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クラスで人気者の明るい彼女は屋上ではオタクを楽しむ -クラスの盛り上げ役が、俺の隣でだけ素になる話-  作者: すなぎも


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第18話 イベント前のナンパ

 イベント会場がかなり大きい建物。とは言え参加するイベントはこの会場の一角を使って行われるもの。数十名のVtuberが集まり企画したらしい。


 現地集合。場所は会場の隣にあるショッピングモールの前。

 到着したところでぐるりと周りを見回すと。


「あれか」


 いた。

 柱の前。キャップもマスクもしてない、普通の神名美来。


 白ニットに黒いスカートとショートブーツ。

 制服姿とは雰囲気が違う彼女が、知らない男2人に絡まれていた。


「ねえねえ、これからヒマ?」


「ちょっとだけ話そうよ。すぐ近くでカフェあるし」


 柱に追い詰められている神名は苦笑いっぽい表情を浮かべている。

 目だけが、助けを求めるように周りを彷徨って、俺と目が合う。


「あっ、桐生くん!」


 男の間をすり抜けて駆け寄って来た神名が、がしっと俺の腕を掴んでくる。

 幾らナンパされてたとは言え、そこまでする必要はないと思うけど。


「遅いよ! 待ちくたびれちゃった!」


「まだ時間には早いだろ」


「そういう話しじゃないの!」


「じゃあどういう話し?」


 首を傾げる俺に、呆れた様子の神名。

 それを見た2人組が露骨に顔をしかめる。


「え、彼氏いたん?」


「早く言ってよ〜」


 言いながらも、視線は俺の顔と神名の腕のあたりを交互に行ったり来たりしている。こっちを値踏みするみたいな目線はあまり気分のいいものじゃない。


「すいませんね」


 適当に挨拶をすると、「チッ」と舌打ちしてその場を去っていく。

 それを見て、腕を掴んでいた神名の力が少しだけ緩む。


「大丈夫か?」


 聞くと、神名は「あはは」と苦笑いを浮かべた。


「また助けられちゃったね。……大丈夫、大丈夫。慣れてるから」


「よくされるのか?」


「マミたちと一緒にいるとね。声かけることは多いかな」


 そう言って神名は肩をすくめる。


「私はまともに対応したことないんだけど。だからあんまりひとりで行動したくないんだけどね」


「人気者は大変だな」


「人気者でいるのは学校内だけで充分だよ。それでも疲れるのに……。って、そんなことはどうでもいいの!」


 声のトーンが一段上がる。


「朧狐うららちゃんのイベントだよ! 推しが目の前で喋ってくれる日がついに来たんだから、ナンパとかどうでもいいことでテンション下げてる場合じゃないの! 早く行こ!」


「そうだな」


 自分で気持ちを切り替えられるなら、俺から言うことはない。


 神名は腕を離して、くるっと前を向き直る。ナンパされていた時のしおらしさはどこへ行ったのか、会場へと足早に進んで入場を済ませる。


 大きめのイベントホールの中は、すでにそこそこの人混みだ。いかにもオタクイベントって感じのパーカーやTシャツ、痛バッグ、推しの名前が入ったタオル。割と神名が写真で見せて来た第三案、推しグッズをバリバリ身に纏った人が多いようだ。


 パンフレットを片手に歩き回る人たちの間を縫うように進んでいくと、ひときわポップな看板が目に入った。


『Vtuberトークエリア 一対一トークブース』


 目的の場所。


 複数の小部屋が仮設で作られ、その前にはいくつもの列が出来ている。最後尾にはVtuberのパネルが展示されており、どこに並べばいいかというのは一目瞭然だ。


「ここだよ桐生くん! うららちゃん!」


「見ればわかるよ」


 狐耳と尻尾を生やした女の子のイラストが、満面の笑みでこちらを指差している。


「これ持って帰ったら怒られるかな?」


「当たり前だろ。普通に犯罪だからやめろ」


「この衣装は三か月前の二周年で新しく作り直してもらった新しい立ち絵だよ。初期の立ち絵と少し雰囲気が凛々しくなってるところがポイントだね」


「いいから列を確認しろ。話はそれからだ」


「あ、そうだった」


 視線を移すと、パーティションで区切られた通路に、数人ほどの列。他のところを見ると、それより並んでいたり、それよりも少なかったまちまちだ。


 当日券が余ってるらしいから、空いてる方なのかも知れないけど。


「桐生くん。最後尾の人に、ここで大丈夫か確認して」


「自分でやれよ」


「無理に決まってるでしょ! そんなの出来たら苦労しないよ!」


「わかってるけど」


「いちいち意地悪しないでよ! 特に今日は!」


 パーテーションを進み。


「すいません。ここって朧狐うららちゃんの列で会ってますか?」


「あっ、はい。そうですよ」


「ありがとうございます」


 軽いやり取りを終えて、後ろで待っていた神名を手招きして呼び寄せる。


「始まってる、始まってるよ、桐生くん!」


 神名が小声で弾んだように言う。


 ブースの中からは微かに女の子の声が聞こえてくる。外に置かれたモニターは配信されているらしく、狐耳の少女が笑顔で喋っている。さすがに音声は切られているようだが、画面を見ていればだいたい流れが把握できる。


