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クラスで人気者の明るい彼女は屋上ではオタクを楽しむ -クラスの盛り上げ役が、俺の隣でだけ素になる話-  作者: すなぎも


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第12話 偽物じゃない方の神名さん

 女子トイレが見える角に身を潜め、人の流れが切れたところで短く送る。


俺:着いた。屋上階段側の角にいる


 数秒後、神名がそろりと顔を覗かせた。左右をすばやく確認し、俺を見ると逃げるみたいに駆け寄って来た。


 目の縁が赤く、涙目になっている。

 よほど言い寄られたのが怖かったのか。


「……ごめん。来てくれて、ありがと」


「話は後だ。ここだと目立つ。上いくぞ。歩けるか」


「うん。ぎりぎり」


 視線を避けるように廊下を進んで屋上へ。


 ベンチに腰を下ろすと、神名は両手を膝の上で握りしめた。

 堪えようとしている震えが、腕にまで伝わり微かに肩が揺れている。


「手、繋いでくれる? 震え、止めたいから」


 真正面から言われて、言葉が詰まるが。


「それは無理だ。さすがに恥ずかしい」


「そっか……。うん、そっか。そうだよね。そう言ってもらえてよかった」


 神名はこちらを見上げて小さく笑う。


「代わりに肩を貸してやろう。掴んでいいぞ」


「なにそれ? どういう状況?」


「恥ずかしいから向かい合うのもなしだ。背中も貸してやる」


 神名に背を向け。


「いいぞ」


「……変なの。ぜんぜんロマンティックじゃない」


 文句を言いつつも、神名の手が、ぐっと俺の肩を掴んだ。指が食い込む。震えが肩越しに伝わってくる。


 しばらく何も言わず、呼吸だけが耳の後ろで上下する。


「……怖かった。言葉は乱暴じゃないけど無理やり近付いてくるの、ほんと無理。お試しで付き合うってなに? 付き合うってそんな軽いことなの?」


 怒りが溢れて来たのか、ぐぐっと指先に力が込められた。


「なんで断ってるのに食い下がって来るの? 無理って言ったら無理でしょ? 付き合わないって言ったら付き合わないって。そんなの誰でもわかるでしょ?」


 肩が握力から解放されると、ぽんぽん、と背中が平手でたたかれた。痛くはないが、どこかその手は重みを感じる。


「ああもう! あんたが私を好きかしらないけど、私は好きじゃないの! だったら付き合うわけないじゃん! それでもお試しで付き合おうってバカなんじゃないの! そんな意味不明な相手に連絡先教えるわけないじゃん! バーカ。バーカ!」


 背中を叩く平手がいつの間にか握られ拳になる。音がドスドスと変化し、少しずつ痛みを感じるようになってきた。


「この背中っ、なんでこんなにっ、頼りになるのっ! 電話もっ、いいタイミングだったよっ、ありがとねっ!」


 最後にどすっ! と音が鳴る。


「怒ってんのかお礼いってんのか。どっちなんだよ」 


「どっちも! アイツには怒ってるけど、桐生くんには感謝してるの!」


 アイツ呼ばわりしているあたり、かなり怒っているようだ。


 さすがに背中も痛くなってきたので、座り直して正面を向く。

 頬を赤くし、膨らませているところを見ると、まだ怒りは続いているようだが。


「落ち着いたか?」


 あえて聞く。


「うん。だいぶ落ち着いた」


「じゃあ一回、深呼吸を入れとくか。すぅー……」


 俺が息を吸い込むのを見て、神名も同じように息を吸い込む。


 そのまま暫く青空を見つめた後。


「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー………」」


 息を吐ききる。


「ちょっとはすっきりしたか?」


「んー……。うん。これなら切り替えられそうかな」


 ふぅ、と手足を伸ばしてリラックスした様子。


「大変だな。けっこう告白されてるんだろ?」


「周りに興味がなさそうな桐生くんに知られるなんて、私も有名になったね」


 たはは、と嬉しくなさそうに笑う神名。


「教室の私は可愛いから、しょうがないよ」


 強がりっぽく胸を張ったあと、神名はベンチの上で膝を抱え、顎をのせた。

 視線が靴先に落ちる。


「でも、あんな感じのは初めて。本当に怖かった」


「それぐらい神名が魅力的な女の子だったってことか?」


「ぜーんぶ偽者だけどね。本当の私はみんなが思ってる神名美来じゃない。家にいるときなんて可愛くもないし、明るくもない。こういう風に膝を抱えて、薄暗い部屋の隅っこでアニメを見ているただの女の子」


「わざわざ部屋の隅に行く必要はないだろ」


「狭い場所って落ち着かない?」


「気持ちはわかる」


 自分の部屋では隅に行かないけどな。


「まあでも、今日の神名を見て思ったよ、凄い頑張ってるってな。朝修二に声かけてた時も、花瓶の時も。うまく立ち回ってたもんな。しつこく告られるのも納得だ」


「……褒め方が直球だね。今日の桐生くんは素直なんだ」


「自称冷笑系の俺も、泣いてる奴にぐらい優しい言葉もかけたくなる」


「それは……。それでも、嬉しいけどね」


 えへへ、と照れるように笑う神名。


「それが頑張ってる奴なら尚更な」


「やめて、泣きそうになるからっ」


 目をつぶって何かを耐えた後、頭を振って考えを振り払った。


「でも本当の私は、文句が多くて、皮肉を言って、体力なくて、ドジなんだよ。気に入らないことがあると『はぁ?』って言うし、影で岡田くんのことも『アイツ』呼びする。教室の私とはぜんぜん違う」


「そうだな。アニメのネタバレしてくるし、八つ当たりしてくるし、誘いは遠回しでしつこいし、ひとりで行動できないし、金欠なのにランダムグッズ諦めないし、食べきれないのにグッズ目当てで注文するし」


「桐生くん、それはちょっ素直すぎじゃない? 今は私を慰めるターンだよ?」


「部屋は極度のオタク部屋だし」


「それは悪口じゃないね」


「それを悪いところだって自覚してないし」


「酷い言いよう……。本当のことなんだけど」


 神名は大きなため息を吐く。


「桐生くんが言ったとおり、私はそういう子なんです。だから、誰に何回告白されてもOKなんてだせるわけないんです。みんなが知ってる私は本当の私じゃないんだから」


「ギャップ萌えの可能性は?」


「ないでしょ。蛙化する未来しか私には見えないよ」


「そんなもんか。……俺は今の神名の方が好きだけどな」


「なっ……」


 神名はこちらを見て、頬を朱色に染めた後、ぷいっと顔を逸らす。


「そ、そういうこと、いま言う?」


「素直な感想だ」


「絶対に教室にいた方の私の方が可愛いと思うけど」


「そうか? カフェで騒いでた時の方が年相応だろ」


「年相応って……。見方がちょっとおじさん目線じゃない?」


「神名に対しては保護者的な目線にはなってるかも知れないな」


「桐生くんが? 私の? またまた、ご冗談を。私と桐生くん、同じぐらいの愚かさでしょ」


「俺が愚かだったことなんて一度たりともなかっただろ」


「そうかな? ……いや、そうかも。桐生くんぼっちなだけで意外とまともだ」


「地味に失礼なこと言ってるからな? それ」


 その発言がもはや神名っぽいんだけどな。

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