第3話 幼馴染との距離
「まさか桐生くんって、その幼馴染みグループからハブられて、カナちゃんたちにイジメられてるの!?」
神名の驚き。
外から見てれば、まあそう思われてもおかしくはない。
しかし。
「違うよ。あいつらから距離を取ったのは俺だからな」
「桐生くんから? わざわざひとりになりにいったの? 幼馴染みの友達がいたのに?」
「考えてもみろ。小学校に入る前から仲良かった奴等がいきなり付き合い始めたんだぞ? そいつらと一緒に遊べるか?」
想像したのか、神名は空を見上げた後、苦笑いを浮かべる。
「そ、それはちょっとキツイかも」
「だろ? 中二の夏ごろに付き合い始めたっていきなり言われてな。別によかったんだよ、付き合ってるとかは。好きになっちまったらしょうがねえし。けど、あいつらは俺に気を遣ったんだかなんなんだか、当たり前のように俺を遊びに誘い続けた」
このことを誰かに話すのは初めてのことのせいか。
思い返したらふつふつと怒りが沸いてきた。
「花火大会も修学旅行もクリスマスも、いちいち俺を誘って来やがって……。花火大会の時なんて、千條が手を繋ぎたそうに修二に手をぶつけてるのに修二が俺を見て千條をやんわりなだめたり」
「お、大人なんだね。修二くんって」
「常弘と星村が楽しそうに話しながら歩いてる時、ひとりで後ろを歩いてる俺に気付いた星村が、わざわざゆっくり歩いて3人並んで歩いたり」
「気が回るんだね、ノゾミちゃん」
「クリスマスの時なんて俺だけ4人からプレゼントもらって……。他の奴等は付き合ってる相手からしかもらってねえのに……。なんなら俺は用意すらしてねえ……」
「に、人気者だ! 桐生くんだけプレゼントいっぱいなんて!」
「いらねえよ、そんな気遣い! 心苦しいわ、大量のクリスマスプレゼントに心が押し潰されそうになったわ!」
思わず叫んでしまう。
「俺に気を遣って無駄にするなよ、青春と言う短い時間を! 存分にイチャイチャしろや、学生の恋愛なんてもんはそういうもんだろ! なぁ、神名!」
「そ、そういうものかな?」
「それなのにあいつらはいちいち俺に気を遣って楽しみきれない……。一生に一度しかない今と言う時間は己の為に使えや! 俺みたいなもんなんて捨て置けよ!」
「や、優しいんだね、みんな! うん! みんな優しいんだよ!」
「その優しさが俺を苦しめるんだよ! 俺が気を遣って毎回はぐれても『ヒロトはすぐに迷子になるな!』『やっぱり私達が見てないとダメね』って、違うわ! わざとはぐれてんだわ! はぐれた後に『悪い、スマホの充電が切れそうだから先に帰るわ』って電話して、毎回そんなタイミングよく充電きれねんだよ普通!」
神名は俺の愚痴に、それはきついね、と表情を歪める。
「なんで俺に気を遣って遊ぶくせに、俺が気を遣ってることには気づかないんだよ! おかしいだろ! 気付けや、俺が気まずそうにしてることぐらい!」
「ちょ、ちょっとズレてるのかな?」
「そのくせあいつら俺に相談してくるんだぞ! 千條の気持ちがわからないとか、修二の誕生日になに送れば喜ぶかとか、星村に笑って欲しいとか、常弘に気を遣って欲しくないとか……。なんで相談相手が俺なんだよ、おかしいだろ! 修二と常弘、千條と星村、そこで相談し合えや! 知らねえよ、お前らの淡く儚い青春の悩み事なんて!」
「し、詩的な表現きた! 桐生くんの私的な表現きた!」
「むしろ俺がお前らに相談したいわ。なんで俺を遊びに誘うの? って。恋愛から一番かけ離れてる俺に相談なんかするな!」
「桐生くんが一番みんなのこと理解してたとか?」
「まあ、あいつらが付き合い始める前から俺が聞き役に回ることが多かったけどよ」
それにしても、俺に相談するのは、それにしても過ぎるだろ……。
そのくせ一緒に遊んでる時は俺に気を遣ってきやがるし。
「そんな感じだから俺から言ったんだよ。お前らといると疲れるから、もう一緒に遊びたくないってな」
「納得してくれたの? 聞いてた感じ、そんな風には思えないけど」
「最初は冗談だって受け流されたけどな」
言った時の4人の顔は、今でも鮮明に思い出せる。
目を見開いて、驚いて、最初は冗談だと思ってへらへらしてた。
「だからはっきり言ったんだよ。一緒にいても楽しくない。相談されるのはしんどい。お前らはお前らで楽しく過ごせって。俺はひとりでいる方が気楽だからってな」
中三の夏ごろにそう告げて、その場を去って……。
そして今と言った感じだ。暫くは大人しくしていたが、ここ最近になって、また俺を遊びに誘うようになった。そこに、どういう心境の変化があったのかはわからない。けど、俺はあいつらと一緒に遊ぶつもりはない。
あいつらはあいつらなりの楽しい高校生活を謳歌すればいい。付き合ってる奴等に挟まれて気を遣うのはこりごりだ。俺も俺で、ひとりでまったり高校生活が送れるんだから、それでwin winだろうに。
言い終えて、鞄から水を取り出して一口飲み込む。久しぶりにこんなに喋ったから喉がからだからだ。全く、ひとりぼっちの生活を続けると喉が弱くなって困る。
「気を遣うのも、遣われるのも疲れたんだよ。だから俺はひとりでいんの。それでも修二たちは未だに遊びに誘ってくるけどな。俺なんてほっといて、彼女彼氏を大切にしろって気持ちだよ」
一息ついてから神名の方を見ると、
