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~長い一日~

書いている間に今どこなのか分からなくなったような気がします

 シルビアの私室に着くとそこには年老いた老人がいた。


「来ましたな。そこの後ろのが先ほど姫様が召還なされたヒトですな?」


 頭は白髪で、顔中皺くちゃで、緑のローブを纏ったいかにもおじいちゃんな方だ。


「ああそうだ。で、ルミニ、こいつを副隊長にしたいからこいつの称号を調べてくれ」


 シルビアがそういうとルミニはほっほっほと笑った。


「まさかヒトを騎士団の中に入れようとする方がいるとは……いやはや命知らずですな。まぁ私はそんな姫様が好きですぞ」


 ルミニはそういってローブの中からなにやら器械を取り出した。

 イメージだと血圧を測るときに使う血圧計みたいな機器だ。


「ルミニ、お前が気になるのも分かるがそれは私の部屋で、だ」


 シルビアがそういうとルミニはまたほっほっほと笑って、


「いやいや、申し訳ございませぬ。姫がそんなに騎士にしたいのであればそれ相応の何かを持っているのでしょう? 気になって仕方がありませぬな」


 ルミニは血圧計みたいなのをローブの裾にしまう。

 それを見たシルビアは傍のドアを開けた。

 中はいかにも姫様といった感じの部屋だった。

 部屋の中はピンクを中心とした部屋で、目の前に見えるベッドには天蓋なんかがついている。

 シルビアは部屋の真ん中にあった小さなテーブルの小さな椅子にちょこんと座った。


「さて、早くしてくれ」


 シルビアは先ほどまで抑えていたわくわくを一気に開放して満面の笑みでそういった。


「わかっております。……では、えーと」


「柳瀬渡です。ワタルのほうが名前です」


 それを聞いたルミニは、


「面白い名前ですな。ファーストネームが名前でない、と」


「そうだろう? それに面白い生地の服を着ているし、胸のは何かの勲章だろうしな」


 たぶんシルビアの言っているのはジャージのことだろう。

 渡は赤く、脇に黒い線が入ったジャージを着ている。

 勲章とは胸の所にある母校の校章の事だろう。


「いや、これは勲章じゃなくて……」


「そんな謙遜はいらん。それよりも早く~」


 シルビアは渡とルミニを急かす。


「わかりました。ではこちらへ……」


 ルミニはそういってテーブルの反対側に座る。

 渡もルミニに向かい合って座った。

 ミーシャは渡の後ろで腰の剣に手を当てて渡を見下ろしている。

 渡の背中にびしびしと視線を向けてくるが渡はあえて無視した。


「さて始めますかな」


 そういってルミニは血圧計をテーブルにのせた。


「これは魔道器。これで生物の魔力、生命力等の潜在能力や、称号の判別も行うことが出来る優れものですぞ」


 ルミニは自慢げに魔道器とやらをぽんぽんたたいた。


「ではこの穴に腕を入れなされ」


 渡は魔道器の穴に腕を入れた。まんま血圧計だ。

 渡の腕が入ると魔道器の穴がひとりでに締まる。

 だが血圧計とは違ってそんなに締まる事はなかった。

 渡の二の腕にぴったりとくっつくと、ふぃぃぃぃんと小さな起動音が聞こえる。

 しばらくその状態が続く。

 ルミニもシルビアもミーシャもその魔道器にかじりつくように見入っていたが、その起動音が消えると全員ふはぁ~、気を抜いた。


「で、ルミニ! 結果はどうだ!?」


ルミニは魔道器についた水晶をじっと見つめていたが、その結果に眉をひそめた。


「これは……どういうことでしょう。この者に魔力が存在しませぬ。生命力はとても高いようですが……故障ですかな」


 その言葉を聞いて渡が反応する。

 確か神の説明のときにそんな事を言っていたはずだ。


「いや、俺って体は丈夫なんですけど、その、魔法というものが全く使えないらしくて……」


 その言葉にその場にいた全員が疑問を浮かべた。


「魔法が使えないって……そんな奴聞いた事がないぞ」


 ミーシャはそうつぶやいたがシルビアにはそれよりも優先する事があるらしい。


「いや、そんなことはどうでもいい! それよりも称号だ! 持っているのか!」


 シルビアはその後に、まぁもっていなくとも私がつけるがな、とシルビア自身も半信半疑のようだ。


「まぁまぁまちなされ、姫。そんなに急がなくとも称号は逃げませぬぞ」


 ルミニはやれやれといった様子で水晶に視線を戻す。ルミニも信じていないようだ。

 ルミニはのんびりとした様子で水晶を眺めていたが、


「っぬ!!!」


 椅子から滑り落ちた。

 いきなりの事に驚いて、シルビアは目を丸くしている。


「どっどうしたルミニ!」


ルミニは苦しそうにもがいている。


「こっ腰が……いや、それよりも……ぐふっ!」


 ルミニはやっとの事で椅子に座りなおすと深呼吸した。


「ルミニどうしたのだ!」


 ルミニは一つ咳をしてシルビアを手で制した。


「ごほっ……姫様、あなたはとんでもない者を召喚なされましたな……」


 ルミニの言葉にシルビアは静かになる。



「この者……いえ、このお方は『神の使い』。です……」



 ルミニはシルビアをまっすぐ見つめていった。


「……は?」


 シルビアは思考がついていけていないようだ。

 後ろで控えていたミーシャも信じられないようでルミニに詰め寄った。


「こっこんな輩が神の使い!? そんなわけがないでしょう!何 かの間違いです! その魔道器は壊れています!!」


するとルミニはミーシャを睨み付けた。


「言葉を控えなされミーシャ殿! 『神の使い』様に向かって何たる無礼! 確かにヒトは隷族でありますがヒトは本来『原初の種』。今ある種族はエルフやヴァンパイア等例外は除き、ほとんどヒトから生まれ、本当ならば我らはヒトを敬わなければならない存在。『神の使い』様がヒトの形をしていてもなんら問題も無いはずです。しかもこの方の格好。黒髪に黒目。さらに格好も我らとは違います。『原書の種』であるけれど普通のヒトとは違う……。この方が神の使いである証明にこれ以上のものがありましょうか!?」


