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クラスで人気者の明るい彼女は屋上ではオタクを楽しむ -クラスの盛り上げ役が、俺の隣でだけ素になる話-  作者: すなぎも


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第5話 変な境遇の似た者同士

 いつもの屋上。


 ベンチに座り校門のほうを覗き込むと、修二と千條が歩いていくのが見えた。校門を出てすぐ手を繋いでいるところを見ると、微笑ましい関係ではあるが。


「なんで修二はあんな風になっちまったんだか」


 小学生の頃は一緒に相撲をとって投げ合いっこをしていた。ただひたむきにぶつかり合っていた相手が「ヒロトの童貞だったら。オレがもらってやる」なんてとんでも発言をするなんて……。


 どこで人生を踏み外したらそういう発想を持つようになるんだ?

 俺は修二をそんな風に育てた覚えはない。

 いや俺が面倒を見た記憶もないけど。


「ってか、さっきの会話を誰かに聞かれてたら普通に終わってるよな」


 カップル2組と遊ぶのが嫌すぎて逃げ回ってたら、幼馴染のイケメンに「童貞をもらってやる」とか言われる。割と救えない人生な気がしてきた。


「きりゅ~くん、おつかれ!」


 屋上のドアが音を立てて開き、明るい声が聞こえて来た。そちらを見ると、金色の髪が夕日を反射して輝いている。着崩したブレザーに短いスカート。スクールカースト上位、その象徴みたいな姿。


 神名だ。


「随分と機嫌がよさそうだな」


「そりゃ、ねぇ?」


 神名はへらっと笑いながら隣に腰を下ろして校門の方を見る。


「修二くんとカナちゃん、仲良さそうだね。これからデートかな?」


「そりゃ付き合ってる奴等が一緒に帰ってるんだから、デートでもするんじゃねえの?」


「ふーん……」


 神名は意味ありげに頷いてから、ゆっくりとこちらを振り向く。

 口元が、なんかすごくいやな形で吊り上がっていた。


「ねえ、桐生くんってさ」


「なんだよ」


「修二くんとそういう関係なの?」


「はあ?」


 一瞬、何言われたのかわからなかった。


「さっきの教室での会話。『責任取ってくれんのか?』とか『俺の童貞をもらってくれんのか』とか、すっっっっごい良かったよ? セリフ回し」


 そういえば神名には聞かれてたんだった……。

 しかも良かったって、なにもよくねえわ。


「なんで聞こえてんだよ」


「あの距離じゃ聞こえてない方が不自然だよ。しかも『俺の童貞は責任もって修二が受け取れ』って、わりと告白レベルの破壊力じゃん? 修二くんも『あぁ、ヒロトのなら喜んでもらう。ずっとこの時を待ってたんだ』って……。きゃっ!」


 神名は両手で自分の頬を押さえて、にやにやを通り越した顔をしている。


「いやそこまでは言ってねえよ! 勝手に改変すんな!」


「えぇ! 言ってた、言ってたよ! 原作の再現なんですけど!?」


「言ってねえし。あれはただの言葉の綾で」


「どっちが攻めなんだろうね?」


「いや話聞けや」


「見た目的には修二くん攻めっぽいけど、さっきのシチュだと桐生くんから攻めてたよね。『責任取れ』って。ん~、修ヒロかヒロ修か……。私的にはどっちもアリ!」


「どっちもナシなんだよ。神妙な面持ちで気持ち悪いこと考えるな」


 しっかり腐ってる奴と会話するの初めてだけど、もう相手するの面倒だわ。こんなことなら屋上に寄らず帰ればよかった。


「そもそも修二は千條と付き合ってるだろ。神名が思ってることにはならねえよ」


「彼女いるのに幼馴染の男の子にだけ甘いとか、一番おいしいやつなんですけど?」


「おいしかねえよ。疑問形で語りかけてくるな」


「いいなあ……。彼女と幼馴染み、どっちを取るか葛藤する修二くん。そこに常弘くんも混ざってきて4角関係になるのも全然アリだし。そうなるとノゾミちゃんも黙ってないだろうし……。夢が無限に広がっていく……」


