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異世界召喚で杖になった俺は、魔女の弟子と共に魔女の仇を取る  作者: 月ノ裏常夜


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9.川原にて

レイラの言葉通り、川辺に出るまでにそう時間はかからなかった。

街道を横切るように川があり、それを跨るように橋が架かっている。

レイラは橋を渡らずに道を横に外れ、川辺まで足を運ぶ。

幸いにもまだ日は上っており、川の水も透き通っている。これならば川の水面で自分の姿を確認することができるだろう。


「これでいい?」

川の水面に向かって俺をかざす。

「ああ」

水面に映った自分の姿を見る。

レイラの背丈と同じくらいの長さだ。

そして杖の先端には水晶のような物が取り付けられている。

俺が認識している視覚を考慮すると、その水晶が目になっているようだ。


「何か感想は?」

「確かに杖になっているな」

いまいち実感がなかったのだが、自分の姿を見て、さらに言葉にして出すと今更ながら実感がわいてくる。


「ねえ、召喚されるってどういう感じだったの?」

そういえば、この杖になる直前に誰かと話をした。

「声が聞こえた」

あれは何だったのだろうか。

「誰の?」

レイラはその話に興味があるようだ。

「知らん。女の声だったが、お前でも東の魔女でもない声だ。」

だが俺にはあの声が誰のものか分からない。


「それで、何を言われたの?」

「島を救って欲しいとか言われた」

今にして思えば、あの声の主は西の魔女が反乱を起こしている事を知っていたのだろう。

「他には?」

「そういえば霧がどうとか言っていた」


「それってまさか」

レイラの顔が青ざめる。

東の魔女を倒したあの道具を連想したようだ。

「西の魔女の道具の事だったみたいだな」

「どうしてもっと早く言わないのよ」

レイラの口調には若干怒りが籠っていた。

自分の師匠が倒されるところを見たばかりだから当然か。

「霧って言われたら、自然に発生する霧の事だと思うだろ」

だが霧と言われて爆弾で散布するタイプの霧を即座に連想するのは無理がある。


「それもそうね」

レイラもその意見に納得してくれたようだ。

それにあの時、俺があの道具に気を付けろと言ったところで結末が変えられたのかは怪しい。

「何故あの声は霧の事を知っていたんだろうな」

「あたしに聞かれても知らないわよ。声の主に心当たりは無いの?」

「無い」

「元の世界の誰かとか」

「もとの世界に、人の意識に直接話しかけられるような芸当ができる知り合いはいない」


「なら、この世界の誰かなのかしら」

俺もそう考えている。

「この世界にそういう魔法を使える奴はいるのか?」

「私は聞いた事が無いわね」

声だけで話す、俗にいうテレパシーのような魔法はこの世界では魔法かと思ったが、そうではないらしい。

「お前が知らないだけで、他の魔女がそういう魔法を発明していて俺に話しかけてきた可能性は?」

「他の魔女が、師匠の召喚魔法に干渉してくるとは思えないけど」

「そうか。なら一体誰なんだろうな」

少なくとも今は、あの声が誰なのか特定するのは無理なようだ。


「放っておけばまた話しかけてくるんじゃない?」

「かもしれないな。一応言ってることが正しかったって事は味方になるのか」

西の魔女は霧を持っていて、それは十分警戒すべき脅威だった。それを事前に警告してくれたという事は俺達の味方だと思っていいのだろう。

「でも正体が分からないなら気を付けたほうが良いわよ」

「気を付けるって言っても、どうやって会うのかもわからないけどな」

レイラの言う通りいずれまた向こうから話しかけてきたりするのだろうか。


「話しかけてきたって、それって召喚されている最中って事よね」

「まあ、そうだろうな」

杖に意識が宿る直前に起きた事だ。正確な事は断言できないが、召喚の最中だと言っても良いだろう。

「なら師匠じゃない?」

状況からして、召喚魔法を使った東の魔女が直接話しかけてきたというのはありそうだが、俺はそうは思わなかった。

「いや、声が違ったような気がする。それに、あの声が東の魔女なら、霧を受けるのはおかしいだろう」

あの声が東の魔女なら、東の魔女は事前に霧の存在を知っていた事になる。だとするなら、

霧を無抵抗に受けるというのはおかしい。


「なら誰よ」

「この世界の事をあまり知らないのに、分かる訳ないだろう」

あいにくと俺はまだこの世界の常識を分かっていない。もしかしたら俺の知らない未知の存在が話しかけてきていた可能性もある。

