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異世界召喚で杖になった俺は、魔女の弟子と共に魔女の仇を取る  作者: 月ノ裏常夜


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3.西の魔女

東の魔女とレイラの話声が聞こえたのか、あるいは最初からこの場所を知っていたのか、何者かによって俺たちのいる部屋の扉が勢いよく開かれた。

そこには数人の男が居た。

深い緑色の服に鉄製のヘルメット、そして手には銃を持っている。

先ほどの東の魔女とレイラの話から察するにこれが帝国とやらの兵士と考えた方がいいだろう。


「見つけたぞ!」

兵士らしき人物が叫ぶと同時に、東の魔女は彼らに対して無言で先ほどのように火の玉を生成し、そして迷うことなく射出した。

爆発が起こり、一瞬の静寂が訪れる。


「いたぞ! 弟子も一緒だ!」

扉の向こうで兵士が叫んでいる。

あれで死ななかったらしい。

いや、俺たちが視認した以外にも大量の兵士が居たのかもしれない。

西の魔女は先ほど同様火の玉を生成すると今度は窓に向かって放つ。

火の玉は窓にぶつかると爆発し、壁に大穴を開けた。


「さっさと逃げるぞ」

東の魔女がホウキにまたがると宙に浮いた。

ホウキに乗って飛んでいるその姿は俺の知るおとぎ話の世界の魔女そのものだった。

「はい」

レイラもホウキにまたがり宙に浮く。

東の魔女が先導するように先に外に飛び出し、レイラがそのあとに続いた。

二人はどんどん高度を上げて先ほどまで居た建物がみるみる内に小さくなっていく。


「奴らは空までは追ってこれないな」

東の魔女はそう言いながら先ほどまでいた建物を見下ろす。

奴らは銃を持っていた。

俺が居た元の世界と同じような文明レベルの人間ならば、飛んで追ってくるという真似はできないだろう。

「どこへ行きます?」

もう追手は来ないと安心したのか、レイラが今後の方針を尋ねる。


「そうだな、とりあえずは―」

東の魔女が何かを言おうとして、体をこわばらせる。

何かが日光を遮るようにして上から降りてきたからだ。

「そこまでよ」

人間だ。ホウキに乗っている。という事はこの人物もまた魔女なのだろう。


「西の魔女…待ち伏せしていたのか」

東の魔女の口からその言葉が漏れる。

西の魔女という事はつまり、先ほど聞いた話が正しければ、襲撃の首謀者のはずだ。

東の魔女の声からは明らかに敵意が滲み出ている。

「ええ、帝国兵を差し向ければ空を飛んで逃げると思っていたわ」

奴らは銃を持っていたが撃ってこなかった。

東の魔女が即座に反撃したからかと思っていたが、最初から攻撃しないように命令されていたのかもしれない。


「それにしてはお前一人しかいないようだな」

「あら、知らないの? 南の魔女もあたし一人で捕まえたのよ」

「どうだか。口ではなんとでも言える」

東の魔女は、先ほどレイラと話していた時は、西の魔女が東の魔女を捕らえた事を信じていたようだが、それを西の魔女本人の前で言うつもりはないようだ。

だが東の魔女の顔色からは焦りが伺える。

「安心しなさい。すぐにあたしの方が上だって分かるわ」

西の魔女は本当に一人で南の魔女を捕らえたのか、余裕の表情だ。


「私たちを殺しに来たのか?」

先ほどレイラに自分の研究を託していたぐらいだ。死ぬことぐらいは覚悟しているのだろう。

「そうね、できれば生け捕りにしたいところだけど、別に殺しても構わないわ」

まるで生かすも殺すも自分の意志で決められると言っているような物言いだ。


「やれるものならやってみろ」

対する東の魔女も、戦意を失っているわけではない。

覚悟はしていたようだが、戦う気はあるようだ。

先に動いたのは西の魔女だった。

「ではそうしましょう」

その言葉を合図に、西の魔女の攻撃が始まった。

複数の炎の球を生成し、ほぼ同時に東の魔女に向かって同時に射出したのだ。


「こんなもの!」

東の魔女は飛んでくる火の玉をかわした後、一発の炎の球を生成し、西の魔女に向かって射出するが、当然のように西の魔女はそれをよけた。

「魔法にキレがないわね」

西の魔女は先ほど複数の火の玉を生成したのに対して、東の魔女が生成した火の玉は一発。射出した速度も遅かったように見える。


「お前を倒すにはこれで十分だ」

「強がっちゃって、魔力切れでしょう?」

西の魔女は嘲るように声をかける。

「お前、まさか」

東の魔女の顔が強張る。


「お前が先ほどまで何をしたかは分かっているわ」

対照的に、西の魔女は余裕の笑みを浮かべている。

「どこまで知っている?」

一体東の魔女は何を同様しているのだろうか。


「召喚魔法を使って魔力がほとんど切れているんでしょう」

そうか、東の魔女は俺を召喚した。その結果、魔力が切れているのか。

「わざわざこのタイミングを狙っていたのか」

「悪い?」

つまり魔力が切れたタイミングを狙って襲って来たのか。


「それは普通に戦ったら勝てないからか?」

東の魔女が煽るような事を言う。

だがそんな事を言っても魔力が切れている事には変わらない。顔にも焦りの色が見える。

「確実に勝てる手段を取っただけよ」

東の魔女の煽りを聞いても、西の魔女は余裕の表情を崩さない。


「ふん、落ちこぼれのお前相手なら、これぐらいのハンデで丁度いい」

状況は東の魔女に振りだと思われるが、先ほどから東の魔女から西の魔女に対して何か下に見るような言葉が散見される。

この二人の間に何かあったのだろうか。

「ならその落ちこぼれに殺されると良いわ」

再度西の魔女は火の玉を生成し、次々に射出する。


「くそ」

東の魔女は、こんどは逃げるだけで反撃しようとしない。それほど魔力に余裕がないのか。今空を飛んでいる以上、完全に魔力が切れている事はないのだろうが、

いや、東の魔女レベルになれば空を飛ぶのにはほとんど魔力を消費しないが、炎を生成するのにはそれなりに魔力を消費する。


つまり空を飛べているからといって魔力が残っているとは限らないか。

実際今の東の魔女と西の魔女の魔力にはかなり差がある。

このまま戦っていても東の魔女には勝ち目は無い。

待て、何だ今のは。

魔法の知識か? 俺は今の知識をどこで学んだ?