 ルミニのあまりの剣幕にミーシャは思わず身を引く。

 ルミニは息を切らせて言い終わると、シルビアの肩を掴んだ。


「姫! このお方を四番隊の副隊長なんぞに留めてはなりませぬ! 将軍……いや王の傍に置かれるべきですぞ!」


 ルミニの言っている事はよく分からなかったが、渡にはとにかくあまりよくない方向に進んでいる事はわかった。

 あまり位を上げられては面倒くさいので渡は辞退する事にする。


「いっいや、そんな王様の傍だなんて、面倒……いや、よく思われない方も多いでしょうし、そんなに高くされなくても!」


 渡のその言葉を聞くとルミニはふむ、と考え込んでしまった。


「確かにザファーレス家の連中がでしゃばってきそうですが……あなた様が副隊長に落ち着くなど……」


 ルミニはまだ不満があるらしい。

 ルミニがうーん、うーん、と悩んでいる所でシルビアがようやく口を開いた。


「ワタルは、どうしたい?」


「え?」


 突然の事だったので反応できなかった。


「ワタルはどうしたい?偉くなりたいか?」


 シルビアの顔にはどこか寂しげな色が見えている。


 渡は少しだけ悩んで、


「俺は別に偉くなりたいだなんて思ってないよ」


 実際の所は面倒くさそうだったからなのだが。

 その答えを聞くとシルビアはぱぁっと顔を輝かせて、


「おお、やはりそうか!」


 席を立って喜んでいる。

 そんなに喜ぶ事なのかな、と渡が心の中で苦笑していたその時だ。



「納得がいきません!!」



 ミーシャが渡の耳元で叫んだ。

 渡の耳がきんきんとする。

 ミーシャはわなわなと震え、拳を握る。俯いているせいで顔は良く見えない。

 それに反論したのはルミニ。


「ミーシャ殿まだ言いますか! このお方は神の使い! 何故認めようとせぬのですか!」


 その問いにはミーシャは答えず、ただ震えているだけだったがしばらくして口を開いた。


「ならば……」


「ん?」




「ならば決闘を! 神の使いならば一番隊隊長であるこの私を倒すなど造作もないでしょう!!」




 渡は頭を抱える。

 面倒くさい事をしてくれたな、と。

 しかし他の二人は案外乗り気のようで、


「それでワタル様が勝てばよろしいのですね? ならば簡単でしょう」


「ワタル! お前は勝てるよな!?」


 お前ら少しは身内を応援しろよ。

 実際は渡よりもミーシャの方が身内なのだろうが。


 そんな渡の心の声も届かず話はどんどん進んでいく。


(俺がこんな人に勝てるわけ無いじゃん……魔法も使えないしさ)


 渡はすでに諦めモードである。


「そうとなれば善は急げ。ルミニ! ただちに他のものたちを闘技場に集めよ!」


「かしこまりました。……ほっほっほ、長生きするもんじゃのう。楽しみじゃわい……」


 おい、じじぃ最後の聞こえたぞ……。

 渡は部屋から出て行こうとするルミニを睨み付ける。

 だが当のルミニはその視線に気が付かないまま部屋を出て行ってしまった。


 取り残されたのは眼を輝かせるシルビアと殺る気まんまんのミーシャ、意気消沈の渡である。

 ミーシャは身を翻すと、


「コロシアムで会おう。……まさか逃げるなんてしないよな?」


 挑発を捨て台詞代わりに残し、部屋から出て行った。


「さてワタル、これからミーシャと決闘だ。時間は大体3時間後ぐらいだろう。それまでにやることはたくさんある」


 やる気が失せている渡をよそに一人で勝手に話を進めるシルビア。