「それもそうね」

「お前の師匠は召喚をしている際に俺に何か話しかけていたのか?」

召喚する場に立ち会っていたレイラなら、召喚の様子を何か知っているはずだ。


「そういう感じじゃなかったけど」

という事あの声が東の魔女である可能性は低い。

「ならやはり別の誰かだろう」

「いったい誰なのかしら」

「まあ、いずれ分かるさ」

この世界の事を知っていくうちに分かるだろう。


「ところで、転生する前は普通に人間として暮らしてたの?」

「ああ」

どうやら、レイラは俺の召喚前の状態に興味があるらしい。

「どんな生活だったの?」

あまり話したくないと言ったはずだが、わざわざ川辺に来るという願いを聞いてもらった手前、これ以上無下にはできない。

「どうって別に、普通の学生だった」

簡単な事なら答えよう。


「学生? 学校があるの?」

学生という言葉を何気なく使ってしまったが、レイラがそれに反応した。

「ああ、この島にはないのか?」

「無いわよ」

「ならなぜ学校という言葉を知っている?」

この島に無い物を知っているというのは不思議な話だ。


「島の外にはそういうのがあるっていう話は聞いたことがあるわ」

帝国から侵略されているという状況だが、それなりに島の外の状況を知る手段はあるようだ。完全に鎖国をしている訳ではないのだろう。

「なら子供は普段は何をしているんだ?」

「男は親の手伝いで、女は魔法の勉強よ」

「男女で違いがあるのか?」

俺の世界では考えにくい話だ。


「特に女性は魔女を目指すのが普通だからね」

「つまり、男は魔法が使えないから必然的に親の手伝いをしているのか?」

「そういう事よ」

何とも世知辛い状況だ。とはいえこの島の住人にとってはそれが普通なのだろう。

「魔法はどうやって学ぶんだ?」

家の手伝いの話よりも、魔法をどうやって学ぶかの方が気になった。


「独学で学ぶ者もいれば、早々に師匠に弟子入りする者もいるわ」

「お前は魔女の弟子って事は、師匠から魔法を教えてもらっていたって事でいいんだよな?」

「そうよ」

「魔法の勉強が嫌になる事はなかったのか?」

俺自身、学校での勉強が楽しかったのかと聞かれたら、楽しくなかったというのが正直な答えた。


「あるわよ」

やはりレイラも勉強が嫌になった事があるらしい。

どこの世界でも勉強が嫌がられるのは世の常なのかもしれない。

「なぜ辞めなかった?」

西の魔女は魔法の研究が嫌になって反乱を起こしたが、レイラはそうはならなかった。その違いは何だろうか。


「師匠の期待に応えたかったからね」

「何か師匠に恩があったのか?」

「私を弟子にしてくれたのよ」

「弟子になるのは難しいのか?」

魔女の弟子になった事を恩に感じるというのであれば、何か弟子になるのに特別な条件でもあったのだろうか。


「少なくとも、魔女本人が弟子と認めないと、弟子にはなれないわよ」

誰でもなれるわけではない様だ。

「お前の師匠は、お前をすんなり弟子として認めたのか?」

「一応、魔法の腕を確認されたわよ」

「どうやって確認したんだ?」


「実際に魔法を使ったのよ」

「それで弟子になれたのか?」

「ええ、師匠はすぐに認めてくれたわ」

すんなり弟子になったように聞こえるが、それは果たして恩に感じるような事なのだろうか。この世界の常識はよく分からない。

「つまりお前は、師匠との縁があったから、魔法を辞めずに済んだって事か?」


「それもあるけど、そもそも島に魔女が必要だからよ」

「魔女が何かしているのか?」

魔女は四人いて、四人でこの島を治めていて、魔法を使えるという事は先ほど聞いたがそれ以外にも何か役割があるのだろうか。

「端的に言えば、帝国と戦うのよ」

「魔女だけでか?」


「基本的には四人の魔女だけね。まあ、弟子を引き連れていくこともあるけど」

「他の島の住人は?」

「戦わないわよ。戦う手段がないもの」

「いや、武器を持って戦うっていう発想は無いのか?」


「そんなの魔法を使える魔女からみたら邪魔なだけよ」

言われてみれば、魔法で爆発を起こして戦うような魔女からしたら、魔法の使えない一般人が武器を持ったところで邪魔なだけか。

つまり、この島は一つの国であり、軍隊の代わりに魔女が外部からの侵略者と戦う戦力いなっているという事だろう。

という事は逆に言えば軍隊が存在しないという事になる。

そういえば先ほどレイラは学校が無いと言っていた。元の世界でもそもそも学校の成り立ちというのは、国民を軍隊に徴兵する前に一定水準の知識を事前に教え込むのが目的で始まったという話しを聞いた事がある。