「広がらねえんだよ。修二は千條と、常弘は星村と付き合って終わりだ。この物語にそれ以上の発展はねえの。ハッピーエンドで物語は終わってんの」


 伝えるが、うわの空で「えへっ、えへっ」と気色悪い笑みを浮かべる神名。

 

 こいつ、終わってやがる……。

 これ以上この会話はしたくないので。


「ってかバイトはどうしたんだよ」


「話そらしたね?」


「そらしたよ」


「ふ~ん。桐生くんって素直なんだ。冷笑系なのに」


「うるせえ」


 神名はくすりと笑ってから、遠くを見つめた。

 さっき教室で聞いた声よりは、少しだけトーンが低い。


「バイトは本当だよ、家でできるやつ。パソコン使ってお父さんのお手伝い」


「手伝いか。バイトって言えるかは微妙だけど、ちゃんとやってるんだな」


「そりゃそうだよ、女の子ってお金かかるんだもん。服買ったり、コスメ買ったり。親に全部出してもらうの、なんか違うなーって思ってさ。って、これだけ聞くと意識高い系みたいだね」


「実際わりと意識高いほうだと思うけどな。学校では友達とわいわい騒いで、自分で稼いだ金でお洒落してるんだろ?」


「やめてよ、照れちゃうから」


 照れてるようには見えないほど真顔だが。

 神名はそのまま続ける。


「でもね。今日のはただ逃げただけ」


「逃げた?」


「うん」


 神名はベンチを上に足を乗せ、膝の上に上げを置く。


「今日は他の学校の男子と遊ぶらしくてさ……。私、明るくしてるから勘違いされやすいけど、男子のことあんまり得意じゃないの。顔見知りになっちゃえば話せるんだけどね。他の学校の男子とか、名前しか知らない相手とか、そういう人たちと遊びに行くの、面倒だし、億劫だし……。正直言って怖い」


 さっきまでの妄想テンションが、すっと引いていく。

 代わりに出てきた声は、どこか慎重だった。


「友達の友達って、ほぼ知らない人じゃん。美来もおいでよーって言ってくれるのは嬉しいし、断ったらノリ悪い子って思われるのも嫌だし。でも知らない男子となんて遊びたくないし。だからバイトって誤魔化すのが一番楽かな、って」


