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クラスで人気者の明るい彼女は屋上ではオタクを楽しむ -クラスの盛り上げ役が、俺の隣でだけ素になる話-  作者: すなぎも


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第24話 救世主

 ホームルーム前の教室は静かだ。机の上に教科書を出しているやつが数人と、スマホをいじってるやつが数人。あとは窓の外をぼんやり眺めている俺、という構図だ。


 いつも通りなにもせず時間が過ぎるのを待っていると、廊下の方から賑やかな声が近づいてきた。


「おはよー、おはよー! みんなおはよー!」


 女子特有の高さのある声。もはや聞き慣れたトーンと言っていいだろう。


「おはよー!」


 扉が開いて、勢いよく教室に入って来たのは神名だ。


 いつものこと。なのに、今日はなぜか、神名の視線がこちらに向いた。


 目が合った、ほんの一瞬だけ。

 教室の奥に席がある俺とは普段は決して合わない視線が。


 神名はすぐにいつもの笑顔に戻って、仲良しグループの方へ歩いていく。


「マミ、おはよ!」


「おはよ。今日も元気だね」


 明るい声。

 周りの空気を勝手に賑やかにしていく、いつもの神名だ。


「……なんか変だな」


 微妙な違和感。

 それはどこから来ているものか?


 考えても答えは出ない。とすると俺の気のせいか。


「おはよー! はい、おはよ」


 ふと気づく。神名が自分の席に座らない。教卓の前を通り過ぎて、窓側の列を回って、後ろの方を通って。すれ違う生徒達に「おはよー」と声を掛けながら、教室の中をうろついている。


 別に不自然じゃない。神名は誰とでも喋るし、教室の空気を明るく作り上げるタイプだ。


 それでも、いつもあんなうるろしてたか? と疑問が残る。俺が今まで神名を意識してこなかったかも知れないが、あんなうろちょろしていた姿は見たことがない。それに、妙に落ち着きがないように見えるのは気のせいか。


 瞳だけで彼女の動きを追いかけていると、クラスの真ん中あたり、自分の席の前で一度、立ち止まり、小さく息を吸い込むのが見えた。


 胸の前でぎゅっと指先を握りしめ、こちらを見る。


 そして、歩き出した。


「……マジかよ」


 顔が強張っている。咄嗟に視線を逸らしたが、神名がこちらを見ていることは明白で、進行方向は間違いなく俺の席。


 まさか教室で話しかけてくる気か?


 昨日の公園でのやり取りが頭をよぎる。


『俺は別にいいけどな。神名が教室で喋りかけて来ても』


 確かにそうは言ったが……、まずったな。


 夜の公園で女子と2人きりで会う。それも教室では決して見せない、緩い感じの姿。そんな雰囲気にあてられて、それらしいことを言ってしまった。すぐに訂正の言葉を伝えた気がするが、聞こえていなかったのか。もっと強く言っとけばよかった。


 ただの挨拶ならいい。だが、今の、顔を強張らせて身体をガチガチに固めた神名が、教室の神名美来を演じられるとは思えない。俺が返事をしたところで、どんな行動にでるか予想もつかない。


 もしそれを、花柳になんて気付かれたら終わりだ。


 そんな俺の心配をよそに、神名が一歩、また一歩と近づいてくる。


 あと数歩。声を出せば俺に喋りかけてるとわかる距離。

 神名が口を開いた瞬間。


「おはよ、ヒロト」


 目の前に会わられたのはさわやかな笑顔。

 椅子を引きながら俺の前の席に座ったのは修二だ。


「お、おう」


「なんだよその顔。オレに挨拶されるのがそんなに意外か?」


「いや……。そうだな、意外だよ。いつも声かけて来るの放課後だけだっただろ?」


「そういやそうだったな。けど、常弘から聞いたからさ」


「なにをだよ」


「カナとノゾミがいなけりゃ普通に話してくれるって。だから、ヒロトと楽しむなら今のうちだ」


 修二が目を細めて教室を見渡す。

 まだ千條と星村は教室に来てないようだ。


「悪いことしてるみたいに言うな。お前らの関係性に挟まれるのが嫌なだけで、千條と星村を嫌いになったわけじゃないからな」


「知ってる知ってる。別々だったら相手してくれるってことだろ? だったら少し喋ってくれよ」


 人懐っこい笑みを浮かべて喋りかけて来る修二。

 俺と喋れるってだけで、なにをそんなに嬉しそうにしてるんだ、こいつは。


 ため息を吐いたところで、あと一歩のところで足を止めた神名と目が合った。


 一瞬だけ、表情が揺れる。

 驚いたような。困ったような。少しだけ、悲しそうな。

 その全部が混ざったような顔。


 だが、すぐにいつもの笑顔に戻った。


「おはよー!」


 何事もなかったみたいな声で、近くの女子に向かって挨拶を飛ばす。さっきまでこっちに向かっていた足をくるっと方向転換して、自分の席へ戻っていった。


 ホッと一息を吐いて安堵する。


「なんだよため息なんか吐いて」


「ため息じゃねえよ。……ありがとな、修二。助かったよ」


「はぁ? どうした急に。オレはなにもしてないぞ?」


「いいんだよ。……そんなことより、彼女が来たぞ」


 教室に千條が入って来るのが見える。


「やべっ。じゃあまたな」


 そう言って自分の席に戻っていく修二。

 最後にこっちを振り向いてウィンクしてくるが、そういうのはいらない。


 とはいえ、ここは修二に助けられたか。


 スマホを手に持ち画面を見るふりをして、横目で神名を見る。


 いつもと変わらない。明るい笑顔を浮かべ、仲良しグループの中心で何気ない会話をしている。


「せめてその感じで挨拶してればな」


 俺にだけ態度が違う、というのが教室でも出てしまうというのは厄介なことだ。


 なんでこんなことをしたのか、1度話し合う必要があるな。


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