「まずは武器選びだな。流石に丸腰で挑んでは死んでしまう。そうと決まれば、ほら行くぞ!」


 眼が輝きに満ちているシルビアは、目が死にかけている渡の手を引っ張って部屋を出て行く。

 渡は思う。


 丸腰だろうがそうでなかろうがどっち道死ぬのではないか、と。






~~~~~






 ここは武器庫、らしい。

 目の前には見張りの兵士が二人。

 シルビアが近づくと番の兵士たちはこちらに気が付いたようだ、持っていた槍を縦にかまえる。


「姫様、話は聞いております。後ろの方が神の使いであるヤナセワタル様ですね?」


 どんだけ話が広がるのが早いんだ、とため息をつく。

 ため息が口癖になってしまいしそうだ。


「ああ、聞いているなら話が早い。あけてくれ」


 シルビアがいうと兵士は武器庫の大きな扉を開ける。

 ギィィ、と重そうな音を立てて武器庫の扉を開けた。


「では行くぞワタル」


 シルビアはつかつかと中に入っていってしまう。

 渡もシルビアを追って中に入っていった。




 武器庫の中は暗く、だが風通しはよくじめじめとはしていない。


「よし、この中から好きなのを選べ」


 そういわれて渡は武器庫の中を見渡してみる。

 中には剣、盾、槍、弓、メイスや鎧などがある。

 が、渡にはどれを選べば良いのか分からなかった。


 とりあえず一つ一つ手にとって見てみる。

 どれもこれもきちんと手入れされていて、刃を覗き込むと自分の顔が見えるくらいだ。

 どれにしようかとなやんでいるとシルビアが声をかけてきた。


「おいワタル! これなんかどうだ?うちの国の新兵器だぞ! 名前はまだ決まっておらんがな」


 そういわれて振り返ってみたのは、



「薙刀ってここにもあったのか」



 そう、薙刀である。

 槍のように長い柄の上に片刃の剣が取り付けられている。


 実は渡の兄が薙刀部に入っていて、小さい頃によく練習や大会を見に行っていたのだ。

 だから少しだが型は分かる。


 渡は無言でシルビアの持っていた薙刀を受け取るとシルビアから少し距離を取った。

 意外に重量を感じることは無く、ひょいと持ち上げる。

 そしてその場で見よう見まねの型を試してみた。

 ブンッブンッと重量感のある音が聞こえる。


 本当はもっと重いのだろうが神の力によって強化された渡にはそんなに苦にはならない。

 素振りをしている渡を見たシルビアは驚きの声を上げる。


「おい、お前その武器知っているのか? それは我が国の新兵器なんだぞ?」


「俺の国にもこんなやつがあってな、兄が使っていたんだ。今のは兄のを真似しただけ」


「ほう……我が国の新兵器が神の国には既にあったのか……」


 神の使い=神の国とされているが渡は無視した。


「よしワタル、お前の武器はそれだ! がんばれよ」

 

 渡は勝手に決め付けられて反抗しようとしたが他の武器よりもこれのほうがまだ知っているから、とやっぱり薙刀にすることにした。


「それにしても……それは神の国ではナギナタというのだな……ならば我が国でもその名前にしよう!」


「良いのか勝手に決めて?」


「構わん! 名前がいつまでもないよりはあったほうがいいだろう? それに神の国のと同じ名前だ。兵士の士気も上がるだろうしな」


 そうか、と渡は適当に流して武器庫を出て行く。

 やることが無いのでとりあえず試合開始まで練習する事にした。


「おいワタル! ここで振るな、危ないだろうが!」






