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クラスで人気者の明るい彼女は屋上ではオタクを楽しむ -クラスの盛り上げ役が、俺の隣でだけ素になる話-  作者: すなぎも


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第22話 夜の公園と漏れる軽口

 久し振りにママチャリ使った感想は、意外と気持ちいい。いい運動にもなるし、通学を電車から自転車に変えようか少し悩むレベルだ。ギシギシ鳴るペダルを踏みながら、神名から送られてきた場所へと急行する。


「ここらへんか?」


 住宅街の中にぽつんとある小さい公園。幾つかの街灯と自販機が1台。ブランコと滑り台、サビかけた鉄棒が並んでいるだけの公園。


 夜21時前。子どもの姿は当然なく、遠目で見ると少し不気味だ。自転車に乗ったまま公園に突入し、ベンチに座っている人影を見つける。


 ジャージにスニーカー。奇麗な髪は後ろで1本に結ばれていて、普段はしていない赤いフレームの眼鏡をかけていた。ぱっと見は部活帰りの地味目な女子高生。


「神名か?」


「あっ、桐生くん。こんばんわ」


 こっちを向いて、笑顔を浮かべる。いつものきらきらしたメイクではなく、肌の感じも普段より自然だ。学校のときとは雰囲気が違う幼い顔を、どこかで見覚えがある気がして……。


「すっぴんか?」


「ナチュラルメイクですー!」


 食い気味で否定された。


「桐生くんに会うからって、わざわざし直したんだからね」


「別にしなくてもいいだろ。俺としか会わないんだから」


「そんなこと言って。こっちの気も知らないで……」


 ぶつぶつ文句を言いながら、なぜかジト目で睨まれる。


「桐生くんの方こそラフだね」


 神名がじろりと俺を見てくる。


「上下学校指定のジャージって。中学生じゃないんだから?」


「チャリで来たんだからこれがベストだろ」


「それはそうかも」


「それに、神名だってジャージだろ」


「私のは学校のじゃなくて、自分のジャージだもんっ!」


 くすっと笑って、神名はベンチの隣をぽんぽんと叩く。


「ほら、座って」


 言われるままに隣に腰を下ろすと、ペットボトルを押し付けられた。


「はい。おつかれ様の1本」


「金は?」


「お礼の1本だよ」


「ありがとさん」


 キャップを開けて一口飲むと、冷たさが喉を静かに通り抜けていく。


「今日は付き合ってくれてありがとね」


 隣から、少し真面目な声。


「ただ付いてっただけだ。大したことじゃない」


「私からしたら大したことだよ。説明必要?」


 神名はそう言って、ふふっと笑う。

 教室で見かける笑顔より柔らかく見えるのはメイクのせいか。


「でさでさ!」


 急に身を乗り出してきた。


「うららちゃんマジで可愛かったよね!? 私、見た瞬間泣いちゃって。でもうららちゃんが慰めてくれたんだ……。泣き止むまでずっと優しい言葉かけてくれてて、配信だと割と塩対応なのに! 2回目なんかは」