「まあ無難ではあるか。何回も続けてると苦しくなってくると思うけど」


「それなんだよねえ。最近はず~っと先の予定まで聞かれて正直しんどい。マミ達がなんで私を他の学校の子と遊ばせたいかわからないけど、勘弁して欲しいよ……」


 教室でしていた会話からすれば、神名もかなり断り続けてるみたいだしな。それでも諦めない友達はなにを狙ってんだ? とは思う。


「神名もやんわり断ってたよな? 苦手だって」


 頬を微かに膨らませ、こちらを見る神名。


「むっ! 桐生くん、聞いてたんだ」


「聞こえてきたんだよ。俺と修二の会話が聞こえて来たみたいにな」


「……そっか。なら、しょうがないね」


 そう言って。


「苦手だって言ってるのに、会わせようとしてくるんだよね。たぶん彼氏を作らせたいんだと思うんだけど」


「なんだそれ。友達に彼氏を作らせたいってどういう感情?」


「それが私にわかったら、ここまで疲れ果てないですよっと。はぁ……」


 膝に顔を埋めてため息を漏らす神名。


「大変なんだな」


「同情ですか?」


「同情っていうか、まあ。俺もわからないことだらけだからな」


「桐生くんのわからないことって?」


「修二たちがなんで俺を遊びに誘い続けてるかだよ」


「あぁ……。そうだよね。桐生くんははっきり言ったんだもんね。一緒にいたくないって」


「なのに、なんで今日みたいに声を掛けて来るのか」


 それどころか俺の童貞ならもらうとかなんとか……。

 全くもって、あいつらの考えてることがわからない。


「やっぱり、私達って似た者同士なのかもね」


 神名は少しだけ笑った。

 さっきみたいなにやにやじゃなくて、肩の力が抜けた笑いだ。


「変な境遇にいるって意味でな」


「彼女持ちの幼馴染と遊びに行くのが面倒な童貞と、他校の男子と遊びに行くのが面倒な女の子」


「言い方おかしいだろ。なんで俺が童貞で神名が女の子なんだよ。だったら神名は『他校の男子と遊びに行くのが面倒な腐女子夢女子妄想モリモリ実はひとりでアニメを見てたい陽キャは偽り陰キャ女』にしろ」


「ひ、ひどい! それはさすがに言い過ぎだよ! 女の子に言う言葉じゃないよ!」


「童貞って言って来た奴に容赦はしない。それが俺の流儀だ」


「この世で一番ださい流儀だ! 情けない、情けないよ桐生くん!」


「好きに言え。神名の言う事は俺には効かない」


「童貞! 桐生くんは一生童貞! もらってくれる人は修二くんしかない!」


「そ、それはやめてくれ? 神名に気持ちはわからんだろうが、女子に童貞って言われるのかなり効くからな?」


「私の言うことは効かないっていったの桐生くんでしょ! この童貞! 童貞桐生は最終的に修二くんでそれを捨てることになるんだから! 常弘くんでもいいけど!」


 ぐっ。こ、この野郎が……。マジで言いたい放題いってきやがって。


 なんとか歯を食いしばって怒りを堪えていると。


「ぷっ」


 怒っていた神名の顔が崩れ。


「あははっ!」


 笑顔になる。


 神名はひとしきり笑ったとに。


「あーあ。マミにもこれぐらい本音で言えるといいんだけどなー」


「さすがに少しは抑えた方がいいと思うぞ? 友情のためにな」


「それはそうかも。でも、本当に。桐生くんと話してる時みたいに、なんでも言ってもいいや~って。私に男は必要ない、合コンみたいなものに私を誘うでない! って言えればいいのに」


「なんで喋り方が戦国武将みたいになるんだよ」


「その方が強そうでしょ?」


「知らねえけど。まあ、言ってて気持ちいいかもな」


「私は帰って推しの配信を見るので、クレープ屋なんかにはいかないでござる!」


「もうなにがなんだかわからねえよ」


 あまりの意味のわからなさに、思わず笑ってしまう。こんなにも明るくて元気なのに、なんでみんなと遊びたがらないのか。


 というのは俺の偏見か。元気で明るくて、調子のいい奴でも、ひとりで過ごすのが好きな奴もいる。


「さて、そろそろ帰るか」

 

「桐生くんは帰ってなにするの?」


「ゲームしながらアニメ見て、終わったゲーム実況みながら漫画読む」


「なにそれ最高の過ごし方してるじゃん! 私と代わってよ!」


「神名はどうすんだ?」


「ど、ドラマの予習。明日の会話に付いて行けるように……」


「そいつはご愁傷さまだ。推しを教えてくれれば代わりに配信見とくぞ?」


「それはダメ! 推しの配信までにはドラマの予習終わらせるんだから!」


「健気なことで」


 それがいいことなんだか悪いことなんだか。どちらにしても、俺がケチを付けることではないのは確かか。


 その後、神名を先に帰し、校門を出ていくのを見送ってから俺は立ち上がる。校門で神名がこちらを見上げて、微かに手を挙げた。


「俺達の関係をバレないように先に帰したのに。余計なことするな」


 バレたら友達に色々言われるのは神名だろうに。俺は控えに手を振る彼女に反応せずに、屋上を後にした。


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