~~~~~






 そしてここはコロシアム。

 目の前には完全装備のミーシャ。

 周りには席がちらちら空くほどの観客、もとい暇な兵士。

 そして一際高い席にはシルビアが座っている。


「よく逃げ出さずに来たものだ……」


「いや、この空気で逃げ出せたらそれはそれで勇者だよ……」


「逃げ出すのが勇者だと!?お前それでも騎士を目指す存在か!!」


 いや、そういう意味ではなくてですね。

 渡はなんとか言おうとしたが無意味なのを知っているのでやっぱりやめる事にした。


「ルミニ! さっさと始めろ!」


 審判役のルミニをミーシャは急かす。

 ルミニもさっさと始めたいようで、


「わかりました。双方よろしいか!?」


 ルミニは渡とミーシャに眼を向ける。

 ミーシャが頷いて応えるとルミニも頷き返した。


「では、始めぃっ!」


 その瞬間観客席から大きな歓声が起きる。


「我が名は『戦場の詠い手』ミーシャ・ランツェルフ!ゆくぞ!!」


 ミーシャが名乗りを上げると爆発的な勢いで突っ込んできた。


 渡は、


(なんか名乗るのって結構恥ずかしくないのか?)


 こんな事を考えていた。

 命がかかっているのにのんきなものだ、と渡は自分自身で突っ込んだ。


「余所見をするな!」


 そうこうしているうちにミーシャがあと少しのところまで迫っていた。

 ミーシャは後一歩の所を無理矢理蹴って距離をつめる。

 渡はバックステップでミーシャの横薙ぎをかわした。


 そこからミーシャはどんどんと連続で斬っていく。

 だが渡は間一髪の所で全てかわしていた。

 それを遠くで見ていたシルビアは、


(ミーシャが優勢だな……だがミーシャは冷静さを失っている。そこにうまく付け込めば……)


 客観的な判断を下した。

 興奮すると融通が利かなくなるのにこんな所だけ優秀である。

 そんなシルビアから劣勢に思われていた渡も結構疲れてきた。


(こんっなにかわ、すのはつっかれるなあもう!)


 時にはバックステップ、時には薙刀で弾きながらミーシャの斬撃をかわしていく。

 しかしそれにも限界はあり、

 ふっとミーシャの放った鋭い突きが渡の頬を掠めた。


「どうした?動きが鈍っているぞ?」


 ミーシャがさらに挑発した。


「こんっのやろう!」


 渡は無理矢理ミーシャを押し返す。

 体が火照っているからか、興奮しているからなのか、体の中がぞわぞわする。


「これで終わりだ!」


 ミーシャは押し返した分の距離を一気につめて向かってきた。

 剣は既に上段に構えており、体重の全てをかけていることが分かる。


(こんなところで……死にたくねぇ!!)


