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~覚醒~

なんだか話が進むたびに一話一話が長くなっているような・・・

「念のためにもう一度聞く。……お前は『ヒト』だな?」


 目の前の姫様はこういった。




 今渡が置かれている状況はこうである。

 二人の兵士によって連れ去られた渡は、いかにも『貴族の家』という国会議事堂よりも大きな屋敷に連れて行かれた。

 そこの小さな部屋に押し込められ、10分ほど待たされた後に先ほどの姫が2人の護衛を引き連れてこの部屋に入ってきたのだ。

 姫は白を基調としたふりふりのドレスを身にまとっている。

 髪の長さは大体セミロングといったところだろうか。

 いかにも姫様という感じだ。


 そして姫は開口一番こういった。


「念のためにもう一度聞く。……お前は『ヒト』だな?」


「ああ、まぁ人っちゃあ人だな」


 渡がそう返すと姫は頭を抱えて悩んでしまった。


「私が……この私がヒトを召喚か……」


 姫が頭を抱えて悩んでいるが、渡にはそれよりも聞く事がある。


「おいあんた、ここはどこだ? お前はなんていうんだ?」


 渡が聞くと後ろの護衛の一人が反応した。


「貴様! ヒトごときが王族である姫様になんという言葉遣い! ……姫! やはりこいつは何かの手違いです!即刻処刑すべきです!」


 口を開いたのは猫の耳と尻尾をつけた女性の騎士。

 騎士らしく鎧を着ているが兜を外しており、一本に結った長い銀色の髪を垂らしている。

 腰の剣に手を当てて、臨戦態勢になっている。


「まぁまてミーシャ。もう少し聞いてみたい事がある。」


 今にも渡に斬りかかろうとするミーシャと呼ばれた騎士。

 するとミーシャはひとまず剣から手を放した。

 だがいまだに渡の事をにらみつけたままである。

 姫はミーシャから視線を外すと渡に正面から向かった。


「さて、ヒトよ。お前は何と言う?」


「俺は柳瀬渡という。お前は?」


 一言一言渡が言葉を発するたびに後ろのミーシャがぴくぴくと青筋を立てているが、渡は気が付かない。


「お前、私を知らないのか?……その名前といい、その格好といい、黒髪黒眼も珍しいし、何より王族であるこの私を知らないのか……」


 姫はうーんと唸ったまま黙ってしまう。

 しばらく気まずい空気が流れる。

 すると姫がその空気を破るように言った。


「じゃあまず自己紹介だな。私はシルビア・ヴィル・コータンス。この王国の第四王女だ」


 渡はそれを聞いた途端、ごふっ! とふきだしてしまった。


 なぬ! 王女とな!?

 じゃあそれなりに敬意を払わないといけないのかな……?