「さっきまでの威勢はどこにいったのかしら?」

西の魔女は一度攻撃の手を緩め、東の魔女に話しかけた。


「今のお前の倒し方を考えているところだ」

「考えがまとまるまで、まだ時間がかかるのかしら?」

西の魔女は余裕を崩さずに煽るような言葉を放つ。


「ああそうだな、いろんな手があってどれにするのか迷っている」

それに対して東の魔女はまだ憎まれ口を叩いている。だが、ここから東の魔女が逆転できるとはとても思えない。

本当に東の魔女に逆転の秘策があるのだろうか。

「ところで、それが研究していた魂を込めた杖かしら?」

余裕の表れか、西の魔女が杖の話を始めた。

俺の事は今レイラが持っている。よって東の魔女が持っているのは普通の杖だが何と答えるつもりか。


「奪い取って確かめてみたらどうだ?」

そう言いながら、東の魔女はこれ見よがしに自分が持っている杖を見せる。魂を込められた杖はレイラが持っている事は伏せるつもりの様だ。

「奪い取る前にお前を殺してしまうかもしれないからね。先に確認させてもらいましょう」

確かに先ほど放った火の玉が杖に直撃すれば、東の魔女もろとも杖もバラバラになりかねない。


「そうか、お前では見ても分からないか」

それを聞いて、東の魔女はさらに挑発的な言葉を返す。

「言う気がないというなら殺してしまわよ?」

煽るような態度をとる東の魔女に対して、西の魔女の殺意が高まっているように感じる。いや、明らかに魔力を込めている。


先ほどの事と言い、何故俺に魔力の動きが分かるのだろうか。俺に魔力を検知する能力なんて人間のころ

は無かった。この体になった事が何か関係していそうだが、今はとても東の魔女にそれを尋ねていいような状況ではない。

そもそも、俺を持っているレイラは東の魔女と西の魔女の戦いを黙ってみているが、このままここに居てもいいのだろうか。

少なくとも西の魔女は今すぐ俺たちに攻撃する気はなさそうだが、先ほどのやり取りを察するにさっさと逃げたほうが良いのではないだろうか。

とはいえ、俺が喋れる事は西の魔女には隠されているようなので、とりあえずしばらくは黙ってみていよう。


「私を殺す? そこまでしてこの杖が欲しいのか?」

「勘違いしないで欲しいわね。目的は破壊よ。ただその杖を破壊する前に本当にあなたの研究成果かどうか確かめたいだけ」

「そういえば私が大人しくこの杖を渡すとでも? 本当はこの杖が欲しいのだろう」

「いる訳ないでしょう。あなたの杖なんて」

西の魔女は見下したような表情で吐き捨てた。


「ならば何故破壊しようとする?」

「どうせ死ぬあなたが知る必要は無いわ」

言いながら何度も火の玉を射出する。

「くそ」

西の魔女は反撃せずに回避に徹している。もう反撃する魔力も残っていないのか。

「いつまでよけ続けられるかしら」

それを見た西の魔女はどこか満足げな顔をしている。それはまるで弱っている相手をいたぶっているのを楽しんでいるかのようにも見えた。


「お前の下手な魔法に当たるやつなどいない。何度やろうと同じだ」

「そうね、ならそろそろ違う手を使いましょうか」西の魔女はいったん攻撃な手を止め、不敵な笑みを浮かべている。

「何か切り札でもあるのか?」