 そのとき渡のからだの中が大きく動いた。

 もぞり、と何かがうごめき、力が全身にいきわたり、時間が遅く感じる。

 渡は無我夢中で動いた。

 前へと。

 薙刀の峰の部分でミーシャを切り払い、そのまま十数メートル駆け抜ける。

 後ろでミーシャが倒れる音がした。






 誰にも何が起こったかわからない。

 ただ、渡が瞬間移動したようにしか見えなかっただろう。

 だがしかし、これで渡が『神の使い』である事は証明された。






 とたんに響く歓声。

 一番状況を理解していなかったのは渡であろう。

 渡はただ呆然としていた。

 しばらくぼーっとしていると、後ろでもぞり、と音がした。

 ミーシャが起きたのか、と後ろを振り返って臨戦態勢に入ったがミーシャの殺気は消えていた。


「いや、強いな」


 ミーシャの起きてからの第一声はそれだった。


「ありがとうございました」


 ミーシャは頭を下げる。


 つられて渡るも頭を下げた。

 その様子にミーシャは少し驚いたようだったが、しかし何もいわずにコロシアムから出て行った。

 こうして二人の決闘は幕を閉じた。






「よくやった渡!」


 ここはコロシアムの控え室。

 部屋には渡とシルビアの他にはミーシャだけである。


「最後の一撃は全く見えませんでした」


 と、自分を全否定していたミーシャがほめてくれると何だかむずがゆい。

 渡が頭をかいて照れているとシルビアがいった。


「これでお前ははれて四番隊の副隊長だ! よかったな!」


 ……おおう、すっかり忘れてた。

 まぁ王様の傍よりは全然楽そうだし良いかな……?