「わかる、わかるよ、桐生くん……」
こちらに顔をぐいっと寄せて、なぜか涙目になっている神名。
「気を遣ってる相手と一緒にいるの、疲れるよね。顔色窺って、相手の言動に気持ちを合わせて……。わかる、その気持ち凄いわかるよ」
「教室の神名は、まさにそういう感じってわけか」
「そ、そういうことになっちゃうよね……。だから、私は桐生くんが凄いと思う」
神名と視線が合う。
「私は孤立するのが怖いから本音なんて言えないもん。我慢しとけばみんなと仲良くしていけるって思うから……。けど、桐生くんはひとりになってでも本音を伝えたんだね」
「別に凄いことじゃないだろ。孤立した方が楽だって思った俺と、我慢してでもみんなといたいって思ってる神名。考え方が違うってだけだ」
どっちが正しいかなんて、たぶんない。
なんなら両方間違ってる可能性すらある。
「俺から見れば神名が凄いと思うけどな。よく我慢してられるなって思うよ。俺には無理だ」
「え、えへへっ。そうかな?」
いや、まあ。照れられるほど褒めてはないんだけど。
まあいいか。
神名は暫く照れた笑顔を見せた後、ふとこちらを見つめた。
「ねえ、桐生くん。私達、友達にならない?」
「友達に?」
勢いで出て来た言葉なのか、神名は俺が復唱すると、ハッと目を見開いてから、頬を微かに赤らめた。
「お、思いって切り友達っていうよりかは、その……。気楽な友達と言うか、なんていうか……」
「そんな友達の種類はじめて聞いたぞ」
なんとなく言いたいことはわかるけど。
「気楽な友達って言うと、それもそれであれだけど……。なんか、似てる気がするんだよね、私と桐生くん」
「似てないだろ。むしろ真逆だ。孤立を選んだ俺と、関係性を選んでる神名」
「そこはそうなんだけど! 別のところは同じって感じがするんだよね」
「なんだよ、別のところって」
「それはねえ……」
神名は暫く俺の顔を見ながら考えて。
「同じアニメが好きってところ」
人懐っこい笑みを浮かべて、そんなことを言う。
「それはちょっと浅すぎんだろ。もうちょっとマシな共通点ないのか?」
「いいの! それに、私にはもう一緒にいてくれる人、桐生くんしかいないんだから!」
「んなことないだろ。今まで通り友達と一緒にいればいい」
「それは無理。あの子たち、アニメとかそういうの嫌いだから」
「なら大丈夫だろ。神名がアニメ好きだって知られることないんだから」
「へっ?」
呆気にとられたように、神名が目を丸くする。
「言わねえよ、別に。神名がアニメ好きってことも、一緒にいるの疲れるって思ってることも」
「ほ、本当に!?」
「むしろなんで言うと思ってんだ。言ったところで俺にメリットなんてないだろ」
「それは、まあ、そうだけど……」
神名はそう言った後。
「はっ! まさか言いふらさないことを条件に、私にえっちな事をするつもりだね! 桐生くんのえっち!」
「んなことしねえよ。エロ同人の見過ぎだ」
「そこでそういう反応するってことは、桐生くんもそういうの読んでるんだ」
「桐生くんもってことは、神名も読んでるってことになるが?」
微かな沈黙。睨みあい。
「ふふっ」
「はっ」
お互い、同じタイミングで破顔する。
「桐生くん、本当に内緒にしてくれるんだよね?」
「ああ。それも無条件で内緒にしてやる」
「そっか……。じゃあ桐生くん、指切りしよう!」
そう言って、神名は小指を立てた手を差し出してくる。
だが、それを見て俺は。
「断る。俺、そういうの無理なタイプなんだ」
「あー! まさか桐生くんって冷笑系ってやつだ!」
「今時ゆびきりなんて恥ずかしくてできねえよ。そういう神名はアニメかなんかに憧れてしたいだけなんじゃないか?」
「そ、それは……。そうだけど、なにか悪い!? 女の子はこういうの好きなの! 憧れるの! やってみたいものなの!」
「残念ながら、冷笑系の俺とは相性が悪いタイプように見える」
「うっわ、だっさい! 桐生くんださい! そういうの高二病っていうんだよ!」
「ちょうどいいな。俺はいま高二だし、間違ってない」
「き、桐生くんて意地悪さんなんだ! ちょっと勘違いしてたかも!」
「今の今まで俺の苗字も知らなかった奴になに言われても気にしねえよ」
くぅ~、と顔を真っ赤にしてわかりやすく怒る神名。
素直で表情に出る奴が、よく教室で明るいキャラを演じられると不思議に思う。
悔しそうにこちらを睨み続けて来る神名に。
「安心しろ。誰にも言わないって約束は守る」
「友達になってくれる件は?」
「それは」
俺は少しだけ考えて。
「俺はよく屋上にいるから。愚痴ぐらいなら聞いてやるよ」
「むぅー……。やっぱり桐生くん、冷笑系だ」
「あんまその冷笑系って言うのもやめてくれ? ちょっと恥かしくなってくるから」
自称しといてあれだが、えばって言うキャラでもないという事はわかってる。
神名は暫く頬を膨らませて俺を睨みつけた後。
「……そうだね。でも、始まりはこんなもんかもね」
言って、神名は立ち上がった。
「じゃあ桐生くん、これからよろしくね。この際だから、いっぱいアニメの話しとかしちゃうんだから!」
こちらを見て、そう微笑む神名。
「あまりはしゃぐとバレるから。ほどほどにな」
彼女の笑顔が眩しくて。
そうすかしてしまう俺は、やっぱり冷笑系なのかも知れない。




