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~異変~

 走る兵士を追いかけ、屋敷への最短距離を駆け抜けた渡たちは今朝出た門に到着した。

 三人とも息を切らしつつも門から奥の屋敷を覗いてみる。

 すると、今朝はいつもののんびりとした風景があったのに対し、多くの兵士がばたばたとそこらじゅうを駆け回っていた。

 そしてその兵士たちの顔には焦りと不安が色濃く映っていた。


「はぁ……いったい何があったんです?」


 エリスが屋敷を見て兵士に聞いた。


「いや、これから説明されると思いますので姫のところに行ってください。場所は会議室です。そちらに行ったほうがより詳しく分かるかと……」


 この兵士もそうとう焦っているらしくかなり早口だった。

 そこまで聞き取るとエリスは屋敷へ真っ先に駆け出した。

 渡もエリスに続き、全力で追う。

 屋敷の正面玄関をくぐり、ざわめく屋敷内を走り抜ける。


 すると一階の一番奥、『大会議室』とプレートが下げられた部屋にたどり着いた。

 エリスは年季の入った扉をスピードを落とすことなく勢い良く開ける。

 中には大きな円卓と椅子、数人程の人が集まっていた。

 ミーシャやデニクの姿も見えたのでここにいるのはどうやら隊長・副隊長格らしい。

 上座にはシルビア。円卓には既にここにいる全員が椅子に座っていた。


「おお、来たか二人とも。まぁそこに座れ」


 シルビアは円卓の空いている席を指した。

 二人は切らした息を整えつつゆっくりと座る。


「さて、全員揃ったので説明する。……まぁ各自大体のことは聞いてはいるだろうがな」


 シルビアはそう言って立ち上がり、腕を組んでこう言った。



「隣国であるエルギス帝国が我が国に侵攻してきた」



 周りの一同は事前に聞いていたらしく揃ってその言葉に顔をしかめる。

 エリスは予想外のことだったようで、驚いて口をぽかんと開けている。

 だが、


(えるぎすって……何?)


 渡だけ蚊帳の外だった。

 シルビアも渡が困惑しているのに気が付いたようで、


「ああ、ワタルにはこの後でちゃんと教えてやるから今は黙ってろ。な?」


 と、渡を制した。

 シルビアはこほん、と咳をすると


「ここがエルギスとの国境に一番近い都市だ。拠点になることは間違いない」


 シルビアはそこで一旦間を置き、全員の顔を見渡す。


「だが今の時点で分かっているのは何一つない。これからのことも検討しなければならないが、それはまた後で話そう。今日はこれで解散だ」


 シルビアがそう言うと渡とエリスを除く全員が立ち上がり、足早に部屋を出て行った。

 さっきまで静かだった部屋がさらにシーン、と静まり返る。

 少しだけ腕を組んで悩んでいたシルビアだったが黒板に何やら書き始めた。


「じゃあこれからワタルに説明してやる。エリスはどうする? 暇だぞ?」


 シルビアが黒板を向いたまま背中越しに聞いてきた。

 エリスは、


「えっと……私もよく状況が読めないので聞いていっていいですか?」


「ああ、構わん。まぁそのことについては後半になるだろうがな」


 と、シルビアは言うと同時に黒板から二人に向き直る。黒板にはお椀を横から見たような絵が描かれていた。


「ではまずワタルにはこの世界のことについて説明してやる。何回も言うのは面倒だから良く聞けよ?」


 渡はこれから何が始まるのかやっと分かったらしく、こくこくと頷く。


「これが、私達が住む大陸『オルメルス』だ。この大陸は大体こんな形をしている」


 そう言ってシルビアはお椀をこんこん、と叩いた。


「おるめるす?」


「オルメルス」


 シルビアはまた黒板を向いて何か描き始めた。


「んで、この大陸の真ん中あたりから北の海岸まで連なるのがアルザ山脈。ここは空でも飛ばない限り乗り越えることは誰にもできん。北の端っこは通れるがな」


 シルビアはお椀の真ん中から太い線を上までくねくね引いていく。


「この山脈の一番南のところから左下の方に流れてくのが、ヴィネジャ運河」


 そしてシルビアは山脈の南端からさらに左下に線を引く。それは他の川と合流しながらだんだん太くなっていった。


「まぁ大体こんなものかな。河の反対側に湿地があったりするんだが説明するの面倒だからいいや」


「適当だなおい……」


 その言葉に、説明に聞き入っていた渡は思わず突っ込む。

 シルビアは渡の言葉にムッときたらしく、


「こっちは無知なお前にわざわざ子どもでも知っているような知識を教えてやっているんだ。ありがたく思え」


 と、口を尖らせた。


「はいはい、ありがとうございますお嬢様」


「お嬢様じゃなくて姫様だ、私は」


(そこに突っ込むのかよ!)