 といってもいきなり態度を変えてはちょっと恥ずかしいしこのままでいいや、と渡はスルーした。


「王女様……。へぇ~」


「っ! 貴様ぁ! どれだけ姫を侮辱すればすむのだ!? へぇ~、はないだろへぇ~、は!!」


 いきなりミーシャに怒られた。思ったことを言っただけなのに……


「ミーシャ。お前少し出てろ」


 と、そこで姫の冷たい宣告が出た。


「んなっ! 何故ですか!? 私はこいつが姫に対してあまりにも無礼だから……」


「お前がいると話が進まん。デニク。こいつを連れ出してくれ」


 シルビアがそういうとデニクと呼ばれた青髪の頭に角が生えた騎士はミーシャを羽交い絞めにしてこの部屋から出て行ってしまった。


「姫! そんな野蛮人と話してはなりませぬ!! そのような者は……」


 ミーシャの言葉は最後まで届かず、この部屋からいなくなった。

 部屋には渡とシルビアだけが取り残され、静寂が二人を包んだ。


「……ふぅ。悪いな、根はいい奴なんだ。許してやってくれ」


「いや、気にしてませんよ」


「そうしてくれるとありがたい」


 そういってシルビアは微笑んだ。

 ちょっと可愛かった。

 年は同じくらいだろうがまだ幼さが残る笑顔で、こう、グッとくるものが……


「さて、本題に入るが……」


 シルビアの言葉で現実に戻ってくる渡。

 顔がにやけてないかどうか、顔をグニグニする。


「なんでしょ?」


「お前は何者だ?」


 その質問に渡はぽかんとする。


「いや、柳瀬渡だってさっき……」


「名前の事じゃないヤナセ」


「あ、名前が渡で苗字・・・ファミリーネームが柳瀬」


「む、そうか。ならばワタル」


 シルビアはそこで言葉を切った。


「はい?」


「何故お前は召喚の儀の場で召喚されたのだ?」


 渡は悩んだ。

 召喚の儀とはさっきの祭壇での事だろうが、何故かなんて自分にも分からない。


「それが……俺にもわからないんだ。気が付いたらあそこにいた」


「そうか……」



 そういってシルビアは黙り込んでしまう。

 そういえば……


「それだと何かやばい事でもあるのか?」


するとシルビアは攻め立てるように言った。


「やばいもなにも、王族である私が隷族であるヒトを召喚してしまったら国の信用に関わろうが!」


……隷族?


 隷族というのはこの世界での奴隷の民のことなのだろうか?


「ヒトって奴隷なのか?」


「おま……そんなのも知らないのか? もしかしたらお前は秘境の民なのか? それならば色々と納得がいくが……」


 シルビアはそういってから黙り込んでしまった。

 ヒトが奴隷?


 信じられん……


「何も知らん奇妙な奴隷か・・・。まぁそこらへんはどうでもいいだろう」


 シルビアはそう呟くと、



「お前、これから私の奴隷になれ。わかったな?」



 ……は?