「やばくない? うららちゃんと1対1で話せるんだよ? 意味わからんない」


 隣で神名が両手をぎゅっと握りしめながらブツブツ言っている。

 その頬が、うっすら赤い。

 緊張と興奮でテンションがおかしくなっているのは明白だ。


「落ち着け。まだ時間はあるぞ」


「落ち着けるわけないじゃん! 朧狐うららちゃんってさ!」


 そこから、神名の早口説明が始まった。


 耐久配信での神回の話。初配信で噛み倒して泣いていた話。収益化記念枠で配信が何度も落ちた話し。配信を切り忘れてそのまま寝落ちした話し。


 興奮する声は周囲にも聞こえており、ちらちらと視線を向けられる。

 注目されてるのは、声の大きさだけじゃないんだろうけど。


 白ニットに短いスカート。若い女の子がきらきらした目でオタク語りをしていれば、そりゃ嫌でも目立つ。この規模の人数だと、リスナー同士でも認知してあってそうだしな。


「誰だろう?」


「わからん。リスナーの名前は把握してるけど予想がつかない」


 そんな会話が聞こえてくる。


 しかし、テンション爆上がりしている本人はそんなことに一切気付いていなさそうだ。


「でね、そのときうららちゃんが半目の状態で固まっちゃって。みんなにいじられていじけて配信閉じちゃったんだよ!」


「神名の番でそうならないといいな」


「やめてそういうこと言うの!? ただでさえ緊張してるのに!」


 軽く脅すと、神名は本気で肩を震わせる。


「だ、大丈夫かな? ちゃんと喋れるかな?」


「台本まで書いたんだから大丈夫だろ。読み直しとけよ」


「頭には入ってる! けど、会った時に頭真っ白になっちゃうそうで不安だよー!」


「5回あるんだ。1回ぐらいそんなのがあったっていいだろ」


「5回しかないの! それに、1回目でそんなのがあったら精神崩壊してもう会えなくなっちゃうかも知れないでしょ!」


「その時は俺が残りの4回しゃべってやるから安心しろ」


「嬉しくないよそのフォロー!」


 緊張しているようだが、よく口は回ってる。

 あとは、対面した時にどうなるかだな。


 列は少しずつ進んでいく。

 スタッフが前の人たちに何か説明をしている声が微かに聞こえた。


「お1人様1分程度の会話になります。立ち位置はこちらの線まで。カメラの前でお話しください。写真を撮りたい方はカメラを予め起動させておくとスムーズにいきますよ」


 そんな感じの注意事項だ。


「あ、やばっ。ちょっと待って、服ヨレてない? 髪型くずれてない? 鼻とか光ってない?」


「大丈夫。いつも通りだ」


「いつも通りってなに!? ちゃんとしてきたのに!」


「いつもちゃんとしてるから大丈夫って意味だよ」


 騒がしい。

 が、なんだかんだで楽しそうだ。


 やがて、神名の前の客がブースから出てきた。

 スタッフがこちらを向いて、にこやかに頭を下げる。


「次のお客様、どうぞ〜」


「き、桐生くん! 行ってきます!」


 敬礼をした後、神名はブースの中へ消えていった。


 あいつは戦場にでも行くつもりなのか?

 なんて笑いをこらえていると、中から明るい声が聞こえてくる。


 俺の役目は、ここまでだ。


 あとは神名が推しと1分間きゃっきゃしてくるのを外から眺めて、終わったら感想戦に付き合って帰る。そのつもりで、列からそっと外れようとした。


 その時だった。


「あ、すみません、お客様」


 出入り口のスタッフに声を掛けられる。


「はい。恐れ入ります、チケットの確認をさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「チケット?」


「はい。入場にはチケットが必要なので」


 どうやら俺は参加者として扱われているらしい。


「ああ、俺は付き添いで来ただけなんで」


「こちらの列は、会話ブースに入られるお客様専用になっておりますので。お連れ様もご利用でなければ、本来は別の場所でお待ちいただく形になるんですが」


「あっ、そうなんですか?」


「ただ、今回はすぐにご案内できますし、時間もあります。もしよろしければ当日チケットのご購入も可能ですけど。せっかくここまでお並びいただきましたし」


 にこやか笑顔。

 買っていけという圧を感じる。


 周りを見れば、後ろには数人の客が並んでいた。

 今ここで「いりません」と言って逆走するのもなかなかの勇気がいる。


 差し出されたタブレット画面には、当日券1対1トーク2000円の文字。


 安い金額じゃないけど、これも経験として悪くないか。


「じゃあせっかくなので」


「ありがとうございます〜! では、こちらにお名前をご入力ください」


 タブレットを受け取って、適当にハンドルネームを入れる。

 支払いを済ませた頃合いで、ブースの中から神名が出てきた。

 顔を真っ赤にして、半分魂が抜けたみたいな表情でふらふらしている。


「き、桐生くん……。私、死んでもいいかもしれない……」


「死んだら推しが悲しむぞ」


「それはなくない!」


 ハッと正気に戻った神名を見届けてから。


「では、次のお客様、どうぞ〜」


 なんで俺が……。とは思うが、せっかくなら楽しんだ方がいい。

 気持ちを切り替えて、俺はブースの中へ足を踏み入れた。


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