 渡はまた突っ込んでしまいそうになったが、さらに話を大きくしても面倒なのでぐっと心の中に押さえ込んだ。

 少しの硬直の後に渡は息を整えてから言った。


「俺が悪かったから差年三点。それで、続きは?」


 シルビアも一度咳き込んでから気を取り直して続ける。


「ええと、この大陸をちょうど真ん中から三等分したうちの左上が私達のいるアルスフィア連合王国。十数の国が集まって出来ている。下が同盟国であるカラスタ連邦。んで右上が問題になっているエルギス帝国」


「ちょっと待った。三つだけって寂しすぎないか?」


「いや、アルザ山脈の北の延長線上に島があってな、イザナギ皇国という」


「それを合わせたって4つじゃんか……」


 シルビアの言葉に少なからず肩を落とす渡。

 異世界に来たからにはもっとすごいものを期待していたのだ。

 しかし聞いてみたら元の世界よりもあっけなかった。


「まぁ世の中そんなもんだ。それで帝国のことだが……おい、エリス」


 シルビアが本題に入ろうとしてエリスに顔を向けると、机に突っ伏したまま規則正しく寝息を立てるエリスがいた。

 流石に今までの話は退屈だったらしい。

 シルビアは無言でエリスの背後に回り、


「起きろ」


 ぱこん、とエリスの頭を叩いた。


「ふにゅっ?」


 突然のことに驚きつつも顔を上げるエリス。

 状況が掴めていないようで、きょろきょろと周りを見ながらぽつりと呟いた。


「……食後のデザートを」


「ばかやろう」


 シルビアは反射的に再びエリスの頭を叩く。

 その一撃でエリスは完全に覚醒し、背筋を伸ばした。


「あっ、はい。ごめんなさい……」


「うむ、分かればよろしい」


 エリスはしゅん、としつつも謝り、シルビアはそれに頷いた。

 シルビアは黒板に回り、再度説明を開始する。


「んで、この帝国が我が国に攻め入ってきたんだ」


「そう、それですよ。なんでですか?」


 エリスが率直に聞くが、シルビアはうーん、と腕を組んで黙り込む。

 数秒間悩んでからシルビアは口を開いた。


「それがな、全く分からないんだ。別に仲がそこまで良かったわけではないが戦争をふっかけるほど悪かった訳でもないし。それに奴らにメリットがない」


「ですよね。二国を同時に相手するなんて。何か裏があるんでしょうか」


 渡はエリスの言葉に眉に皺をよせた。


「ちょっと待って。二国同時にってどゆこと?その何とか帝国はもうどこかと戦争してるのか?」


 その問いにはシルビアが答えた。

 また黒板を指しつつ、


「ああ、帝国は我が国の同盟国であるカラスタ連邦と戦争状態にある」


「じゃあこの王国と帝国は戦争してなかったのか? 同盟国が戦争してる相手なのに?」


「我が国はカラスタを支援してはいたがエルギスとは戦争はしておらん。それなりに危ない状態ではあったがな」


「だったらなんで……」


「それが分かったら苦労せん」


 シルビアはそこまで言うと、ため息をつきながら椅子に座った。

 目を瞑って腕を組み、黙り込んでしまう。

 会議室はシーンと静まり返り、渡は小さな声でエリスに呟く。


「でもやっぱり戦争をふっかけるって事は何か理由があるんだよな」


 エリスもその声に小さく答える。


「だと思いますよ。さっきも言いましたがエルギスとカラスタは戦争をしています。昔から、という訳ではありませんが十年くらいは戦争をしていますから、物資的にも危うい状態だと思いますが」


