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~買い物~

「ふぃ~、満腹満腹」


「ワタルさん、あなた今日エリスさんとデートでしょう?そんなに食べていいんですか?」


「空腹で倒れるほうが格好悪いだろ。腹が減っているよりも満腹のほうが気持ちも落ち着くし」


「まぁ、それでいいならいいですが……エリスさんはほとんど何も食べていきませんでしたよ?」


「……」






~~~~~






 次の日。

 空は快晴、これでもか!というほど太陽が照りつける。

 その日差しと門の警備をしている兵士の視線が少しだけ痛い。


「お、おひゃようごじゃいましゅ……」


「エリス、流石にかみ過ぎだろ三手三点。まぁ、おはよう」


 ぎこちなく挨拶を交わす二人。

 その後の気まずい空気に耐えられず二人は視線を宙に漂わせる。

 この空気を何とか壊すべく、頑張って口を開く。


「……今日のエリス、可愛いな」


 言ってしまってから渡はしまった、と口の中で呟いた。

 それは二人の服は隊の制服だからである。


 理由は二つある。

 一つは緊急時のためだ。

 休日くらい私服でも、という声もあるのだが、魔物の襲撃等の非常事態に私服でいるわけにはいかない。


 もう一つは防犯のため。


 形だけでも軍の制服をきて街を歩くだけで事を起こそうとする輩を牽制できるのだ。

 そんなわけで軍属の者には特例を除いて常に隊の制服でいることを命じている。

 今の渡たちも例外ではなく、いつもと何も変わらない服装なのだ。

 だから今日は、というのはありえないはずなのである。


 渡は恐るおそるエリスを見る。

 すると、


「かわ、可愛い……? 私が、かわ、いい。渡さんが……」


 等と頬を押さえてぶつぶつと呟くエリスがいた。

 渡はよくわからなかったが、とりあえず最悪の事態を免れたことだけはわかった。

 この空気を無駄にしないために渡はさらに追い討ちをかける。


「そうだよ。なんか今日のエリスは輝いてるっていうか……可愛いというよりもきれいって感じかな」


 その瞬間エリスの震えが止まる。

 そしてエリスの中の何かにスイッチが入った。

 何かよく分からない、しかし激しい光がその目に点る。


「いいい行きますよワタルさん!」


「うわわわわっ! ちょっといきなりすぎでは!?」


 勢いよく渡の腕をつかんで走り出すエリス。

 小柄な体からは想像もできないような強い力で引かれる渡。

 あっという間に二人は見えなくなり、もとの静かな朝が戻る。


 しかしその中に、


(よし……尾行開始です)


 怪しい人影があった。






~~~~~






「えーっと、ここが薬屋。ここが肉屋。それでこれが刃物屋ですね」


 渡とエリスの二人は町の中心部に来ていた。

 ここはあらゆる店が立ち並び、様々なものが手に入る。

 この中心部は大きく分けて北と南に分かれていて、北は冒険者や旅人用の商店街。南は生活者用の商店街である。

 その品揃えも徹底的に違っている。例えば北と南に同じ『薬屋』があったとしても、北では薬草や毒消し、南では香草等が売られている。

 しかし生活者であっても北の商店街にいくこともあるのだが(その逆も)。

 二人は今南の生活者用の商店街に来ている。


「この刃物屋さんはあくまで包丁とかの生活用品ですから武器がほしかったら北区商店街に行ってください。略して『北商きたしょう』です」


「じゃあこっちは『南商なんしょう』っていうのか?」


「はい。まぁ呼ぶ人それぞれによって名称は違いますけど」


 さっきのようなエリスのテンションも説明者になった途端に落ち着いた。

 エリスが街のことについてあれこれ話しながら二人は進んでいく。

 二人は隊の制服を着ているため少し浮いているのだがまったく気にしない、もしくは気がついていないようだ。

 しかし二人はちょっとした問題二つを抱えていた。

 あれやこれやと雑談を交わす二人に横から声がかけられた。


「おっ、エリスちゃんじゃねぇか! 久しぶりだなぁ!」


 声の方向を向くと鮮度のよさそうな魚を三枚におろしている男がいた。

 丸い頭とがっちりした体が特徴で肌は浅黒く焼けている。


「エンガルドさん! お久しぶりですね。一ヶ月ぶりですか?」


「ああ、大体そんな感じだろうなぁ……。その隣の奴はこないだの……」


「ああ、はい。渡といいます」


「そうそう!エリスちゃんは可愛いけどちょっと抜けてるところがあるから、よろしくな!」


「ああ、はい」


「エンガルドさんまでそんなことを……」


 そう、二人が商店街に入ってから話しかける人全てがこの話題なのである。

 布屋のおばさんにも、肉屋のおじいさんや、宿屋の番をしていた青年まで、全てである。

 最初のうちは気にならなかったのだが、ここまでくるとだんだん飽きてきてしまう。

 二人が抱える問題の一つである。


 もう一つは、


「それはそうとエリスちゃん。あそこにこっちをじっと見てる奴がいるんだが」


 これである。


 実は二人が商店街に入る前から後方からなにやら視線を感じるのである。

 害を及ぼすような嫌な感じではないからいい、と無視していたのだがあまりにも長いので二人もうんざりしていたのだ。


「そうなんですよ……。なにやら商店街に入るちょっと前からついてきているようで……」


「本当か?言ってくれればぶちのめしてくるぜ?」


「いや、いいんです。襲い掛かってきそうにもないですし、放っておけばいいですよ」


「そうか……。ならいいが」


 そういってエンガルドは腕を組んでうーん、と唸ってしまう。


「まぁそういうことです。じゃあまた」


「ん、おお。またなエリスちゃん。ワタルっつったか、エリスちゃんのことよろしくな!」


「分かってますって」


 渡はエンガルドに背中をばしばし叩かれながらその場を後にする。

 後ろの気配も移動しているようなのでまだまだついてきそうだ。

 二人は揃ってため息をひとつこぼすのだった。






~~~~~






 二人は商店街を抜けて居住区に入った。

 周りからは子どもの遊ぶ声や井戸端会議をする奥様方がちらほらと見える。

 平和な光景をしばらく二人で眺めていたのだが、そこに静寂を破るものが現れた。


「エリスさーん! ワタルさーん! 緊急です!」


 二人は声がする後ろを振り返った。

 すると隊の制服をきた青年兵士が二人に向かって走ってくる。

 青年兵士は二人の前で止まると膝に手を置いてぜいぜいと息を切らす。


「どうしたの?」


「はぁっ、はぁっ……ちょっとどころではない緊急事態が起きました! 二人ともすぐに戻ってください!」


 渡とエリスはその言葉に眉をひそめたがとりあえず緊急らしいので屋敷に戻ることにする。


「急いでください!」


 言われるままに走る兵士に続く二人。

 いつの間にか怪しい気配は消えていた。

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