「ちょっと待て!なんで俺が奴隷なんか……」


「うるさい。ヒトは奴隷と先ほど言っただろう? お前はかなり珍しいがお前を持っていれば私の宣伝にもなるしな」


「ざけんな! 俺はお前なんかの奴隷になるつもりはない!」


 そう返すとシルビアは人が変わった様に言った。


「王族である私がうるさいといったのだ! 黙らんか! ……おいデニク!」


 姫が叫ぶとさっき出て行ったデニクが部屋に入ってきた。

 もしかしたら気を使って部屋の外で待っていてくれたのかもしれない。


「こいつを牢に連れて行く! こいつはこれから私の奴隷だ!」


「わかりました」


 デニクは指をパチン! と鳴らす。


 すると部屋の入り口から兵士がぞろぞろと出てきた。


「うわっなんだよ。放せ! 放せェェェェェ!!!!!」






~~~~~






 そして今見事につかまり手錠をかけられて護送中である。

 周りには数人の兵士とシルビアだけである。


「お前はこれから日の出とともに起床して私のために働け。いいな?」


 前を歩いていたシルビアは振り返ってそういった。


「……あい」


 渡はそう言うしかなかった。

 これ以上反抗しては首が胴とお別れしなければならないかもしれない。


「今までの無礼を許して私直属の奴隷にしてやるのだ。嬉しく思え」


 言ってからまた前を見て歩き出すシルビア。

 今までの口調から一変して我が儘な王女に変わった。


(俺、これからどうなるんだろうなぁ)


 これからのことを不安に思いながら長い廊下の窓を見る。

 外では何かの訓練をしているか、手から火の玉を出したりしているのがいる。


(あれが魔法って奴か・・・)


 その様子をぼんやりと見ていた渡だったが、窓の外で一際大きい火の玉を見付けた。

 その玉は術者の手を離れると的に一直線に向かっていった。



 はずだった。



 その火の玉は的に当たるかと思いきや、いきなり方向を変えてこちらに向かってきた。


(うわ!こっち来た!)


 しかもその方向の先には……



(シルビア!)



 シルビアに向かって一直線に突き進む火の玉。

 当のシルビアは上機嫌に鼻歌を刻みながらスキップをしている。


(くそ!この手錠が……)


 そのとき渡の中でもぞ、と何かが動いた気がした。

 次の瞬間、




「……!!!」




 渡は手錠を壊してシルビアに飛び掛った。

 渡はシルビアを抱いたまま十数メートルを駆け抜ける。

 シルビアは何が起こったかわからないようで眼をぱちくりさせていた。

 そして後方で爆発が起こる。

 壁はほぼ破壊され、渡を護送していた兵士たちも数メートル吹き飛ばされた。

 熱風という衝撃波が廊下じゅうを襲い、壁にかけてあった絵画や、いくらするのか分からないような陶器が次々と破壊されていく。

 シルビアは訳が分からないようで、


「……? おいワタル。お、おま……て、てじょ……?」


 何を言っているのか分からなかった。


「おいシルビア、きちんと周りを見て歩け」


 シルビアはそういわれて周りを見た。

 すると、


「なんだ! 敵襲か!? おろせワタル!」


 シルビアはそう叫んでじたばた暴れだした。


「ちがう。外で訓練していた奴らのが壁に直撃しただけだ」


 渡が言うと、壁にあいていた穴から人が入ってきた。


「っ! 誰か喰らった奴は……っひ、姫ぇ!?」


 最後の方は声が裏返っていまいち聞き取れなかったが、だいぶ混乱しているようだ。


「もももも、もももうしわわわけごじゃいませにゅ!!!!!」


 ・・・めっちゃ噛んだ。

 だが当の本人はそんな事はどうでもいいようで、必死に弁明している。


「わわっわ私のふちぇぎわによりこのっようなことをしてしままままま……」


「うるさい」


「っひ!!」


 そいつは顔を真っ青にして土下座した。


「申し訳ございません!!!!」


 脳が揺れるほど頭をがんがんと床にたたきつけている。

 しかしシルビアはそれを無視して、


「……ワタルよ。もしかしたらお前が私を助けてくれたのか?」


「ああそうだが?」


 するとシルビアは身を引いて驚いた。


「んなっ、お前手錠はどうした!? 確かに手錠をしてあっただろう!」


「ぶっ壊した」


「はぁ!?」


 手錠は鉄製で普通の人には壊せないだろう。

 しかし渡は普通ではない。


「お前に直撃コースだったからな。ぶっ壊して助けたんだよ」


 そういって渡は壊れた手錠をシルビアに見せ付けた。

 シルビアは何かを言おうとして、だが口をパクパクさせるだけで何もいえなかった。

 喋る事を諦めたのか、シルビアは黙って考え込んでしまった。

 その様子を渡は静かに見ていたのだが、シルビアの顔が難解な問題に直面した顔から喜々とした満面の笑みに変わっていく。

 その様子を見て渡はゾクリ、と背筋が震えた。


「お前は手錠を壊して私を助けたのだな?」


「……ああ」


 渡がそう答えるとシルビアは心の底から楽しそうに笑っていった。



「よし!お前は奴隷はなし!かわりに私の手駒として働け!」



 ……手駒?


「確か四番隊の副隊長席が空いていたな……よし、ワタルを四番隊の副隊長に任命する!」


 四番隊の副隊長……?


「なんだ? 副隊長って」


 すると廊下の角から騒ぎを聞きつけたのか、ミーシャがすっ飛んできた。


「姫ぇぇぇぇ! ご無事でございますかぁぁぁ!!」


 この世のものとは思えない形相でシルビアの下に直行し、抱き上げた。


「姫! ご無事でございますか! だからあんな野蛮人は打ち首にしたほうが良いと……」


