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異世界召喚で杖になった俺は、魔女の弟子と共に魔女の仇を取る  作者: 月ノ裏常夜


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5.知識

依然としてレイラは空を飛び続けている。

どこに行くのかも知りたいが、そもそも俺はこの世界の地理を分かっていない。

レイラは安全な場所と言っていたし、それ以上詳しい事を言われても目的地に着く前に話を聞いてもよく分からないだろう。

それよりも先に俺が置かれている状況を確認したい。


「ところで、何故お前の師匠は杖に魂を宿らせようと思ったんだ?

特に俺をこの杖に宿らせる事になった経緯は聞いておきたい。

「簡単に言えば、死者の魂を呼び出して、杖に宿らせたってのは話したわよね」

帝国兵が襲ってくる前に、東の魔女がそんな事を言っていた。


「ああ、そこまでは聞いたが、杖に意識を持たせてどうする気なんだ?」

俺が知りたいにはそれをやろうとした理由だ。

「前提として、魔女は自分の知識を杖に宿らせて、それを弟子に継承するのよ」

魔女にとって、杖は記憶媒体みたいなものか。

俺の世界にあったハードディスクやクラウドといったデータを保存する媒体が無い代わりに、魔法によって知識を蓄えたり、共有する方法が発達したのだろう。


「知識を宿らせてどうするんだ」

この世界の常識なのかもしれないが、俺には杖に宿らせた知識の使い方が分からない。

「魔女は杖を継承する事で知識を受け継ぐのよ」

「なぜそれで杖に魂を入れる必要がある? 単純に杖を渡すだけだとマズいのか?」

「マズかったのよ。後任が杖を引き継いだとしても、受け継いだ者が、前任者の知識を解析するのには時間がかかる」


「なるほど」

膨大なデータを渡されてもどこに何が記されているのか探すのは手間がかかる。それは俺の世界と同じ悩みか。

「だからそれを補助するために、杖に意識があったほうが良いだろうって発想になったみたいね」

なるほど。スマホにインストールされているユーザーサポート用のAIのようなものか。


「だから意識だけが必要だったって事か」

そういう理由であれば、人間の体ごと召喚する訳にはいかないな。

「そういう事」

「今までも杖には魂を込めた事はあったのか?」

「いいえ、杖に宿らせたのはこれが初めてよ」

つまり俺が初めての成功例という事か。


「そういえば、召喚する魂に条件があるとか言っていたが、なんなんだ?」

「ああ。それは、魔法について好意的な感情を持つ者よ」

「魔法に関する知識を使わせるから、魔法に馴染めないと困るって事か?」

「それもあるけど、もっと大事な事があるわ」


「何だ?」

そういう言われ方をすると気になる。まあ、俺が召喚されたということは、俺は当てはまっているのだろうが、この機会に聞いておきたい。

「私たちは魔法を使う以上、魔法を忌避する者が杖に宿ったら非協力的な態度をとるかもしれないでしょ」

「だから魔法にとって好意的な者を召喚する必要があったのよ」

俺の身元を警戒していたのはそういった背景もあるのだろう。


「裏切る危険性のある魂は召喚の時点で弾いているという事か」

「そうよ。でもまさか魔法が存在しない世界から召喚されるなんてね」

「意外だったか?」

「ええ。魔法が存在しないのに魔法に良い感情を持ってるってどういう事?」

「魔法は存在しなかったが、架空の存在として定義はされていたからな」

「つまり、あなたは元の世界では魔法が使えなかったって事よね?」

「そうなるな」

「憧れの存在って事?」

「率直に言えばそうなるな」

「魔法を扱ったことのない者に魔法の知識を扱わせて大丈夫かしら」

俺の身元は信じてくれるようだが、俺がうまくやれるかどうかは不安なようだ。


「まあ、やるだけやってみるさ。それよりこの後はどうするんだ?」