「まぁお前も四番隊の副隊長になったわけだから四番隊の奴らに挨拶でもしてきたらどうだ?」


「それもそうだな……その、隊長ってどんな人?」


 シルビアも失念していたようで、思い出したように言った。


「お前のとこの隊長はエリス。まぁ詳しくは本人に聞け。四番隊の兵舎までは私が送ってやるから」


 シルビアはさっさと控え室を出ようとする。

 渡も追いかけようとしたがミーシャに後ろから声をかけられた。


「その、ワタル……さん?」


「いや、気持ち悪いから渡でいいよ」


「ワタル、その……すまなかった」


 突然の行動に動揺する渡。


「え!? なんのことですか?」


 渡がとぼけるとミーシャは渡に詰め寄った。


「とぼけるな!今までしてきた数々の無礼、お前が本当に神の使いならばこの場で私を切ってくれても構わないぞ?」


 騎士道精神凄いなぁ、と感心する渡。


「いや、別に気にしてないよ。ミーシャさんもいきなり来た俺を信じてくれないのは当たり前の事だと思うしさ」


 その言葉を聞くとミーシャは安心したようにいった。


「……お前は心が広いな。ありがとう」


 ミーシャはもう一度頭を下げる。


「そんな、いいですよ。……ではこれで」


 そこにいるといつまでも頭を下げていそうなので立ち去る事にした。

 ミーシャがいい奴というのは本当なのかも、と思う渡だった。






~~~~~






「さあ、ここが四番隊の兵舎だ」


 渡の目の前にはレンガを積み上げて出来た建物があった。

 それは大体一戸建ての家を四つぐらいつなげたぐらいの大きさだった。


「四番隊は人数が少ない部隊だからな。兵舎も訓練場も小さいんだ」


 渡にはこれで小さいのか? と思えたが屋敷を見た時点で大きさについては問わないことにする。

 兵舎の隣に運動場らしきものが併設されていて十数人の兵士の姿が見えた。

 恐らく訓練場とはあれのことだろう。


「さて、行くぞ」


 シルビアはそのままつかつかと歩いていってしまう。


 渡もシルビアを追いかけようとしたが何故か立ち止まったシルビアにぶつかりそうになり、つんのめって転んでしまった。


「っ、あぶねーだろ!」


「ああ、すまん」


 軽く詫びを入れるシルビアだったが反省している様子はない。

 その様子に軽くイラッときたがここは抑えておく。


「どうしたんだ?」


 渡が立ち上がりながら聞くとシルビアは訓練場の方を指差した。

 渡が指の先を見てみると、誰かがこちらに向かって走ってきている。

 黙ってみているとその人物は大体200メートルの距離を10秒足らずで縮めて渡たちの目の前に来てしまった。

 その人物は膝に手をついて肩で息を切らせていたがしばらくすると立ち直って言った。


「どうでしたか!?」


 渡には意味不明の言葉だったがその問いにはシルビアが答える。


「ん~、一回位は唱えられるな・・・もう少し速くなった方が良いぞ」


 シルビアの言葉を聞くとその人物は肩を落とした。

 渡は会話に取り残されていたがシルビアが渡を会話に混ぜた。


「紹介する。こいつが新しくお前の隊の副隊長になったヤナセワタルだ」


「柳瀬渡です。渡のほうが名前」


 渡が頭を下げると、相手も律儀に頭を下げてきた。


「私は四番隊のエリス・フィンカートといいます! 種族は竜人です。・・・ワタルさんの噂は聞いていますよ! 一番隊隊長のミーシャさんを一撃でノックアウトとか! さすが『神の使い』ですね!!」


 エリスの髪は銀色の髪を肩で揃えていて、前髪は目にかかるくらい。額には大きめのゴーグルを掛けている。


「私は試合は見ていなかったんですが、私の部下が見ていたらしくて、それはもう目に見えないほどの速さだったといっていましたよ!」


「いや、そのときは必死だったのおれ自身は覚えてないんですよ」


 渡は余りにも褒められたので(女子というのもあるが)照れてしまう。

 シルビアはそんな二人を眺めていった。


「私はそろそろ行くぞ。もう夕食の時間だ」


「はいわかりました!」


 シルビアは身を翻してすたすたと歩いていってしまった。

 渡は知り合いがいきなりいなくなってしまったので少し気まずく感じたが相手にとってはそうでもないようだ。


「さてワタルさん。兵舎を案内しますよ。……それと私には敬語使わなくても良いですよ。私に敬語の人なんて私の隊にはいませんから」


「お、おう……わかった」


 渡の返事に満足すると、エリスは上機嫌で兵舎に歩き出した。






~~~~~






「兵舎の中は大体こんなもんですね」


 ここは兵舎の一階の広間。

 広間といっても長ソファと長テーブルが二十組づつに置かれているだけなので休憩所になっているらしい。


 エリスの兵舎の案内が始まって一時間位。

 本当ならばもっと早く終わっていてもいいのだが兵舎で誰かに遭うたびに声をかけられるため余計な時間を使ってしまったのだ。


「あとはワタルさんの部屋だけですが……そろそろ夕食の時間なので食堂に行きましょうか」


「ん、わかった」


 渡は覚えたばかりの廊下をエリスと歩く。


 広間から食堂はそんなに遠くはない。

 広間からのびる一本の長い廊下の突き当たりだ。

 食堂に入ると既に50人程の兵士でごった返していた。


 近くにいた兵士が入ってきた二人に気がついた。


「お、噂の神の使い様がご登場だ!……お嬢ちゃん、デートはもう終わりかい?」


「もう、ガルザックさんやめてくださいよ!」


 その兵士はガルザックというらしい。


 髪は所々白髪が混じっており見た目からも初老に届くかどうかといった所だが彼から見えるオーラはまだまだ若い。

 ガルザックはがっはっはと笑い飛ばすと渡を見た。


「ワタルっていったか。これからよろしく頼みますよ『神の使い』様」


 ガルザックにとってはからかっているつもりらしい。

 渡はぺこりと頭を下げる。

 ガルザックとはそこで別れて二人はカウンターに向かった。

 そこには若く、髪を短く刈った白い服を着た若者が立っていた。


「いらっしゃいませエリスさん! 珍しいですね、今日はあなたが最後ですよ」


 若者は器にスープ、皿にサラダを盛り付ける。それらをお盆に載せて、それから平べったいパンのようなものを載せた。

 お盆をエリスに渡すと若者は嬉しそうに笑顔になる。


「エリスさん、僕やっとここの人数分ちょうどで料理を作る事ができたんですよ! もう鍋の中は空っぽ! しかし皆さんにはしっかりと食べてもらっている……これほど嬉しい事はありません!!」


