるんですよね。
物理的に股間にある二つの玉にどんどん溜まっていくんですよね。
それを出さないと大変なことになるって……」
「その通りだ。
二十四時間ギンギンになって大変なことになる。
しかし それでも制限魔法によって自分でヌクことはできない。
しかし他の兄弟に抜いてもらうことは認められている。
いや、推奨されている。
自分の欲望を他の兄弟たちによって優しく吐き出してもらう。
それが、兄弟愛」
「そんな高度なBLついて行けませんわー!」
「いやあ、可愛い彼の優しい手。
そして口。
お○りの穴の時の感激はたまらない。
お○りの穴があんなにも良い物だとは」
私は王子の両肩を掴む。
「いけません!
女性の体の方がもっと気持良いですから!
さては王子 女性としたことないんですね!
わかりました!
私としましょう!
私として女を知るのです!」
「それは無理だよ。
だって、君には僕のお○りの穴に入れてくれる太くてたくましいアレがないから」
「しかも受けの方でしたー!」
「可愛い彼はとても上手でね。
僕はいつも攻められっぱなしさ」
「可愛い方が攻めって そんな高度なBLにはついていけませんわー!」
ドンドンドン!
廊下から扉を叩く音が聞こえた。
「お嬢様!
何事ですか!」
まずい。
私が大声を上げてしまったから不審に思われた。
王子がお目覚めになられたと知られたら、私に責任が追及されてしまうかもしれない。
全力でごまかさなくては。
とりあえず、扉を開けて廊下の護衛に、
「な、なんでもありませんの。
ちょっと話が弾んで声が大きくなってしまっただけですわ」
「なにもないのですか?
悲鳴のような声でしたが」
「いえ、本当になにもありませんから」
「さようでございますか。
ですが、なにかあったらすぐに声を上げてくださいませ、お嬢様」
「ええ、ありがとう」
とりあえず、護衛は誤魔化した。
再び王子と対面。
「いやぁ、君には本当に感謝しているよ。
君のおかげで俺は真の兄弟愛に目覚めることができたのだから。
この事を君に知って欲しくて呼んだんだ」
「なんか、申し訳ありません」
「ハッハッハッ、謝る必要はないんだって」
「いやホント、マジでスンマセン」
「とにかく、皆にも言っておいてくれ。
俺は生涯ここで兄弟たちと共に暮らしていくと」
「そ、そうですか。
わかりました」
王子との面会が終わり、私は館に帰った。
「どうでした?
あのゲス王子の様子は?
なにかされたりしませんでしたか?」
ヒロインたちが王子はどうだったのか聞いてきたけど、
「なんというか、真の兄弟愛に目覚めたので、ずっと修道院の兄弟と一緒に暮らす決意をしたそうです。
なんか幸せそうでした」
私は誤魔化して報告するしかなかった。
ヒロインはなにやら信じられないように、
「あのゲス王子が。
そんなに素晴らしい指導を受けたというのですか」
「まあ、ある意味、指導してもらったのですわね。
ある意味 受けだけに。
ある意味ですけど。
ホホホホホ……」
とりあえず、王子から復讐される心配はなくなったとかなんとか。