大体の事情を把握したところで、この先の話を聞いてみる。

「そろそろ降りるわよ」

「敵がいるんじゃないのか?」

地上に降りても大丈夫なのだろうか。

「帝国兵の数はそう多くないわよ。人気の多い場所じゃない限りすぐに見つかったりしないわ」

「だといいが」

俺はこの島の状況をあまり分かっていない。レイラがそういうならまずは信じよう。

「それに、いつまでも飛んでられないわよ」


「何故だ?」

何か他にも理由があるのだろうか。

「いい、西の魔女が私があなたを持っている事を知ったら間違いなく追ってくるわ」

「だろうな」

西の魔女は墜落した東の魔女の様子を見に行ったが、東の魔女の杖が、目的の杖ではない事に気が付くのは時間の問題だろう。

「そうなったら飛んでると目立つのよ。特に今はまだ日が昇ってるし」


「昼間は地上に居たほうが見つかりにくいか」

目的の杖が無いとなれば、一緒に居た俺たちを疑って追ってくる可能性が高い。追手に見つかるのを防ぐためにもいつまでも飛び続けない方が良いか。

「そういう事よ。じゃあ人気の少ない場所に降りるわよ」

レイラは着陸する場所に目星をつけたのかどんどんと高度を下げて行った。


 ●


レイラが草原に向かって高度を下げて行ったが俺は気が付いた事があり声を上げた。

「レイラ」

「何よ」

「もしかして、空を飛ぶのは得意ではないのか?」

「普段は師匠に付きっ切りであまり飛ぶ機会がなかったのよ」

弟子が一人だけとなると、そうなってしまうのか。


「高度を下げるのに魔力を使い過ぎだぞ」

俺が杖になったせいか、レイラの魔力の流れが知覚できるようになっている。

「あら、あなた魔力の流れが分かるの?」

「そうみたいだ」

どうやら東の魔女と西の魔女と戦っていた時に魔力を感じたのは気のせいではなかったようだ。

「ならどうすればいいか教えてくれるかしら」


「こういう時は飛んでる時に使っている魔力を緩めれば重力に従って自然に高度が下がる。だから高度を下げるのに魔力を使う必要はない」

知らないはずの知識がスラスラと言葉になって出てくる。

「へえ、それって杖に蓄えてた知識って事?詳しいのね」

「ああ」

元の居た世界では魔法の使い方の知識なんて学ばなかった。その俺が魔法に関する知識を知っているというのはどういうことか、考えられる理由は一つだ。

「つまり師匠の研究は成功だったのね」


「みたいだな」

おれは知らぬ間に、杖に蓄えられていた知識とやらを俺の知識として取り込んでいたようだ。

「師匠に教えたかったわ」

東の魔女は生きているのだろか。

あの高さらら落ちて生きているとは思えないが、魔女は俺の常識では測れない可能性もあるが、レイラの口ぶりからすると、レイラも東の魔女は死んだとおもっているようだ。

ここでまだ死んだと決まっていないと慰める事もできるが、生きている保証もないのにそれを言うのは無責任だろう。


「あの状況では、とても話せなかったからな」

西の魔女が見ている状況では、俺が下手に声を出す事はできなかったし、そもそも杖の知識を取り込んでいるというのも自覚していなかった。

「ところで、あたしは師匠がその杖に何を蓄えていたのか知らないんだけど、あなたは分かるかしら」

弟子だからといって、何でも知っている訳ではないのか。


「突然いわれてもな。いつの間に魔法の知識が身についているのは確かなようだが」

明確に何の知識を得たのかは口にしにくい。

「だったらさっきはなんで突然飛行魔法について突然話し始めたのよ」

「それはお前が飛行魔法を使っている時の魔法の流れをみたら思い浮かんだんだ」

いざ魔法の知識を話そうとすると難しいが、実際に目の前で起こっている魔法については解説できるというような状況だ。

俺はまだ杖の知識をうまく制御できていなのかもしれない。

そんな事を話しながら、俺たちは地上へと降りて行った。

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