となると軍隊の無いこの島に学校が無いというのは当然な事なのかもしれない。

「それに対して魔女は何も不満を持たないのか?」


「持たないわね」

良いままでずっとそうだったのなら、疑問を持つ理由もないか。

俺からすれば違和感があるが。

「四人の魔女で帝国に対抗できるのか」

「できるわよ。実際今まで帝国の侵略は魔女の手で防がれてきた」

「だからこそ魔女を辞めたくても辞められないのか」


「そうよ。本来は帝国と戦うための戦力だからね。それを放棄したら島中から恨まれる」

なるほど、とても島の中では暮らしていけなくなる。

「大変だな。俺の世界の学校よりもひどいかもしれない」

不登校になれば変な目で見られる事はあったが、とても家に居られなくなるような状況にはならない。

「あなたは学校が嫌だったの?」

どうやらレイラ俺の心情を察したようだ。

「ああ、嫌だったね。周りがやってるから、やってただけだ。この島の住人は嫌にならないのか?」


「嫌になってる人はいるでしょうけど、帝国が定期的にちょっかい出してくるのは事実だし、戦うしかないからやってるっていうのはあるでしょうね」

戦時下では我儘は言っていられないか。

「お前は自分から進んで魔女の弟子になったのか?」

「そうよ」

「それも帝国と戦うためか?」


「それもあるけど、魔法の素質がある者は、魔女に弟子入りする。それがこの島の社会の仕組み。それに従っただけよ」

「つまり。お前は魔法の素質があったのか」

「みたいね。少なくとも、周りの子よりも魔法はうまく使えたし、実際師匠には見せたら素質があるって言われたわ」

「帝国と戦う事を怖いとは思わないのか?」

魔女になれば帝国と戦う事になる。

魔女の弟子になるという事はいずれ魔女となり自ら帝国と戦う事になる可能性があるが、レイラはそれをどう思っているのだろうか。


「確かに帝国と戦うのは怖いけど、誰かが戦わないといけないし」

「あまり戦いたくはないが、必要ならやるって事か?」

先ほど西の魔女と東の魔女の戦いを見ていた様子では、レイラ自信は戦いに慣れているようには見えなかった。

直接誰かを殺したり戦ったりといった経験はまだないのだろう。


「そうね、戦う覚悟はしていたわよ。でも師匠がやられたのに見てることしかできなかった」

今にして思えば、あの時助けに入るべきだったのかもしれない。そう思っているのかもしれない。

だが、東の魔女はレイラに逃げろと命じた。

結果的に俺は西の魔女に奪われずに済んだ。そこだけを考えると逃げたのは間違いではなかったように思えるが、今はまだ本人の気持ちの整理が必要だろう。

「レイラは、帝国兵と戦った事は無いのか?」

俺はそれとなく話題を東の魔女から帝国兵へと逸らす。


「無いわよ。弟子だもの」

「襲ってきたらどうするんだ?」

果たしてレイラは戦えるのだろうか。

帝国兵といえど人間だ。人間を殺すことに抵抗を覚える者は多い。果たしてレイラはどうだろうか。

「戦うわよ。もう覚悟は決めたわ」

そういうならば、確認しておくことがある。

「ところでお前は、西の魔女と戦えるのか?」

いずれ西の魔女と戦う事になる。


「戦えるわよ。勝てるかどうかは別だけど」

レイラは魔女の弟子だ。やはり実力で劣るという事は否定できないのだろう。

そもそも帝国兵と戦闘をする前に聞いておかなければならない事がある。

「お前、攻撃用の魔法は使えるのか?」

俺はレイラが戦っているところを見ていない。本人の気持ちとは別に戦うための魔法を使えるのかを確認する必要がある。


「当然よ」

「だったらそれを帝国兵に向けて使えるか?」

「使えるわよ」

「ちなみに、どれぐらいの威力がだせるんだ?」

「いいわ、だったら私の力を見せてあげる」

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