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クラスで人気者の明るい彼女は屋上ではオタクを楽しむ -クラスの盛り上げ役が、俺の隣でだけ素になる話-  作者: すなぎも


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第6話 強制イベント、屋上送り

 ホームルームが終わるチャイムと同時に、椅子が引かれる音が一斉に鳴った。担任が教室を出ていくと、あとはいつも通りだ。カラオケだのゲーセンだの、楽しそうな予定が飛び交う。


 そんな中、俺は誰よりも早く鞄を肩にかけて迷いなく教室を出た。


「あっ! ご、ごめん! 今日は急ぎの用事あるから!」


「あーそっ? 昨日はクレープごちね」


「うん! じゃあまた明日ね!」


 背中越しに、やたら明るい声が聞こえてくる。クラスの女子の誰かだろうが、俺には縁がない会話なので振り替えならない。


 廊下に出た後、足早に階段へ向かう。ここまで来れば大丈夫、などと油断はしない。なるべく視界に人を入れないように前だけ見て歩き進める。


 背中に、じわっと視線を感じた。


 足音がひとつ。小走りに近づいてきて、俺との距離が数歩分のところでおさまる。それから付かず離れず、同じ速度でついてくる気配と視線。


 修二たちじゃない。あいつらなら、こんな生ぬるい距離感じゃなくて、がっつり肩を組んでくる。視線の温度も違う。もっと、遠慮がなく背中を刺してくるはずだ。


 いま感じているそれは、様子をうかがってるような遠慮を感じる。


 しかし、そんなものは関係ない。

 面倒なことが起きる前にさっさと帰る。


「あー。今日ってすごく屋上日和だよね」


 背後からわざとらしい独り言が聞こえた。恐れらくそれは俺の後を付けている人物のもので、誰かはすぐに察せた。


 神名の声だ。


「ひとりじゃちょっと行きづらいけど、誰かいないかなあ、屋上に行きそうな人。お喋りに付き合ってくれる人、いないかなぁ。気楽に過ごせる人、いて欲しいなぁ」


 足音が一歩ぶん近づいた。完全に俺のこと言ってるのはわかるが、それでも振り返らずに階段を下る。


「いつも放課後はふらっとどこかに消えちゃう系男子とか、屋上にいたら最高なんだけどなぁ。私をリラックスさせてくれるんだけどなぁ……」


 無視してさらに足を進めて。


「桐生くんとか今日はいないのかなぁ!」


「独り言で人の名前を呼ぶんじゃねえ」


 さすがに耐えきれず踊り場で足を止めて振り返る。


 そこには期待を裏切らない顔があった。金色の髪をサイドで結んで、スマホを片手に持ちながら、にへらっと笑ってる神名。人懐っこそうな笑みではあるが、さっきの行動は少しねちっこい。


「やっほー、桐生くん。偶然だね、こんなところで会うなんて」


「さすがにそれは無理があるだろ。ってかいいのかよ、学校で俺に喋りかけて。独りぼっちの桐生と喋ってるって、友達に指さされるんじゃねえか?」


「私は普段からみんなと仲良くしてるから、誰と喋っても不自然じゃないよ。みんなと仲良く、みんなと楽しく過ごすのをモットーにしてるからね!」


 しれっと言いながら、神名は俺のすぐ横まで歩いてきた。

 俺はそれに、半歩だけ距離を取る。


「近い距離、苦手なんだ? 私が可愛いからかな?」


 あざとく笑う神名に、俺は侮蔑の視線を向けて対応する。


「それは学校モードか? 屋上にいる時と違ってあざといんだな」


「むむっ。そんなつもりはないんだけど」


「要件を言え。俺はさっさと帰りたいんだ」


「用事があるの?」


「用事が出来る前にさっさと帰るんだよ」


「じゅあもう手遅れだねっ!」


 手を後ろで組んで、くるりと回る神名。


「どういう意味だ?」


「これから桐生くんは屋上に行くからだよ」


「いや行かねえよ。修二たちにも捕まらなかったし、今日はさっさと帰るんだ」


「そっか……。残念だなぁ。私はこれから屋上に行こうと思ってたのに」


「そうか。じゃあな」


 別れの挨拶をして足を踏み出したが、ブレザーの裾が引っ張られた。


「私はこれから屋上に行こうと思ってるんだけど」


「そうか、今日はいい天気だからな、楽しめよ。じゃ、俺は帰る」


 無視して帰ろうとするが、ブレザーの裾を引っ張る力が強まった。


「離せっ、神名っ」


「私はっ。これからっ。屋上にっ、行こうとっ、思ってるんだけどっ!」


 細く白い腕を掴んで無理やり引き剥がそうとするが、意外と力が強い。邪魔をするなと睨みつけるが、神名は手の力を緩める素振りすら見せず必死に裾を掴み続ける。


「私はこれから屋上に行こうと思ってるんだけど!」


「NPCみたいに同じセリフ繰り返すな」


「私はこれから屋上に行こうと思ってるんだけど!」


「NPCは喋りかけなきゃ答えないんだよ」


「私はこれから屋上に行こうと思ってるんだけど!」


 本当に同じことしか言わねえじゃねえかコイツ。

 なんなんだよもう。


 とは言えこれ以上ここで神名と問答を続けるのは危険だ。神名の友達が来てもアウト、修二たちが来てもアウト。なんなら他の生徒にこの現場を見られるだけでも面倒な事になりそうだ。


「わかったわかった。屋上に行けいいんだな?」


「やった!」


 強張っていた表情がパッと明るくなり、笑顔に変わる。

 手が離されたその瞬間、俺は階段を一段飛ばして駆け下りた。


「あっ、ちょっと! 桐生くんが行くのは上だよ!」


「なんで俺がお前に付き合わなきゃいけねんだよ」


 言いながら階段を駆け下りる。

 その時、ちらりと見えた神名の表用が随分と落ち込んでいて。


 ……一度はおりた階段を上がる。


 踊り場には肩を落とした神名が立ち尽くしており、しょうがないので肩を叩いてから声を掛ける。


「先に屋上いってるから、少し経ったら来いよ」


「き、桐生くん!」


「誰にも見られるなよ。俺もお前も、屋上で時間潰してるのバレたら面倒になるんだからな」


 そう言って俺は、なんだかなーと思いながら、屋上へと足を進めるのであった。

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