 エリスも困惑しているようで、中々考えが纏まらない。

 そしてエリスも視線を机に落として考え込んでしまった。

 ぽつーん、と一人残された渡。

 二人に習って机をじっと見てみたが、恐らく一つの木を切り出したのだろうと予想される大きな円卓にはきれいな木目があるだけだった。

 居所が悪そうに周りをきょろきょろしていたが、シルビアが思い出しように言った。


「ああ、そういえば二人に任務があった」


 その言葉に渡とエリスは顔を上げてシルビアを見る。


「一人仲間がエルギスの牢屋に捕まっていてな。二人に連れ戻してきて欲しいのだ」


 二人はその言葉に揃って首をかしげる。


「名前はロベルツ・ヴァリアック。軍師だ」


 エリスはシルビアの言葉を聞いて顔をほころばせる。


「えっと……ロベルツ叔父さんですか……?」


「ああ、そのロベルツだ。エルギスを旅行中に捕まったらしてな。まぁエルギスには素性は知られていないだろうし、ただの旅行中の親父を捕まえたって感じだろう」


「その人はいったい何をやらかして捕まったんだ?」


「食い逃げだ」


「食い逃げ!?」


「旅行中に金が尽きたらしくてな。どうしようもなくなって捕まったらしい。本人曰く、牢屋ならば衣食住に困らないからわざと捕まったのだー、とか何とか言っていたけどな」


 シルビアはそこまで言うとまた深くため息をついた。


「まぁいざとなれば使える奴だ。ちょいと行って脱獄させてこい」


「んな無茶いうなよ!」


「大丈夫だ。あいつも味方がいれば脱獄なんて簡単にやってのける奴だ。いけ好かない奴だが実力があるのも事実だしな。放っておきたいが無視できない状況になりつつある。時間をかけてもいいからなんとしてでも連れて来い」


 シルビアはさらにさらにため息をついてポツリと呟いた。


「我々もあいつに力を借りなければいけないほど無力なものなのか……」


 渡は状況は掴めないがその軍師の実力と性格は掴んだ。

 そして直感する。

 絶対に面倒くさい。

 しかし戦いになってもまだまだ役に立てないであろう。

 そんな自分が一番役に立つためにはこの任務を成功させるしかない。

 渡はそう決意した。


「ちょっと待ってください。叔父さんとはどうやって連絡をとったんですか?」


 エリスが心配そうにシルビアに尋ねる。


「ああ、あいつから屋敷宛にな、魔道具を使って連絡してきたんだ。あいつが作った、地中の魔力線を使って一方的に文章だの音声だの映像だのを送る装置らしくてな。優れものだったがそれっきり音沙汰無しだ。とりあげられたんじゃないか?」