 若者はそこまで言ったところで渡のことに気がついたようだ。

 しかし渡も若者が言った事を総合して一つの真実にたどり着く。


「あなたは……確かワタルさんですね!これから空席だった四番隊の副隊……」


 若者はそこまで言って笑顔のまま固まった。

 そこでタイミングよく渡の腹がなる。

 それを聞いてから若者の顔がどんどんと青くなっていった。

 それを見て渡は確信する。



(……俺の分は、無いな)



 見かねたエリスが声をかけた。


「……ワタルさん、私の半分食べます?」


 その瞬間若者は光の速さでカウンターを飛び越えて渡の目の前に移動すると土下座した。


「申し訳ございません!! 噂には聞いていたのですが本当の事とは思わず……そこまで頭が回りませんでした! 本当に申し訳ございませんでした!!!」


 頭をゴンゴンと叩きつけながら若者が土下座する。

 するとまた渡の腹がなる。

 確かに朝飯を食べたが昼は食べてないので腹がなるのは当然の事である。

 渡の腹の音を聞いた若者は頭を床に叩きつけるのをやめた。

 渡がどうしたのかな、と思っていると


「もう一回作り直してきますー!!!」


 若者がまたカウンターを飛び越えて厨房に向かおうとする。

 だが今度はカウンターに足を引っ掛けて頭から落ちてしまった。

 そのまま動かなくなる若者。


「……後で言っておきますからとりあえず食べましょうか」


 エリスはお盆を渡に任せると皿を取りに厨房の中へ入っていった。






~~~~~






「さっきはすみませんでした……れていなかったのに……」


「いや、少しでも食べられただけで十分だよ。それよりもエリスちゃん、半分貰っちゃったけどよかったの?」


 ここは二階廊下。

 兵士部屋は一階、隊長・副隊長の個室、事務室、会議室等は二階になっている。


「いえ、いつも残してしまっているので構いませんよ」


「そう? ならいいけど」


 誰もいない廊下を二人は並んで歩く。

 二人の個室は食堂から反対の位置にあるので歩いて移動するには一苦労する距離だ。


「明日からはしっかり作らせますので……」


「いいよそんな。そんなに気にしてないし」


 エリスはさっきからこの調子だ。

 渡としては本当にそれほど気にしていないから本当にいいのだが。


「うう……そういっていただけるとありがたいです……」


 エリスは自分が失敗したみたいにしょんぼりしている。

 心の優しい子なのだろう。

 エリスは渡よりも頭ひとつ分くらい小さいので渡がちょうど見下ろしやすい。

 そのしょんぼりした頭を見下ろしているとエリスは立ち止まった。


「ワタルさんの個室はここですよ」


 いつの間にか個室についていたらしい。


「私はワタルさんの向かいの部屋ですので何かあったら来てください」


 渡は女子の部屋に行こうという気にはならなかったがとりあえず頷いておく。


「では明日からワタルさんも訓練に合流しますので心の準備をしておいてくださいね」


「うん、わかった」


「朝食の時間になったら呼びますので。……ではおやすみなさい」


 エリスはぺこりとお辞儀すると渡の部屋の向かいの部屋の扉を開けて入っていった。

 渡も個室に入る事にする。

 そこには机、棚、ベッドなど必要な物しか置かれていなかった。

 一人になって安心したせいか、いっきに睡魔が襲ってくる。


(明日も早いらしいし、寝るか)


 ベッドに潜りこむ渡。


(そういえばこの世界に来てからまだ一日もたってないんだなぁ……)


 自分の順応力にちょっとため息が出る渡。

 少しの空腹を感じながらもだんだんと意識が遠くなっていった。

ちょっとむりやりすぎかなぁ~と書いてみてから思いました


とりあえず何故薙刀?ってくるかもしれませんがこれは古本屋で三国志を立ち呼んだ後に駅で薙刀部の方らしき人を見たからです!


これはやるしかねぇ、と思ったのですが自分でもおかしいかなと思いました。


そこらへんは許してください・・・


え?許さない?・・・えっと、すみませんでした。


これから精進いたします・・・

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