~事の始まり~
初投稿です。生暖かい眼で見守ってください
「ん……んう」
壁に小さく切り抜かれたような窓から日光が差し込んでくる。その小さく切り抜かれた日光が柳瀬 渡の顔を直撃した。
渡は上体を起こすと大きく伸びをした。ついでにあくびをする。
「うん、気持ちのいい朝だ」
そう呟いて窓の外をのぞいてみる。そこには、
忙しそうなサラリーマンと既に真上までのぼった太陽があった。
……ん?
渡の思考が停止する。
今日は待ちに待った高校の入学式。昨日の夜も緊張で眠れなかったぐらいに楽しみにしていたのだ。誰かに言ったら笑われそうな理由で眠れなかったわけだが、それほどに高校というものが楽しみだった。
それなのに、
登校日初日に、
寝坊した。
渡は直感した。
そして絶望した。
「なんだってんだぁぁぁ~!!!!」
渡はいつもクラスの笑いものだった。
ドジだし、どこか抜けているし、臆病だし、背はちっこいし、制服はぶかぶかだし、丸眼鏡だし。
最後の方は関係ないと思うがクラス全員で渡を笑っていた。
いや笑っている本人たちにとってはただ見ているのが面白かったからちょっと弄っていただけだった。 だが当の本人からしてみれば全く迷惑極まりない事であった。
何か行動を起こすたびに笑いが起き、皆が自分を指差して笑っている。
そんなクラスが渡は嫌いだった。
だから高校に期待していたのかもしれない。
だがいきなり始業式をサボったのだ。
本人にその意思はないとはいえサボった事には変わりない。
そのせいで自分はまたクラス全員から笑われることになるのだろう。
「はぁ~…」
ため息が出るのも仕方がないだろうと思う。
ため息をつくと幸せが逃げるとか聞いた事があるがそんなことはどうでもいい。
ため息をつかないとやっていけないのだ。
そうしてひとしきりため息をついた後、暇になったので仕方なくそこらをぶらつく事にした。
もちろん学生の下校に被らない時間帯だ。
自分の不幸を呪いながら散歩コースを歩く。
散歩コースといっても自分の家を出てひたすら人気のなさそうな道を歩く事だ。
だから特に決まった道があるわけではない。
そのままぶらぶらと歩いていたらマンホールの所に通行止めの看板が置かれていた。
すぐそばでは工事中らしきおっちゃん達がそれらしい作業服を着て作業している。
戻っても何もすることは無いのでちょっとお邪魔する事にした。
「……失礼しま~す」
掻き消えそうな小声で断りを入れつつ静かに通り過ぎようとする。
マンホールの蓋が開いていることを確認しつつ、落ちたくねぇよな、と心の中でつぶやいた。
そのとき、
「そこのクソガキィ! 工事中って看板が見えねぇのか!!!」
すぐ隣の、どこかの組に入ってそうなヤクザっぽい人が大声で怒鳴った。
「ッ! す、すみま……」
素直に謝ろうとしたのだがあまりに相手の声が大きすぎたため後ずさりしてしまう。
しかし、その脚をマンホールの蓋に引っ掛けてしまった。
(うわっ!あぶな!!)
渡はバランスを取って後ろに足をつけようとしたのだが、その脚がマンホールに入ってしまった。
重心を乗せていた足が見事にマンホールに入ってしまい、マンホールに吸い込まれる渡。
(!!? っ!?)
無我夢中で手を伸ばしたが、その手は空を切り、渡はそのままマンホールに落ちていった。