「ちょっと待て」


 思わず割り込む。


「まさか今から感想戦する気か? 日付変わるぞ」


「だ、だよね……」


 神名が肩を落とす。


「だって聞いて欲しいこと多すぎるんだもん! 女の子私だけだったから凄い喜んでくれて! 服とかメイクのことめちゃくちゃ褒めてくれて!」


「その話は後で聞いてやるから」


「絶対? 絶対だよ! 約束だからね! 話す前に私が死んじゃったら枕元に立つからね!」


「もはや怨念と化してるじゃねえか、それは……」


 この熱意で話されるのは少し疲れるかも知れん。やっぱり撤回……、なんて言えるわけもない。隣で目を輝かせている神名を見たら。


「約束するから今は落ち着け」


「了解しました。今日は我慢しておきます」


「そうしてくれると助かるよ」


「じゃあ次は本題。マミの話、ちゃんと教えて」


 さっきまでの浮かれた顔が、真剣な表情に変わる。


「さっき電話で聞いたけど、改めてちゃんと」


「ああ」


 ペットボトルをもう一口飲んでから、公園の真ん中あたりを見る。


「まず、あいつが会場にいた理由だけど。隣のショッピングモールで父親と買い物に来てたらしい」


「パパと?」


「親が知り合いに捕まって、話が長くなりそうだったからひとりでぶらぶらしてたらしい。それで、賑やかだからってイベント会場に来たってさ」


「じゃあ、ほんとにたまたま来ただけなんだ」


「ああ。なんのイベントかもわかってなかったからな」


「なにそれ、凄いマミっぽい」


 神名が苦笑いを浮かべる。


「マミ、賑やかなとこが好きだから。ディズニーとか夏フェスとか。好きなジャンルじゃなくても盛り上がりそうなイベントだったら行くタイプだし」


 目に浮かぶように言う神名。


「入場は無料だったから、人だかりに釣られて来たんだろうね」


「納得したか?」


「うん、凄い納得。実はVtuber好きでした、なんていうやつより全然納得感ある。っていうか絶対にそうだし。それで」


 神名がこちらを覗き込むようにしてくる。


「大丈夫だった? 変なこと言われたり、無理やり連れ回されたりしてない?」


「それは大丈夫だ。ちょっと質問攻めに遭っただけで、特に被害はない」


「質問攻め……」


 神名の眉がぴくっと動く。


「なに聞かれたの?」


「なんでここにいるのかとか。絵のこと好きなのとか。誰と来てるのかとか。そういうことだよ」


「それで、なんて?」


 不安そうに聞いて来る神名に。


「下手に嘘ついてボロ出すのも嫌だからな。クレープ屋の時の奴とは別の友達と来てるって答えといた」


「納得してた?」


「ああ。今回は男友達と来てるって、そこは嘘ついといた」


「ナイス! えらい!」


 小さく拍手される。


「ただ、クレープ屋で見られただろ? そっちは付き合ってるのかしつこく聞かれた」


「それは……。誤魔化せた?」


「どうだかな。付き合ってないって否定はしといたけど、今度見かけた時は彼女の顔を見せてもらうって言われたよ」


「うわ〜、マミっぽい〜」


 神名が頭を抱えた。


「っていうか完全に彼女として話し進めてきてるじゃん、それ」


「ちゃんと違うって言ったんだけどな」


「まあ、マミっぽいって言ったらそれまでなんだけど……」


 神名は、やれやれ、と首を横に振る。


「自分のこと神出鬼没とか言ってたぞ」


「あー……。凄い言いそう」


 神名が遠い目になる。


「マミね、恋愛の話するとどっからでも湧いてくるんだよ。それでそれで? って。噂とか恋バナの匂い嗅ぎつけると瞬間移動してくるの」


「なにそれ。超能力者かなんかなの?」


「わからないけどそういうレベル。でも、マミを釣るために嘘の恋愛話しすると出てこないんだよね。ほんとそれが不思議でさ。マミに聞いてもはぐらかされるし」


 う~ん、と悩んではいるが、どこか楽しそうに笑う神名。なんだかんだで仲良くやってるんだろうな、というのが伝わってくる。


 っていうか聞いてもはぐらかされるんかい。意外にお茶目なところあんのかな? 花柳の奴も。それか本当に超能力者かのどっちかだ。


「っと、マミのことは置いといて」


 神名がペットボトルをベンチの横に置いた。


「マミの件、誤魔化せてくれてありがとう。マミにバレてたら、その瞬間で私の高校生活終わりだろうし……」


「ひとりぼっちの生活が始まるか?」


「うん。間違いなく」


 即答だ。


 花柳を見てた感じ、そこまでVtuberだったりイラストだったりに嫌悪感を抱いてるように見えなかったけど。それは相手がどうでもいい俺だったからか。


「それに、桐生くんにも迷惑かけちゃうから」


「俺に?」


「うん。ハブられた神名と一緒にいる桐生って奴はなんだ! なんなんだあいつらは! 付き合ってるのか! って絶対になるよ」


「騒ぎになるのはちょっとめんどうか? ってか仲間外れにされたら俺と表立って仲良くするのかよ」


「それはそうだよ! 私ひとりじゃ耐えられないもん! そこは桐生くんにしっかり私を支えてもらわないと!」


「俺を心配してくれてるんだかどうなんだかわからねえ行動だな」


「私も私で大切にしたい。桐生くんも桐生くんで大切にしたい」


「我儘な奴だな」


「そうだよ、私は我儘なんだよ。今更気付いたの?」


「……いや、思ってみると我儘か」


 屋上に来いって誘いが強引だったり、クレープ屋に誘われたりイベントに行ったり。なんならいま会ってるのも神名のお願いだからな。


 それを我儘だと思ってなかったのは、俺も満更でもなかったからか。


「なら、バレないようにしないとな。神名のオタ活も、俺との関係性も」


「うん、そうだね。お互いのために」


「まあでも」


 神名の言葉に被せるように口を開き。


「俺は別にいいけどな。神名が教室で喋りかけて来ても」


 言った瞬間、隣の気配がぴたりと止まった。


「えっ?」


 小さく漏れた声に振り向くと、神名が目を丸くしていた。


 驚きか、それでもどこか嬉しそうで。それでいて、どう反応していいか分からないみたいに視線はこっちを見たり、足元を彷徨ったり忙しい。


「……なんてな」


 軽く息を吐く。


「バレないにこしたことはないから、これからも今まで通りで頼むぞ」


「あ、う、うん……」


 神名がよく分かってなさそうな返事をする。

 その表情がおかしくて、立ち上がってごまかすように伸びをした。


「そろそろ帰るわ。あんま遅くなると、神名も心配されるだろ?」


「あっ、そうだね」


 ママチャリに跨ぎ、ペダルに足をかけたところで。


「ね、ねえ。桐生くん」


 振り返ると、さっきよりもさらに困った顔になっている。


「さっきの、その……。教室で喋りかけてもって、あれ……」


 言葉を選んでるうちに声が細くなっていく。

 その様子が、なんとなく照れくさくて。


「バレた時の話しだ。そうならないように今日、花柳の事を報告したんだろ?」


「う、うん。そうだよね。わかってるけど」


「あんま深く考えんな」


 わざとそっけなく返す。


「今日は疲れただろ? ゆっくり寝ろよ」


 それだけ言ってライトのスイッチを入れた。神名がなにか言いかけて飲み込む気配がする。それに気づかない振りをして、ペダルを踏み込んだ。


 ゆっくりとチャリが進み出す。


 ポケットの中のスマホが震えた気がしたが、気のせいか。

 どちらにしても、運転中に見るのは危険だ。

 俺は夜の景色を楽しみながら、一直線に自宅へと進んだ。


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