 ちょいまて、今回俺は助けたんだぞ?


「みみみミーシャおお落ち着け。首が、首が……」


「っは! 申し訳ございません!」


 と、ミーシャは姫をおろした。


「姫! 何があったのでございますか!?」


 シルビアはケホケホとむせながら言った。


「……コホッ、いや、いきなり壁が爆発してな、それをワタルが助けてくれた、というわけだ」


 するとミーシャが信じられないものをめにしたような感じで渡を見た。


「こっこいつが……? 姫を……? ……ありえん」


「ありえるわアホ!なんで俺が見殺しにせにゃあならんのだ!」


「アホとはなんだ! アホとは! ……それならば姫、こいつに手錠はしていなかったのですか?」


 シルビアはミーシャに聞かれると自信満々に答えた。


「それがな、鉄の手錠をしていたのにも拘らずそれを破壊して私を助けたのだ!」


「んなっ、こんな奴に鉄の手錠を壊せるわけがないでしょう! それが出来るのは獣人か半竜人ぐらいです! 嘘も大概にしないと……」


「本当だ! だったらこれを見てみろ!」


 シルビアはそういって渡の持っていた手錠をひったくった。


「これがワタルにかけていた手錠だ。見事に壊れているだろう?」


 それをみたミーシャはむむ、と唸った。


「しかも私と数メートル離れていたにも拘らずそれを一瞬で縮めて私を助けたのだ! そんな人材を私が見逃すわけがないだろう?」


 そこで言いたい事がわかったのかミーシャは恐る恐る聞いた。


「あの、姫様?それはまさか……」


「ああ、ワタルを四番隊の副隊長にする。ちょうど席も空いてたしな」


 それを聞いたミーシャはさらに取り乱して、


「ひっヒトを奴隷以外になど、しかも副隊長!? たしかに四番隊の副隊長席は空いていますが、こんなやつを副隊長などに任命しようものなら周りが黙っていませんよ! それにエリスが可哀想です! こんな野蛮人となんて!」


 渡はミーシャの酷い言い様にショックを受けた。

 いくらなんでもそこまで野蛮じゃないよ?


「それにこんな奴が『称号』を持っているわけ無いじゃないですか!」


 ……称号?


「称号は私がつけてやる! そしてワタルはエリスを襲えるほど度胸があるとは思えん! 周りは私が無理やり抑える!」


 二人の言い合いに渡は少し傷つきながらも必死に思い出そうとしていた。


(称号……称号、なんか神が言っていた気もする……)


 二人がギャーギャーと騒いでいる中、渡が呟いた。


「……称号」


 渡の呟きを聞いて二人は争いをやめて渡を見た。


「なんだワタル。お前称号持ってたのか?」


「いや、こんな奴が持っている訳ないです! ここでなんとか奴隷を脱出したいから良い感じの称号を勝手に考えているだけです!」


「馬鹿を言うなミーシャ! そんなわけがないだろう!」


 再び言い争いに入ろうとする二人。

 その前に渡は二人に呼びかけた。


「あった……気がする……」


 その言葉を聞いてシルビアの顔がぱぁっと晴れた。


「おお! 持っていたのか! で、なんだ?何と言う称号なのだ?」


「やっぱり即興で考えただけです!信じませんからね!」


 渡は必死に神の言葉を思い出そうとする。


(『そうそう、言い忘れていたがお前の称号は……』)



「神の使い……?」



 それを聞いて二人はぽかんとし、二人の頭上に?マークが浮かぶのが見えるようだ。

 渡もよく覚えていないためまた考え込んでしまう。


一番早く覚醒したのはミーシャだった。


「っ貴様! ぱっと思いついた称号が『神の使い』だと! 貴様なんかが神を語るな!!」


 そういって腰の剣を抜き、渡の首に切っ先を向けた。

 本気で切り落とすつもりだ、と目で語っているミーシャに気迫で押されて一歩後ずさる。

 そんなミーシャをシルビアがなだめた。


「ま、まぁミーシャ。ルミニに任せれば一発だろう? だから、な? とりあえず剣をしまえ」


 シルビアに言われて渋々剣を収めるミーシャ。

 だがまだ認めていないようで、


「ならば早くルミニに鑑定させましょう! ……そこの!」


 いきなり振られて肩を振るわせる、まだ土下座をしていた兵士。


「なんでしょう!?」


「至急ルミニを呼んで来い!」


「わかりましたぁ!!」


 そういって走り去ろうとする兵士。

 それをシルビアが呼び止めた。


「いや鑑定は私の私室で行う。ここでは少し人目が多すぎる」


 三人は周りを見回した。

 確かに騒ぎを聞きつけた兵士や使用人がたくさんいる。

 土下座兵士はシルビアの言葉を聞くと、限界を超えた速さで走っていった。


「……さて。一応聞くがワタル。お前の言葉に嘘は無いな?」


「……たぶん。そんな感じのことを言われた気がする」


 すると笑顔になるシルビア。


「よし! 私はお前を信じるぞ。」


 そういって歩いていくシルビア。


「……っおい。どこいくんだ?」


「どこって私の私室だ。さっき言った言葉、覚えていないのか?」


 そういえばそんな事も言ってたっけ、と渡はシルビアについていこうとする。

 すると後ろからものすごい殺気を感じた気がした。


 振り返ったら負け。

 そう思った。


「おい貴様。謝るなら今だぞ? 今ならまだ許してただの奴隷にしてやる。鑑定結果が出てから謝っても私は許さん……必ずお前を打ち首にしてやるからな……」


 底無しの殺気が渡を襲う。

 体が一瞬硬直した。

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