「のんきだなぁおい……」


 しかし問題はその装置ではなくロベルツ本人である。


「で、その軍師さんはどこにいるんだ?」


「ああ、エルギス帝国の北東の街、レグスだ。地図をやるからそれで調べろ」


「どうやって行くんだ?」


「そのまま歩いていったら捕まるに決まっているからな、船で行ってもらう。しかもそのままじゃなくイザナギ皇国を間に挟んで、だ」


「なんでそんなに面倒くさい方法で行くんだよ?」


 渡は率直に聞いたが、シルビアはあきれて首を横に振った。


「そのまま我が国の船で行ったらばれるに決まっているだろう。それにあちらの街まで行くには距離がありすぎて食料やら何やらが尽きるかもしれん。念のためってやつだ」


「でも何で私達なんですか?他の人じゃあ……」


「あいつがエリスがちょっと必要だ、と言っていたのでな。なんかあるんじゃないか?ワタルについては一人でいても邪魔だから世界を見て勉強して来いって感じだ」


「そんな露骨に言わなくたっていいだろ……」


 シルビアはそんな渡に目もくれず、さらに付け足した。


「ああ、それとお前らはイザナギ皇国への貨物船に便乗して向かい、そこからまた船でエルギスの港町であるレントに行くことになる。船酔いに気をつけていけ」


 渡は精神的な傷に耐えつつもしっかりと頷き、エリスも了解した。


「よし、出発は早い方がいいからな。明日明朝。こちらの準備は出来ているからお前らも支度をして来い。これにて解散」


「ありがとうございました」


 エリスはぴょこんと頭を下げ、渡も椅子から立ち上がり会議室から出ようとする。

 しかしシルビアから声がかかった。


「あ、エリスにちょっと言うことがあった。渡は先に行っていてくれ」


 渡はその言葉を聞いて一人で会議室の扉を開ける。

 会議室の外はまだ明るかったが、さっきよりも日が傾き、心なしか空も茜色に染まりつつある。

 そんな廊下を歩きつつ、渡は少しだけ見知らぬ場所へ、旅行気分で胸を膨らませるのだった。






~~~~~






「さて、エリス。私が何故お前とワタルにこの任務を命じたか分かるか?」


 二人きりになった会議室。

 シルビアは頬に手を付いてぼそっと切り出した。


「えっと……さっき言ってたじゃないですか」


 シルビアはエリスの言葉に心の底からため息を付き、エリスの鈍感さを嘆いた。

 だがシルビアはそんなエリスが好きだし、応援してやりたいと思っている。


「お前、ワタルのことが好きだろう」


 エリスは突然のことに驚き、むせる。

 そして真っ赤な顔で反論した。


「んなっ、そっそんな訳無いじゃないですか!」


「だって、屋敷中で噂してるぞ。エリスはワタルに恋をしているとか、付き合っているとか、もうヤってしまったとかヤってしまったとかヤってしまったとか」


「そんなことはありません! 何ですかヤってしまったって!!」


「私が言っているわけではないぞ。屋敷の奴らが言っているだけだ」


「黙らせてきます!!」


 がたっと椅子を立ち、会議室を出ようとするエリス。

 普段はおとなしいエリスだが、今は照れとも怒りとも焦りとも似つかない表情である。

 しかしシルビアはそんなエリスの心情を読み取っているかのように落ち着いて話しかけた。


「まぁまて、エリス。だが、お前がワタルが好きなのは事実だろう?」


 エリスはその言葉に敏感に反応したが椅子にすとんと座ると、小さく頷いた。

 シルビアは満足そうに頷くと、身を乗り出して秘密の話をするかのように小さな声で話しかけた。


「だからな、私はお前達を応援してやろうと思ったのだ」


「お、応援……ですか?」


「そうだ。ちなみに今回お前達はエルギスのレグスまで言ってくるわけだが、結構な長旅になるだろう。そこでだ、お前はその間にワタルを……」


「きゃー!!」


 エリスは脳の許容範囲を超えたらしく机にゴン、と頭をぶつけた。

 そして耳を押さえてぶつぶつと何やら呟きはじめる。

 端から見たら不気味に思うような光景である。

 そんなエリスにシルビアはまた落ち着いて話しかける。


「まだ最後まで言ってないぞ。……だが言いたいことは分かるだろう。帰りだってロベルツは空気の読める奴だから気を遣ってくれるはずだ。心配事は何もない! さあいけエリス! お前の明日がかかっているんだぞ!!」


 シルビアも訳の分からないことを宣言し、まだ耳を塞いでいるが黙りこんだエリスを指差した。


「エリス! お前がそんなでどうする! お前も中々鈍感だが奴の方がもっと鈍感だ。お前がアプローチしてやらねばお前達の明るい未来は開かれんぞ!」


 エリスはその言葉を聞いて、静止する。

 シルビアもエリスを指差したまま止まり、会議室の空気が止まった。

 そのまま数秒してから動いたのはエリスだった。

 ゆっくりと立ち上がり、落ち着いてシルビアを見る。


 そしてエリスも宣言した。


「私……やります」


 シルビアは静かな、だが熱いエリスの心を確認し、満足そうに頷く。

 そして笑顔を見せてエリスに言った。


「私に出来るのはここまでだ。後はお前次第。頑張れよ」


「はいっ」


 今ここに少女の静かな誓いが刻まれたのだった。

これを書いていて思いました。


(国とか大陸とかの形想像しにくくね?)


なのでここで簡単に説明していきたいと思います(本当なら文章中だけで分かるような文章を書ければいいのですが・・・)


簡単に言えば



120度(角度)で円を三等分にした感じです。

そして円を茶碗に見立ててください

でもって上の方にニュージーランドとかイギリスみたいなあまり大きくない島があります



想像できましたか?

それでも分からんわボケ!と言う方は感想コーナーに送ってください。

頑張って次を考えておきます。


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