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クラスで人気者の明るい彼女は屋上ではオタクを楽しむ -クラスの盛り上げ役が、俺の隣でだけ素になる話-  作者: すなぎも


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第3.5話 彼を想って悶える夜 -神名視点-

神名美来視点


 家に帰って、制服を脱いで、部屋着に着替えて、ベッドにダイブして。

 しばらく天井を見つめてから、盛大に枕に顔を押しつけた。


「うわあああああああああ」


 声にならない悲鳴を枕に叫ぶ。

 思い出すのは、もちろん今日の屋上での出来事。


『私にはもう一緒にいてくれる人、桐生くんしかいないんだから!』


 思い出した瞬間、ベッドの上でゴロゴロ転がる。

 両足でジタバタと布団を蹴って、枕をぎゅーっと抱きしめる。


「なに言ってんの私! あれほぼ告白じゃん! バカなの、死ぬの!?」


 叫びながらも、頭のどこかではちゃんと分かってる。

 あれはあの場だから言ってしまったことだ。


 クラスでは明るくて、ノリが良くて、誰とでも仲良くできる神名美来をやってきた。別に全部が嘘ってわけじゃないけど、みんなに嫌われないために作り上げたもう1人の私。


 グループの空気を読んで、話題を合わせて、みんなが楽しくなるように盛り上げて。正直、疲れないわけがない。


「……桐生くんの前では、素で喋れちゃってたな」


 ぽつりと呟いて、横を向く。

 ベッドの脇、壁にはってあるアニメのポスターと目が合った。


 魔法少女☆マギウステイルの主人公・コウヨウちゃん。

 変身シーンのキービジュアル。きらきらした瞳で、まっすぐこっちを見ている。


「コウヨウちゃん、どうしよう。完全にやらかしちゃった」


 ポスターに話しかけながら、今日のことを順番に再生していく。


 放課後、屋上で友達の遊びを嘘で断り、つい日頃のことを愚痴ってしまった。そのままアニメや推しの独り言を零してしまい、それを桐生くんに聞かれて……。


 誤魔化そうとしたけど、時すでに遅し。そのまま聞き上手の桐生くんに乗せられて、オタクな本性をさらけ出してしまった。それでも引かれなかったどころか、桐生くんはちゃんと話を聞いてくれて。


 しかも、桐生くんは自身の話までしてくれた。


「……カナちゃんとか修二くんとの関係、結構きつかったよね」


 花火大会のこと。修学旅行のこと。クリスマスのプレゼント交換のこと。自分だったらと思うと、胃がキュッと痛くなった。


「やっぱり凄いよ、桐生くん」


 しんどい思いをして、それでも修二くんたちのことを嫌いになってない。一緒にいて疲れるっていうのは本当だけど思うけど、自分がいない方が彼らも楽しく過ごせるなんて、本気で思ってる。


 私だったら絶対にみんなを嫌いになる。私を置いて、みんなで仲良く付き合いだしたんだって。それでも、それを隠してみんなにすがっちゃう。


『私は孤立するのが怖いから本音なんて言えないもん。我慢しとけばみんなと仲良くしていけるって思うから……』


 なんて。


「思い出すと恥ずかしすぎ。なんであんなこと言っちゃったんだろ……」


 枕に再度ダイブ。羞恥心で全身がもぞもぞする。

 普段は本心なんてうまく隠せてるのに。


 でも、桐生くんはあの時、ちゃんと受け止めてくれた。


『孤立した方が楽だって思った俺と、我慢してでもみんなといたいって思ってる神名。考え方が違うってだけだ』


 茶化したりもせず、そう言ってちょっと笑ってた。


「あんな風に笑うんだ、桐生くんって」


 クラスにいる時はわりと無表情なのに、屋上ではすぐに顔に出る。


 驚いた顔。呆れた顔。少し照れた顔。怒った顔。

 その全部が、頭の中に鮮明に浮かんでくる。


「……って、なにニヤけてんの、私」


 自分で自分にツッコミを入れながら、布団をごそごそと被る。

 視界が真っ暗になった分、余計に思考が加速した。


 桐生くん、アニメの話、楽しそうに聞いてくれてた。

 オタクバレした時も、ドン引きされるどころか。


『別にいいだろ。アニメ好きくらい』


 さらっと言ってくれたあの一言で、気持ちが軽くなった。


「……頼るくらい、いいよね?」


 ぽつりと呟いた声は、さっきまでより少しだけ落ち着いていた。


 クラスの友達に本音を言うのは、まだ怖い。『実はアニメオタクなんだ〜!』なんてカミングアウトしたら、今のポジションがどうなるか分かったもんじゃない。


 でも、桐生くんなら大丈夫。一番知られたくなかった部分を知られちゃってるし、今日の感じを見てると、大抵のことなら呆れて許してくれそうではある。


 内緒にしてくれるって、約束もしたし……。


「うん。決めた」


 私はガバッと起き上がって、部屋の中をぐるぐる歩き回る。


「桐生くんにはアニメの話もするし、疲れた時は愚痴る」


 声に出して宣言してみたら、胸の中のモヤモヤが少し晴れた気がした。


 いつもみたいに「相手に合わせて」話すんじゃなくて、桐生くんの前では、本当の私で喋る。それで面倒くさがられたり、距離を置かれたりしたら、その時はその時だ。


 くるっと踵を返して、ベッドに座り込む。机の上に置きっぱなしのスマホに手を伸ばし、ロック画面を眺める。


 連絡先は、まだ知らない。メッセージひとつ送れないのが、もどかしい。


「聞いたら、教えてくれるのかな?」


 ぽそっと呟いた瞬間、心臓がドクン、と跳ねた。


 連絡先を交換する、ってだけなのに、やたらとドキドキする。アニメの中じゃただのワンシーンなのに、現実でやるとなると急にハードルが高い。


「なにビビってんの、神名美来。クラスじゃもっとグイグイ行ってんでしょ。連絡先を聞くぐらいで、なに怖気づいてるの。あんたはやれる子でしょ」


 自分を叱咤して、スマホを握りしめる。


「今度、チャンスがあった聞いてよう。作戦は……」


 あ、でもその前に。


「今日のアニメ、ちゃんと見なきゃ」


 マギウステイルの録画リストを開きながら、私は小さく笑う。


 アニメの感想を誰かと共有したいって初めて思った。

 明日、屋上でモミジちゃんの変身バンクを熱く語ってみよう。


「桐生くん、どんな顔するかな」


 そんなことを考えながら、私は再生ボタンを押す。


 画面の中でモミジちゃんが魔法少女になる返信シーンが流れる。きらきらした光の中で、大人しかった彼女は凛々しくポーズを決める。


 助けを求めるコウヨウちゃんに、普段は大人しい彼女が力強く頷く。


「うん。私も頼っちゃおう。これは決定。どうせバレちゃったし。バレちゃったなら思いっきり突っ走れだ」


 誰に向けた宣言なのか、自分でもよく分からない。

 でも、一度口に出したからには、もう後戻りするつもりはなかった。

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