「私がどうやって南の魔女を捕まえたか、貴様にも教えてあげましょうか?」

西の魔女はベルトにかかっていた小袋から何か道具を取り出した。遠目には金属製の窮地に見える。


「それがお前の研究成果か?」

「ええ、これのおかげで簡単に南の魔女は捕まえられたわ」

先ほどの話によると東の魔女の研究結果は俺を召喚した事らしい。

そして西の魔女も研究をしていた。

魔女というのは何か研究をしているのだろうか。


「本当にお前が作ったのか?」

「私一人ではないわ。帝国と協力した結果よ」

「まさか帝国と共同研究をしたというのか?」

魔女の意外そうな反応を見るに、魔女と帝国が協力するというのはあり得ない事のようだ。

「ええ、奴らの技術は役に立ったわ」

西の魔女は得意げに持っている道具を見せる。


果たしてどうやって使う道具なのだろうか。球体と言う事は投げて使うのだろう。

球体で、相手に攻撃する道具といえば、手榴弾が真っ先に思い浮かぶが、先ほどから東の魔女は、西の魔女が放った火の玉を全て避けている。

ただの手榴弾を投げただけで当たるとは思えない。

とはいえ、西の魔女の自信に満ちた表情を見るに、確実に東の魔女に当てる方法があるのだろう。


「帝国の使う道具か?」

車すらよく知らない東の魔女にとっては、それは馴染の無い物なのだろう、困惑の声を上げている。

それに、西の魔女はレイラが魂のこもった杖を持っている事に気が付いていない。やはり今は見守るのが正解か。

「し、師匠、やっぱり逃げましょう」

その道具に何かを感じ取ったのか、レイラが先ほどとは異なり逃走を提案する。


「まだ居たのか、さっさと逃げろと言っただろう」

東の魔女は西の魔女から視線を外さずに背中で答える。

確かに先ほど東の魔女はレイラに一人で逃げろと言っていた。

「あらあなた、どこかで会ったかしら」

西の魔女が、ようやくレイラに視線を向ける。


「それは…」

レイラは言葉を言いよどむ。はっきりと否定しないあたり、レイラと西の魔女は面識があるのだろうか。

「まあいいわ。今はこっちが優先」

西の魔女はレイラの答えを待たずに、東の魔女との決着をつける気のようだ。


「いいのか? 私一人に集中して」

「まとめて相手してやってもいいけど、あいにくと今の手持ちはこれ一つしかないのよ」

言葉とは裏腹に西の魔女は余裕を崩さない。

二人を相手にしても勝てるつもりなのだろう。

「師匠、今は逃げたほうが…」

西の魔女の言葉から、決着が近いことを予感したのだろう。レイラが再度東の魔女に逃走を促す。


「さっさと行け! 破門されたいのか!」

それを聞いた東の魔女が、強い口調でレイラを叱りつけた。

「ご武運を」

レイラはそれだけ言うと、背を向けて飛び出す。

二人の姿がどんどん小さくなっていく中、おれは二人の魔女の戦いが視界に入っていた。

そして、西の魔女が先ほど持っていた何かを投げたのが見えた。

こんな空中で手榴弾を使ったところで避けられるだけだ。やはり俺の予想は違うのか。

そんな事を考えていると、西の魔女が投げたものが破裂し、炎の代わりに別の何かを撒き散らした。


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